追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

ある意味バカップル(:紺)


View.シアン


『パール。温泉に行くよりは、この教会のお風呂を使って下さい。許可は得ましたので』
『混浴か!?』
『一般家庭や居住場所は基本男女で分けないので混浴ではありますが』
『じゃあ一緒に入ろう! 互いに身体を洗い合い、愛し合おう!』
『私は今朝入りましたので。それに異性の身体を触れるのは良くない事ですよ。入浴もしかりです』
『い、いや、私達は夫婦だから遠慮せずとも……』
『無理して私を誘おうとせずとも、貴女が魅力的なのは分かっていますから。もっと自然体で……』
『そうか、私は魅力的か!』
『え? ええ、とても』
『そうかそうか! ……はっ、魅力的という事はお風呂で火照り、身綺麗になった私を襲いたいという事だな。では入って来る!』
『は、はぁ。いってらっしゃい。着替えは脱衣所に置いておきますので』
『ありがとね!』

 という会話をした後、パールちゃんは我が教会のお風呂場を入る事となった。
 ちなみに着替えの類はパールちゃんが着の身着のままで走って来たらしいので持ってきておらず、着替えとしてシューちゃんの商品をカラ君が買っていた。
 そしてお風呂場への案内をし、着替えも置いて戻って来たカラ君は、「ふぅ」と一息ついて私達に告げてきた。

「……ご覧になられたでしょうか。あのように私を無理して誘うんです。親御さんに言われているのでしょうか。夫婦である以上は男女としての交わりをするものだと、本当は望みもしない交渉を――どうされましたか、シアンさん、シュバルツさん」

 大丈夫だろうか、この子。
 あんなにもストレートに誘っているのに何故気付かない。今すぐ襲おうが喜んで受け入れる気満々だよあの子。ちょっとした会話で凄く分かるよ。
 だけどどうやらあの誘いをカラ君は“親に言われて、繋がりを持つように言われているから無理に誘っている”と思っているようだ。

「うーん、俺はその子を見ていないから分からないが、誘うという事は好ましく思っているという事では無いのか?」

 そしてこちらは案内と入れ替わりに礼拝堂に来た神父様。
 相変わらず騎士服がとても格好良い。シキに滞在している騎士連中なんかと雲泥の差と言えよう。

「いえ、彼女はそういった方面とは縁遠いと言いますか、清純……性関連を苦手とする子なんですよ」
「へぇ?」
「武の道を究めんとする家系の子なんです。強くあるために情事は不要。己を律せずして武は極められず、克己心を持て、という。ですから性関連の誘いなんてはしたないという事で全くしないんです」
「へぇ。……ん?」

 あの子の何処に克己心があるのだろうか。
 神父様はなんだか引っかかったような納得の仕方をしていたが、私とシューちゃんは先程の光景とカラ君の言う人となりが全く噛み合わず混乱している。

「そのような彼女が、ああやって誘うなんて……無理をしているとしか思えないんですよ」
「成程な……」

 本当に大丈夫なのだろうか、この子。
 神父様はパールちゃんと会っていないから言葉でしか想像できないのだろうが、恐らく「カラスバの妻は貞淑ではあるが、結婚するにあたり夫に気を使われない様に敢えて無理に誘う事で、私は大丈夫だとアピールをしている」的な感じに思っているのだろう。
 実際カラ君もそう思っているだろうし、そのように話しているだろうから……と、その時シューちゃんと目が合った。

「(シアン君、もしかしてなんだが彼はそう思わないといけない理由があるのではないか?)」
「(どういう事?)」
「(あのように誘っても無理に誘っているとしか思えない理由だよ)」
「(つまり……出会いとか、初めの方があまり良くなかったとかいう類? その第一印象が尾を引いてああなっている……と)」
「(そうさ。さっきも言っただろう、出会いはマイナスだったって)」
「(成程……)」
「(なんというか……お節介かもしれないんだが、このまま彼が結婚するというのは色々と可哀想だ。私達で……)」
「(うん、原因を見つけた方が良いかもしれない。そしてクロやクリちゃんにでも言えば、なにか解決策を出せるかもね)」
「(よし……行こうか)」
「(オッケー)」

 そしてアイコンタクトで会話をし、どうにかせねばと頷き合った。

「それに元々彼女はシャトルーズ後輩の事を好きだったようなんです。彼も武を極めんとする一人で、強かったですから。まだ入学はしてませんでしたけどね」
「その子の家系って、そんなにも武に固執しているのか?」
「ええ、なんでも強い子を残す事が我が家の使命である、という感じですね。ある意味ではクリが嫁ぐスペード家に近い形ですね」
「…………」
「どうかしましたか神父様?」
「いや……なんでもない」

 神父様が会話をしている間に、どうするべきか考えよう。
 しかし原因か……考えられる事としては、やはり無理に婚約者となった事だろうか。
 他にも考えられるが……ここは素直に聞いた方が良いかもしれない。

「ねぇ、カラ君。彼女は初めはカラ君を毛嫌いしていたんだよね。」
「ええ。彼女の家は強い子を残す思想を受け継いでいるんです。本当はクリを嫁に、という話だったんですが、同じ年齢の私との婚約をお父様が進めまして……」
「…………」
「でもカラ君って魔法が優れているんだよね。強いという意味では当てはまっているんじゃ……」
「いえ、強いというのは肉体的な意味で……初めの頃は男扱いすらされてませんでしたよ」
「でもああやって誘うのは無理矢理なのかもしれないけど、そう誘うほどには打ち解けたんだよね?」
「え? ええ、何度も会話をして、冒険者としての依頼に付き合ったり……はは、でも最初の頃は本当に色々ときつかったですよ……」

 後から聞いた話なのだが、最初の頃は一緒に冒険に出ても、事務的な応答以外の会話も無し。
 肉体的な強さに固執する一家なので、体力の限界を何度も見せる度に溜息を吐かれていたそうだ。さらには何度も婚約破棄出来ないものかとも言っていたらしい。……確かにそれは互いにマイナスな印象だろう。
 ただカラ君自身は戦闘面においては気を使って守ろうとしたり、凛とした立ち居振る舞いを見せたりと、彼女の在り方に関しては好ましくは思っていたようだ。

「ですから、今では一緒に出掛けて位にはなったのは嬉しく思います。ただ、まだ素を見せての外出は無いです。いつかは“彼女自身”と出かけてみたいですね……」

 いや、アレが素なんじゃないかな。演技でアレは無いと思うんだけど……
 でもそこまでの扱いだったのが、何故今のようになったのだろうか。それには……

「キッカケは無かったのかい?」
「キッカケですか?」

 そう、シューちゃんが今聞いたようにキッカケがあるはずだ。
 私で言えば、ある時ふと帰るべき日常の中に神父様が居る事に気付いたように、なにかキッカケが無ければああはならないだろう。

「ほら、一緒に出掛けても良いかなと思われたようなキッカケさ。それとも徐々に年月が問題を解決して、打ち解けた感じかな?」
「そうですね……あ」
「なにか思い当たる節が?」
「大したことはしていないんですけど、二年の頃、モンスターの群れから助けた事ですかね?」
『それだ』
「え?」

 うん、それしかない。

「それ以降じゃない? 彼女があんな事を言いだしたのって」
「え、ええ。彼女……というか彼女の一家は魔法は軟弱だ、的な発想だったんですが、ある時に私がモンスターに襲われて彼女が怪我をしている中、魔法で群れをなぎ払ったんですがそれ以降認識が改まったみたいで。私の魔法も強さの一つだとどうにか少しですが認めて貰ったんです」
「その後の彼女はどんな感じだった?」
「ええと……思い返せば今のようになりましたね。言うのは少し恥ずかしいですが、そのモンスターから救った直後に――」







「カラスバの子を産みたい」
「はい?」
「さぁ、カラスバ。子を作ろう! 肉体的に優れた私と、個という私ではどうにもならない集団をなぎ払ったカラスバの優れた魔法! カラスバと私の子ならばきっと最強で可愛い子が産まれる! 今すぐ学園も辞めて子を産み育てるんだ! なにせ私達は婚約者同士だから、学園を辞めればなにも憚れるものは無い!」
「え、ええと……魔法を無理に認めなられなくても大丈夫ですからね? それと私の上着を着てください。モンスターのでボロボロじゃないですか」
「相変わらず優しいなカラスバは!」
「ありがとうございます。ですが、無理をなさらずとも良いのです」
「無理?」
「ええ、私は肉体的に貴女に劣る存在。貴女が恋い焦がれ追い求めたモノを持っていません。婚約者であるからと言って、無理に魔法を強さと思わなくて良いですから」
「そんな事は無い。カラスバは強い。そして私はお前の子が欲しい。駄目か?」
「婚前交渉は遠慮します。学生ですし、まだ未熟な私は学園を辞めるつもりは有りませんから。それと同級生の影響かもしれませんが、はしたない事を無理に言うものじゃないですよ」
「むぅ」







「……と、言う感じに、当時私の学年、同級生の影響と言いましょうか。強気で出る女生徒が多く婚約を結んでいたので、その影響を受けていたようなんです。だからあのような――何故そのような目で私を見るのです、シアンさん、シュバルツさん」

 何故この子はこうなってしまったのだろう。何故そこから一年以上同じアピールをされて居るだろうに気付かないのだろう。
 そしてパールちゃんは徐々に心を開いていったのが、危機を救ってくれた事をキッカケに一気に好きへと変貌したのかもしれないがその告白はどうなのだろう。
 ああもう、どこから突っ込めば良いのだろうか。私がなにを言ってもカラ君は気付きそうにない所が辛い。なにせ結婚二週間前になっても気付いていないんだからね……

「そうだぞシアン。好きな相手に無理をされるって結構辛いモノなんだ。なのに何故複雑そうな視線で見ているんだ?」

 色々言ってやりたい事があるからですよ、神父様。
 というか今の会話を聞いても分からないんですか。相変わらずですね、そんな貴方が大好きです。

「ともかく、彼女は無理に私を誘って――」
「馬鹿を言うな、私はあの時も、今も、いつだって本気だぞ!」

 そして私やシューちゃんがどうこうする前に、件のパールちゃんが現れた。
 服装は着替えとして置いておいた白のシングルブレストシャツに黒のハイウエイトスカートである。
 そんなパールちゃんはお風呂上がりで火照った身体で、ずずいとカラ君に近付いていく。

「カラスバ、私はいつだってウェルカムなんだ。本気だぞ! そしてお風呂に入って綺麗になり、着替えた私に対しカラスバは――」
「あ、その服やはり可愛いですね。ですが普段と違う服装なので気に居るか不安だったのですが……」
「ああ、可愛いし、カラスバが選んだのならば私も好きだ! そしてこんな服を選んだという事は正に愛の証拠。さぁ私を抱いてくれ!」
「ハグですか? うーん、でも私体温低いですから、ハグをすると湯冷めするかもしれませんよ?」
「大丈夫だ、すぐに互いに温かく……熱くなるからな!」
「え、でも火の魔法は互いに苦手ですよね?」
「んん?」
「え?」
「よく分からないが抱きしめは良いんだな。ならば会いに来た私にご褒美として熱く抱きしめてくれ!」
「は、はぁ。人前ですから、少しだけですよ」
「わーい。あったかーい。…………んん? なんで私は抱きしめられているんだ?」
「貴女が望んだのでは?」
「そうだったか? ……まぁいいか。気持ち良いからな!」
「それは良かったです」

――絶妙にすれ違っている……!?

 なんだかこの一年近くのやり取りがなんとなく分かった気がする。
 ストレートな誘いにカラ君が気付かずに今のような感じに違う行動に帰結するか、気付いても先程の言葉の様に無理をしていると思うか。
 カラ君、しっかりとして落ち着いている子かと思っていたけど、この子ある意味レイちゃん系譜の天然だ……!

「……シアン君」
「言いたい事は分かっているよシューちゃん。……いずれ仲良くなるって事だよね」
「……うん」

 そして私とシューちゃんはある意味のバカップルを見て、これなら心配せずとも解決する問題だと思った。
 ……うん、これは何処かの領主夫婦のような、あるいはその息子夫婦予定のような、お前らさっさと結婚しろよ案件の一種だと、私達は思いながら見守っていたのであった。
 というかこの子の何処が克己心に溢れた清純な子なのだろう。己が欲望に忠実な子じゃないか。

「……パールホワイト?」

 そんな生暖かく見守る中、神父様だけがパールちゃんを見て不思議そうな表情をし、名前を呼ぶ。
 しかしパールちゃんではなく、パールホワイトって……?

「あれ、神父様、パール……パールホワイトをご存じだったんですか?」
「この子が……カラスバの婚約者?」
「ええ、そうですよ」

 へぇ、パールじゃなくってパールホワイトが本来の名前なのか。だけど愛称でパールと呼んでいる感じなのか。
 でも一度もその名前は出ていないし、そもそも神父様には一度もパールという名前すら出していなかったような気が……

「んー……あれ、もしかしてこの教会の神父様? お風呂を使わせて頂き、ありがとうございま――」

 と、恐らくパールちゃんはカラ君の事しか目に入っていなかったのだろうなと思っていると、

「……あれ、スノー兄さん?」

 その呼び方に、私は固まった。

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