追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

勘違いだと叫びたい


 目の前に居る騎士団の団員の中ではリーダー格らしき男がそう言うと、後ろに控えていた団員二人が動いて俺の後ろに回った。
 手などはまだ抑えておらず、あくまでも任意で同行を願う形をとっている。

「抵抗はするな。抵抗をすれば俺達も手荒な真似をしなければならない」

 言葉では抵抗はしないように警告はしているが、なんというか話し方や言葉の端々から“
“抵抗出来るもんならしてみろ。したら抑えつける際に多少の怪我をするのは仕様がないよなぁ”的なニュアンスが取られる。……被害妄想だろうか。

「抵抗は致しません。……ですが、私に国家転覆の容疑など、間違いでは無いのでしょうか」
「クロ・ハートフィールド子爵への容疑に間違いはない。それに判断をするのはお前ではない。お前は黙って従え」

 お前て。
 仮にも子爵相手にそのような態度をとっているという事は、この男が子爵家以上の家出身なのか、騎士という逮捕する立場にある事をはなにかけ容疑とやらに確信を抱いて見下しているのか。あるいは両方か。
 軍務めいた口調ではなく、明らかにこちらを見下している辺り子爵に敬意を払っている様子はない。通常であれば有り得ない事だ。
 ……その通常もシキには貴族だろうと態度を変えない奴らばかりで、今日のデートで店主さんの態度で思い出した事ではあるのだが。

――だが、抵抗するのもよくは無いな。

 何故ここまで強気に出れるのかは置いておくとして、俺自身の行動としては逃げるのは良くない。とはいえ、捕まるのが良いとも思えないが。
 国家転覆の容疑なんて、容疑をかけられた時点で大部分が裏で動き終わっていると言って良いだろう。目的は財産の剥奪か、土地の剥奪か。急な出世により上に目をつけられて、権力をつけられる前に摘み取りにきたのか。あるいは本気で国家転覆を疑われているのか……この中では最後の容疑が一番尾を引かないだろう目的だな。俺自身が国家転覆なんて目指しても居ないし。
 俺独りで、この地に愛着が無いのならば逃げ出すが、なにをしでかすかも分からない。ヴァイオレットさんやグレイになにかされても困る……いや、なにかしたら許しはしないが。

「お待ちください」
「む?」

 ともかく大人しく同行しようと思っていると、【認識阻害】をかけたヴェールさんが騎士団の方々のリーダー格らしき男に話しかけた。……俺はヴェールさんと認識しているからヴェールさんだと分かるが、多分知らない騎士団の方々は“魔女の服を着た女性”程度の認識だと思う。なんだか顔の輪郭は分かるが、顔は見えないし。

「……誰だ、お前は」
「私はトレブという名の、この街にて占術をやっている者です」

 トレブ……ああ、ヴェールVertさんのスペルを逆から読んだ名か。簡易的ではあるが、【認識阻害】の魔法からしてバレる心配は薄いとは思う。

「この街の占い師、か。……はっ。この街でしか占い師をやれない女が俺達になんのようだ」

 あ、なんかリーダー“問題が多いとされるこの街で占い師、ねぇ”的な感じで鼻で笑っている感があるな。

「言っておくが、この男の同行をやめて欲しいと言う願いは聞かんぞ」
「いえいえ、そのような事ではございません。ただ、何故領主にそのような嫌疑がかかったのかを知りたいのです」
「お前に話してなにになる。それに話して欲しかったら……ハッ、今夜相手をするなら話すかもしれんぞ?」

 このリーダーさんは相手が貴方方騎士団のトップの妻であり、王国直属魔道研究兼実働部門総括大魔導士アークウィザードであるヴェールさんだと知ったらどうなるんだろう。
 家はともかくとしても、確実に上司の類だろうからな。クレールさんが愛妻家でシャトルーズと似た性格だったとしたら問答無用で切り伏せられそうだ。

「はは、私のような者を無理に相手をしなくてもよろしいのですよ。私達は貴方達の手間を省こうと思っているのです」
「……あ、どういう事だ?」
「領主はこの街では慕われています。その領主が訳も分からず捕まったとあれば、皆々の反感を買うでしょう」
「この男が、ねぇ。……で?」
「そして私はこのシキにてそれなりに顔が利きます。領主の捕まった理由を聞く事が出来れば、私が代わりに説明をしましょう」

 これは……俺が嫌疑をかかった理由を把握して、どうにかしようとしてくれているのだろうか。
 あるいはここで“話すかどうか”と、どちらにしても“どのように話すのか”を見て相手を判断しているのだろうか。ヴェールさんの言っていた「知っている相手」というのがヴェールさんが一方的に知っているのか、互いに知っているのかにもよるから、俺には判断つかないな……

「…………」
「無理にとは言いません。ですが、閉鎖的な空間での外部の者の言葉というのは伝わりにくいものです。それが領主として受け入れられている者の逮捕……日常を壊そうとしているものならなおさらです」
「……まぁ構わないか。どうせクロ・ハートフィールドに説明をする予定であるし」

 おや、意外にも話してくれるようだ。
 まぁ俺としても早めに知ることが出来れば、多少の対応は出来るだろうけど、外部の相手に話して良いモノなのだろうか。あるいはヴェールさんの言葉にも賛同したのか。

「この男には国家転覆を目論む根拠としてあげられるモノが複数あり、そのどれもが危険と言える代物ばかりだ」

 多分勘違いの類だと思うのだが。
 あるいは何処かの俺を嫌っている第二王子バカが偽造しているのか。……それだと面倒だな。その時は……ちょっと色々な力を借りないと駄目だな。

「ほほう? 例えばそれはなんでしょうか」
「一つ。この街で起きている複数のモンスターの暴走。生息域を外れたフェンリルに始まり、作為的に操作されたオークを始めとしたモンスターの暴走。ワイバーンの群れ。先日においては謎のキメラの出現。……天変を起こらせる原因を作っているのがこの地の領主、クロ・ハートフィールドにあるのではないかという疑い」

 それを俺のせいにされるのは困る。
 だが、地方において軍が対応しなければならないモンスターの暴走が多く起きると、なにか起きている原因として領主などを疑うのは分からんでも無いが。だがこれだけなら疑いではなく、疑いをかけている者がいないかを領主に聞くべきだと思うのだが。

「一つ。この地にて王族の方々を含め、縁もゆかりもない貴族の方々がこの地で目撃される事が多い。特に若い世代の、目立つ事が多い貴族がな」

 ああ、うん、こんな辺境の地に集まっていたら不思議に思っても不思議では無いな。仕事以外で王族や侯爵家や伯爵家や子爵家が何名も何度もわざわざ足を運んで来ている訳だし、俺も若干胃が痛い。
 これは当事者も居るし、当事者に説明してもらったほうが良いのだろうか。

「一つ。更にはその貴族の方々が来ている時に、件のモンスターの暴走が多い」

 それは……ようはモンスター被害に見せかけて葬ろうとか疑われているのだろうか。あるいはモンスターを危険な場所だと刷り込ませるための示威行為に使っていると思っているのか。
 だが偶然であり、偶然出ない事は説明出来ないからな……ルーシュ殿下に頼んで良いモノだろうか。

「一つ。他国を含めた情報を仕入れ、奇妙な情報屋も出入りしていると聞く」

 ああ、封印されたモンスター関連で色々調査した時の話や、シュバルツさんが初めて来た時に彼女祖国じっかに関して調べた時の話か。あと奇妙な情報屋ってシュバルツさんの事だろうか。

「一つ。空飛ぶ金属の塊。申請の無い兵器を抱えているか、新種のモンスターを飼っているか。どちらにしろ過剰な力を蓄えている可能性がある」

 ロボじゃねぇか。過剰な力だろうけど俺が持っている訳じゃない。

「一つ。この地の者が怪しげな行動をとる事が多い。領主の影響だと見ている」

 駄目だ、怪しげな行動をする者に心当たりが多すぎる。
 だが俺の影響じゃ無いはずだよ。……多分。

「一つ。この地を訪れた者達が、戻ってから奇妙な行動をすることが多い。過激的な思想を刷り込まれているという話も聞く」

 ああ、うん……うん……そうだね……俺はあまり関係無いと思うんだけど、なんだか内なる心を開放する事が多いみたいだね……アッシュも困ってたよ……

――なんだろう、誤解を解いていった方が早い気がして来た。

 態度は好ましくないが、これは騎士団として本気で俺に疑いをかけているだけかもしれない。
 内容自体は単独なら「こういう事も有るだろう」程度だが、重なるに重なって「なにか起きようとしているのでは……?」と疑うのも無理はない気がして来た。なんだかまだまだある気がするし。
 それに俺は第二王子を殴って殺しかけ、首都では捕縛対象として顔が通っている。そんな奴が領主を務めている所での出来事ならばなおさらだ。
 言葉での説明は難しいし、話を聞いてくれるかは分からないが、俺に出来うる限りの説明をしなくてはならないな。
 明日からの調査の件もあるし、ヴァイオレットさんやグレイ達には迷惑をかけるが、少しでも早く家族の元に戻れるように頑張ろう。

「あと最も重要なのが……」

 うん、重要なのが?

「殿下達を平民と結ばせる恋路を後ろから引いて、権力の失墜を狙っているとな!」

 待てや。なんでそれが俺のせいになっとんねん。





備考
ヴェールの今の状態は“女性と話している事は分かるし、話している事に違和感はないのだが、後で振り返ると誰と話していたかを思い出せない”と言った状態です。

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