追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
イラッ☆(:淡黄)
View.クリームヒルト
「話は逸れたが、説明だね」
「逸らしたのハクでしょ」
「まぁまぁ。ともかく、歩きながら説明しようか。少年少女達は構わないかな?」
「……大丈夫だ」
なんだか上手く思考が働かない中、ハクの言葉に少々アタリを強くしつつ逸れた話題が元に戻った。
ヴァイオレットちゃんは警戒の心を緩めなかったが、なにか知っている以上は背に腹は代えられないとでも言うようにハクの言葉に従って後ろに付いていく形となった。
「簡単に説明するが、私は――」
そして簡単に私達にもした説明をヴァイオレットちゃん達にもする。
ドッペルゲンガー、改造、性質を受けた魔力、この後するべき事。どれも信用できる話ではない。
「……状況は把握しました」
「ドッペルゲンガー……相手をマネする……そんな特性が……」
「……ハクは一先ずは事態収拾に協力してくれるのだな」
「自分で蒔いた種だからね。責任くらい持つさ」
だけどヴァイオレットちゃん達もまずは信じる事にした。
真偽は私達にとっても定かではない。だが少しでも事情を知っていて、それに準じた事が今まさに起きているので、応じた対応をするしかない。当然警戒もするし全てを受け入れる訳では無いだろうけど。
「だがその姿は一体……? 対象をするにしても、誰を対象にしてその姿になったのだろうか? 学園生の制服ではあるようだが……」
あ、そこツッコむんだ。恐らく魔力の確認にエクル先輩の所へ行くまでの情報収集だろうけど……そういえばまだその姿が私の前世とは言っていなかったな。
説明はしても良いけど……フューシャちゃんもティー殿下も私の前世云々は知らないし、説明が長くなりそうだから悩む所ではある。
「制服はそっちの子の服を見て作ったんだよ。魔力で編んでいるというやつさ。変化の応用だよ。変えようと思えばすぐに変えられるよ?」
「……クロ殿が聞いたら凄い顔をしそうな力だな」
「だが見てマネただけだから小さな構造は違うし……あ、そうだ。誰かパンツ見せて。女の子の下着の」
「脈絡がないな」
「見ないと変化出来ないんだよ。そして当世ではパンツやブラなるモノが必要なんだろう? この服結構下寒いんだよ。ほら」
「捲くるな、見せるな!」
「おお……えっちぃ……あれ……ティー兄様……見ないの……えっちぃよ……?」
「異性の大切な場所を見る訳にはいきませんから……!」
「というかお前は雌雄同体のようなモノなのだろう、そんな相手に見せるモノか!」
「私で良ければ見せようか? あ、今ズボン脱ぐから待ってて!」
『スカーレット殿下!?』
けどこうして自分の容姿に自信満々かつ痴女行為をするハクには腹が立つ事この上ないし辞めさせたい。凄く居たたまれない
あとスカーレット殿下の様子がおかし過ぎる。なんで進んで力になろうとしているんだ。というか今のスカーレット殿下の服の真似をして貰えばいい話だろうに。
「ちぇー。皆ケチだねぇ。あ、ティー坊。なんで見ないの。ほれほれ、健康な女体だぞー。美少女の貴重な若き肉体だぞー」
「あ、あの、私の勘違いでなければハクさんは捲くったまま近寄っていませんか?」
「さらには胸元も露出しようとしているので目を瞑ったままでお願いします」
「りょ、了解しましたヴァイオレットさん……!」
「王族男子なら女を知らなくてどうするか! 今の内に慣れなさい!」
「やめんか!」
……イラ。
「……ハク。それ以上ティー殿下を揶揄うのはやめて」
「ほうほう、嫉妬かな。良い感じの相手に別の女が近寄って焦っているのかな? ん~?」
「…………」
「ク、クリームヒルト……?」
「クリームちゃん、なんだか怖い……」
なんだろう。今凄く腹が立った。
この感情が来る前に笑ったりして逃げていたりしていた私だが、これが誰かに対してイラっと来るというやつなのか。意識して逃げずに感じるのは初めてである。
なんでこんなに思うのだろうか……と少し疑問に思ったが、これが別の女性ならここまで思わないのだろう。ハクがこの姿だからなのか凄くイラっと来ている訳だ。別にティー殿下が迫られているからでは無いだろう。
「というかその顔近付けないで。すごくやり辛い」
「うん? そういえば君はさっきも感想は言わなかったな。この顔は苦手なのかな?」
「いや、苦手と言うか……」
今世では今の顔に慣れてはいるし、その顔を見たのも十数年振りだけど、自分の顔のようで嫌だ。鏡が勝手に動いて喋っている的な感じだ。
「結構高評価なんだけどね。ねぇ?」
「私達に振るのか。……まぁ整ってはいて、魅力的だとは思うぞ」
「うん……誰かの借り物だとしても……綺麗……同じ顔があるとしたら……並ぶと凄い事になりそう……」
「うん、そうね。本当に綺麗で格好良くて……キュンと来る。そしてエロい」
「スカーレット姉様。なんだか感想がおかしくありません?」
「気のせいなのよティー」
「言葉遣いも変です」
「ほら、この通り高評価だ。まぁ好みは人それぞれであるのだけどね」
……これは私を褒めてくれている扱いになるのだろうか。けど私はその顔を持つ事はもう無いだろうから複雑である。
ていうかそんなに綺麗なのだろうか。味方ではない相手にヴァイオレットちゃんが褒める辺り……いや、関係無いか。
「しかし本当にこの姿は誰なんだろうね。封印されている間に近付いた誰かの影響なのだろうか……もしくは……」
「もしくは?」
「……いや、アレは関係ないか。ともかく美少女で良かったよ。姿形を変えすぎると自己が曖昧になるからね。一発で気にいる外見で良かった。……美少年になって美少女を攻略するのも良いが」
「別にその姿で女をハントしても良いんじゃない?」
「……あの、スカーレット殿下。何故そこでハクに近付くのです? 危険ですのでお止め下さい」
「色々あるの」
やっぱりスカーレット殿下の様子がおかしい。
…………まさか、ね。
「それも良いな。どうだい、ここに居る少年少女達。誰か私の相手でも――」
「いい加減にしてはっ倒すよこの尻軽。二度と変身できない様にしてあげようか」
「ク、クリームヒルト、どうした!?」
「クリームちゃん怖い……!」
はっ、しまった。
ヴァイオレットちゃん達に手を出そうとしたからつい乱暴な言葉が出てしまった。
「クリームヒルト、ハクにアタリが強いが……何故だ?」
「やっぱり……ティー兄様に……ゾッコンラブだから……嫉妬……?」
「……フューシャ殿下。ゾッコンラブという言い方はやめた方が良いかと」
私の様子を心配したのか、ヴァイオレットちゃん達が聞いて来る。
なんというか、先程の精神状態が不安定のままなのではないかと心配しているように見える。……いけない。心配かけるのも良くないし、今はこの騒動を解決する事に集中しないと……!
「ふふ、自分には無いナイースな美貌とプロポーションに焦っちゃったんだよね!」
……イラッ。
「ハクは入って来るな!」
「今は……クリームちゃんと……話しているの……!」
「ハクさん。申し訳ありませんが、彼女をあまり煽らないでください」
「はーい。というかティー坊は目を瞑りながら器用だね」
ありがとう、ヴァイオレットちゃん、フューシャちゃん、ティー殿下。私のために怒ってくれて嬉しいよ。
「いや、だから……私の顔を近付けないで。それ私の顔なんだから」
「は? ……どういう意味かな?」
「それ、私の姿。今の私のこうなる前の姿だよ」
けどもう面倒だから言っておこう。
ただやられっぱなしなのも性に合わないし。
「いやいや、君を対象にしたのならば今の君の可愛らしい姿になるだろう? 君とは似ても似つかない……」
「対象の“記憶にある期間が長い身体で過ごした身体”になるんでしょう? 私その姿の二十五歳くらいまでいきたから、その身体になったんでしょ」
「え。……え?」
「二十五年……?」
「クリームヒルトさん……?」
私の言葉にハクだけではなく、フューシャちゃんもティー殿下も疑問顔になる。
「……あ。もしや一色・白の姿なのか?」
「あはは、うん、そうだよ」
そして私の言葉にヴァイオレットちゃんは合点がいったような表情になった。
前世の話を知っていて、特性を合わせれば流石に分かるかな。スカーレット殿下も分かる……あれ、なんか見た事も無いような表情になっているね。
「成程な。それならば納得だ」
「え、納得するのですか? ヴァイオレットさんは意味が分かるので?」
「そうですね。少々複雑ですが……この姿はある意味ではクリームヒルトの姿なのですよ」
「それはどういう――」
「どういう事なの!?」
『っ!?』
そしてスカーレット殿下は大声で叫んだ。
……一応今のでモンスターが引き寄せられていないか警戒だけしておこう。
「納得いかない! つまり私はクリームヒルトにエロいって思ったり綺麗だって見惚れていたって事!? う、うわぁあああ!?」
「ス、スカーレット殿下!?」
「姉様、落ち着かれてください!?」
「落ち、落ち着いて、ついて、てて、て!」
「スカーレット姉様が……壊れた……! ……ついに……」
フューシャちゃんついにって酷いな。いつかはこうなると思っていたのだろうか。まぁ私も思っていたけど、今壊れるとは思わなかったよ。
なんで壊れたかはよく分からないけど、多分ハクが前世の私の姿になって、私の姿になっている事なのが原因なのは分かるけど、何故ここまで壊れたのかは分からない。
……それもこれも相手の記憶を読み取って相手の姿になるなんて特性を持っているのが悪いんだ。シュイちゃんとインちゃんみたいな感じならなら良いけど、ハクは駄目だ。とにかく駄目である。
――そういえば、黒兄に化けてたドッペルゲンガー……
ふと、ハクの特性である“記憶にある期間が長い身体で過ごした身体になる”になるで、先程の前世黒兄のモドキを思い出したくはないが思い出した。
ドッペルゲンガーはあくまでも対象にしなければ相手の姿形にはなれないらしい。
という事はあのドッペルゲンガーは黒兄を対象にした、という事だ。……黒兄は教会で閉じ込められているはずなのに、何故化けられたのだろう。
――まぁ今は気にしても仕方ない。
あのモドキは私が倒してしまったし、確認しようがない。気にはなっても正解が分からないのだから、今は今の事に集中するとしよう。
私はそう意気込むと、改めて歩を進めるのであった。
「落ち着け、落ち着くんだ、私。私は大丈夫。私は平気。そもそも前の場所での姿だから今とは関係無い……!」
「スカーレット嬢? 大丈夫かな……?」
「うぐ……その顔を近付けるなー!!」
「スカーレット姉様、何処へ行かれようとするのですか!?」
「放せ弟! アンタはクリームヒルトと乳繰り合ってなさい! そうすりゃ大きくなってアンタも喜ぶでしょ!」
「なにを仰るのです!?」
「どうせ男はヴァイオレットみたいな巨乳が好きなんでしょ! クロ君に揉まれて大きくなっているのは明白だしね!」
「えっ!? 訳が分かりませんし私を巻き込まないでください!」
……その前にこの状況を落ち着かせよう。
ていうか黒兄はまだ大きくさせる程揉んでないとは思う。
……これは後の話ではあるが。
なんで黒兄に化けたドッペルゲンガーが居たのかはこの後すぐに分かる事となる。
そして私の意気込みもある意味無駄になった。
詳細が分かるのはさらに先であるが……今一つ言える事があるとしたら。
私が扉の所に着いた時には全て解決していたという事だ。
おまけ(本編と特に関わりは有りません)
「やはりどこかで見た事があると思ったが、一色・白であったか」
「あはは、見た事あるのはおかしくない?」
「いや、見た事あるんだよ。私が菫で、クロ殿と同級生で、白が後輩として過ごす学園生活の時にな」
「ヴァイオレットちゃん大丈夫? 疲れているなら無理しなくて良いんだよ――うぐ!?」
「どうした?」
「紺ちゃん……杏ちゃん……なにこの記憶は……はっ、まさかこれは存在しない記憶というやつなの……!?」
「まさか……クリームヒルトも記憶していて……!?」
「……あの、お二人共。お疲れならば後は私達に任せて頂いても良いのですよ……?」
「ティー殿下、邪魔しないで。私はお兄ちゃんだよ」
「お、落ち着かれてください!」
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