追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
デート、黒と菫の場合_4(:菫)
View.ヴァイオレット
「……さて、一応聞くが大丈夫か、ロボ?」
「…………」
服屋の商品を全て買い取って貸し切り、私達四名以外は誰も居なくなった服屋の試着室。
男性であるクロ殿やルーシュ殿下が更衣を手伝う訳にもいかないので、女同士で服を着替える事になった私はロボに尋ねた。ついでに言うと、ロボだけではなく私もクロ殿が選んだ服を着る事になっている。なお、この試着室はドレスも着る事になっている想定であり、店員も入る作りであるので、私やロボが一緒に居るのに問題無いスペースは充分にある。
「どうしても無理ならば私から言おう。ルーシュ殿下もロボが嫌ならば無理は言うまい」
最近はシキの皆々ならば、顔の部分を覆っている装備部分を少し外して顔を見せ始めているロボではある。だが変わらず外部の者には見せるのは怖がるし、身体部分を見せるのも怖がる。
「……大丈夫デス」
「本当にか?」
回復が難しい火傷と呪われた痕はロボにとってのトラウマだ。乗り越えかけているとはいえ乗り越えてはいないし、こればかりはロボの精神の問題。まだ成人もしていない彼女に無理をさせるべきではない。
「ルーシュクンヤ、ヴァイオレットクン達シカ居マセンシ、丁度良イ機会ヲ貰ッタト、思ッテイマス。ソレニ……」
「それに?」
「……可愛イ服ヲ着テ、彼ニ褒メテ貰エルカモシレナイト思ウト……挑戦スル勇気ニナリマスカラ」
……以前から手紙のやり取りをするロボを見て思ってはいたが、ロボにとってルーシュ殿下は好感触ではあるようだ。服を着て同時に「イズレ恋カラ覚メルトハ思イマスガ」とも思っているようではあるが。
それでもロボは今の恋を大切にしているようだ。その恋の方向が、どちらに向いているのか、どちらにも向いているのかは別として。
「大丈夫だ、言って貰えるさ。私が保証する」
「本当ニデスカ?」
「ああ、ロボの顔は何度か見たが、充分に綺麗で可愛いんだ。着飾れば綺麗だと、シキに居る皆が言うだろう」
「……アリガトウゴザイマス」
私が嘘偽りの無い言葉を言うと、ロボは何処か嬉しそうな声で私に感謝の言葉を述べた。
事実ロボの外見は確かに呪いや火傷の痕は痛ましい部分はあるが、充分に綺麗と言える。それでいて年齢相応の少女らしさのある可愛らしさもあるのだ。
それに装備が壊れていた状態の時に少し身体も見たが、スラッとした健康的な身体で羨ましいくらいであった。聞けば“よく分からない機能”のお陰で健康的な身体を保てるらしい。なんだそれ羨ましい。
「ソレト、ゴメンナサイ。デート中ナノニ、ワタシ達ノ騒動ニ巻キ込ンデシマッテ……」
「気に知るな。こうして友と一緒に色んな服を着る機会を与えてくれたのだ。むしろ感謝しているくらいだぞ」
「デスガ……」
「気にしなくて良い。そういえば何処かの誰かが言っていたが、周囲や過去など気にせず今幸せになってやると叫べと言われた事がある気がするな。それなのにそれを言わせた誰かは、過ぎた事を気にしてうじうじしているのは気のせいだろうか」
「ウ……。アノ時ト比ベルト言ウヨウニナリマシタネ」
「なんの事か分からんなー。ほら、早く着る服を選ばないとデート中の相手が待ちくたびれてしまうぞ。私はもう着る服は決まっているのでな」
「……ソウデスネ。早ク決メマス――ム、コレハ」
「どうした?」
私達に気を使って落ち込んでいるロボを揶揄いつつ、互いに軽く笑い合う。
そして早く服を選ぶように促すと、ロボがある服を見つけて興味深そうに眺めていた。
「ほう、あまり見ない服だが、ロボはこういうのが好みなのか?」
「ワタシハ、服ヲ普段着ナイノデ、好ミトカハヨク分カラナイノデスガ……」
「そういえばロボは裸の状態で装備を身に纏っているのだったな。だがならば何故この服を?」
「ハイ、コレハクリームヒルトクンガ言ッテイタ、強イ服に違イアリマセン……!」
服に強い弱いがあるのだろうか。確かにシアンのシスター服は通常のシスター服より強そうではあるが、そういう事では無いだろう。
それにクリームヒルトが言っていた、か。意外と服には詳しかったクリームヒルトが言うならば情報は正しいのかもしれないが……なんだろうか、メアリーと同じ情報の類がするのは気のせいか。
「ワタシハ、コノ“DTヲ殺ス服”ヲ着マス!」
DTとはなんだろうか。
◆
「ぐふっ!?」
「ぐふぁ!?」
そしてクロ殿とルーシュ殿下がまるで精神が殺されたかのように項垂れた。
ロボが“殺す服”……ブラウスとコルセットハイウエストスカートという珍しい組み合わせの服を着る事になったのだが、独りで着るのは恥ずかしいという事で私も着る事になった。
そして同時にクロ殿達の前に出る事になったのだが、クロ殿達はご覧の有様である。
「よく分からないが、クロ殿もルーシュ殿下もDTというやつなのか」
「そのようデスネ……あの、ワタシが変で、項垂れてしまったという事は無いデショウカ……」
「それは無いから安心しろ。充分に似合っているぞロボ。いや、ブロンド」
「そ、それならば良いのデスガ……」
装備を外し、素顔を出してブロンド状態になったロボが反応を見て不安がるが、彼女は充分に似合っている。少女らしさが出ていて、照れる姿は本当に可愛らしい。
「むしろ私が似合っているかどうか不安だ……あまり着ないタイプの服だからな」
対して私はこの服は少々恥ずかしい。
胸を強調するこの服は似合っているのかと不安になる。ドレスならばこのタイプの服は着た事は有るのだが、普段着ではあまり着ないタイプであるからな……
「ヴァイオレットクンは似合ってイマスヨ。ワタシよりも着こなしていて……本当に凄いデス」
「ありがとう、ブロンド。だが私よりも――」
『似合っています!』
『っ!?』
私達が互いに互いを褒め合うと、クロ殿達が復活し互いが互いのデート相手に詰め寄った。
「素晴らしい。本当に素晴らしいですヴァイオレットさん! なんでその服が此処にあるかは疑問ですが、とにかく素晴らしいです! ああ、俺の語彙力の無さが恨めしいです! それほどまでに貴女の魅力を味わう事が出来て嬉しい事この上ないです!」
「そ、そうか、良かった。だが、その、クロ殿……」
「何故この服を着てもらうという選択肢を俺が今まで思い浮かばなかったのか、そう思うほどに貴女の今は輝いています! ――綺麗ですよ、ヴァイオレットさん!」
「う、うぅ……」
近い近い近い。吐息がかかるほどの距離でクロ殿の世界一な顔が私を見てくる。手を掴んでくる。素晴らしい声で囁いて来る。
ただでさえ慣れない服を着て見られて恥ずかしいのに、こんなに近くに寄られると嬉しいが恥ずかしさの混乱が勝ってしまう。
「ああ、やはりオレは間違いではなかった。貴女の美しさは承知であったが、少女らしい可愛さと美しさを内包した今の貴女は正に天の使いと呼ぶに相応しい!」
「そ、そうデスカ、ありがとうございマス……!」
「オレは新たな魅力に気付いた。オレはこの日、この瞬間、この光景を二度と忘れる事は無いだろう。何故なら新たな貴女を見つけ、貴女に再び一目惚れをした。この沸き上がる感情は年月を重ねようと色あせる事無く心に残り続けるだろう……!」
「う、うゥ……」
なんだか近くでブロンドとルーシュ殿下が言っている気がするが、クロ殿の言葉とか顔とか手のぬくもりとかを感じているのでなにを言っているのか聞き取れない。
落ち着くんだ私。こう考えるんだ私。最初の子の反応はあくまでも最初がクロ殿の好みに合っただけで、これ以上の反応をされる事は無い。だから今の内に慣れることが出来たのだ。と!
「だが大丈夫か、クロ殿? クロ殿はこの服だと殺される可能性があると聞いたのだが……」
「え、どういう意味です?」
「この服はDTなる者を殺す服なのだろう? クロ殿とルーシュ殿下がそのDTではないのか?」
「誰から聞きました。メアリーさんですか、メアリーさんですね?」
「ロボがクリームヒルトから聞いたと」
「後でクリームヒルトには説教ですね」
何故は分からないが、クリームヒルトが何処かで今くしゃみをしている気がした。
「だがその発言が無ければ私達はこの服を着なかったぞ?」
「説教はしますが感謝しないといけませんね」
「あ、そういえば……確かこの服の時はこうすれば良いとクリームヒルトが言っていたらしいが……」
「なんだか嫌な予感が――」
クリームヒルトが言っていた事。正直恥ずかしいが、男性……クロ殿が喜んでくれるかもしれないというならばやるしかない。
確かコルセットで締まっているウエストの前に手を垂直に置いて、胸の下に手を置いて胸を持ちあげ、日本語らしきこの言葉を言うのであったな。
「『大丈夫? おっぱ――』」
「その言葉を言うと俺の色々がヤバいのでそれ以上は止めて下さい」
そして何故かクロ殿に止められた。
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