追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

デート、淡黄と赤紫+Fの場合_4(:淡黄)


とある夫婦の会話。


「クリームヒルトは自分に自信が無いように思える……ですか?」
「気のせいかもしれないのだが、そう思う事が偶にあるんだ。アピールはしているのだが、一歩引いて本気でアピールをする気はない。何処かで一歩引いていて、良い雰囲気になったとしても適当な事を言って逃げる。そしてその理由は……」
「もっと良い相手が居るよ。といった感じですかね」
「……そうだ。それは前世まえからそうだったりするのか?」
「そうですね……その節はあったと思います。アイツは自分が正しいと思った事が幼少期に否定される事が多かったんで、自分自身に価値が見出せない感じですね」
「む……やはりそうなのか……」
「ですけど、アイツは鈍いだけなんですよ」
「鈍い?」
「物事に対して“よく分からない”と言いますし、思ってはいるようです。そう言われるのならばそうなのだろう、的な感じに受け入れる傾向にあります」
「ふむ……? そうだろうか。クリームヒルトはヴァーミリオン殿下にも反発して私のために怒ってくれるような優しさがあると思うのだが」
「ええ、許せない事も有りますし、怒りもします。好きな事も有りますし、楽しみもします。ただ感情を上手く処理できていないだけで、本当に分かっていない訳では無いんです。そして気付くと、否定された自分の本質が見えてくるので見ないようにしているんですよ。だから……」
「だから?」
「……自分から感情に気付いてくれたら、もっと馴染めると思うんですがね」







View.クリームヒルト


 正直言うならば、私は全裸の状態で異性に胸を見られようが下を凝視されようが構わない。見たかったら見れば良い。
 私のような身体で興奮するとは思えないけど、もしなにか良いと思う所があるのならば見て貰っても構わない。それは前世の頃から変わりない。
 ただそう思わない事が多いと思うし、見苦しいとは思うし、見せびらかすものでも無いので隠しはする。後は公序良俗に反する犯罪であり、なによりも黒兄にやめるように言われている。

――よく分からない。

 私は学園で女子として意識されることは少ない。
 正確には女子という区分けにはいるのだろうが、好きな相手とか付き合うとかいう意味で意識されている事は少ない。
 それは胸とか背みたいな外見的女性要因が起因しているのか、常識がなく性格が悪いのが起因しているかは分からない。恐らくは両方だとは思うけど。
 まぁようするに私は女子として意識される事が少なかった。今世でも、前世でも。

――よく、分からない。

 黒兄は「お前は魅力的な女の子なんだから」と言ってくれた。あれは兄として言ってくれたのだろう。
 今世でも黒兄は「充分魅力的だろ」と言ってくれた。ヴァイオレットちゃんとかも言ってくれたけど、やはり女子としてよりは妹とか友達として言われたのだろう。というか黒兄に女として言われたらなんか嫌だ。

――よく、分からない……

 けど今左に居る男の子は私を女子として扱って、魅力的だと言い、好いてくれている言葉を言ってくれている。さらには私と居る事を照れて、異性として意識してくれている。
 今右に居る女の子は、私を憧れの女子として語ってくれている。ヴァイオレットちゃんとかみたいに性別の関係無い友達としてではなく、女子として、友達として好いてくれていると言っている。
 つまりそれって……

――あれ、今の私って女の子として意識されているの?

 合っているだろうか。自意識過剰じゃないだろうか。
 女子して意識されているという事は、私にそういった価値があるという事になるのだろうか。
 ティー殿下は顔を真っ赤にして私の行動に照れている。それは衣服を身に着けていないという大抵の男子が恥ずかしがるだろう状況で、触れられているから照れているのではないのだろうか。
 つまりは私が男であろうと照れるような、単に他者に見られるのが恥ずかしいという羞恥心で……だけど我慢の限界が来そうな感じで……それは女子に、というか好きな異性に触れられて緊張している黒兄みたいな感じで……

――なんだろう、心臓が早くなっている気がする。

 この感覚は今までにない感覚だ。
 運動や戦闘後とは違う妙な感覚。心臓が鼓動しているというのが嫌なほど脳に響いて来るこの感覚。今まで味わった事のない感覚だ。

――おかしい。今の私はおかしい。

 私は肌を触れられたりするくらい平気である。だけど何故か今すぐにティー殿下の方は肌を離したくなって来た。
 しかし駄目だ。人肌と人肌で布にくるまった今の状態は大分温かいのだ。離れてしまっては、外は寒いのですぐに風邪をひいてしまう。離れるのは良くない事だ。

――良くない、のに。

 だけどなんだろう、これ。
 今すぐ離れたい。特にティー殿下から離れたい。何故かは分からないけど、ティー殿下にこの状況で密着するのが嫌では無いのだが離れたいと思ってしまう。肌を触れられると意識すると心臓の鼓動が早くなるのだ。
 離れたい。けれど離れたくないという妙な感覚も私の中にはある。
 なんだろう、これ。思考が上手く働かない。ティー殿下やエフちゃんの体温とは違う熱さが私の顔に集中している感が――

「クリームちゃん……どうしたの……?」

 私がとある思考に陥ろうとしていると、エフちゃんが私を心配するように顔を覗き込んで来た。
 くっ、近い。そしてエフちゃんはまつ毛長いな、くそう羨ましい。女の子っぽい美人さんで可愛くて今すぐ抱きしめたくなっちゃう。
 
「だ、大丈夫だよエフちゃん。ふと王族をこうしているのは不敬だから、今すぐこのまま外に出てシキに助けを呼びに行こうと思っただけだよ」
「ダメ……風邪……ひいちゃう……」

 エフちゃんがそう言うと、私を逃がさないようにするためか腕をぎゅっと握って密着してきた。くっ、胸の柔らかさが腕にくる。先程まで離れたいと言っていたけど、今は密着する事に躊躇いは無いのだろうか。それよりも私が奇行に走って風邪をひかれるのを防ぎたかったのだろうか。

「……クリームヒルトさん」
「どうしたの、ティー殿下。今はエフちゃんのたわわな感触に戸惑っていて、余裕が――」
「……その、左手なのですが。鼠径部に触れていまして。それ以上動かさないで頂けると……」
「うわっち!?」

 しまった、たわわな感触から逃げようと後ろに下がって、ティー殿下の危うい所まで手が行きそうであった。
 そもそもなぜ私はたわわな感触から逃げようとしたのだろう。いつもの様に「羨ましいね!」とでも言って揉んでいれば良かったのに。
 それにティー殿下に関しても「動かすとどうなるのかなー?」って揶揄えば良かったのに。
 たとえ先程の事があって揶揄うのはやめるにしても、慌てる必要なんてないはずだ。いつものように笑って謝り、手をどかしたりするだけで良いのに。

――なんでこんなに慌てているのだろう、私……!

 何故か今の私はいつものような態度が取れない。
 それもこれも先程から鳴り響く心臓のせいだ。いっその事一瞬止めて再起動させて見せようか。
 落ち着くんだ私。私は肌に触れようが触れられようが、男性の裸を見ようが触ろうが平気な女。そう、ある意味での痴女だ。この程度で慌てる必要は無い。
 だからいつものように適当に話題を振って空気を明るくすれば良いんだ。

「黒兄がさ、昔エロティックなゲームをやっていた事があるだけどさ」
「急にどうされました?」
「ゲーム……遊び……?」
「黒兄とてエロティックな方面は母のせいで避けている節があったとはいえ、興味がなかったわけではないんだよ。実際アダルトなゲームをヘッドフォン着用でプレイもしていたんだ」
「ヘッドフォン……?」
「だけど何故かR18特有のエロティックなシーンになると、黒兄はそのシーンを裁縫の手を止めてまでクリック連打で音声の再生を待たずに読むだけ読んで飛ばしていたんだ。そのシーンこそが特有なゲームの醍醐味なはずなのにさ」
「は、はぁ……?」
「何故そんな事をするのかと問うと“なんか違うんだよ。今はそういうシーンを見たくないんだ”とよく分からない事を言っていたんだ。エロティックなシーンを見たくてそういうゲームをやるのに、何故か飛ばす。理由は分かる?」
「前提からなにも分からないのですが……」

 うん、自分でも途中からなにを言っているのか分からなくなって来たよ。
 ただ男女が肌と肌を密着するからエロティックを思い浮かべ、昔疑問に思った事を聞いてしまった。落ち着くんだ、私。まるでこの状況がアダルトなゲームのシーンと思っているようではないか。

「えへへ……」
「ど、どうしたの、エフちゃん?」

 私がどうにか落ち着こうと頭の中で思考を巡らせていると、私の様子を見てエフちゃんが何故か可愛らしく笑った。気取ったりしていない、子供っぽい笑顔だ。

「あ……ごめん……急に笑っちゃって……」
「だ、大丈夫だよ! 王族であるエフちゃん様に笑顔を作ることが出来たのならば平民として嬉しい限りだよ!」
「エフちゃん様……」

 というかそもそもエフちゃんと呼ぶ事自体良いのだろうか。
 エフちゃんは隠してはいたけど、本名はフューシャ・ランドルフという第三王女である事は確実。ここはやはりヴァーミリオン殿下のようにフューシャ殿下と呼ばないと。

「失礼しました、フューシャ殿下! どうぞ笑ってください! さぁ、私をピエロとでも思って!」
「ピエロって……」
「…………殿下は……要らない……フューシャ、で良い……」
「でも……」
「それに……あまり……私を……王族……扱いして欲しく……ない……」
「え?」
「私……良くない……噂が多い……第三王女だけど……クリームちゃんやグレイ君は……立場関係無しに……私の変な運を……知っても……友達でいてくれて……触れるのを躊躇わなかったから……」

 そういえば平民である私にも聞こえてくるくらい色んな噂が多い殿下達だけど、第三王女だけは良い噂はあまり聞かないね。疫病神だとかそういったバカみたいな噂。
 ……それなのに殿下扱いはよくなかったのかもしれない。けど――

「でも……」
「え?」
「私も……今まで身分を騙して……いた訳だから……えっと……騙していたけど……」
「……うん」
「今までの様に……友達で……いてくれる……?」

 照れながら、まるで王族とか関係無い、年相応の女の子としてのお願いかと言うように彼女は私に尋ねて来た。

「勿論だよ、フューシャちゃん!」

 その表情を見て、今までの私は私らしくなかったかな、と思ってしまう。変な感情が沸き上がって来て、相手が望む事がいつも以上に見えていなかったのかもしれない。
 それに私は第三王女とか知る前からフューシャちゃんの事が好きだったし、相手が台頭を望むのなら私も対等に居ようと思う。

「ですが先程はどうして急に笑ったのです、フューシャ?」
「昔を……思い出して……」
「昔ですか?」
「うん……変な事が続いて……引きこもる私に……兄様や姉様達が来て……一緒のベッドで寝てくれたり……ティー兄様は……ウサギのお面をかぶったりして……一緒に居てくれたから……」
「……そんな事も有りましたね」
「うん……色々と話そうとしている……クリームちゃんが……昔のティー兄様みたいで……思い出して……笑っちゃった……」

 そう言って笑うフューシャちゃんは、暗かった顔を微笑みに変え笑っていた。

「……そういえば、私も小さい時に黒兄と一緒に寝た時あったなぁ……」
「そうなの?」

 周囲の言っている事がよく分からなくて多分悲しんでいた時。黒兄に慰められながら一緒の布団で寝た事があった。
 ……あの時も、今の様に温もりに包まれていたね。

「あはは、じゃあ色々語り合っちゃう?」
「語り合う、ですか?」
「うん、折角のデートなんだし、会話が大切でしょ? こんな機会もう無いだろうから、服が乾くまでお互いを知るために色々話さない?」
「うん……いいよ……暗い中……火を見て話すって……なんだか……ロマンティック……」
「……そうですね。色々話しあいましょうか」

 あの時は黒兄と色々話しあった。
 ぬくもりに包まれた中での会話は、普段とは違った会話が出来ていたのを覚えている。
 今はあの時の様に温もりに包まれている。
 三人で身を寄せ合って布一枚にくるまり。互いの体温が心地良い。

――あったかい。

 ……甘酸っぱいイベントが起こるようなデートは出来なかったけど。
 結局心臓の鼓動がなんで早まったかは分からなかったけど。
 どこか昔を思い出す温かさを感じたデートだった。





備考
フューシャ・ランドルフ
フューシャ髪紫目
第三王女
十五歳(来年度から学園生)
本人の意思とは関係無く引き起ってしまう幸運体質。
事故だろうが襲撃だろうが幸運が起きてフューシャ自身は怪我をせず、傷一つ負わない体質。ただ、自身の幸福の代わりに他者が不幸になるので、誰かと関わることをひどく嫌う。
そのため引きこもり気味で、周囲からの評判は良くない。
他の兄弟と比べると身長が低いのを少し気にしている。胸囲は現王族ではトップクラス。

クリームヒルト (現在家名無し)
赤金クリーム透明に近いネフライト
周囲や常識に馴染めず自身の正しさを否定されていたため、自身の価値がよく分からなかった少女。
プラス前世の母の事も有り、恋愛とかは意識外に置いていた。
別に異性に興味がない訳では無い。

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