追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

恋に対する馬鹿ばかり(:菫)


View.ヴァイオレット


「では、皆さんがある程度正気に戻った所で次の紹介です!」

 皆のお陰で審査出来る状態には戻った。
 しかしステージの端に居るクロ殿を見ると再び見惚れてしまうため、視界に入れないようにしないと駄目なのが辛い所だ。
 正直に言うならばあの姿をずっと眺めていたいが、審査員になった以上は審査に集中しよう。
 よし、我慢だ私。グレイだってまだ出ていないんだ。母親として情けない所はあまり見せられまい。

「エントリーナンバー07! あどけないフェイスと性格に骨抜きされた者は数知れず! あらゆる存在を惑わす天然ナチュラル天使エンジェル! グレイ・ハートフィールド君が魔導士の服を着て登場です!」
「母上ー! アプリコット様ー! どうです、似合ってますかー! アプリコット様のお揃いの服なので、着てみたかったんです!」
「うーん、そのアピールはちょっと違反のような気もしますが、可愛いから良しとしましょう」

 私の息子が可愛い。
 クロ殿による攻撃を受けたばかりなのに次にこれとは。私を殺しにかかっているのではなかろうか。つまり殺しの永久機関か。なんと恐ろしい事か。だが幸福を味わうためにも死ぬわけにはいかない!

「あ、今度はコットちゃんまで固まった」
「ある意味予定調和だね」
「フゥーハハハ! 弟子よ、良いぞ! 我が選んだ服をよくぞ選んだ!」
「あ、戻った」
「はい! お揃いの帽子にお揃いの服! 男女で違いはありますが、アプリコット様と並んで立ちたいと思い選びましたー! どうです、上手く着こなしているでしょうー?」
「ふ、ふ、フゥーハハハ、ハハハ! 良いぞ!」
「あ、見惚れて壊れた」
「あざといほど可愛くターンしましたからね」

 グレイが服全体を見せるかのようにステージの上でクルっと回った。
 まわる勢いで服が小さく舞ったのだが、なんか、そう、もう、可愛いと言う言葉以外が思い浮かばない。
 というかさっきから私の語彙力が無くなっている気がする。だがそれもこれも夫と息子が良すぎるのが悪いのだ。いや、悪くない。むしろ良いのか。うむ、良いのだ。

「はーい、今のターンも可愛らしいですが、特定の誰かへのアピールはその程度にね」
「あ、申し訳ありません。――このような場所に立てたのも、私めに投票してくださった皆様のお陰です。私めに一生の思い出を下さり、ありがとうございました。なにを返せるかは分かりませんが、私めなりにこのコンテストで頑張ろうと思います」
『キャー!?』
『可愛い、可愛い!?』
『マイ、エンジェル……!』
「おおー。グレイ君が計算していないのに計算されたかのような笑顔を観客に向けて阿鼻叫喚です」
「こうすれば喜んで貰えるとカラスバ叔父様に教わったので!」
「カラスバ君はグレイ君を理解していると言うか、彼は演出を分かっていますねー。そういえばグレイ君。この調査期間中に色々と告白されたらしいですね?」
「告白ですか? ……あ、もしかして学園の先輩、軍、騎士のお姉様に遊びに誘われたモノでしょうか?」
「いえいえ、好きと告白されたでしょう?」
「あ、はい。男女問わず私めに好意を持たれて嬉しいです!」

「アプリコット。告白した者どもをリストアップだ」
「了解した。だがこのままでは学園では気を抜けぬな」
「いざとなればフォーサイス家を頼れ。権力をちらつかせば効果的だぞ」
「了解した」
「やめんかい」
『「なんか彼女、雰囲気が悪役令嬢時代に戻ってません?」』
『「あはは、それほど大切なんだねー」』
「君達、不思議な言語で話すね?」

「それで返事はどうしたんですか?」
「はい、好きと言って貰えてありがとうございます、と。遊ぶ機会があれば皆で遊びましょうと返事をしました」
「でも学園に入ったら付き合って欲しい、と言われもした耳にしましたがそちらには?」
「はい……その方には申し訳ないですがお断りしました……私めは欲張りなので……」
「欲張り?」
「はい。私めが付き合いたいのはこの世で最も美しき御方。私はそんな存在と共に有りたいと願う欲張りなのです」
「おおーどこの黒髪杏色の瞳の少女なんでしょうねー」
「そして私めはまず並び立つ存在になりたいのです。そのためにもこのコンテスト頑張りますよアプリコット様!」

「良かったなこの世の最も美しき私の娘候補」
「良かったね美少年に求められてる魔法使いさん」
「君達、あまり虐めないであげてくれ。彼女が照れで倒れそうだ」

「特定の誰かへのアピールは止めて下さいねー。…………」







「続きましてエントリーナンバー08! 真っ直ぐすぎる爽やか美形。さらに鍛えられた細い身体はまさに得意魔法かの様女性を痺れさせる! バーガンティー・ランドルフ!」
「お、俺の美貌に酔いな!」
『キャー!?』
『酔います! 酔えますー!』
「どうした弟」
「……ごめんなさい、忘れてください」

『「わー、わー! 見て見てメアリーちゃん! 燕尾服。燕尾服だよ! 鍛えられているけど細い身体に、高い身長で凄く似合っている燕尾服with白手袋だよ白手袋! 凄い凄い! 赤面姿も良いね!」』
「お、落ち着いてくださいクリームヒルト。興奮して日本語になってます!」

「はーい、ちゃっちゃとアピールしてくださいねー」
「あの、スカーレット姉様、投げやりじゃありませんか?」
「男兄弟の四分の三を美形と紹介する姉の気持ち、分かる? すごい複雑なんだよ」
「お、お気持ちは分かりますが……!」
「冗談冗談! さて、観客達は貴方の普段とは違う装いと美貌に酔いしれているようですが」
「やめて……ください……! 出来心だったんです。好きな相手と妹にそそのかされただけなんです……!」
「ティーは本当に騙されやすくて乗せられやすいねー。ま、とにかくアピールを!」
「ええと……お嬢様方、此度は貴女をこの世界の主であると証明しましょう――さぁ、私のご奉仕をお楽しみください」
『キャー!?』
『バーガンティー殿下がウインクで傅くような仕草を!?』
『なにを! ナニをしてくれると言うの!?』
「どうした弟。らしくない台詞だけど」
「忘れて……ください……! こうすれば良いと好きな相手のお兄様と妹に言われただけなんです……!」
「おお、ここまで顔が赤いティーは久々に見た。好きな相手のためにここまでするとはねー。……………………」



「エントリーナンバー09、今度は私の兄だ! 細身の男なんざしゃらくさい! その包容力やワイルドさは他にはない大人の魅力! ルーシュ・ランドルフだぁ!」
「皆の者、このような舞台にオレが立てたのも投票してくれた皆のお陰だ。投票、感謝する」
「おお、クロ君と同じワフクを着ているようですが……ルーシュ兄様が着るとなんか裏の筋っぽく感じます」
「喧嘩を売っているのか我が妹」

「『なんかインテリなやーさんっぽいよね、ルーシュ殿下』」
「『……流石にそれは日本語で正解ですね。私達が言うと不敬罪になりそうですから。……確かに他と比べると体格は良いですが、あの和服がなんか……はい』」
「『サングラス掛けたら完璧だよね。あと、脱いだら凄い、って感じだよね』」
「『龍とか彫ってありそうですもんね……』」
「(……アプリコット君、彼女達の会話の意味は分かる?)」
「(大体分かりはするが、口に出すのはやめておこう)」

「ともかくアピールをどうぞ。いつのまにか観客席に移動している、親しまれている渾名と本名が違う女の子へのアピールは禁止ですよ」
「当然だ。ルール違反していてはコンテストの意味をなさんからな」
「その台詞を何処かの学園長に言ってあげたいです。ではアピールをどうぞ」
「いいだろう。……このコンテストは男性も見ているが、基本女性票が大半であり、女性向けのイベントと言えよう」
「そうですね?」
「女性は可愛いモノが好きと聞く」
「まぁ否定はしませんが」
「そして多くの者は猫や犬が好きだ」
「え、ええ。好みにもよると思いますが傾向はあるかと」
「だからオレ的にはより可愛いと思える猫のようになるために、普段しない猫耳を付けて、俺には無い属性である猫の可愛さを得ようではないか!」
「やめて! 実の兄が猫耳付けて可愛さをアピールとか顔をまともに見れなくなるから!」
「放すのだ妹よ! これもオレなりのミスターコンテストアピールなんだ! 司会の任を全うするんだ!」
「どうせロボが猫が好きだからアピールしようと思っただけでしょ!」
「そうだ!」
「ダメだこの兄、好きな女の子のために馬鹿になりすぎてる!」

「好きな者のためになると、ルーシュ殿下もあのようになるのだな」
「年上だけど可愛くて微笑ましくなっちゃうね」
「うむ、第一王子ファースト・デイも男の子、という事か」
「そういえばロボは猫が好きだけど、ウツブシ以外には逃げられやすいって言ってましたね」
「あはは、好きな相手の好きなモノを知って、いてもたってもいられなくなったんだね」

 私達は必死に止めているスカーレット殿下には悪いが、好きな相手のために頑張るルーシュ殿下を微笑ましく眺めていた。

「……うーん、なんかこの審査員の少女達に言いたいな。彼も君達に言われたく無いだろうな、って……」

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