追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

今から一緒にこれから一緒に(:菫)


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 今日の始まりは、朝に精神的に疲れていたクロ殿に、後ろから抱き付かれ互いに癒されるという幸福な始まりであった。
 その後の朝食は、一年前ならば考えられないメンバーで、今までで一番多い人数で賑やかに食べ、楽しい食事となった。……思い返せば朝食をヴァーミリオン殿下と共にしたのはアレが初めてであったような気がする。
 そして色々あってクロ殿と初デートをする事になった。手を繋いだり、買い物をしたり、食べ物を一緒に食べたり、服を買ったりと充実したデートになった。
 先程はクロ殿に不意打ちでキスをして、振り返ると“急な行動すぎたかもしれない”と、クロ殿が見えなくなってから羞恥が込み上げて身悶えたが、それ以上に照れるクロ殿を見れて嬉しく思いったので頬が緩んで誰かに自慢をしたいと思うほどに幸福だった。

「クロ殿が――捕まった?」

 そんな幸福な一日のまま終わると思った今日この日は、ヴェールさんから伝えられた言葉で、全てが幸福な一日として終わる事がなくなった。
 土産の品などをグレイと一緒に片付け、カラスバさんを含めた夕食の準備をし、クロ殿ではなくカラスバさんが先に屋敷に訪れて、クロ殿達の帰りが遅いと思っている時に告げられた事であった。

「捕まったというよりは、任意同行のような感じだけどね。けどあまり変わらないかな」
「あの、任意同行という事は、クロ様は帰って来られる……という事なのですよね?」
「本来の任意同行、ならばね」
「違うのですか?」
「うん、そこも含めて説明をしようか。クロ君は――」

 私とグレイ、カラスバさんは先程起きた事に関する説明を受けた。
 国家転覆の容疑。何故そのような容疑がかけられたのか。誰が連行していったのか。何処へ行ったのか。
 そして……誰の指示の下で、クロ殿の捕縛の話が進められたのか。

――どうする。

 居ても立っても居られない。クロ殿が国家転覆を企んでいるはずなどない。直談判しに行こう。権力は使えないし、騎士団などには私は下に見られるだろうが関係無い。最愛の夫が捕まって黙って居られない。だけど指示をしている相手が悪い。関係ないなにもしないでいられるか。しかし私が行けばクロ殿に迷惑をかける可能性もある。クロ殿だけではなくシアンや神父様にも迷惑が――ああ、もう、どうすれば良い。
 今回の件について話を聞きに行くのは決定だ。黙って居るなんて出来ない。だがどう出るべきかが混乱して上手くまとまらない。
 落ち着け、落ち着くんだ。私。

「クロ様――父上がそのような扱いを受けているなんて納得できません! すぐに教会に行って父上を取り戻しましょう、誤解なのですから皆様で説得をすれば解放をされるはずです!」
「落ち着き給えグレイ君。気持ちは分からなくもないが、激昂してしては駄目だよ」
「ですが、落ち着いてなど居られません!」
「相手にとってはそれが目的の可能性だってあるんだ。君やヴァイオレット君を怒らせ、問題を起こさせて、支配権を奪い取る、と言った感じにね」
「では……私め達は黙って居る事しか出来ないのですか!」
「落ち着くんだ、グレイ。ヴェール卿が仰っているのは、感情に身を任せてはいけないという事だ。感情が昂っては見えるモノも見えなくなる。感情をコントロールしてから、状況を把握すべきなんだよ」
「カラズバ叔父様は何故そのように落ち着いておられるのですか……!」
「俺だってどうにかしたいと思っているさ。だけどクロ兄様は自分の息子に“怒った状態で文句を言いに行き、暴力行為で捕まる事”望んでいるのか。という事を考えて見るんだ」
「それは……! …………。カラズバ叔父様……申し訳ございません、確かに落ち着いていませんでした」
「そこで反省出来、落ち着こうと出来るのならば十分だよ」

 ああ、もう。上手く落ち着けなくてグレイへのフォローをヴェールさんやカラスバさんに任せてしまっている。挙句にはその会話を自身の感情を抑えるために利用すらしている。……これでは母親として失格だ。

「……あと、叔父様はやめてくれないか」
「え、何故でしょうか。私めにとっての叔父様……なのですよね? 以前お会いした時も仰られていましたし」
「そうなんだが、俺の年齢で君くらいの年齢の子に叔父様って言われると、なんだか変な感じがしてな……い、いや慣れないと駄目だな。……だが、クリの奴には学園ではクリ先輩と呼んでやってくれ」
「はぁ、分かりました……?」

 落ち着け、私……クロ殿のために私に出来る最大限の事柄を考えろ……失敗すればクロ殿と会えなくなる可能性が………………駄目だ、想像したら涙が出そうになる。近くに居るはずなのに、すぐに会える場所に居ないと言うのはこんなにも不安になるのか……

「ヴァイオレット様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ、カラスバ叔父様」
「えっ」

 ネガティブに考えるな、私。クロ殿が今は居なくても、私は皆が居る。
 領主会議などで不在の時も対応出来ていたではないか。ならばその時の様に、私に出来る事をするだけだ。
 自分が持ちうる力以上を発揮できるように頑張るのではなく、いつものように、私が持っている力が充分に発揮出来るように頑張るんだ。
 そうすれば戻って来た時にクロ殿も褒めてくれるはずだ……!

「あの、ヴェール卿。貴女は以前からクロ兄様達を見られてきたのですよね?」
「そうだね。そしてなにを聞きたいかは想像つくよ。……彼女、クロ君が居なくなったらどうなってしまうのかと不安になる程依存しているね」
「大丈夫なのでしょうか……?」
「シキの皆が居ればどうにかなりそうではあるけど、不安にはなるよね」

 よし、再び家族で笑えるように、私は為すべき事を為す。手に入れた場所を奪おうとするならば、私はそれを守るために行動をしよう。
 行動方針は決まった。
 周囲には迷惑はかけないように気は配るが、どうしても迷惑をかけてしまうだろう。目的が達成できた暁にはお詫びはしよう。

「相手がなにを思っているのか。……それはそれとして、文句を言いに行くぞグレイ」
「え、良いのでしょうか……?」
「黙って居れば興味が無いと思われるやもしれん。そして好きに振舞われても敵わん。それにグレイは黙って居られるのか?」
「いいえ」
「私もだ。――行くぞ、グレイ!」
「はい、ヴァイオレット様――いえ、母上!」

 グレイも私の事を母として扱った上で私に付いて来てくれるようだ。
 よし、迅速にかつゆっくり、冷静かつ感情的に騎士団がいるという教会に行こう。我が息子と一緒に、家族に会いにな!

「……どうしようか、カラスバ君。……カラスバ君?」
「私だって本当は文句どころか殴りに行きたい気持ちを抑えているんだそして冷静でいる方がクロ兄様には褒めてもらえるはずだだがなんだろうこのままジッとしていると彼女らにクロ兄様への愛が負けている気がするならばどうすれば良いかを考えろ」
「……何故かな、シルバ君を彷彿とするね」
「そうだ、正体を隠すために仮面を被って殴りに行けば良いんだ」
「やめなさい。ぺらり」
「わぁ!? な、なにをするんですヴェール卿」
「君はもっと筋肉をつけないとねー。素質はあるけど、鍛え方が足りないよ。騎士に殴りに行っても返り討ちに合うよ」
「なるほど、クロ兄様ほどに鍛えないと駄目なんですね」
「うん、何故分かったのか気になるけど、そうだよ」

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