追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

閑話 とある王女の命令(:真紅)


 閑話【とある王女の命令】


 私の弟、妹達は私と違って優秀だ。
 武芸、勉学、執務。
 どれをとっても私が遊ばずに真面目にやってようやく出来る代物レベルを、簡単に終わらせる、到達する事が出来る。
 私も一応周囲から優秀という評価は受けてはいるが、最高峰の教育を受け、真面目にやれば誰にでも到達できる程度の優秀さだ。つまりはその程度。
 真面目にやっているのも単純に一般的に真面目と言われる行動や性格が、私にとって楽で心地良いだけだ。だからそれを他者に強要する気はないし、弟達の奔放さを諫めはするが、弟達らしくて私にとっては好ましく思う。
 だから別に自らの非才を呪う事は無い。弟達の才能を妬む事も無く、姉としてむしろ誇らしい。

「ですが、私には弟達の苦悩が分からなかったのですよ」
「苦悩、ですか」

 誇らしくする一方、私には弟達の悩みは分からず共有出来ないでいた。
 天才ゆえの孤独、というありきたりな言葉をそのまま表現した弟達だ。真面目にやる事が取り柄の私に理解は出来ずにいた。
 ルーシュは多才な長男故の周囲からの重圧、環境。
 スカーレットは生まれと価値観の相違。
 カーマインは■■■■が■■な事による■■■。
 ヴァーミリオンは生まれと才能による周囲からの視線。
 バーガンティーは素直が故の利用されやすさと傷付きやすさ。
 フューシャは周囲の出来事の影響の受けやすさ。
 それらが彼らにとっては心を蝕む程度にはあまりにも大きすぎた。

「貴女は歩み寄ろうとはしていたではないですか。貴女が居なければ、弟君達はさらに悩みを抱える形になっていたでしょう」
「お気遣い頂きありがとうございます、アイボリー君」

 しかし全てを理解を出来ずとも、それが歩み寄らない理由にはならない。
 だから私は私なりに、姉として弟達に接してきた。
 兄妹の一番最初……姉として生まれたからには、少しでも手本になる様にと蝕まれた心を埋めようとしていた。

「……ですが、姉としての威厳も、恋や友達には勝てなかったようですね」
「そ、そのような事は……」
「ふふ、大丈夫ですよ。姉として悔しいですけど、弟達がああして笑えるのは嬉しい事ですから」

 それなりに道は示していたとは思ったのだが、やはり同年代や恋という感情には勝てないのか、私の与り知らぬ所で弟達は笑顔を作っていた。
 少し嫉妬してしまうが、弟達を救ってくれた子達には感謝しないといけない。クリームヒルトさんという女の子に至っては、バーガンティーとフューシャを明るくして夢中にさせている。さらにフューシャの方は、グレイさんとアプリコットさんという同学年の友達も出来たらしいので、来年度からの学園生活の心配が薄まった位だ。やはり友達は偉大だという事か。
 ただヴァーミリオンが夢中になっているメアリーさんに関しては早くどうにかして欲しい。国の将来の重要人物の多くが夢中になっているので、将来的にメアリーさんを巡って抗争が起きたり、彼女を聖女と崇めた独立勢力が出来るのではないかと不安である。

「スカーレットはまだ不安だったわけですが……」

 スカーレットに関しては同性を好きになったかもしれないと聞いた時は驚いたが、それが本気であれば応援した。
 しかし別件でシキに来てみれば、クロ子爵に身体の関係を求めているという異常事態。話を聞くとなにに悩んでいるかは分かった。しかしそれは自ら気付かなければ意味の無いモノであったので、クロ子爵にスカーレットを頼み込んだ訳だが……

「……なんで美しさを競うコンテストをやっているんです?」
「……さぁ」

 私の所用のためにヴェールさんやゴルドさんとそのお弟子さん(※シュイとイン)、そしてアイボリーさんと色々話をしていると、気が付けばスカーレットを含む弟達とクロ子爵達は美しさを競うコンテストに参加していた。
 これは私が非才ゆえの理解できない出来事なんだろうか。それなら非才のままで良いと思う気もするが。

「もう優勝者の発表ですか。誰になるのでしょうね」
「ローラン様や貴女の旦那様が出ていれば優勝候補だったでしょうね」
「いえ、私は夫の事をこういった場で優勝する程美形とは思っていませんよ。夫も私を同じように思っているでしょうし」
「そ、そうなんですか?」

 私の偽名を呼びながら、アイボリーさんは私に気を使ってお世辞を言ってくれる。それに対し私は答えに困る返事をする。
 だが実際私は夫のマダーの事を整っているとは思っているが、このコンテスト……今ステージに上がっている、国の中でもトップクラスの整っている参加者の中だと、お互いに下から数えた方が早いだろう。
 ただ私は我が子同様、この世で最も夫を愛おしく思っているだけだ。別に美形とかそのようなモノはどうでも良い。私が好きなのが夫と我が子いうだけの話だ。

「アイボリー君はごめんなさい。私が会う約束をしていなければ、今頃優勝者として名前を呼ばれる頃かもしれませんでしたのに……」
「私は不愛想な男ですから、例え出れたとしてもビリ候補でしょう。お気になさる必要は有りません」
「そうですか……」

 アイボリーさんならば上位に食い込んでもおかしくないとは思うのだが。それに彼ならフューシャも……

「と、発表のようですね」

 私達と同じように観客の中で周囲に隠れているフューシャをチラリと見つつ、ステージに優勝者を発表するためにノワール学園長先生(参加者)が、なにやら盛り上げる口上を述べながら出てきた。
 どうやら色々と煽った後に、同時にミスターとミス&ミセスの優勝者を発表するようだ。そしてその後優勝者が前に出てきてコメントを貰う……ような形らしい。

「アイボリー君」
「はい」

 ともかく今ならば観客もステージに集中して騒がしい上に、魔法によって私達から意識を逸らしているので会話しても
 ステージ上に居るスカーレットも心配ではあるが、今は王女として、宰相としての行動を優先させてもらおう。

「――――――――」
「――――?」
「――――――――」
「――!?」
「――……。……お願いしますね、アイボリー・アレクサンダー上級神官」
「……承りました」

 そして私は彼にお願いをした。
 いえ、彼の王家へ忠誠を利用した命令をした。どうしても聞いて貰わないと駄目であるから、利用したのだ。
 ……これが彼にする、最後かもしれない命令だから。

「しかし一人のシキの医者として受けさせて頂きます。その役職はもう捨てたので」
「ええ、構いませんよ。……ふふ」
「どうされました?」
「いえ、“シキ”の医者とわざわざ言うなんて、随分とこの地が好きなんですね、貴方は」
「……そうかもしれませんね」

 そう言いつつ、アイボリーさんはステージ上に立つハートフィールド家を見た。

「ですがだからこそ、シキのために貴女のお願いを聞くという選択肢を選ぶ事に、迷いが無かったのでしょう」

 言葉にはしないが、彼も彼なりにこの地で変わった理由が彼らにあるのだと言っているようであった。
 アイボリーさんがこんな表情をする事に私は微笑ましく思い、少し気が楽になったのであった。

「さぁでは発表しましょう。ミス&ミセス&ミスターコンテストインシキ! 優勝者は――」





おまけ 殿下達にローズ殿下の事を聞いてみた。

ルーシュ
「ローズ姉様? オレが最も尊敬する女性だ。オレに対して折れる事無く、根気よく話してくれた事は一生かかっても返しきれない恩がある。双子とは思えない程、オレとは違い立派な王女だ。……だが同じ年齢の、同じ血を分けた姉と思わない程に……怖い」

スカーレット
「ローズ姉様? 多分姉様が居なかったら、小さい時に新年パーティーで国王ちちおやを殴って私の生まれを吹聴し回ったと思うよ。でもそうしない程には私と向き合って、悩みも真正面から聞いてくれた姉様だよ。……けど説教の時のあの顔は怖いから止めて欲しい」

カーマイン
「ローズ姉様? 自由奔放な俺達兄妹の中でも最も尊敬すべき御方だ。彼女がいなければ俺達兄妹は崩壊――いや、よりズレていたままだったろうな。彼女は尊敬すべきだよ。――ああ、本当にな。嘘じゃないさ。……ただ、口では“はは”と笑っているのに目が見開いているのは怖いから止めて欲しい」

ヴァーミリオン
「ローズ姉さん? 俺の生まれを知った上でなんの壁も作らず弟として接してくれた尊敬すべき女性だ。隙も無く。所作も美しい。俺の作法は姉さんが源流と言っても差し支えないな。そんな素晴らしき姉だが……同時に俺ではあの御方に勝てないという圧を覚える。姉さんの説教の怖さを思い出すと、大抵の他の怖さが和らぐ」

バーガンティー
「ローズ姉様? 尊敬すべき御方です。私のあらゆる王族としての在り方は姉様を参考にしました。ただ、姉様のように見抜く力が私には無いので、私はまだまだなんですよね……。いつか姉様のようになる事を目指します! ……ただ、あの怖さだけは私には到達できないと思うんです……」

フューシャ
「ローズ姉様? ……こんな体質の私にも……忙しい合間を縫って……姉として接してくれた……お優しい姉様……だと思う。ただ……寝ている姿とか……だらしない姿とか……気を抜いている姿とか……一度も見た事が……ない気がする……。隙が無くて……ちょっと……怖い……もう少し……隙を見せて欲しい……」

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