追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

……良いセンスだね(:?)


View.?


 ダンボールを頭にかぶったのは、身長と声からしてグレイであろう。
 ……グレイ。グレイ・ハートフィールド。
 中性的だが少年のあどけなさが残る美少年。成長すれば間違いなく私好みの男性になるだろうクロさんの子。この身体でなければアピールも積極的に行くだろう。
 ……師匠と言うか、この子が大好きなアプリコットという大切な存在がいるのでモノにするのは難しいかもしれないが。
 後は生徒会のメンバーに勧誘したい。彼が生徒会には居れば、間違いなく生徒会はメアリー様にとっても素晴らしい空間になるだろう。
 私も生徒会で彼を愛でたい。彼が居る生徒会に私が入れるかどうかはともかくとして。

「……なにをしているのかな」
「はい、シキの子供達が軍と騎士の皆様を怖がっていたので、私めがこうして皆のお兄さんとして楽しませようかと!」
「それでダンボールを被っている訳だね。……いや、なんでかな?」
「仮面ヒーローなるモノが喜ばせるのに良いとメアリー様に聞いたので、以前子供達に人気があったこのダンボールを被ってみました!」
「……ついでに作っても貰ったんだね」
「はい! どうでしょう、格好良いですか!」
「うん、格好良いよ。……良いセンスだね」
「ありがとうございます!」

 私が彼がなにをしているのか聞いてみると、表情は見えないがそんな可愛らしい事を言ってくる。
 相変わらず良い子だ。あの鍛冶師ブライほどではないが、クロさんやヴァイオレットほど愛でたくなるのも分かる。
 ……そう言えば前世の弟が小さい時にポテトチッ〇スの筒状箱を手にはめてヒーローごっこをやっていたが、そんな感じだろうか。だがヒーローごっことなると悪役が必要なはずだが、誰がやったのだろうか。お兄さんぶる今のグレイが子供達を悪役に見立て倒すとは思えないし……

「悪役ですか? はい、この方です」
「この方……っ!?」
「オレがダンボール怪人、赤きドラゴン、シュールである!」
「まさかルーシュ……殿下……っ!?」
「シュールである。あるいはルシと呼ぶが良い」

 確かに非現実的シュールな光景である。いや、シュールは本来超越した現実という意味だから……違う、そこが問題ではない。
 この方が内緒でシキに居るのは知っていたが、なんでこの方もダンボールを頭にかぶっているのだろうか。
 いや、恐らくは下手に表立って行動も出来ないのでグレイと一緒に子供達を楽しませていたのだろう。彼は子供が好きであったからな。……ブライとは違う意味で。

「しかしよくダンボールを知っていたな」
「はい?」
「これは連合王国の新技術のモノだ。オレ達王族は情報としては知っていたが、このように箱型にするのは見た事なかったからな」

 ……そうだったのか。私は何度かこの世界で見た事があったので疑問は抱かなかったが……そう言えば私が見たダンボールも帽子の内側の汗をとるための技術だったな。梱包としては使っていなかった。

「私は立場上海外に行く事も多いですからね。その際に見たのですよ。箱に関してはそのようにした方が良いのかな、と思っていたのを実際に目の当たりにした、という感じです」
「ほう、そうなのか」
「ええ。とはいえ、私が考えていたより立派ですね。流石は――」

 流石はメアリー様だ。
 私は構造は知っていたが、事細かな構造はこの世界で使われているのを見るまで思い出せなかったのに対し、メアリー様はきっと見ずとも錬金魔法で作り上げたのだろう。なんて素晴らしき知識量! やはり彼女は素晴らしい!

「ああ、それとオレが色々やっているのは……」
「……立場上は報告したい所ですが、私はルシさんとしか会っていない体を装いますので」
「うむ、感謝する」
「この後どうされますか? 私は炊き出しに行きますが、良ければ一緒に行きますか?」
「いや、オレはこの姿でロボさんに会いに行ってくる」
「え」
「ではな!」
「は、はぁ……それでは」

 ……止めた方が良かっただろうか。
 あの格好をして会いに来る男性をロボはどう思うのだろう。案外受け入れたりするのだろうか。ロボも結構ルーシュ殿下には惚れて盲目的な所があるし……

「私めはアプリコット様にも炊き出しの食べ物をお渡ししたいので、一緒に行っても良いでしょうか?」
「ああ、良いよ」

 ……けど私は彼女に関しては酷い事をしているので、あまり触れたくはない。幸福を願う位だ。
 なので私はルーシュ殿下を見送ると、服が寂しくなって寒がっているだろうアプリコットのために温かいモノを差し出したいと可愛い事を言うグレイと共に炊き出しの所に向かっていった。







「ふぅ、美味しかった」

 炊き出しの温かいモノ、色んな食べ物を煮込んだスープを食べ終え、私は満足しながら歩いていた。
 私が行くと丁度新しいモノをレモンさんが運び終わった所であったので、出来たてでとても美味しかった。
 ……施しを受けない的な事を言おうとしていた連中はいたが、私が率先して食べるとそれ以上文句は言わなかった。

「やっぱりそういった連中が多いなぁ……はぁ」

 全員が全員ではないが、軍も騎士も貴族意識が強いというか、縄張り意識が強いと言うか。文句をつける連中が多い。
 シ……この地に来る前に第二王子に会ったのが、恐らく第二王子が根回しをしたのだろう。私が気付いた頃にはもう編成が決まっていたからな……。

「さて、いい湯で温まりもした」

 場合によっては最後の晩餐と言える料理を食べ終え、温泉に浸かり温まった事であるし、私は私なりに動かないと。
 取り越し苦労で済むのならばそれ以上の事は無いが、最悪を予想して最善に行動しなければ。
 そして動くのならば早めにした方が良いだろう。メアリー様の手を煩わせないためにも。必要ならばあのルートにおけるバッドエンドだって構わないのだから。

「おーい!」
「へ?」

 私が温泉施設の前で涼んでいると、遠くから声をかけられた。
 この女性の声は……シアンか。確か今は教会関係者として動くよりはシキの一住民として動くと言って、シスター服ではない彼女のはずだ。どちらにしろスリット入れる謎のこだわりは見せていたが。
 今はパンツスタイルである。正直彼女のスリットから見える太腿は健康的で惹き込まれ、目のやり場に困ったので良かった。
 というか彼女は異様なほど鋭いので、私は意図的に避けていたのだが、何故私に声をかけたのだろうか。

「温泉に行ってたの?」
「ええ、そうですよ。先日まで隕石とやらで仕切りが壊れていたらしいですが、直って通常営業に戻ったのならば行ってみたいと思いまして。そちらは?」
「今は教会もクロの屋敷も使えなくてさ」

 彼女も温泉に浸かりに来た所であったのか。
 正直私が此処に居る事をあまり見られたくは無かったのだが、下手に打ち切るのも変であるし、怪しまれないようにする事だけ気をつけよう。

「それに今シキ中に居るとちょっと滅入っちゃって……あ、これは軍の奴らには内緒で」
「構いませんよ。私も皆さんには内緒にして下さい。私の立場上、抜け出して温泉とか良くありませんから」
「了解ー。大変だね、そっちも。じゃあ私は入って来るね」
「ええ、ごゆっくり。今なら貸し切りだと思いますよ」
「そっか。ああ、それと」

 私は当たり障りのない受け答えをして、この場を流そうとする。
 そしてシアンは温泉の扉を開け、中に入ろうとすると思い出したかのように止まる。

「抱えすぎないようにね」
「…………」

 なにを、とは問い返さない。
 問い返すとさらなる追求でボロを出しそうだったからだ。
 ……本当に、鋭いとしか言いようがない。

「それでは、良い湯を」
「うん、またね」
「ええ、また」

 だが、私が今からなにかをしようとしている事自体には気付いていないようだ。
 ……そう願いたい。希望的観測をするのも良いが、警戒はしておこう。
 なにせこの地居る皆々は我が道を行くタイプも多いのだが、困っている相手に対しては損得抜きにして助けに行くようなお人好しな部分が多い。それは「気付いたら動いていた」あるいは「助けたかったから助けた」と素で言うような、我が強いが故に躊躇いの無い行為だ。私が困っていると知るか、この地に危機が迫っているのならば進んで助ける。

『「……さて、頑張りましょうか」』

 そして同時に自分の領域テリトリーを乱す輩には容赦がない。だから私がこの地の領域を乱した仮面の男と知られれば、容赦されないだろう。
 だから警戒をしないといけない。
 私がしようとしている事。この地でしようとして居る事を知られてはならない。
 そうこの地――

『「シキ……ですか」』

 この地、シキで為さなければならない。
 ある意味では奇縁と言えるこの地で、私は私の事を為そう。

『「朝雲アサクモ淡黄シキ。頑張ります」』

 それが彩瀬アヤセシロのお世話係であった、私の役目だ。
 私はメアリー様とも思い出が深い、とある装飾品に祈りを捧げながら自身に覚悟を決める。
 私は出来る。
 私は出来る。
 私は出来る。
 この身体で私は頑張って来た。
 メアリー様の存在を知らない時もこの生を良くしようと学も魔法も磨いた。
 お陰で魔法に関してはこの世界でも一級品と言える存在になり、結構な立場にもなる事が出来た。
 ……数少ない魔法知識(漫画やゲーム)が上手くはまって、なんか凄い事になっただけだけど。
 それに違法取引なんてしていた親を騙し僻地に追いやり、取引に関しては綺麗な貴族になった。……その時の取引相手を利用して、私も裏で色々やったので結局は今世の親と変わらないかもしれないが。
 これまでも上手くやれていたじゃないか。失敗はあっても、今こうして生きる事が出来ているじゃないか。
 だから私は出来る。
 私は出来る。
 出来る――!

「ハロー、仮面の男さん、震えてるよ?」
「っ!?」

 私が意気込み、大切な装飾品に祈りを捧げていると声をかけられた。
 ……馬鹿な。
 シアンには気付かれぬよう温泉から距離もとったし、周囲には気付かれぬように気を払った。誰かが近付けば分かるはずだ。

「私が近付いたんじゃなくって、そっちが私に近付いたんだよ」
「…………」

 彼女は私の考えを読んだかのような発言をし、私を真っ直ぐに見てくる。
 同時に私を仮面の男だとも理解している。
 そして何故彼女がこの地に居る。
 確かに彼女と私は仮面を被った時に会った事は有るが、何故仮面を被っていない私が仮面の男だとバレている……!?

「貴方が仮面の男だと気付いたのは、ロイヤルな勘だよ」

 つまり適当か。あるいは女の勘なのだろうか。
 ……いや、私はそれを感じた事がないから単に勘か。彼女……スカーレット殿下は変に振舞うが、クリームヒルトと同類な勘の鋭さを持っているからな……!

「っていうかクロ君とかクリームヒルトとか、前世持ち以外が不明な言語……日本NIHON語を使っている相手がいたらそうも思うよ」

 ……そりゃそうか。

「それで、何故震えているのかな。アサクモAsakumoシキShikiさん?」
「……なんの事でしょうか」
「ありゃ、これが名前かと思ったんだけど、気のせいかな? じゃあ今世の名前を呼んだほうが良いのかな?」

 スカーレット殿下は笑う。
 この状況を楽しんでいるのか、あるいは私を焦らせるための笑っているのか。
 どちらにせよ私はどうするのが最善なのか。

「大丈夫。私は協力するために来たんだよ?」
「協力……?」
「うんうん、協力。魔法に優れたそちらと、肉体方面に優れた私。ほら、役割分担として丁度良いでしょう?」
「……なにが目的ですか」
「協力すれば面白そうな事が見れそうだからね。だからこれからする事を教えて貰って、手伝いたいだけだよ。――じゃあ、行きましょうか?」

 そのように言うスカーレット殿下は、今までにないほど魅力的で、惹き込まれる程に蠱惑的に微笑んだのであった。

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