追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

整頓は出来る(:灰)


View.グレイ


「という訳で、ようこそ我の家へ!」

 ロボ様を連行(?)しながら、私達はアプリコット様の家へと着いた。
 最近成人されたばかりの女性の独り暮らしではあるが、家族で使っても問題無い程度には大きな家である。
 そして久々に家の中に入ったが……モノがまた増えたようだ。

「ほう、ここが……結構広いな」
「大工さん達に頼んだら、いつの間にかな」
「ああ、あのステージを素早く建てた腕の良い……む、これは?」
「それは依頼された魔道具だ。いわゆる我の仕事の品だな」
「ほう。見ても良いだろうが」
「構わんぞ。魔力だけは流さないでくれ」

 アプリコット様の言葉にルーシュ様は分かったと言うとアプリコット様謹製の魔道具を手にする。そして興味深そうに道具をあらゆる角度から眺めていた。

「クロの援助や冒険稼業、そしてこれらを売って生活を?」
「かつてはクロさんの元で契約せシ従僕サーヴァントとして働いていて、それを元手に自立した。最初は援助もあったが、今は無い」
「ほう?」
「クロさんは我に充分すぎる給金を与えた上に、自立する際になんだかんだと世話になったからな。ハッキリ言うなら我がこうして生活できるのもクロさんのお陰だよ」
「チナミニ、ワタシモシキニ来タ当初ハクロクンニ援助ヲ貰ッテマスネ。デハワタシハコレデ」
「そうなのか。先見の明があるのか、援助が多くても問題無いほど資金管理が上手いのか……今度聞いてみるか。そしてロボさん、逃がさんぞ」
「クッ……!?」

 アプリコット様は冒険者としての討伐・調査依頼をする事でもお金は稼いでいるが、他にもこの家に綺麗に並べられた魔道具のように、魔道具を作ってお金も稼いでいる。アプリコット様の作る魔道具は質が良く、行商人の方が売買によく来るくらいだ。
 これは今の私の年齢とそう変わらない内から始めており、今では完全に自活している。流石はアプリコット様と言う他ない。

「あれ、アプリコットお姉ちゃん。魔導書が増えた?」
「料理本モ増エテマスネ」
「以前お買いになられた調味料以外にも調味料が増えましたね」
「ふふ、良く気付いたな」
「珍しいモノも多くてオレも読んでみたい本も多いが……その分数が多いな。魔道具もそうだが、少し整理した方が良いのではないか?」
「我の好奇心を満たすものが多くあってな。つい買ってしまい、色々とやっていると整理する時間が無くてな」

 アプリコット様は王族であるルーシュ様も読みたがる本を集めている事に誇らしげにされる。
 ……だが、アプリコット様の言う通りだとすると……

「だが安心すると良い。写真を撮るスペース程度はキチンと――」
「アプリコット様」
「む、どうした弟子よ」
「以前に整理整頓されたのは、いつです」

 アプリコット様は私から視線を逸らした。
 …………やはりそうか。

「いつですか?」
「我は魔道具を作るのにも忙しく、己が魔法や美貌を磨くために日々尽力している。全ては大魔導士アークウィザードを超えるためにもな」
「いつですか」
「我といえど魔導書などを読むのにも時間がかかり、睡眠不足は我が灰色の脳細胞ウィズドムの敵だ。料理にも常に新たな刺激を得るために挑戦を行い、我が神々の舌エウローペーを鍛える――」
「いつ、ですか」
「…………」
「アプリコット様。いつ、です、か」
「……ヴァイオレットさんの誕生日の後にはやった」
「……成程」
「今って三月マルスの下旬だったよね、ルーシュお兄ちゃん」
「言ってやるな」

 そしてヴァイオレット様の誕生日は二月フェブルウスの十四日だ。
 ……成程、成程。

「で、弟子?」

 魔道具の配置的に納期にはあと数日。
 先日のデートの際にお買いになっていた調味料はいくつか使用してあり、アプリコット様の並べ方の癖からして使用時期は……あ、この間デートの時にこっそりと買ってサプライズプレゼントしたプレゼントが飾ってある。嬉しい――ではない。それはそれで嬉しいが今は……ふむ。

「ま、待つのだ弟子よ! そちらは――」
「ロボ様」
「ハイ」
「は、放すのだロボさん!」
「おお、グレイがロボさんをあのように……」

 私はアプリコット様の静止の言葉を聞かずにとある部屋……書庫へと続く部屋の前に立ち、そのまま扉を開く。
 そして。

「……アプリコット様」
「な、なんだ、弟子よ」
「これは、なんですか」
「……書庫だ」

 そしてその部屋の扉を開いて目に飛び込んで来たのは、大量にある本。本。本。
 さらにはアプリコット様が作ったものとは違う魔道具。その他冒険譚の本や料理の本。どうやって使うか私にはよく分からない道具類。
 ある程度整理をされていたり、温度管理や湿気をとる管理はされている。
 綺麗に並べられてはいる。そこはアプリコット様らしいと言えよう。
 だが……モノが多い。多すぎる。以前整理した時に大分片付けたはずなのだが、さらにモノが増えている。

「整理しましょうか。不要なモノは売るか捨てるか致しましょう」
「ま、待つのだ弟子よ! 今日は写真を撮るために来たのだ。つまりは来客中。今しなくても――」
「はい、ですのでアプリコット様達はどうぞおくつろぎください。私めの事はお気になさらず。不用品は私めが整理整頓しておきますので。――はじめます」
「弟子!!」

 アプリコット様は興味深いモノが多く、新たなモノに対する興味が人一倍大きいため多く買い、そして手放す事が出来ない性格なのである。
 勝手に処分をする気はないが、どうにかしないとアプリコット様はどんどんと物を増やしていき、最終的には整理されていても足の踏み場が無い、というほどには溢れてしまう。
 ようは収集癖が強いのだ。整理しているとはいえ一度放っておいて、雪崩が起きてアプリコット様が生き埋めになっていた事も有る。

「ロボさん、そしてブラウンよ。アレは一体どういう事だ?」
「グレイクンハ、誰カノオ世話ヲスル事ニ喜ビヲ覚エルノデスガ、ナンデモ受ケ入レテ堕落サセルノデハナイノデス」
「つまりはお兄ちゃんは誰かのお世話をする、という事になるとああなる事が多いんだ」
「ほう、ああなる……」

 さてどこから片付けようか。
 アプリコット様の性格的にこの辺りは読み終えたは良いが、あまり好みでなく、だがいつか似たようなシリーズが出た時に嵌って好みになるかもしれないからとりあえず置いておこう、というモノだ。
 まずその時は来ないので処分対象だ。本なので売る事は出来るだろう。

「ま、待つのだ弟子! その【体力を上げるためのスコップ健康法】は使う時が来るかもしれんのだ!」
「日頃からこなすべき本が積まれている時点で不要です。健康法シリーズは他にも多くあるでしょう。そしてこの【剣の道を究める~上級編~】シリーズも不要ですね」
「それはシャトルーズなどの相手を知るために必要であるのだ!」
「ほとんど読んだ形跡ないの上に隅に置かれている時点でどうするというのですか。……おや、これは……」
「それは必要だ。なにせ我の好きな調味料の瓶であるからな!」
「中身は?」
「…………ない」
「これらの瓶が希少であったり、ラベルに特殊な価値は? または名前が分からず、今度来た時に行商人に聞くように持っているという事であったり、瓶を魔道具作成に使うという事は?」
「…………ない。全て名前も分かるし、定期的に買って……」
「十五個全部袋にシュートいたします!!」
「ああ、瓶!」
「こちらはなんでしょうか?」
「帝国牛肉が入っていたただの袋だ。なにかの物を入れるのに使えるかと思って、取っておいて……」
「それが今その時です。分別用の袋の入れ物として使い、そのまま捨てますからね!」
「ああ、袋!」
「これはなんですか!」
「使い方がよく分からない引っ張るとくるくる回るだけの民芸品である!」
「価値だけ調べて売却コースです! 丁度シュバルツ様も居られますしね!」
「ご無体であるぞ弟子!!」

 このままでは独り暮らしの女性が家族用の家に住んでいるにも関わらず、物で溢れてしまいそうだ。
 流石にこればかりはアプリコット様のためにも心を鬼にせねばならない!

「ふふ……」
「ドウシタノデス、ルーシュクン」
「ああ、いや。普段は押してたじろぐ事は有っても、後ろを付いて行く姉弟のような感じであったのに、今はしっかり者の弟と頼りない姉のように見えてな」
「確カニ、ソウ見エマスネ。ルーシュクンモ、アノヨウナ時ハアッタノデスカ? ソレデ懐カシク感ジタトカ……」
「ローズ姉様は無かったな。姉様は本当に隙が無い女性であった。だがあまり行き過ぎるようなら止めた方が良いだろうか。希少なモノもあるだろう」
「大丈夫だよ。あの状態で捨てたりしたモノを、アプリコットお姉ちゃんが後からどうしても欲しくなった事は無いから」
「キチンとそこは分別しているという事か」
「グレイお兄ちゃんは、誰かのお世話をするとなると偶に変になるけど、最終的には上手く……ぐぅ」
「ブラウンは本当によく寝るな。おーい、起きろー」
「寝てるよ……寝てるから起こさないで……ぐぅ」
「その寝言は新しいな」
「チナミニブラウンクンハ、ココニ到着シタ時カラ寝テマシタヨ?」
「えっ。……オレはずっと寝言と会話をしていたのか……?」

 しかし物が多い。
 整理されているので見分けたりするのは簡単だが、以前整理整頓した時よりも物が多く増えて……増えて……。……もしかして。

「アプリコット様、食材はキチンと買われていますよね?」
「買っているから安心しろ」
「いつぞやのように、新たな料理を作る事に集中し過ぎて材料を使い切り、買うお金がなくなる、という事は無いのですね」
「あ、あの時は駆け出しであったからそうなっただけだ! 流石に今は無い!」
「本当ですね?」
「クロさんに怒られたからもうせぬ……」

 ならば良いのだけれど。
 アプリコット様はある時に、どうしても欲しい魔導書のために食事を切り詰めていた時があった。そしてフラフラしてクロ様が事情を聴き、食事を摂らせた後真剣に怒った時があった。
 怒鳴りもしない上、私が対象でないのにあの時のクロ様は怖かったのを覚えている。とそれよりもこれは……

「うぅ、だが弟子の言う通り片付けをせねば……南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
「アプリコット、それはなんだ?」
「クロさんから教わった、なにかを供養する時の呪文だそうだ」
「ほう? ああ、それとオレも片づけを手伝おう」
「良いのか?」
「ああ。女性の家をあまり荒らすのは良くないが、重いモノがあればオレが運ぼう」
「いや、それは……」
「遠慮する事は無い。オレ達はかつて共に遊んだ仲だ。王族関係無しに、友相手の手伝いになるのならばオレは喜んで手伝うさ」
「……ありがとう。そういう事なら少々手伝って貰えるだろうか」
「良いぞ。という訳でロボさん、すまないが……」
「ワタシモ手伝イマスヨ。アプリコットクンニハ普段オ世話ニナッテマスシ」
「……はっ!? おはよー。僕も手伝うよ」
「何故寝てたのに状況を把握出来ているんだ。……ともかく、感謝する。では役割を決めて――」

 ロボ様達も整理整頓を手伝われるような会話をしているようであるが、私は少々その隅にあった紙が気になってあまり聞こえずにいた。
 これは……なんだろうか。タイトルが上手く読めない。
 私も見た事がない文字。いや、これは以前ヴェール様に見せて頂いたあの――

「グレイお兄ちゃん、どうしたの?」
「あ、いえ。なんでも有りません。ブラウンさんはどうされましたか?」
「皆で整理整頓を手伝うって話になったんだよー」
「そうですか。では始めましょうか」
「了解ー」

 この本に関しては、本や魔道具を干しにいったらしいアプリコット様に後で聞くとして、今は不要そうなものをどんどん出していくとしよう。

 そう思いつつ、私は『一色黒・彩瀬白・一色白・朝雲淡黄。破滅の■■』と、読めない文字で書かれた紙を懐に仕舞い、整理整頓を続けるのであった。

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