追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

挿話:調査前のちょっとした話-発見-


「……暇だ」

 俺はシアンが殴ったとある腐敗した大司教が指導した騎士団主導の元、国家転覆罪の容疑で任意同行という名の強制連行により教会の一室に居た。
 名目上は逮捕されていないので、拘束などはされて居ない。単にこの部屋から出られないだけだ。
 窓もなく、出る所は外から鍵をかけられる扉一つのみ。外には見張りとして騎士が一人か二人居る。
 部屋の中には床に固定された中身が空っぽな一人用のクローゼットと、放置された……とはいえ、神父様が偶に手入れをしているのか綺麗ではあるベッドが一つ。
 栄えていた時代に修道女が使っていた一室だ。外からしか鍵をかけられないのは、修道女としてやましい事をしていませんというアピール……というモノだろうか。

「……まぁ別の意味もある気はするけれど」

 俺はベッドに寝転びながら、独り言を呟く。
 言葉を発していたら見張りの騎士に「うるさい」と言われそうだが、この程度ならばなにも言われない。
 気にしていない、というよりは気付かれない。
 先程もクローゼットの扉を開こうとしたら金具が外れ割と大きな音がしたが、外には気付かれなかった。トイレのために外に出た時にそれとなく確認しても「大人しくしているようだな」的な反応しかされなかった。
 修道女の部屋に防音の必要は無いし、シアンの部屋に防音は無かった。となれば別の目的を持った部屋なのだろう。……拷問とか。

「そういった方面で使われない事を祈ろう」

 一応はまだ容疑の任意同行の段階なので手荒な真似はしないだろうが、あの騎士団のリーダーの様子を見ると安心は出来ない。
 とはいえ心配ではあるが、心配しても仕様がない。俺に出来る事は、明日の動きまで大人しくしているだけだ。

「ヴァイオレットさんにグレイ大丈夫かな……」

 俺を捕えた指導者の名前を聞けばシアンも暴れないかと不安にはなるが、そこは神父様を信じるとして、ヴァイオレットさんとグレイが心配だ。
 ヴァイオレットさんとグレイの強さは信用しているが、心配なモノは心配だ。
 唐突に捕まって離れ離れになり、不安にならないだろうか。騎士団がなにかしないだろうか。明日の調査で来る連中は大丈夫だろうか。調査団相手というよりは、調査団が相手するシキの連中の対応をどうにか出来るのだろうか。

「というか会いたい。……会いたい」

 ごたごた心配している事は多いし内容は本音だが、一番の本音は会いたいという事だ。
 折角今日はデートをし、締めのキスまでしてもらって幸せなまま一日が終わり、今後一生の宝物になると思ったのだが……くそう、愛おしい。
 会えないと分かるとこんなにも愛おしいと思ってしまうのか。
 先程なんだか嫌な感じがする騎士のメンバーに伝言を貰ったが、それを聞いてからはさらに愛おしくなってしまった。カラスバの伝言についてはなんだが妙な感覚がしたが……俺を心配して来てくれた事がなによりも嬉しかった。
 待っていると伝えてくれたヴァイオレットさんの為にも、俺は心配かけさせないように早く疑いを晴らさなくちゃな!

「それにクリームヒルトもなぁ……」

 そしてクリームヒルトも心配だ。
 見た限りではマシにはなっているが、シャトルーズと戦って斬られた時といい、危うい面は残っている。
 いや、残っているというよりは戻っている。前世で俺が兄らしくない事をした時に、追いつくためにと俺と同じ年齢の不良に白星を勝ち取った時のような――

「――のわっ!?」

 ヴァイオレットさんとグレイを想いながら、ベッドの上で身悶えてゴロゴロするという我ながら気色の悪い事をしながら、ある意味では一番心配なクリームヒルトの事を考えようとすると、勢い余ってベッドから落ちた。

――痛い。そしてすげぇ情けねぇ。

 この光景は誰かに見せたくないな。けどちょっとは落ち着こうという気持ちにはなれたな。
 俺は伏せた状態でぶつけた鼻をさすりながら、血が出ていないかを確認する。軽く当たっただけだから血は出ていないと思うけど……うん、良かった、出て無いな――ん?

「……風?」

 伏せた状態で鼻を確認していると、妙な違和感を覚えた。
 扉からではない、妙な風。
 下から吹くような、放置した部屋の空気特有の冷え込んで静かな風を感じたのだ。

――何処からだ……?

 俺はなんとなく声に出さないほうが良いと思い、這いつくばった状態で風が何処から来ているのかを確認する。
 僅かな埃や肌に感じる冷気を頼りに風の元を辿っていくと――

――クローゼットの下か。

 風は漏れ出るかのようにクローゼットの下から出ていた。
 というよりはクローゼットの裏だろうか? 壁に穴でも開いていて、そこから隣の部屋の空気でも流れているのだろうか。
 まぁどちらにせよわざわざ確認する事でも無いな。クローゼットは床に固定されているし、確認しようとすればなにをしているのかと怪しまれる。変な行動はしない方が吉か。

「大人しく寝るか。っていうか今何時なんだろう……って、あれ」

 俺は達が上がって背筋を伸ばし、少し硬めなベッドで早めに寝ようかと考えていると、クローゼットの扉がまた外れかけている事に気付いた。

「直すか。……爪でネジ回せるだろうか」

 下手に勘繰られても面倒であるし、改めて直しておこうかと一旦扉を外してしまう。
 まずはさっき応急処置をした時に見えた、留め具をきちんとはめるか。爪で上手く回れば良いんだが。頭が潰れていないと――

「……なんだこれ」

 そして扉を外すと、クローゼットの底板に奇妙な違和感を覚えた。
 俺は違和感の元である底板に顔を近付け、よく見てみる。するとそこにはじっくりと見ないと分からない程の切れ目が入っていた。
 先程の風もここから来ているようだ。巧妙に隠されていたため、その風が無ければ気付かなかったであろう。

「…………開けよう」

 先程までの変な行動はしないという決意は何処へやら、妙な好奇心に動かされ俺は切れ目を外してみようと切れ目に爪を立てた。
 もしかして隠し部屋でもあって、過去の遺産的なモノがあるのだろうかという期待だ。まぁ大抵は肩透かしに終わるのだが、期待くらいはしても良いだろう。

――ん? 隠し部屋……確かメアリーさんが……

 隠し部屋で何故かメアリーさんを思い出した。
 そうだ、確かこのシキには隠された部屋があって、そこには重要なものが……

「あ、開いた」

 なにかを思い出しそうになったが、その前に底板が外れた。
 まぁ隠し部屋かどうか、何故外れるようになっているのかを確認してから考えようと思い、外れた先になにがあるのかをこの目で見る。
 と、そこには文字が書かれていた。

「……“愛する神父様へ捧ぐための聖なる棒をこの穴に捧げよ! さすれば愛の巣へと導かれるであろう!”」

 俺は黙って底板を戻した。

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