追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

気付いたのならば、行動あるのみ(:菫)


View.ヴァイオレット


「教えてくださいグレイ君。エクル先輩はどちらに!?」
「え、あの、私めも何処に行ったかまでは分かりません、申し訳ございません!」
「そう……ですか……あ、ごめんなさい、グレイ君。痛くありませんでしたか?」
「いえ、大丈夫ですが……」

 慌てふためいたメアリーはグレイに詰め寄り、分からないと言われると珍しいほど落胆した表情になった。そのあと自身の行動に気付き、肩から手を離して傷や痕が無いかを確認していた。

「メアリー様。何故私めにダンボールの件を言われたのがエクル様だと?」
「……それに、先程話にあった方。と言っていたな。なにかあったのであろうか」

 グレイは何故そのような事を聞くのかも、何故件の言われた内容がエクルだと分かったのかも分からずに不思議そうな表情で聞き、アプリコットはなにかに気付いたかのように真剣な表情で問うてきた。

「詳細は省きますが、私が箱のダンボールを被って隠れていた時があったのですが」

 その詳細がとても気になるが、今は我慢だ私。

「その際にエクル先輩が、遠目でダンボールを被っていると気付いていたんです。傍に居たアッシュ君はなにかを気付いていなかったのに」
「エクル様は私めと会話した時、別の場所で見てこのような形状にする事を想像していた、と仰っていました。なので気付いただけなのでは?」
「はい、その可能性はあるでしょう。そうであるのならばそれで構わないんです。ですがその時聞いた会話を考えると、段々と先輩が……」
「先輩が?」

 そこでメアリーは黙る。信じたくないという気持ちが有り、実は違うのではないかと思いたいような仕草をとる。
 しかし目を逸らしてはいけないかと言うように首を横に振ると、改めて言葉を続けた。

「私がこの世界での常識に関して誤りがあったのに、疑問を持っていなかったような気がしてきて……」
「単純にメアリーさんが常識知らずで破天荒と思われていただけでは無いのか?」
「違い――ち、違うと、思います。ですよねヴァーミリオン君、ヴァイオレット?」
「返答というのは時に残酷になるとは思わないかヴァイオレット」
「ええ、それはよく分かりますヴァーミリオン殿下。ですから答えずにおきましょう」
「それもう言っていますよね!? と、ともかくエクル先輩は――!」

 メアリーはエクルに関して気になる事を言いだす。
 今で言えば、この国ではダンボールを箱型で梱包し物を運んでいないのにすぐに分かったように。
 ホムンクルス、という単語を違和感なく受け入れていたり。
 クロ殿達がいた世界、あるいはそれに準じた世界に居なければ、私が以前違和感を覚えたように違和感を覚えるのに、エクルは受け入れていた。

――エクルが仮面の男……か。

 ……確かに聞いた話では仮面の男は魔法に優れている。そして反社会的な多くの相手と繋がりを持っているように思える。
 エクルは学園でもトップクラスには優秀であるし、エクルのフォーサイス家は貿易などに精通した伯爵家である。可能性としては充分にあるだろう。
 それに……昨日クロ殿とデートをした街はフォーサイス家が流通などに多く関与していたのだが、クレープなど私は見た事がないがクロ殿が見た事があるモノが多くあったな……そうか、先程から感じていた違和感の一つはこれか。

「だが怪しくはあれども固陋ころうな考えは駄目だ」
「分かっています。……エクル先輩は大切な優しき先輩です」
「ああ、俺にとっても友と呼べる存在だ。……だが気になる事も有る」
「殿下、それはもしや……メアリーへの対応ですか?」
「私に?」
「ああ。アイツは……メアリーを好きだと公言はしているが、いざとなると俺達にチャンスを譲る様な、何処か一歩引いていた。それは性格上の問題であると思っていたのだが……やはり、日本NIHON語を読めていた件といい、友とはいえ疑いはしよう」
「はい」
「……はい。やらなければなりません」

 しかし疑うにしても、証拠を掴まなければ意味が無い。
 私達が怪しんでいるとあちらに思われてはいけないのがネックだ。今まで尻尾を出さなかった訳であるし、怪しまれればますます警戒していくかもしれない。
 後は……グレイを巻き込むべきでは無かったな。頼りにならない訳では無いのだが、このような疑いをかける、というのはグレイは嘘を吐くのが下手であるので、素直に疑いにかかるか、表情に出そうであるからな。

「あの……よく分からないのですが、エクル様がメアリー様やクロ様。クリームヒルトちゃんのような前世を持っている……という事でのよろしいのでしょうか?」

 しかしグレイはよく分かっていないようであった。
 ……そう言えば仮面の男とはハッキリと口にしなかったな。アプリコットはなんとなく勘付いてはいるようだが、グレイは単にエクルが前世を持っている、という程度にしか思っていないようである。
 それならばそれで構わない。心は痛むが、誤魔化した方が良いかもしれない。

「あ、それならばあの言葉も日本NIHON語だったのでしょうか?」
「あの言葉?」
「はい、エクル様が私めと別れる前に呟いていたのを読唇術で見たのですが」
「え、グレイ君、読唇術を使えたんですか?」
「我が教えた!」
「教わりました!」
「……嗜み、というやつか」
「ふ、その通りだ第三王子サード! あらゆる場面を想定しての強者の嗜みであるからな!」
「よく分かりましたねヴァーミリオン君」
「……まぁな」

 ……そういえば昔、ヴァーミリオン殿下がシャトルーズと共に読唇術の訓練をしていたような気がするな。当時は軍部では使われる技術であるし、王族としてあらゆる技術を身に着けようとする姿勢だと思ってはいたが……今の反応からして実は単に格好良いと思ったからであったりするのだろうか。

「それはともかく、なんと言っていたのだ?」
「はい。初めは私めの精度が甘いので分からないだけだと思っていたのですが……ええと……」

 グレイは思い返すかのように額に手を当て、一度音には出さないが口でエクルが言っていただろう言葉を口で作る。うむ、可愛い。
 そして額から手を放すと、ゆっくりと慣れていない発音でグレイは“あの言葉”を告げた。

『「確かカサスの物語では前哨で影と戦う必要がありますが、今は困ります。だから私がどうにかしないと……大丈夫、私は出来る……」』
「――――」
「……で、あったかと。分かりますでしょうか、メアリー様。……メアリー様?」

 そしてメアリーはその言葉を聞いて、なにかを思い当たったかのようにしばらく止まる。

『「ああ、もう、アレはしなくて良いのに、わざわざしようとして馬鹿じゃないんですか!」』
『!?』

 そしてよく分からない言葉で、珍しく声を荒げて大きなリアクションをとる。
 私達が急な行動に驚いていると――

「ええい、私今までの事を色々含めてエクル先輩――いえ、淡黄シキさんを殴ってきますので、ちょっと失礼しますね!」
「メアリー、何処へ行く!?」
淡黄シキさんを殴りに! では!」
「メアリー、エクルが何処に居るのか分かっているのか!? 待て、メアリー!」

 メアリーは私達に向かって敬礼をして、何処かへ走っていった。そしてそれをヴァーミリオン殿下が追いかけて行った。

「ええと……我が故郷であるシキを殴る、つまりシキを活性化させにいったのでしょうか?」
「弟子よ、恐らく違う」

 何処へ行ったのかはよくは分からないが……ともかく、の動く影を見つつ、私はこれからする事を頭の中で軽く考え、すぐに行動を移そうとグレイ達を見る。

「すまないグレイ、アプリコット。メアリー達を追いかけてくれ」
「構わぬが……放っておいた方が良いのではないのか?」
「かもしれないが、念のためな。ただ危険と判断したらすぐに引き返す事。私もすぐに追いかける」
「なにか用事があるのか?」
「ああ、友に関して重要な事を……な」
「?」

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