追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

義兄妹としての挨拶


 夕食後に教会の地下などについて話し合う事もあるので、教会にて皆で夕食を食べようという事になった。

 スカーレット殿下の告白後に一旦教会に行きその事をシアンに伝え、屋敷に所用のために戻り、再び教会に戻った。
 そしてヴァイオレットさんは料理を作るために俺と一旦別れ、俺はどうしようかと思ったのだが、ふと神父様と共に居る女性が視界に入った。
 見た事のない女性と話しているなと疑問に思っていると、神父様がこちらに気付き、女性と一緒に俺の元へと来た。

「クロ、紹介するよ。俺の妹のパールホワイトだ」

 どうやら彼女は神父様の妹であり、我が弟の婚約者であるパールホワイトさんであるらしい。
 聞けばシキで起きた影騒動を噂で聞き、カラスバが心配で急いで駆けつけてきたそうだ。
 それを聞き俺はカラスバが愛されている事に感動し、パールホワイトさんに兄として恥じない様に挨拶をしようと心を引き締めた。

「はじめましてクロお義兄様。ナイト男爵家の次女、カラスバの妻のパールホワイト・ナイトです。よろしくお願いします」

 初印象は凛々しく、動きに無駄のない礼儀正しい女の子というものだった。
 同じ真面目で凛々しいスカイさんと違い、スカイさんが騎士ならば彼女は武士、と言った感じだろうか。

「はい、今後ともよろしくお願いします。貴女のような凛々しき女性がカラスバの妻とは、カラスバも果報者ですね」
「ありがとうございます。ところでクロ義兄様」
「なんでしょう?」
「私の姉か妹をどうでしょうか?」
「はい?」

 そんな弟の婚約者に初対面で姉か妹を抱いてみないかと突然言われた。
 聞けば彼女の家は身体的に強い者を残していく事を使命としているらしい。そしてどうも俺の身体能力が高いと判断したようだ。
 だが俺は結婚している。なので妾でも一晩限りの関係でも良いので私の一家に血を残しませんか? との事だ。
 ……うん、凄い一家もあったものだ。カラスバは大丈夫だろうか。

「生憎と私は妻以外を抱くつもりは無いのでご遠慮願います」
「そうですか……無理にとは言いません。失礼いたしました」
「というかパール。妹って?」
「スノー兄さんが出た後に妹が出来たってだけだけど?」
「……幾つだ?」
「今年で八歳」
「そんな子を勧めるな」
「でもミルキー姉さんの夫に既にアピールしている子だよ。流石我が妹!」
「…………」

 スノーホワイト神父様がそれを聞いて頭を痛めていた。言葉にはしないが「あの家は本当に……!」と表情で示していた。
 ちなみにだがミルキーホワイトさんも「適齢期に達すれば別に良いよ?」的な感じらしい。強い遺伝子を残せるなら夫が妹を抱いても良いようだ。それで良いのかナイト家。

「ちなみにですが、我が父を倒せば母と姉と妹がセットでついてきますよ。クロ義兄様なら勝てて同時攻略も可能だと思うのですがどうです?」
「セットでお得! みたいに言われても困るのですが」

 聞いた話ではパールホワイトさんのお姉さんは俺と同じ年齢(学園で会った事は多分無い)で、お母さんは鍛えている分見た目が若いから「クロ義兄様でもイケますよ!」との事だ。なにがイケるんだ。母親を勧めるとかどうなってるんだ。八歳の妹よりはマシかもしれんが。
 ……後でヴェールさんに聞いたのだが、その彼女らのお母さんはヴェールさんが学園生三年の時の一年生だったらしい。……ヴェールさんは二十歳の時にシャトルーズを産んだはずだから、逆算すると彼女らの母は……とそこまで考えて思考を止めた。世の中知らない方が良い事も多いんだ、うん。

「良いじゃないですか。四人で色々楽しめますよ? 男性はハーレムを目指すもの。親子かつ姉妹ド――あいた!?」
「女の子がはしたない言葉を言うな」
「くぅ、スノー兄さん。相変わらず動きが素早い……!」

 うお、神父様が珍しく女の子相手に事前告知も無しに、頭を手刀で叩いているよ。意外な一面だ。
 それにしても……神父様って貴族だったんだな。事情はなんとなく聞きはしたので、特に気にせず今まで通りに接しても問題はなさそうである――ん?

――あれ、もしも神父様とシアンが結婚したら……シアンと親戚になるのか?

 一応神父様はまだナイト家所属ではあるようだし、カラスバとパールホワイトさんは二週間後には結婚するので、神父様は最低でも親戚にはなるのだが……シアンとも親戚になるのか。
 同時にシアンは貴族になる訳だが……大丈夫かな、色々と。

「そういえばクロ。さっき一旦屋敷に帰ったみたいだが、なにかあったのでしょうか」

 神父様は俺に先程の俺の行動……つまりは一旦教会に寄ってからヴァイオレットさんとスカーレット殿下と屋敷に戻り、しばらくしてから戻って来た事を聞いて来る。
 思いついたかのように尋ねている辺り、ちょっと気になっただけで深くは追及する気はないのだろう。

「ちょっと外せない来客があったから戻っただけだよ」
「来客対応は大丈夫だったのか? こちらを気にして早めに切り上げられたという事は……」
「んー……大丈夫といえば大丈夫かな。よく分からないが滞在するみたいだし、詳細は明日以降、って感じだから」
「それならば良いのだが」

 来客というのはヴェールさんの部下の魔法使いという扱いになっている、ローズ殿下ことローランさんである。
 今朝は色々あった(王族による身体の関係の強要)をされたため後回しになったのだが、改めて用を聞きに俺達は戻ったのだが、ローランさんは俺達に、

『王族の仕事としてこちらに数日滞在させて頂きます。仕事内容はまだ確定していないため詳細は明かせませんが、確定次第ヴェールを通して報告いたします』

 と、正直不安になるような事しか言われなかった。
 他には滞在期間中への連絡方法とか、スカーレット殿下が今日一日で変わった事に無表情に近いが喜んだり、あのコンテストはなんだったのかとかの話で終わった。
 ……なんとなくだが、詳細は学園生の居ない時に、目を盗んで報告したい事がある、という感じだった。

「そう言えばクロ義兄様。お伺いしたいことがあるのです」
「なんでしょう。ナイト家に血を残す云々ならばいかなる理由があろうとも受け付けませんが」
「それは今はもう構いません。別件です」

 “今は”と言ったぞ“今は”と。
 なんか俺が求めて強さを証明したら、いつでもウェルカムとか言いそうで怖いよこの子の家族。会った事ないから分からないけど。

「カラスバの事で、どうしてもお聞きしたい事が……」
「なんでしょうか」

 カラスバの件……ならば聞かない訳にはいかないな。
 なんか色々と突飛な子ではあるが、実は結婚前でマリッジブルーになっているのかもしれないし、兄として答えられる事があるのならば真摯に答えるとしよう。

「カラスバが私を抱いてくれないんです。何故か分かりますか! お兄様として忌憚無き意見を!」
「その態度がイケないんじゃないですかね」

 ……カラスバは彼女の結婚生活大丈夫だろうか。
 パールホワイトさんはカラスバを大好きなようなので浮気の類の心配はなさそうだが、色々と兄として不安である。

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