追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

嬉しさと後ろめたさ(:淡黄)


View.クリームヒルト


「あはは、おーい、ティー殿下にエフちゃーん!」
「へーい、ランドルフの末裔兄妹!」

 待ち合わせで場所である教会前に着くと、先にティー君とフューシャちゃんが待っていた。ティー君はコンテストで着ていた燕尾服に白手袋(重要)でなにか手荷物を持っていて、腰には雷神剣とかいう大層な剣を携えており、フューシャちゃんは相変わらず魔法がかかったフードを被ってエフちゃん状態だ。

「お待ちしておりました、クリームヒルトさん。おや、ハクさんも――あれ」
「スカイ……なにがあった……?」
「……なにも有りません。私は問題ありません」
「なら……良いけど……?」

 私がハクと一緒に来た事に意外そうにしつつ、ミニ浴衣ストッキングの格好のまま護衛用に剣を携えた状態で来たスカイちゃんの様子にティー君とフューシャちゃんは不思議そうな表情をしていた。
 ティー君はなんとなく察しているようであったが、フューシャちゃんは「コンテストの時褒められて嬉しそうだったのに……?」というような疑問顔である。

「ところでティー殿下はその服のままなんだね!」
「はい。折角着ましたし、そちらの方が喜んで貰えるかと思いまして」

 ただ触れない方が良いと判断したのか、私の会話に乗って来る。
 事実今触れると思い出してダメージ喰らいそうだからね。

「あはは、ゴメンね私は着替えちゃって」
「構いませんよ。遊ぶには向きませんから。私は貴女と遊べることが重要ですから」
「そう言って貰えると嬉しいよ。ふふふ、白手袋、白手袋ー!」
「クリームヒルトさんは白手袋が好きなようですが……なにか理由が?」
「うん? 私にそれを語らせると夕食時も超えて語るけど良いの?」

 内包する神秘性とか着脱時における色気とか語るよ?
 遊びどころじゃなく語り続けてしまうよ?
 でもそれは本意じゃないだろうから止めておこう。

「今は貴女達と遊びたいので、いずれ聞かせて頂けると嬉しいです。あ、シキからの帰り道にお聞かせください」
「あれ、長くなると分かっていても聞きたいんだ」

 それとなく断るための社交辞令かと思ったが、時期を指定しては聞くはめになると思うけど。

「はい。貴女の“好き”のキッカケや理由を知りたいですから。貴女をもっと知って、貴女をもっと好きになりたいです」

 ……グレイ君並の素直さだなー、ティー君。
 知った所で好きになるとは限らないのに、知れば知る程好きになると思って疑いが無い感じだ。
 うーん、そうなると白手袋を好きになったキッカケとか話した方が良いのかな……でもキッカケなんて工藤〇一が事件で白手袋を付けてるのがキッカケとかだし、話してもなんのこっちゃって話だからなぁ……

「ティー兄様……その言葉は……人によっては……重いと感じるから……気をつけて……」
「え、そ、そうなのですか?」
「うん……全てを知って……全てを愛したいは……会ったばかりじゃ……早すぎる……から……鬱陶しいと……感じやすい……」
「う。……すみません、色々と前のめり過ぎでした」

 とはいえ、フューシャちゃんの言うように重いと感じる人も居るだろう。
 ……いつか私に冷めた時、別の子に対して同じようになっては困るのでどう注意したモノかと思っていたが、言ってくれてよかった。
 まぁ私は別に重くても構わないんだけどね。素直に好きを語れるというのは嬉しい事だし。

「と、ともかく。後はクリ先輩とシルバ先輩ですね。それまでになにして遊ぶか改めて決めましょうか」
「クリ先輩はともかく、シルバ君は来ないんじゃない? あのままメアリーちゃんにアピールしてそう」
「シルバ……ええと、どの子だっけ。なんかステージで舞っていた子?」
「それはシャル――シャトルーズですよ、ハクさん。シルバは小柄で銀髪の子です」
「ええと……」
「騎士服を着てたけど服に着られていた子」
「ああ、あの特殊な魔力を持った子か」
「それで分かるんですね……」

 だってあのコンテストで服に着られている感じがあったのはシルバ君とハクくらいだったし。それ以外はなんだかんだ着こなしていたからね。
 というか特殊な魔力って……そういうの分かるんだ。

「特殊な魔力?」
「って……なに……?」

 特殊な魔力。カサスや今のシルバ君の事だと呪われた力的な魔力。
 魔法に関してはなにをしても呪の力が宿り、使ったりすれば本人が。そして本来害のない補助魔法ですら、誰かに使えば身体を蝕む外となるような魔力をシルバ君は有している。セイフライドという一家は代々と受け継いでるまさしく呪い。
 カサスだと主人公ヒロイン……一応私になるのか。ともかく主人公ヒロインとシルバ君と関わる序盤でなんとかコントロール出来、シルバ君ルートの入ると、他のルートではあまり音沙汰無いのに呪われた力が何故か暴走したりする。
 そして色々あって乗り越えて、呪われたとされる魔力も上手く操って平穏に過ごしたり、むしろ他より凄い魔法使いになったりする。
 そして現実を生きるシルバ君は、メアリーちゃんの指導の元殆ど抑え込まれている代物だ。
 しかしその魔力に関しては、入学初期の扱いも含めて周囲はあまり触れないようにしている。
 そしてそのような事をあまり知らないティー君とフューシャちゃんは、同じく事情を知らないハクの言葉に問い返していた。
 ハクもそんなには詳しくは無いだろうけど、一応止めておこうかな。

「それは僕の魔力の事だよ、バーガンティー殿下、エフ」
「あ、シルバ先輩」
「やっふー……」
「……エフ様。その挨拶はお止め下さい」

 しかし私が止めるよりも早く、シルバ君が私達に声をかけて来た。
 服は……騎士服ではなく制服だ。

「僕の一族は特殊な魔力があってね。そのせいで入学当初色々噂されたくらい、特殊なものだったんだよ。呪われた、っていうくらいね」
「それは、その……」
「なんというか……」
「……シルバ、言って良かったのですか?」
「入学すれば嫌でも耳にする事だから、言ってしまった方が良いと思っただけだよスカイ」
「……そうですか」

 別段気にしていない様子でシルバ君はあっさりと言う。
 ああやって気にしていないと本人が言う事で気にさせない様にしているのだろう。昔ならシルバ君を見て噂するだけで誰彼構わず睨んでいたのに、成長したね……!

「というかメアリーちゃんへのアピールをしてたんじゃないの? 弟扱いを利用して服の着替えている所に突撃して着替えハプニングを起こして、メアリーちゃんのエッチィ姿とか見て無いの?」
「それアピールじゃないし、メアリーさんのエ――着替えなんて見ないよ」
「見たくないの?」
「見たいからって見たらただの犯罪者だよ」
「大丈夫やで……シルバ君なら行けるんやで……」
「なんだそのスカイの訛りみたいな口調」
「待ってください。私の訛りはそんなのじゃありません」

 スカイちゃんの訛りは独特だからね。イントネーションも含めてアレをマネするのはちょっと難しい。
 とはいえ本気でマネする気もないし、似ていると本当に思ってもいないし、それもスカイちゃんは分かってのツッコミだろうけど。

「それで、メアリーちゃんへのアピールは良いの? 他の皆に出遅れちゃうよ? あ、もしかして遊べないと一言言いに来た感じかな」
「違うよ。そりゃメアリーさんも大切だけどさ。先に約束したのはこっちの方だし」

 つまりそれは……メアリーちゃんという大好きな子よりも、私達との約束を優先してくれたという事なのだろうけど、本当に良いのだろうか。

「それに友達との約束は守らないと。あ、クリ先輩はすぐ来るよ。なんか赤髪の知らない人と話していたけど、すぐ終わるって」
「そうですか。なら待っていましょうか」

 ……友達、か。

「どうしたのか、クリームヒルト?」
「……ううん、なんでもないよ。ちょっと今夜の事を思っていただけ」
「今夜? ああ、なんか皆で話したい事があるとかいうやつ?」
「うん、それ。……まぁ今は遊ぶ事に集中しよっか! よし、行こう!」
「だからクリ先輩がまだだって」

 シルバ君の何気ない言葉に、私は今夜話そうとしていた事を思い出す。
 話す内容を思い出すと少々迷う事があるが、今は気にしないでおこう。気にしていたは楽しめるモノも楽しめないしね!



「……クリームヒルトさん……?」
「どうされました、ティー殿下?」
「いえ、なんでもありませんよ」
「? ところでその手荷物はなんですか?」
「ええと、これは……」
「スカイ……それは後の……お楽しみだから……触れないであげて……」
「? 承知いたしました」
「ところで……スカイは……その服で……大丈夫……?」
「なにがでしょう。確かに短いのは少々恥ずかしいですが、動きやすいですし護衛などには特に問題は無いですよ」
「ううん……その服は……教会関係者みたいに……下着着ないらしいから……見える心配が……?」
「い、いえ。私は着用していますので」
「エグイのを……?」
「ふ、普通のをです!」
「え、なになに? 下着チェックの話? チェックのためにたくし上げで羞恥に頬を染めるスカイちゃんを楽しむ感じ?」
「違います!」
「黒兄にやれば効果は抜群だよ!」
「…………」
「スカイ、少しやろうかなと考えているようですが止めて下さい。クリームヒルトさんも煽らないで下さい」
「でもたくし上げシチュは男の子好きだよ。だよねシルバ君」
「僕に振らないで」

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