追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

迷惑かつ面倒_7(:偽)


View.メアリー


「一応理由をお聞きしますが何故でしょうか」
「一応理由は聞くのだな、クロ殿」

 裸を見て欲しいという痴女……痴女? な発言をお師匠様がした後、クロさんは平静を装いつつお師匠様に尋ねます。ヴァイオレットはその様子を見て聞く必要があるかと頭を悩ませています。

「万が一男に見られる事によって解ける呪いがあるとかならば、下手に断る事も出来ませんし……それに、理由も聞かずに否定するのは良くないですからね」
「……そうだな。そうした方が良い」

 頭ごなしに、理由も聞かずに否定はしたくない、という心意気は立派です。この辺りがシキの領主として慕われ続けている理由かもしれませんね。

「万が一見る事になった場合でも、私が愛するのはヴァイオレットさんのみですので」
「……え、えっと、その……ありがとう……?」

 おーい、そこの夫婦はイチャつかないでくださいー。ヴァイオレットも急に愛していると言われて照れてないでくださいー。
 いえ、変に誘惑されるかもしれないと不安にさせるよりは、キチンと言う辺りこっちの方が安心なのかもしれませんが。それでも目の前でされるとツッコミたくもなります。

「それでお師匠様。別に女になったので身体を見られたくなった、という訳では無いのでしょう? 何故見られたいと仰るのです」

 どこかの美しさを誇って、見られても平気なあの女性では無いでしょうし、理由があるはずです。……はずです。

「ああ……クロ。お前は裁縫と言うべきか、服の類を縫うのが上手いと聞いた」
「多少は出来ますが……」
「それで私の下着の類を縫って貰いたくてな」
「はい?」
「なんというか、こう……なにもしていないと胸は痛いし、先はすれるしで変な感じがするんだ。女になって私は学んだ。自分のを揉んでも楽しくない……こともなくはないが、私は目の前にあるものを揉みたい。揉まれるより揉みたい。揉まれながら揉むのはなんか違う」
「聞いてないです」

 このお師匠様はなにを言っているのでしょうか。というか下着を作る事からズレている気がしますが。

「なるほど。ですが市販のものでは駄目なのですか?」
「とある商人にお前が作ったりアレンジしたものは付け心地が違うと聞いてな。実際につけているのを見せて貰った。というか見せつけられた」
「商人……あ、シュバルツさんですか?」
「知っているのか。その女が良いと言っていたモノでな」

 クロさんの腕はドレスや普段着ている服からなんとなく素晴らしいモノだとは思っていましたが、そんなにも良いモノなんでしょうか。私も頼みましょうか。

「はぁ、それは構いませんが……何故脱ぐというのです?」
「ん? お前は服を縫うのに相手の身体の情報を全て把握すると聞く。ようは直に触って興奮しながら作るものと……」
「違います」
「だが妻だけに飽き足らず、義理の娘や姉のような存在、シスターに至るまで身体の情報を知って興奮してながら縫うと聞いたが」
「情報を知っているのは確かですが、違います。一から作るとなると時間がかかるので、市販のものを貴女様に合わせる、という形でもよろしいでしょうか?」
「構わない。というか元は私が提供しよう」
「ではサイズを記入してください。項目は――」

 よくは分かりませんが話がまとまりつつあります。
 ……ですが違和感がありますね。錬金魔法でも衣類は作れます。私やクリームヒルトも作れるのですから、いくらクロさんの腕前が良いにしてもわざわざ頼むほどのものとは思えません。
 それに男性にはすぐに戻れるはずなのですから……なにか別の目的があるのでしょうか。先程のシュイとインの事も有りますし……

「――ところで、先程本題の一つは、と仰っていましたが、他にも用があるのでは?」
「ん? ああ、弟子たちの様子を確認しに来たんだよ」

 そう思っていると、クロさんが尋ね、お師匠様は隠しもせず答えました。

「クロの噂を聞き、シキに来たのだが、偶然弟子のメアリーとクリームヒルトが居ると聞いてな。片方は一週間、片方は一ヵ月とは言え一応私は師匠だ。どんなふうに成長したかを確認したくてな。そして話では両方とも錬金魔法は続けていると聞いて安心しているんだよ、これでもな」
「お師匠様……!」

 まさかこのお師匠様にそんな心があるなんて。正直一週間程度の付き合いだったので、師弟関係は私が一方的に思っているだけかもしれないと思っていたのですが、その言葉を聞いて私は少し感動してしまいました。
 これは明日、いえ、今からでも私の錬金魔法の成長したのを見せなくてはなりません。最初は不純な動機とはいえ、今はきちんと磨いているのですから。そして色々と教えても貰いたいです! 信用も信頼も出来ませんが、やはり私達を思って下さるお師匠様なんですね!

「しかしゴルドさん。何故……ええと、シュイさんとインさんでしたっけ? 彼らを変身?させて私達に?」
「そりゃ面白そうだからに決まっているだろうが。親しい相手のふりをして、気付かず相手にデレたりしてみろ。修羅場になるだろう」
「最低ですね」

 普通に最低な行為をしていました。やはり尊敬できません。

「親しい者のふり……? あ、もしかしてアレはご兄弟に似せたのではなく、クロ殿のふりだったのか!?」

 今気づいたんですね。

「ヴァイオレットさんは気付いていた……というか、マネしている事も気付いていなかったんですね」
「うむ。クロ殿とは全く違ったからな……というよりはシュイとインとやらに伝えておいてくれ。マネるのならばもう少し近付けて欲しい、と」
「……アイツらの【模倣】は魔力の痕跡も一時的に騙せるほどには優れているのだがな……」

 随分と成長していますね。私が以前会った時は精々外見をマネ出来るだけで、声とかは変えられなかったんですが……

「クロ殿は誰の姿で近寄られたのだ?」
「アッシュ卿と居る時に、ヴァイオレットさんとメアリーさんの姿です。声以外は全く違いましたから、すぐ気づきました。ヴァイオレットさんの方が何倍も綺麗でしたので。特に所作が違います、所作が」
「うっ……だが私もクロ殿の方が何倍も素晴らしいと思っているぞ。今こうして見ているだけでも格別に違う」
「ヴァイオレットさん……!」
「クロ殿……!」
「なぁメアリー。新婚とはどこもこういうモノなのか? しかもこいつら貴族の政略婚だろう?」
「彼らは特別ですから。……あれ、アッシュ君、どうしました?」
「……申し訳ありません。お恥ずかしい話ですが、違和感があって警戒をする程度でして……愛が足りないのでしょうか……!」
「わ、私も似たようなモノですから。安心してください! と、ところで、お師匠様! 今シュイとインはどちらに!」
「む? ああ、もう一人の弟子の所に行って、どうなるかを確認しているんだが――お。来るぞ」
「はい?」

 クロさん達はイチャつき、アッシュ君は落ち込み、お師匠様はげんなりしている中私が話題を逸らすためにシュイとインについて聞くと、お師匠様の懐が何故か光りました。
 その光にクロさん達も気付き、お師匠様に注視します。するとお師匠様は光っている者である――妙な石を取り出しました。

「なんでしょうか、それ」
「空間歪曲石は知っているな?」
「ええ」
「アレは特殊な魔力の場の間でのみ使える代物だが、この石はそれを再現する代物でな。そして特定の道具を使う事でどんな場所からでもこの石の所に来ると言う代物だ。光っているのはその道具を使った証拠だ」
「…………え、それかなり凄いモノなんじゃ……ようは何処でも好きなように行けるという事ですよね」
「特定の場所……例えばこの屋敷にそれを置けば、何処に居てもすぐに帰れるという事だな……うむ」
「便利ですが、危険でもありますね」

 お師匠様はにべもなく言いますが、光る石……もとい、【トラベルウィング】に関しての説明をします。
 空間歪曲石は特殊な場所でしか使えないが欠点ですが、これはその欠点を無くした代物です。実用化すれば間違いなく悪用もされるだろう便利な物。存在が知られれば奪い合いが起きそうな代物です。
 あとヴァイオレットは使えばクロさんが出張でもすぐ帰って来られる! 的な発想をしているのは気のせいでしょうか。

「帰りを考えずに侵入し、暗殺など犯罪をした後に使われれば犯人の足取りがつかめなく……あるいは石を送り、侵入も用意に……」
「大丈夫ですよ、アッシュ君。間違いなく便利な道具ですが、欠点がある代物で、シュイとインにしか使えないんです。ほぼ彼・彼女らの道具ですから。あ、皆さん、お師匠様から離れてください」
「はい?」

 そう、【トラベルウィング】には欠点があるのです。
 空を飛び、ほぼ一瞬で石の所に転移する便利道具。その欠点とは――

「んぐたふるぐなふがうえいるるうるぅとくふなうるぐむいるぐんふ」
「んぐーたふ、ぅごなーがっわ」
『っ!?』

 そう、転移する力に常人は耐えきれず、形状崩壊をするという事。もし私が使った場合、転移が終わった頃には肉の塊が出来上がります。
 シュイとインのような身体が特殊でないと意味がありません。そして……

「く、空間が裂けてる!」
「なんだか液体が垂れてきているぞ!」
「謎の言語も話しています!」

 そして、シュイとインも到着する頃には液体……液体金属で到着します。後に徐々に体を構成して、人の形をしていきます。
 ……恐らく初めて見る皆さんには、異様な光景でしょう。というより……

「ふぅ。相変わらずあまり慣れませんね、この感覚。そう思いませんか、弟……おや」
「ええ、相変わらずあまり慣れません、妹。おや、皆様は……」
「シュイ、イン。改めて挨拶をしろ。その姿での挨拶はまだだろう?」
「あ、はい。はじめまして皆様。私はシュイ。ゴルド様に仕える従者で、インの兄です」
「はじめまして皆様。私はイン。ゴルド様の従者で、シュイの姉です」

 突如現れて驚愕中の周囲に対し、シュイとインは丁寧に挨拶をします。
 本来の姿である、今の私と同じくらいの年齢の男女。そんな彼・彼女らは……

「シュイとイン。まずは服を構成してください。素っ裸は失礼です」
『おお、忘れてました』

 身体を構成しただけであるので、服を着ていない状態でした。なんでしょう、ここ最近服を着ていない事が事柄がよく起きている気がします。

『ですが敢えてこのままで行きます』
「何故です」
「人々は異性の裸を見る事を喜ぶとシキで聞いたので!」
「それに人は見られる事でBIが磨かれると聞きました!」
「その教えは忘れなさい」
「弟子。別に見たかったら見れば良いんだ。遠慮しなくて良いぞ?」
「お師匠様は私をどうしたいんですか」

 そしてお師匠様は楽しんでいるだけな気もします。
 ……お師匠様がシキで変な事をしなければ良いのですが……既に無理な気もしますね。





「く、くく……楽しい事になりそうだ」





備考:迷惑かつ面倒なキャラの紹介
ゴルド
金髪ゴールド虹目(見る角度で目の色が変わる)
クリームヒルトとメアリーの錬金術の師匠
気ままに放浪し、気ままに誰かを助け、気ままに迷惑をかける変態で天才で天災。
色々錬金するし、色々面白そうな事をする。
性別は現在女性。基本は男の姿。


シュイ
シュイ色髪銀目
ゴルドが錬金魔法で作った可変式ホムンクルス助手。
自称インの兄。身体など外見は基本女性型。
身体が液体状なので自由に身体を変えられる。
誰かのマネをきちんと出来るようになったのはここ最近の話。


イン
イン髪水色目
ゴルドが錬金魔法で作った可変式ホムンクルス助手。
自称シュイの姉。身体など外見は基本男性型。
身体が液体状なので自由に身体を変えられる。
誰かのマネをきちんと出来るようになったのはここ最近の話。

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