追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

思い出切り取り(:灰)


View.グレイ


「アプリコット様、ブラウンさん。行きますよ!」
「うん、グレイお兄ちゃん。アプリコットお姉ちゃん」
「ふははははは! では行くぞ――我達は!」
『シキを守る若き魔導ストライク士達(ウィザーズ)!』

 コンテストも終わり、私達は服を揃えてポーズをとっていた。
 アプリコット様は素晴らしき服装からいつもの素晴らしき服装に着替えられてしまったが、私とブラウンさんはコンテストで使用した魔導士服のままである。
 折角服装を揃えているのならば、この時ににしか出来ない事をやってみようという事で私達はアプリコット様を中心として決めポーズをとろうという事になったのである。

「オオー、皆サン。オ似合イデ格好良イデスヨ」
「うむ、元気で良い事だ」

 そして評価を下さるロボ様とルーシュ様。
 ロボ様はコンテストの服を着替えられて……というよりは脱がれていつものようなお姿に。
 ルーシュ様は“クミチョウ”らしき服装のままだ。……クロ様やヴァイオレット様が着られていた服と同じなのに、印象が大分違う。

「……ヨシ、出来マシタヨ。動イテ良イデス」

 と、私達がポーズをとってしばらく決めていると、ロボ様が私達に動いて良いと言ってくる。
 言われたとおりに私達は動き出すと、皆様でロボさんの周囲に集まった。

「コレガ今ノ皆サンデス。……ウィーン」
「口で言って口から出るのだな。どれどれ……ほう」
「へぇ……これが今の僕達なんだ」

 そしてロボ様が口から私の手のひらサイズの紙のような物を取り出した。
 紙に描かれてあったのは、まるで時が止まって封印したかと思えるような、私達の先程の姿。
 全員が同じ服でポーズをとって、綺麗に描かれている。

「これが失われしロスト古代技術テクノロジーである写真か……」
「なんだか僕達の魂が封じ込められているみたいだね? ……大丈夫なの?」
「安心しろブラウン。オレや姉弟も何度か撮った事は有るが、こうして元気だ」

 なんでもこれは“写真”というもので、“カメラ機能”なるモノで描かれたらしい。
 本来は失われしロスト古代技術テクノロジーの一つであり、とても希少な代物。仕組みも分からず数も少ないため、利用するにはとても費用がかかるものらしいのだが。

「ロボさんが新たに目覚めた能力……機能の一つらしいな?」
「ハイ。クロクンヤ、メアリークンニ言ワレテ気付イタ機能デス」

 しかしこの機能をロボ様は有していた。
 ロボ様の外装が自己修復する際、失った機能もあったらしいのだが、目覚めた機能もあったらしい。その一つがクロ様やメアリー様が気づいたこの“カメラ機能”らしい。
 なんでもクロ様達の前世の世界ではこの機能が世界中に手軽に使えるほどあったらしく、それで気付いたらしい。しかしこんな風にいきなり紙に描く……印刷は出来なかったらしいが。

「おお、皆様が生きているように……!」

 それはともかく、この写真はとても素晴らしい。
 サイズは小さくとも、アプリコット様の素晴らしきお姿や皆様がお揃いの服装を着ているのをこうして見る事が出来る。なんとも心躍る機能である。

「こうなるとアプリコット様のあの素晴らしきお姿も写真にしたかったですね」
「ふ、あの姿は我の仮初の姿。真の姿であるこの服装エーテルの姿を残す事にこそ意義があるのだぞ弟子よ!」
「はい。今のお姿も素晴らしいです!」
「ふふふ、そう褒めるでない。それに将来的に弟子達もこの偉大なるグレート変則魔術フォーミュラー刻印使いユーザーの服を着るのだ。その着る将来と今を比べ、成長を知る良い機会であると思うのだ!」
「はい!」
「僕も着るのかな? でも、またこうやって撮りたいね」

 出来れば皆様がそれぞれのコンテストの服装で撮りたかったのだが、確かにこうして皆で撮って将来的にまた同じ服で撮る機会を楽しみにするのも良いかもしれない。流石はアプリコット様である。

「だが、着た服を思い出にしたいというのも分かる。が、あの服は動き辛くてな。慣れればそうでもないらしいが……む、そうだ」

 ……? なんだろうか。アプリコット様はあの服が動き辛いの他にも理由があって着替えた気がする。あくまでも気がするだけで具体的な理由がある訳では無いが。
 と、それよりもなにか思い付いたようであるがどうしたのだろう。ロボ様とルーシュ様を見ているようだが。

「ドウカシマシタカ?」
「ふふふ、折角だ。ロボさんとファ――ルーシュさんも撮ってみるか? 二人きりの写真をな!」
「エ」
「ほう、それは良いな!」

 アプリコット様はいつものような不敵な笑みを浮かべ、帽子とそれについた山茶水仙花サザンスイセンカを揺らしながらロボ様に近付いた。
 恐らくだがロボ様を逃がさないようにするためであろう。

「ほらほら、ロボさん。折角の機会なのだ。思い出作りに写真を撮るのも良いのではないか?」
「オレはロボさんと思い出を是非とも撮りたい! 今のようにポーズを取るのも良いな」
「それならば何処かの領主夫婦が、先程見ているこっちが恥ずかしくなるような格好でいたであろう?」
「あの何処かの領主夫婦がやっていた見ているこちらが恥ずかしくなるアレか。良いな、それは」
「無理デス無理デス! アンナ恥カシイ格好ハ無理デス!」

 何処かの領主夫婦がやっていた恥ずかしい格好とはなんの事で誰の事なのだろう?
 先程とは言うが、クロ様達以外に領主などシキには来ていないはずであるし、クロ様達の先程の格好はクロ様が後ろから抱きしめていてヴァイオレット様が幸せそうに顔を赤くするという仲睦まじい姿であったし……ううむ、謎である。後でクロ様達に聞いてみよう。

「トイウカワタシハ重イデスヨ!」
「オレにとっては羽毛の如き軽さだ。なんの問題もない!」

 余談であるが、ロボ様の今の重さはこの場に居るロボ様以外を足したくらいだ。クロ様曰くブロンド様部分も含めればもっと重くてもおかしくないらしいが、不思議パゥワーとやらで比較的軽いらしい。なにと比較かは分からないが。

「ソレニ、ワタシガ機能ヲ使ワナイト写真ハ無理デスヨ!」
「アプリコット、あるいはグレイかブラウン。ロボさんの機能は使えないのか?」
「扱いは難しかろうが、着る事が出来れば誰にでも使えると聞いたぞ。なぁロボさん?」
「ウ……ソレハ、ソウデスガ……! デスガ、顔ヲ晒ス訳ノハ、ソノ……!」

 ロボ様の写真機能を使うにはロボ様があの外装を脱ぐ必要がある。
 そしてそうなるとロボ様が気にされて居るブロンド様としての外見が出る。それを気にされているのだろう。
 なんだか最近の私が想いを伝えている時のアプリコット様や、クロ様と居る時のヴァイオレット様の時のような複雑な感情が混じっているような気もするが。

「この場にはオレと何度も貴女の顔を見ているシキの面々しかいない。大丈夫だ! なぁ皆!」
「うむ、綺麗であったぞ。特に綺麗な金髪は羨ましいと思うほどだ」
「はい、美しき瞳も素晴らしく、ロボ様の優しさが滲み出たお優しいお顔でした」
「うん、見たけれど、なんで隠しているのか分からないほどにはロボお姉ちゃんは綺麗だったよ?」
「ウ……確カニ皆サンニハ何度モ見セマシタシ、受ケ入レラレマシタガ……」

 今は全てを覆ってはいるが、ロボ様は以前のワイバーン騒動で外装が壊れた後、ある程度親しいシキの皆様には何度か顔を出した状態(クロ様曰くヘッドギア状態)で接している。
 ロボ様は火傷や呪いの痕を気にされてるようであったが、それでも見た方々は特に気にせずに素顔を見れた事に興味深そうにして褒めていた。ロボ様はそれを見て嬉しそうにはしていたが、やはりまだ恥ずかしいようだ。

「オレと撮るのは嫌だろうか……?」
「嫌デハ有リマセン! ……ア、エト……」
「では撮ろう! 外が恥ずかしいのなら誰かの家で!」
「我の家が近いな。来るか?」
「良いのか?」
「ふふ、当然だ。よし、行こうではないか!」
「おお!」
「待、待ッテクダサイ! 引ッ張ラナイデクダサイ!? ク、ナンデ外レナインデス!?」
「王族の力だ」
「絶対嘘デス!」

 恥ずかしがるロボ様をまるで連行するかのようにアプリコット様とルーシュ様は連れて行く。アプリコット様はあまり力が強くないのでほとんどがルーシュ様のモノだろう。流石は王族というやつか。
 それにどうやらアプリコット様の家に行くようである。私達も後を追うとしよう。

「ところでグレイお兄ちゃん。あの二人気付いているのかな?」
「なにがでしょう?」
「ロボお姉ちゃんのあの外装? って、服の上から着れないから、誰かが撮るとなると……」
「ロボ様は全裸になりますね」
「だよね?」
「それも含めてルーシュ様は撮りたいのでは? クリームヒルトちゃんが言う所の……辱めシチュというやつでしょう」
「なるほどー。じゃあ僕達も行こうか……ぐぅ」
「寝ないでください。流石に私めではブラウンさんを運べませんので」
「ぐぅ……行こう……ぐぅ……」
「寝ながらアプリコット様の家に向かっている……!?」

 寝ながら歩くブラウンさんと並びながら、私達はアプリコット様の家へと歩いていく。
 ……そう言えばアプリコット様の家の中に最近入っていなかったような。少し楽しみ――あれ?

「……?」
「どうしたの、グレイお兄ちゃん?」
「今誰かに見られていたような気がしたのですが……気のせいだったようです」
「そうなんだ」

 今私達を見ている誰かが居た気がして、その見られている方を見たのだが視線の持ち主は居なかった。
 居るのはいつものように怪しげな視線を向けるブライ様とノワール学園長先生だけだ。そのお二人はなんだか「解釈違いだ!」と言って争っているである。よく分からないが、今の視線は先程の視線の持ち主では無いだろう。

「じゃあ行こうか……ぐぅ」

 あれ、私は今ブラウンさんの寝言と会話をしていたのだろうか。
 そんな事が気になったので、先程の視線の持ち主、クリ様と話されていた赤い髪の女性の事は忘れてしまっていた。





備考:ロボのカメラ機能
なんだかよく分からない機能で数十秒止まっていると、よく分からない内にロボの纏っている外装に記録され、よく分からない内に写真が口から印刷される。ようはよく分からない。
画素数は5000万画素。



しばらく視点変更が多くなります。ご了承ください。

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