追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:デートの締め


「楽しかったけど、ちょっと疲れたかな」
「私もだ。でも」

 日は長くはなっているがまだ短いこの季節の夕方。
 闇夜の飛行は危険という事で、暗くなる前にシキへと飛行し、なんとか暗くなる前にシキに着いた。
 偶然出会ったカラスバとルーシュ殿下、そしてデートの荷物(主に服)が増えたため行きよりはゆっくりにシキに帰って来た。余談だがルーシュ殿下も一緒にであったので、密着される事でロボの様子が少々落ち着いていなかったりした。
 落ち着いていないと言えば……

「うぅ……」
「大丈夫か、カラスバ?」
「……なんですかあの方……なんで空飛んでんですか……」

 カラスバは初めて集団で空を飛んだ事により、乗り物酔いとか恐怖心とかが色々混ざって気分が悪くなっていた。
 ロボ(フルアーマー)を初めて見た時「……?」と、目の前の存在に理解が出来ていないかのような目になった後。
 変装をしているとはいえ、正体に気付いてしまったルーシュ殿下に俺とルーシュ殿下を交互に見やり。
 ロボとルーシュ殿下がなんだか良い雰囲気になっている事に気付くと、俺達全員の表情を確認した。
 そして空を飛ぶ時になると「なに言ってんだコイツ」みたいな表情を俺達に向け、飛んだ後はシキに着くまでずっとフリーズした状態であった。
 普段は冷静なカラスバが、あんなリアクションをとるのは少し面白かった。……まぁ理解不能な存在を目の前にした時のリアクションとしては間違っていないのだろうけど。

「カラスバ。シキに居るとロボみたいな存在は多く居るぞ。今の内に慣れておけ」
「……慣れたらまずいのではないでしょうか」

 ……うん、まぁそうとも言うけど。

「クロ殿。私はグレイやアプリコットと共に、お土産の類を運ぶ」
「お願いします。カラスバやルーシュ殿下達の対応は俺がしますので」
「頼む。それとメアリー達の件なのだが――」
「ああ、その件でしたら――」

 ロボが格納庫(?)から出した、俺達ハートフィールド家のお土産をグレイ達が整理している中、ヴァイオレットさんが俺にこの後の事について簡単に話す。

――……今は元々デート用に着ていた服だけど、さっきの白のワンピース良かったなぁ……

 ロボが格納していた中にある、先程ヴァイオレットさんが来た事によって奇跡的相性マリアージュを果たした白いワンピース。
 ルーシュ殿下に頼んで俺達の服として頂いたため、俺達の所有物だ。
 所有物となったという事は、今後アレをヴァイオレットさんが着るという事だ。
 ……駄目だ、想像しただけであの時を思い出してクラッと来そうになる。
 白いワンピースに身を包み、似合っているかどうか感想を聞きたいかの様にこちらを見るヴァイオレットさん。端整な身体と白い肌に合うあのお姿は素晴らしいと言う他は無かった。ヴァイオレットさんwith白のワンピースは素晴らしい! いや、それだと普段のヴァイオレットさんが素晴らしくないみたいだな。
 つまり普段も素晴らしく思っているが、今回の件で再び新たなヴァイオレットさんの魅力に一目惚れした。という事なのだろう。……あれ、この思考、何処かであったような……

「クロ殿、どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありませんよ」

 いかん、あの時の事は後でゆっくり思い出すとしよう。白とか菫とか蒼とかピンクとかの事は後で……いかん、ピンクは思い出すな。赤い色っぽい唇を思い出せ。それはそれで色々マズいが。

「――では、この位か。また後でな」
「はい、また後で」
「あ、そうだ。忘れてた」
「はい?」

 一通りの会話をし、また屋敷で合流しようかと一旦別れようと思っていると、ヴァイオレットさんがなにかを思い出したかのような表情になる。
 なにか忘れていた事があっただろうか、俺は自分でも心当たりがないかと色々と記憶をめぐり合わせていると、ヴァイオレットさんが一歩近付き、

「これを忘れてはならないな。――ん」
「――んむっ」

 背伸びをして、俺に軽めのキスをした。

「デートの終わりには、別れのキスをすると聞いていたからな。これを無くしてデートとは言えん。ではな、クロ殿。今日のデートは楽しかったぞ」
「え、は、はい、ありがとうございます。それでは……?」

 戸惑う俺に対し、イタズラに成功したような妖艶な笑みを浮かべると、軽く手を振ってグレイ達の方へと歩いて行ったのであった。

――これは……

 ……今日のデートは俺が引っ張っていた訳では無い。
 楽しませるのにも、自身が楽しむのにも全力であった。
 白のワンピースの件で持っていかれた感はあったが、食べさせ合いっこも、装飾品探しも、色んな服を着るのも二人で楽しんだデートであった。楽しい、幸福な時間を共有出来てどっちか優勢であったとかは無かったと思う。

――……くそぅ、デートの最後の最後に全部持ってかれた気がする。

 けれど最後の最後。
 俺自身も振り返れば「間接はあったけど直接は色々あって無かったな」と、感想を抱く今日のデート。
 それは狙っての事だったのか。
 ヴァイオレットさんもふと気付いたから実行したのか。
 単純にしたかったからした事に理由をつけただけであったのか。
 どれかは分からない。分かる術はあったとしても、俺は聞く勇気は無い。

「本当に仲が良いですね、クロ兄様達は。俺が傍に居るのにこのイチャつきぶりとか」
「……羨ましいか」
「羨ましいですよ。私もこの位仲良くなりたいと思うほどには」
「……なぁ、カラスバ。ちょっと独り言を呟きたいんだが、気にしないでくれ」
「はい? どうぞ、居ないモノとして扱ってくれて構いませんよ」
「ありがとう」

 ヴァイオレットさんの行動に対する気持ちは分からない。
 俺と同じで、好きな相手にキスがしたいからした、そして出来たから幸せだ。という思いが共通だったらなら嬉しいと思いつつ。
 俺の今の感想はこれに尽きる。

「ヴァイオレットさんが可愛すぎる」

 俺のヴァイオレットさんへの好きの感情は、今が上限値だといつも思っているのに、いつも越えていく。

 俺の嫁は、今日も可愛いです。

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