追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

単なる暴露であり未来は関係無い(:菫)


View.ヴァイオレット


「あはは、という訳で審査員頑張ろうねヴァイオレットちゃん!」
「美しい身体を多く見れる……ふふ、そして私はさらに美しき……ふふふ」
「……なんで私まで」
「それを言ったら我とて分からぬままに連れて来られたのだが」
「私も。なんか教会関係者枠らしいけど、そんなの必要なのかな」
「……何故こうなった」

 私は気が付けばミス&ミスターコンテスト審査員になっていた。
 先程までクロ殿に「見目麗しい姿は確かに好きですが、愛して興奮するのは貴女だけですからね!?」と、本人も言った後で恥ずかしがるような、嬉しくも恥ずかしく、でもやはり嬉しい言葉で、邪まな理由で審査員になるのではないと私に説明をしてくれていたはずなのだが。
 何故か私やクロ殿にもコンテストに参加する資格が得られたとかで参加者になり、気が付けばシキ代表者としてミスター側の審査員になっていた。……訳が分からない。
 今はこうして他の審査員である、シアン、アプリコット、クリームヒルト、メアリー、シュバルツと審査員席とやらに座っているのだが……

「審査員とはなにをすれば良いんだ」

 生憎と私はこういったイベントには疎い。
 シキに来る前で言えば、公爵家関係無しに毛嫌いしていた類のイベントで、知ろうとすらして来なかったものだ。そんな私が審査員などして良いのだろうか。

「私だって分からないけど、まぁ適当に質問したりして、参加者を引き立たせればいいんじゃない?」
「であるな。盛り上げる一つの要因程度と思えばよかろう。別に気負う必要もあるまいて」

 私が悩んでいると、左隣に座っているシアンは背筋を伸ばしながら、右隣りに居るアプリコットが帽子のつばを抑えながら答えた。
 シアンは神父様と共に突如このようなイベントの参加者兼審査員になって不満かとも思ったが、そうでもないようだ。
 同じくアプリコットもグレイが参加者となって見られる事になにも思わないのだろうか。
 私としてはクロ殿が一番である事は確定はしているモノの、衆目で見世物になるのは少し複雑な気分なのだが。

「私としては神父様がこういった場で着飾る、って言うのが少し楽しみかな。ほら、神父様がこういう場に出る事は少ないし、神父服以外あまり着ないからさ。結構楽しみなんだよね。あと一番は神父様だよ」
「弟子は隠しているつもりだが、普段着ない服を着こなして我やヴァイオレットさん達家族を驚かせようとしているようなのだ。それを見ると我も楽しみに思えるのだ。あと一番は弟子だ」
「成程な。だが一番はクロ殿だ」
『ははは、冗談が上手い』
「……君達、審査員なんだから贔屓は程々にね?」

 シュバルツが私達を見ながらなにか言うが、ともかくそういった考えもあるのか。
 確かに独り占めはしたい気持ちはあるが……あまりこういった場に進んで参加しないクロ殿が、相応しく振舞う姿は見てみたくはあるな。

「だが、このように騒いで良いのだろうか」
「まぁ良いんじゃない? こういうのはノリが大切ってものだと思うし、張り詰めてばかりじゃ疲れるよ」
「シアンさんの言う通りだな。悪意を持っての事では無いし、こういったバカ騒ぎは必要であろう。ただでさえシキはここ最近悪くは無いが、良い空気とは言えぬモノであったからな」
「……そうだな」

 しかしそれはそれとして、影や調査や封印や教会の地下やらで今日の夜に皆で話し合う予定であり、問題が起きているのにこうしていて良いのか、とも思ったが、シアンやアプリコットの言う通りか。
 今更グチグチ考えても仕様が無い。私は私なりに少しでも楽しみながら参加するとしよう。……参加者になるのはまだ緊張するがな。

「というかクリームヒルト、お前はバーガンティー殿下達と遊びに行ったのではなかったのか。聞けば自ら審査員に志願したと聞いたが」

 だが何故クリームヒルトまで審査員の立場として居るんだ。
 これでは遊ぼうとしていたバーガンティー殿下やフューシャ殿下が可哀想ではないか。

「こんな面白そうなイベントをスルーなんて出来ないよ! 皆で楽しんでこそのイベントでしょ! それにティー殿下も私に良い所を見せたいって言っていたしね!」
「そうか。本音は?」
「私の好きな服を着てくれる美男子を間近で見れる機会を逃さないでか!」
「成程」
「迷わず本音を聞く辺りヴァイオレットも慣れてますね……」

 メアリーはそう言うが、クリームヒルトの事だからそれだけではないと思っただけだ。特に他意は無い。
 しかしそれにしても……

「そんなにも着て欲しい服があったのですか?」

 私が抱いた疑問を、私ではなくクリームヒルトの隣に座るメアリーが聞いていた。
 確かに審査員権限である程度着る服のお題は決められる。
 審査員である私達がそれぞれ着て欲しい服のジャンルを決め、参加者(私達の場合はミスターコンテスト参加者)が、いずれか最低一つの服を着て登場する、そしてアピールをする。というのがノワール学園長が言っていた“審査員特権”だ。
 私もクロ殿が着て欲しい服をイメージはしたが、それはクリームヒルトがノワール学園長に直々に審査員になるアピールをしてまでしたかった事なのだろうか。

「あはは、それを聞くという事は、私に語らせる事になるけど良いの?」
「? 良いですよ」

 まだ開始まで時間もあるので、時間潰しに話を聞こうと私達はクリームヒルトの方を見た。
 ……少し後に、止めておいた方が良かったのではないかと後悔はしたが。

「執事服や神父様のような黒い修道服に白手袋だよ」
「つまり……グレイ君が着ているような服ですか? 確かに良いですよね、スラッとして黒いラインが――」
「違うよ。黒い服に白手袋が重要なんだよ。白手袋が!」
「え、ク、クリームヒルト?」
「ほら、執事服とか修道服とかって基本仕事で着る服でしょ。そして白手袋を着用する場合は最後に白手袋を付ける事で仕事モードになる所があると思うんだよね。肌色を白で隠す事によるプライベートからの仕事への変化。その仕草が良いと思うんだ。付ける時も重要だね。最後に手首の所へグッ! とやる時に手袋の入口の所を口にくわえて引っ張るのも良いし、腕をエル字型に前にあげた状態で逆の手で下にキュッと引っ張るのも良いと思うの。どっちも色っぽいから。さらには不敵に微笑んでいるとグッド! 脱ぐ時も咥えて脱ぐとかもう色っぽい。そして普段白手袋をしていて、手が直接見えないと言うのは一種の神秘を孕んでいると思うんだよね。純潔であり小悪魔。清廉であり妖艶。白い手袋は肌だけではなくって、あらゆる可能性を内包していると思うんだよ。あとはメアリーちゃんなら分かると思うんだけど、白い手袋をしている攻めは良いと思うんだよね」
「こ、ここで私にふるんですか!?」
「手袋を外しても外さなくても良いと思うの。手袋を外さずに攻めるんだけど、“なんらかの理由”で汚れて外すのも良いよね。そこで外すとさらにもう一段階あるような感じがしてワクワクする。でもただ忘れてはならない事は手袋を拘束具と扱うんじゃないの。あくまでも手袋という存在が手袋をしているキャラを引き立たせると思うの。攻める前に外すのは邪道という人も居るよ。でもね、普段は人前で見せないにも関わらず、攻める前に見せる事に意味があると思うんだ。そう、“他人には見せない所をお前には見せるんだ”的な。拘束しているんじゃなく、キャラの変化を演出しているんだよ。攻める前に前髪を何故か上げる的なノリだよ」
「……外さない場合も良いんですか?」
「勿論だよ。お前はあくまでも俺が弄るだけだ、というような強気なキャラは外さない方が良い事もあるの。俺が直接触れると思ったのか、とか。白く汚れた白い手袋を新しいのに替えつつ、まるで業務的に処理したかのように冷たさを演出するとか。もしくは触れるのが烏滸がましいから敢えて脱がないヘタレを演出するのも良いね。汚れた白手袋見つつドキドキする姿とかえる。まさに白い手袋がキャラと一体化しているんだよ! メアリーちゃんなら分かるはずだよ!」
「――分かります! とてもよく分かります! ですがクリームヒルト、聞きたい事があります!」
「なにかなメアリーちゃん!」
「ネクタイの軍服や看守の服に白手袋はアリですか!」
「当然アリだよ!」

 …………………………。

「アプリコット。あれは日本NIHON語なのだろうか。私にはさっぱり意味が分からなかったのだが」
「あれは王国語である。そして我も分からん」
「だけどなんだか日本NIHONの国民性は関係している気がするね」
「よく分からないが日本NIHONとやらは未来に生きているんだね」







「……何故だろう、日本が勘違いされている気がする」
「……奇遇ですね、私もそんな気がします」

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