追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

デート、淡黄と赤紫+Fの場合_3(:淡黄)


View.クリームヒルト


 結果だけ言うならば、誰も怪我はしなかった。
 川に落ちる衝撃はティー殿下が私達を庇ってくれた事によって私達は無かったし、川底にも私達はぶつからなかった。
 川の流れは見た目よりも早かったけれど、私達が流される事は無かった。

「あはは、道具とか流されちゃったね!」

 そう、私達が流される事は無かった。
 私達と一緒に落ちた地面部分の破片と共に流れたか、あるいは大きな破片に潰されたりなどして私達が持っていた道具類は全て使い物にならなくなった。
 ティー殿下の持っているなんとか剣とか、身に着けているモノは水にぬれた程度では済んだ。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい私のせいでごめんなさい」
「あはは、エフちゃんのせいじゃないよ。強いて言うなら地面確認不足の私達のせいだからね!」

 済んだのだが、別の件が面倒になっている。
 先程別の名前で呼ばれていたエフちゃんは、川に落ちてからこの様子である。魔法で変えていたであろう自身の髪と瞳の色が、“赤い髪に紫の瞳”になっているのも気付いていない程に取り乱している。
 以前グレイ君が誘拐されていた洞窟の中で、壁を背にして私が作った布を被ってぶるぶる震えている。寒さの他に、先程の件が自分の“運”のせいだと
 後ついでに白い肌が綺麗だなー。前の温泉の時に見てはいたのだけど、あまり外を出ないというだけあってとても肌が白い。そして外を出なくて運動をあまりしないだろうに、布の隙間から見えるお腹とか太腿がたるんでいない。やっぱり引きこもり気味だったとはいえ、教育自体は良かったんだろうなーと思う。

「ティー殿下ー。エフちゃんのフォローをしてよー。お兄ちゃんでしょー」
「イテテ……あの状態のエフ……には、あまりなにもしないほうが良いですから……」
「動かないでー。治癒魔法は私得意じゃないんだから」

 そして怪我はしていないけど私を庇って打ち身をしたため背中を向けているティー殿下に私は治癒魔法をかけながら、エフちゃんにどうにかしてと言ってみるが、以前からあの経験があるのかなんとも言い切れない言葉が返って来た。

「というか打ち身したんなら隠さず言ってよね」
「女性を庇っての名誉の負傷ですから。ひけらかすのは……」
「後から悪化したらそちらの方が私にとっては心配になるから、こういう時はキチンと言って」
「……はい」

 うーん、道具とか薬草とかあれば錬金魔法で打ち身に聞く薬とか錬金できるんだけど、道具がないからね……

――あと、細身だけど、結構筋肉あるね。やっぱり剣を振っているだけある、という事なのかな。

 私はティー殿下の肩の背中部分を見ながら、そんな事を思う。
 見た目は爽やかないかにも王子様、と言う感じなのだけど、こういうのを見ると男の子というより男性なんだな、ってふと思ってしまう。

「さて、終わりっ。回してみて」
「……、はい大丈夫です。問題無いですね」
「あはは、良かった。でも戻ったらキチンと治療は受けてねー」
「はい、ありがとうございま――っ! ありがとう、ございます……」

 治療が終わり、ティー殿下はお礼を言おうとするために、私の方を見ようとする。恐らくは感謝は相手を見てするとかそういった類の教育を受けているからだと思う。
 だけど途中である事に気付き、というか思いだし、慌てて目を逸らして感謝の言葉を言った。その顔は後ろから見ても分かるほどに赤い。

――別に状況が状況だから、見ても良いんだけどなー……ま、眼を汚すだけか。

 ティー殿下は王族で貴族の色んな女性と触れ合っては来ただろうし、ある程度身近に居た女性もスカイちゃんという立派な肉体を持った子であった。だから私のこの状況の身体なんて見たくも無いだろう。

「――はくしゅ」
「だ、大丈夫ですか!?」
「あはは、大丈夫。だけど心配ならこっちを見たら?」
「見れる訳ないじゃないですか……!」

 まぁそれよりも、今は重要な事がある。
 この状況を乗り越えなければならい、という事だ。

「さて、この状況乗り越えるためにもやらなくてはならない事があります」
「…………」
「…………」

 この状況。
 そう、場所は洞窟。季節は春に近いがまだ雪が残る冬。外からの自然な風は魔法によって入らず、魔法によって付けられた火はあるので温度はそれなりに高い。なお一酸化炭素中毒には配慮している。
 そして一番重要なのが、川によって服が水びたしになって、着ていると体温が奪われるため、乾かすために全員が服を脱いでいるという事。下着の下部分パンツだけは着てはいるけど。

「錬金魔法で作れたのは、今エフちゃんが纏っている大きめの布一枚」

 そして体温を逃がさないための乾いた布の類は、流されなかった道具の類で錬金魔法によって作った一枚のみ。他は燃えないような距離で乾かしている。
 ちなみにだが錬金魔法で服を作るのは、感覚の重視の私でさえ結構神経が居る作業だ。学園祭で作ったドレスも結構時間がかかる。生憎と身体が濡れた状態でそんな事を長時間すれば、私でさえ体調を崩すだろう。ようは新たな服を作る余裕はないので、乾かした方が早い。

「さぁ、どうするか……分かっているよね?」
「クリー――」
「四の五の言っている余裕は無い事も、分かっているよね?」
「う……」

 そしてこの状況で最善の手段は――

「さ、皆で温まろうか?」
『……………………』
「返事」
『……はい』

 そう、一枚の布を被り、皆で身を寄せ合って温まる事だ。







「おーい、二人共、もっと密着しないと寒いでしょー。もっと身を寄せ合ってー」

 そして私達は焚火の前で身を寄せ合って温まっていた。一番小柄である私が真ん中である。
 本来は真ん中に一番大きなティー殿下が居るべきかもしれないが……

「私に触れると……変な事が……!」
「じゃあ離れて私達に風邪をひけと申すか。言っておくけど離れたら私達はエフちゃんに布を渡すよ。というか投げるよ」
「うぅ……」

 エフちゃんは触れると不幸が起きると言って離れようとするので抑えていないといけないし。

「やはり女性とこのように肌と触れ合うのは……! やはり私は火の近くに居ればそれで良いですから……!」
「風邪ひくよ。それとも王子様を放り出せと?」
「未婚の男女で密着している方が問題が……!」
「なるほど、人妻派か……」
「違います」
「それとも外で裸になる快感を覚えたり……」
「してません。男女が密着しているのが良くないという事です! やっぱり――」
「言っておくけど逃げたらさっき言った事を私がするからね」
「うぐ……」

 ティー殿下は女性と密着してはいけないと言ってすぐ離れようとする。なので私が真ん中になって逃がさないようにしないといけない。
 ちなみにさっき言った事とは、この状況の私がティー殿下の前にひたすら立つという事である。勿論なにも隠していない状態で。それを言うと(というかすると)、ティー殿下は大人しく引き下がった。

「もっと密着しようか。今なら腕を全身で抱けるよ……!」
「や、やめて下さい」
「でも、もっと密着しないと風邪ひくよ?」
「う……うぐ……!」

 ティー殿下は私の揶揄いに顔を赤くする。なんというかこういった反応をするともっと揶揄いたくなってしまう。
 筋肉は結構あって身体は男性、って感じだけど、反応はなんか可愛い男の子って感じだなー。本来であれば遠くから見るしかない存在だけど、こうして見ると同じ立場なんじゃないかと思ってしまう。

――ま、生まれも育ちも全然違うんだけどね。

 “この身体”は“あの世界”だと、王族相手でも結ばれるような可能性を秘めた身体だ。
 外見も“平凡より少し上程度”という設定の“可愛い子”という同じ外見だ。
 だが生憎と中身は違うし、才能も違う。そして“あの世界の私”と似た立場はメアリーちゃんが引き継いでいる。
 だから私はこうして“王族の二人”とは居る事は出来ているけど、見合う価値は無い。だけど楽しむくらいは良いとは思う。こうする事は楽しいはずなのだから。

「……あったかい。クリームちゃん……体温高いね」
「そうかな? まぁ私結構筋肉あるからねー。だからあったかいのかも」
「……うん……それに……こうして……触れ合う機会はあまり……なかったから……いつも皆……私を……知れば知るほど……お兄様や……お姉様以外……離れてくから……優しい……クリームちゃんで……良かった……」
「あはは、ありがとう」

 相変わらず自分に自信がない子だね、エフちゃんは。
 こんなに綺麗で良い子なのに、なんで皆が離れていくのか分からない。運とか運命そういうのはただの決めつけなのにね。

「私も……クリームちゃんみたいに……なりたいな……憧れる……」
「え?」

 すると突然エフちゃんがよく分からない事を言いだした。
 私みたいになりたい? ……エフちゃんは私より良い子なのに、なんで私なんかに憧れるのだろう。
 はっ、まさか真面目な子が不良に憧れる的な感じかな。前世の中学の頃に居た、それまで大人しかったけど、不良っぽい彼氏が出来た途端マネをして派手になったあの子みたいな感じなのだろうか。これは早く止めないと!

「駄目だよ、エフちゃんみたいな立場の子が私なんかに憧れちゃ」
「私みたいな……立場……?」
「エフ。いえ、フューシャ。自分の髪を見て下さい」
「髪……? あ……」

 別の名前を呼ばれたエフちゃんは、言われて自身の髪が赤色になっている事に気付いていた。魔力で染めると、自身の魔力が不安定な時に戻る時があるので、それに気付いていなかったんだろうね。

「あ……えと……これは……ごめん……騙していて……」
「前から薄々感じてはいたけど大丈夫だよ」

 ティー殿下の言う名前や、王族特有の紫の瞳からしてそういう事なんだろうけど、前からそれっぽさはあったからなー。
 ヴァーミリオン殿下がエフちゃんの事を気にかけて、温泉の仕切りの材料を採りに行くのを手伝ったり、ティー殿下のエフちゃんへの気遣いとかを考えるとそういう事としか思えない。

「ま、ともかく私なんかよりもっと見本にする子が居るから。ほら、先輩になる子だとメアリーちゃんとかスカイちゃんとか」

 メアリーちゃんは私と色々と同じ立場だったりするけど、あらゆる面で私の上位である。
 スカイちゃんは真面目でストイック。それでいて外見の手入れも欠かさず行って、可愛いというよりは美人系な外見。
 成績も普段の素行も私より見習うべき子達だ。見習うならあの子達の方が良いだろう。

「それでも……私にとっては……クリームちゃんが……見本にしたい……から……」

 うーむ、これは私がイケない見本になったりして無いだろうか。
 これはいわゆるアレだ。箱庭の中で育てられた純粋な子が、初めて見る外でのタイプの違う子に憧れる……あれ、さっきも似たような事を思ったような。まぁいいや。

「あはは、ありがとねっ! むしろこっちが見本にしないといけない所いっぱいあるのにねぇ」
「私を見本……?」
「うん、仕草が綺麗だったり、戦いでフォローが上手かったり……隠れ巨乳だったり」
「最後は……見本に出来るの……?」
「隠れた巨乳は男子の憧れなんだよ!」
「そうなのかな……?」

 正直胸が無くても困る事は今の所ないけど。むしろ前世と比べてスッキリはして動きやすくて良い。背はもう少し欲しいけど。
 前世と比べると背も胸も小さい私は……というか私って胸が大きくならない事が確定していないだろうか。あの世界だと未来の画像スチルがあっても、背も胸も大きくなって無かったからね……

「ティー殿下もそうだよね?」
「ここで私にふりますか」
「うん、エフちゃんはともかくとしても、私の身体に関してはあまり興奮していないようだから、胸が大きい子が好きなんでしょ!」
「そんな事は……というか私は別に胸の大小で女性は判断しませんが」
「でもさっき見た限りじゃ、男の子がこういう状況の時に最も熱くなるだろう部分はまだ熱くなってなかったようだし、私じゃそういう風に見れないって事でしょ」
「セクハラ止めて下さい! というか何処見ているんですか!?」
「おやおやー、何処の事だと思っているのかなー。言ってくれないと私の想像している部分と違うかもしれないよー?」
「う、うぐ……!」
「……クリームちゃん……お父様っぽい……」

 エフちゃんのそれはセクハラ親父的な意味なのだろうか。
 それはともかくティー殿下はこういった方面には弱いねー。昨日話した時はこういった方面には疎いとは思ったけど、知識がないわけじゃなさそうだ。
 ……というかこの状況、スカイちゃんに見られたら説教を喰らいそうだね。二人が学園に入ったらやめておこうかな。

「ほれほれ、何処なのかなー」

 それはそれとしてやめないけどね!
 私の何処に惚れたかはともかくとして、惚れた弱みにつけ込んで、反撃できない様子を楽しんでやる! ……普通に最低だね、私。

「えと……その……あの、クリームヒルト、さん……あまり近寄られると……」
「んー、どうしたのかなー」

 私は布にくるまった状態のまま、ティー殿下の脇腹辺りをちょいちょいとつつく。するとモジモジとして離れようとするが出来ずにいて悩んでいる。
 黒兄とかはこの辺りが弱いんだけど、ティー殿下も弱いのかな。

「まぁ、冗談はこの位にしておこうかな。乾くまで大人しくしよっか」

 でもあまりやり過ぎると怒られる可能性もある。こういったのはちょっとだけやってやめておくのが良いというモノだから。

「……クリームヒルトさん。先程の事は出来るだけ止めて頂けないでしょうか」
「あはは、ゴメンね」

 その証拠に今もやめるように言われた。
 冗談も過ぎれば毒。こういった毒と善の差は私にはつき辛いけど、言われた以上は止める。楽しいけど楽しい訳じゃないのだから、別にやめる事自体は問題無いのだから。

「……その……本当はこうしているだけでも結構ギリギリなんです……ですから刺激を受けると、その……」
「ギリギリ? それってどういう事?」
「…………」

 ティー殿下は私の疑問に対して、間をおいて言うべきか言わないべきか悩んでいると、意を決したかのように小さな声で、

「……魅力的な貴女とこうして密着しているだけで、私は本能を抑えるのに必死なんです」

 と、小さく呟いた。

「昨日の申出を断り、格好つけておいて格好悪い話ですが。私は今日一日過ごしただけでも貴女の魅力にはまっていくばかりなんです」
「……デートっぽくないと叫んだのに?」
「……はい。普通のデートとは違いましたが、貴女の笑顔も、楽しそうにする姿を見るのも私には至福のひと時でした」

 そういえばデートとは違う、とは言っていたけど「楽しんでいる貴女を見るのは好きなのですが」とは言っていたね。
 ……思い返すと、今日のデート(っぽい事)をしていた時は結構素で楽しんでいたような気もする。それを至福なんて言ってくれるのか。

「貴女は魅力的なんです。綺麗で、明るくて、存在が美しくて……そして、そんな貴女が、私を男として見ていないのならば、力付くでも男と認識させたい。そう思ってしまうんです」
「別に男の子として見ていない訳じゃ……」
「ではつつくのは止めて下さい。幸せなのですが、色々と限界が来そうなんです……!」

 確かにあまりにも無神経すぎたかな。“そう”言われるのならば、“そう”なはずだ。
 つい調子に乗ってしまったのだろう。そのはずだ。

「うん……クリームちゃん……私も止めた方が……良いと思うよ……」
「エフちゃん?」
「クリームちゃん……可愛いし……良い子なんだから……私も一緒に……居る事に……ドキドキするのに……」
「あはは、でも私、“女として見れない”ってよく言われるから、二人共気にしなくて良いと思うよ? こう、ただ居るだけの存在として認識してくれれば……」

 それは前世でも良く言われた事だ。
 前世だと告白してくれる男子が居なかった訳では無いけど、アレは友達として認識していていた相手が異性であったから軽く言われた程度だ。その後「私より強かったら付き合う!」と言って喧嘩して勝ったら同じように言われたし。
 だから昨日の夜伽云々も、正直言うならばそういった場面になれば女として見られないからと思って……

「無理ですよ。貴女は魅力的な女性なのですから、女性として見ないなんて出来る訳ないじゃないですか……」
「うん……クリームちゃんは……私も女の子として……好きだから……女性として」

 だけどティー殿下もエフちゃんも私を女として見ている訳で……

「それに、私は最初から貴女を女性として見ているじゃないですか……」
「……そうだっけ?」
「そこの態度を変えた事は無いですよ……」

 確かにティー殿下は私を女として見ている訳だから告白した訳で……
 ティー殿下は私が夜伽云々の時も、どうせ女として見ていないから言った訳であって……

――あれ?

 今の私は、ほぼなにも身に着けていない状態で。
 それはティー殿下もエフちゃんも一緒で。
 布一枚で皆で密着していて。
 二人共私の事を――

――……あれ、もしかして今の状況、凄い事になってる?

 王族相手だから不敬とかそんなのじゃなく。
 男女としてマズい状況なんじゃなかろうか。

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