追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

偽者_1(:偽)


View.メアリー


 今日私は、五人の男性とデートをします。

 言葉だけ聞くと尻軽と思われても不思議ではない……というよりは、事実そう言われても反論できない事柄です。罵られてもおかしくないですし、刺されてもおかしくないです。
 発端はバーガンティー殿下がクリームヒルトをデートに誘った出来事です。
 始めそれを見た時、私は断ると思ったのですが、クリームヒルトは断ることなく二つ返事で了承をしました。……よくは分かりませんが、クリームヒルトも変わっているという事だけは分かりました。
 そしてその後クリームヒルトはクロさんにデートを勧め、クロさん達はロボに連れられて隣街へとデートに行きました。その後シアンもデートを決め……それらを見たヴァーミリオン君達が一斉に、

『デートをしようましょう!』

 と申し込まれた次第です。
 そしてなんやかんやで“今日一日順番にメアリーわたしとデートをする”という事になりました。
 ……本当になんやかんやで、としか言えませんでした。私にも理解できません。

――ですが、丁度良いですね。

 初めは無難にとりなそうと思ったのですか、私は……ある事をしたかったので、この申し出を受ける事にしました。
 男性が女性相手にデートを申し込む勇気を利用する。……最低な行為だとは理解しています。いますが、それでも私は為さなければならない事があるのです。……ごめんなさい。

――……それはそれとして、デートは緊張しますね。

 男女一緒に約束を取り付けて出掛けるのがデート、と言うのならば私は今世では何度か経験はあります。
 カサスで言う所の、スチルが出るようなイベント的な感じで何度か首都に繰り出した事は有ります。
 ほんのり甘いイベントもありました。ドキリとするイベントもありました。
 ですが……その、異性と意識してデートをするのは……生きた男性と“デート”と明確に意識してデートをするのは、不整脈かのように緊張します。







「はは、緊張しているね。大丈夫だよ、先輩にリードは任せなさい!」
「ですが生きた年齢で言えば、私の方が上で……」
「今のキミは十五歳の少女に過ぎないよ。だから私の方が年上だ。ほら、デートなんだからキチンとコーディネートしないと! ほら、これなんて似合うんじゃないかな――うん、きっと似合うよっ」
「あ、ありがとうございます」

 最初にデートをしたのはエクル先輩。どうしても最初は自分だと譲りませんでした。
 私は何故最初に拘ったのかと思ってはいたのですが、どうやら私の服や髪型のコーディネートをしたかったようです。
 奇抜な服が多いシキの服屋さんで、私に似合う服を見つけてはどれが良いかと聞き、着て、服を着る私を楽しむエクル先輩。
 デートとしては定番です。定番なのですが……一つ、気になる事も有ります。

「うんうん、メアリーくんはサイドダウンも似合うと思っていたんだ。この服にこの髪型ならこの後の皆も喜ぶと思うよ!」
「あの、エクル先輩。コーディネートは嬉しいのですが……これってもしかして、この後デートをする皆に喜んで貰うためのもの、じゃないですか?」

 デートで服を買って、その服でデートをする。前世で私にとっては空想上のものであったデートではおかしくは無いデートだとは思います。
 思いますが……このコーディネートは、エクル先輩のためというよりも“この後の皆のために”私を着飾らせていると思うのです。「私好みの服で一日過ごせば優越感に浸れる」といった独占欲ではなく、本当にこの後の皆のためのような……

「そうだよ」
「そうだよ、って……あの、一つ伺いたいのですが」
「私がメアリーくんを異性として好きかどうか、という質問だとすれば、好きだと答えるよ」

 うぐ。
 ……自分で聞くのも自意識過剰で恥ずかしがったのですが、ハッキリと言われると嬉しいですが恥ずかしいですね……。ですがだとすれば何故そのような事をされるのか、分かりません。

「私が見たいのはメアリー君が最も幸福になる姿だ。それはメアリー君が自ら“好きだ”と思う相手を選ばなければ成り立たないと私は思っている」
「……それでエクル先輩を選ばなくて良い、と?」
「ヴァーミリオンくん達の中で、もし私を選んでくれるのならば嬉しい。だけど別の誰かを選んだとしても私は恨みはせず祝福するよ。今こうしてメアリーくんの魅力をひき立たせて、メアリーくんが選びたいような相手に良く思われて嬉しくなってくれるのならば、私も嬉しいからね」

 エクル先輩はそう言って微笑みました。
 ……相変わらずエクル先輩は、積極的な皆さんの中で一歩引いている感があります。それ自体が作戦で、冷静で居る事でなにかを成し遂げるような駆け引きの可能性もあります。ですがエクル先輩のこれは――

「だけど、もし」

 と、私がエクル先輩の言葉に若干の違和感を覚えていると、

「だけどもし私を少しでも良いと思ってくれるのならば……今日のコーディネートで楽しいデートが出来たと思ってくれるのならば――」

 エクル先輩はそう言うと、私の唇を触れようと、エクル先輩の唇が近付いて来て――えっ、えっ、なにを……!?

「今日のご褒美として、いつか私にキスでもしてくれるかな?」

 そう言ってエクル先輩は――私の鼻頭に、指を当てました。

「はは、今キスでもされると思ったのかな? 恥ずかしがるメアリー君は相変わらず可愛いね」

 至近距離でイタズラが成功したように笑顔を作るエクル先輩は、小悪魔的でした。
 ………………この不意打ちは、ズルいです。

「私もただ負けるつもりは無いという事さ。覚悟をしてね、メアリーくん?」
「……心を読まないでください」
「なんならデートすっぽかして私と逃避行でもするかい?」
「調査がありますし、皆さんに悪いので遠慮しますね」
「ありゃ、残念」







「今日はデートと意識しているからでしょうか。一段と貴女が美しく見える」
「あ、ありがとうございますアッシュ君。……この服、自分で選んだんですが、似合いますかね……?」
「ええ、とてもお似合いです。私は生涯においてこの時を忘れる事は無いだろう。そう思えるほどに似合っており、魅力的ですよ。まさに物語に出て来る絶世の美女であり、私は物語の中に迷い込んだのかと思うほどに幻想的だ」
「ほ、褒めすぎですよ」
「私は貴女に思った事しか口にしませんよ。……だからこそ惜しい」
「え?」
「……もっと準備をして、今日という一日を向かえたかった。貴女を楽しませたかった。貴女を独り占めしたかった。――今からでも私は貴女を奪ってしまいたい」
「……そこまで思ってくれるのならば嬉しいです。ですが私は貴方の強い思いだけで奪われるような弱い女なつもりは有りませんよ。奪いたいのならば、まずは私を奪われたいと思えるようなデートをしてくれますか?」
「……悪女のような言い回しをしますね」
「悪女かどうかは、今日のデート次第ですよアッシュ君?」
「……良いでしょう、短い時間であれど、貴女が忘れられないような一時なるようなデートにしましょう、私にとってのお姫様」

 アッシュ君はまさに紳士の様に私を姫の様に扱ってくれます。
 ですがお礼を言ったり、少し揶揄うと顔を赤くしてしまうような可愛らしさがあります。しかし強気で出られるとたじろいてしまうような魅力も感じます。







「……その、私は不器用だ」
「はい」
「……だからお前が満足できるデートを出来るとは思えない。だが楽しませるよう頑張るからな……!」
「はい。……では、まず私の名前を呼んでくれますか、シャル君? デートなのに名前を呼んでくれないのですか?」
「うぐっ。……メ、メ……」
「…………」
「メア、リー。……メアリー」
「はいっ。行きましょうかシャル君っ!」
「っ!? あ、ああ、行く……か!」

 シャル君は不器用なりに私を楽しませようとしてくれる所が、微笑ましくて可愛らしいです。
 ですがふとしたトラブルや、偶に見せる実直な“男性”らしさは変わらないシャル君の魅力で、つい守られたくなるような安堵感と緊張があります。







「メアリーさん、前言った事は覚えている?」
「いつの事でしょうか。時と言葉を言って下さらないと分かりませんから、言って貰えますかシルバ君?」
「……その言い方は、どの言葉か分かっている言い方だよね」
「なんの事でしょう? ほらほら、言って下さい?」
「…………メアリーさん」
「え、ちょ、ちょっと……!?」
「僕はメアリーさんより背も低いし、筋肉もない。弟の様に思われている。だけど前に言ったように、僕はメアリーさん――メアリーに男として認めさせてみせる。そして……」
「そして……?」
「――絶対に貴女の心を奪うからね。シルバ・セイフライドしか目に入らないように。今日みたいに他の誰かも含めてじゃなくって、僕だけを選んでくれるように。……覚悟してね?」
「は、はい……」

 シルバ君は弟のようで可愛らしく、行動も小動物じみていますが……以前の手にキスをされた時もそうですが、強気なシルバ君はそのギャップに異性を感じさせる不思議な魅力があります。
 今こうして壁ドンされて見せる表情は男性を感じさせます。……ぐぅ、格好良いです。







 そして複数名との、節操のない不義理なデートをした後、私は目的を果たすために行動をしていました。

「メアリー。俺を連れていきたいと言うのはここか?」
「はい」

 私のためにデートをどうするか色々考えてくれたのでしょうが、私はその想いを無視して私のお願いを聞いてくれないかと提案し――いえ、好意を寄せられていると自覚した上でのお願いですから、無理矢理頼みました。
 私の行動に驚いたようでしたが、彼は理由も聞かずに了承してくださいました。むしろ私が意見を通そうとした事が嬉しそうだったとすら思えます。

――本当に、ごめんなさい。

 その好意を踏みにじる私をどうかお許しください。
 いえ、許してくれなくても構いません。それを願う事すら烏滸がましいですから。

「だがここは……家主が留守だろう。入っても問題はないかもしれんが、中に入るのか?」
「はい」

 彼は私の迷いの無い回答と、大きな扉を迷わず開き、中に入ろうとする事に疑問を持ちつつそれ以上は追及せず、私の続く言葉を待ちました。
 私はシンと静まり返った、とても大きな空間を見渡し誰も居ないことを確認すると、彼の方を真っ直ぐ見据えます。

「私が行きたいのは――この教会の隠された地下空間ですよ、ヴァーミリオン殿

 この教会に住んでいる神父様やシアン。
 そしてこの世界と似た世界であるカサスを知っているクロさんやクリームヒルトも行っていないであろう場所を、私は示したのでした。

「隠された空間……アプリコットの影響か?」
「ありったけの夢が集められた隠された財宝を探しに行くとかじゃないですからね?」

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