追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

迷惑かつ面倒_5(:偽)


View.メアリー


「エメラルドをあのまま放置も出来まい。連れて帰るか」
「私が背負いますから、ヴァイオレットは屋敷に帰っていただいて構いませんよ?」
「エメラルドの家を知っているのか?」
「……そういえば知りませんね」

 という会話の後、結局厚意に甘えてレインボーの主人からの贈り物を箱の上に置き、色々と興奮しているエメラルドを彼女の家まで送り届けることになりました。
 ビクンビクンと震えているエメラルドに対し、念のため禁止された依存性の快楽物質が無いかや、感染するタイプの毒を含んでいないかを確認はしましたが、大丈夫そうです。

「よいしょ、と。……軽いですね」
「エメラルドは毒の影響かは分からんが、肉が少ないからな……」
「出る所出ている割に痩せているヴァイオレットには言われたくないでしょうね」
「む、最近は太って来たぞ」

 女子としては太る事を堂々と言うのは間違っている気もしますが、昔のヴァイオレットは細くて心配になるレベルでした。私と決闘する前とか大分……それこそ今担いでいるエメラルドレベルで細かったですからね。クロさんも食べて欲しいと言っている理由が分かる気もします。

「それにしても、なにが目的なんでしょうね」
「ゴルドがか?」
「はい。わざわざクロさんのマネをシュイとイン達に――」
「マネ?」
「いえ、なんでもありません。姿を変えてシキに来るなど、なにが目的なのかな、と思いまして」
「ゴルドは天才かつ天災と称される男と聞くからな。私のような普通かつ一般の者には行動は思いつきもしないだろう」

 いえ、公爵家令嬢で、夫のマネしている相手をマネとすら思わないような女の子が普通と言ったら色々と困ると思うのですが。

「そういえば、メアリーは何故錬金魔法を学ぼうと思ったんだ?」

 エメラルドの家に着くまでの間、ヴァイオレットがふと気になったかのように私に尋ねてきました。裏などは無い、興味で聞いて来た、という感じです。

「私が錬金魔法を学んだ理由……ですか」
「ああ、そのような読めない相手を師匠と仰いだには理由があるのかと思ってな」

 そしてその質問に答えるのは少々迷いがあります。
 単純に偶々私の住んでいた街に来て、教えてもらったら偶々出来た、というのが答えにはなるのでしょう。
 ですが元々は“この世界で皆を幸福にするためには錬金魔法があったほうが良い”という思いで学んだのも事実ではあります。
 そしてそのためにもと無理をしたせいで、今の家族には距離を置かれていますから……と、そんな私の事情は興味ないでしょうから、興味があったからとだけ答えておきましょう。

「錬金魔法、というものに興味があったんですよ。私やクロさんが前に居た所でも錬金術、というものはあったので」
「ほう?」
「ですが物語上の存在だったので、学んでみたくはあったんですよ。……とはいえ、教え方はお世辞にも良いとは言えなかったですがね」
「メアリーがそう言うとは、相当なのだな……」

 まぁ錬金魔法自体が感覚重視な所があるので、私も上手く教えることが出来るかと問われば難しい所ですが。
 ですが、目の前で錬金魔法をやって「よし、見たな? じゃあやれ。出来なかったら才能がないからなにも教えん」というのはどうかと思いますがね。結局基礎だけ教えて貰ってそのまま去りましたし。

「まぁ信用も信頼もしていませんが、尊敬はしていない事も無いですよ」
「いつになく毒舌だな。というかそれはほぼ迷惑な相手という認識じゃないか」

 ……否定は出来ませんからね。
 会った当初は『こんな設定のキャラだったのですねー』程度の認識ですが、改めて思い返すと正直困った事をする男性としか思えませんし……

「まったく酷い事を言うな私の弟子は」
「ひゃうっ!?」
「!?」

 私がエメラルドを担ぎながらヴァイオレットと談笑して歩いていると、後ろから首の横辺りを軽く撫でられ変な声を出してしまいました。
 だ、誰です!? 気配とかそんなの感じなかったですが――いえ、私を弟子と言うあたり、もしやお師匠様……!

「……どなたでしょうか?」

 ですがそこに居たのは、金色の髪が腰程度まである綺麗な女性でした。二十代中盤……位でしょうか。さらには夕方だと言うのに何故かサングラスをしています。
 てっきり先程の言葉からお師匠様と思ったのですが、彼女は一体……?

「おいおい、師匠の顔も忘れたのか一番目の弟子、メアリー・スーよ。私だゴルドだ! うむ、美女に育ったな!」

 え、彼女は今なんと……?
 ゴルド? え、お師匠様? 私のお師匠様は私と会った時には既に三十代前半の外見で、男性のはずです。少なくともこのような女性では無いはずです。

「あの、私のお師匠様は男性です。貴女は一体……」
「だからゴルドだと言っているだろう。まったく、一週間程度とはいえ錬金魔法を教えたり、世話してやったというのに……だが、あの時の世界を見ていなかった少女がこうなるとはな……うむ、女は化けるというやつだな! 私も成ってみたがやはりもどきという事か!」
「…………はい?」

 成ってみた? もどき?
 ……え? …………え、どういう意味です?

「失礼、会話に割り込んで申し訳ない。メアリーが混乱しているようなので私が尋ねたいと思う。はじめまして、ヴァイオレット・ハートフィールドという者だ」

 私が女性の言葉にどういう意味かと悩み、処理しきれないでいると、私の代わりに箱を身近な所に置いたヴァイオレットが一歩前に出て自己紹介をしました。私を庇ってくれているのでしょう。

「ああ、こうして挨拶するのは初めてか」
「はい?」
「いや、気にするな。して、なにかな?」
「貴女は今、自身をゴルドと名乗り、メアリーの師匠とも名乗ったが、私の聞く限りではゴルドという名前で、メアリーの錬金魔法の師匠は男性と聞く。情報と齟齬があるのだが、貴女は何者だろうか」
「長い」
「……貴女は誰だろうか?」
「聞かれたからには答えよう!」

 私の師匠を名乗る女性は、私と同じ程度ある胸を大きく揺らし(ブラをしていないのでしょうか)、サングラスを取った後、手を胸元においてまるでアプリコットの様にポーズをとります。
 サングラスをとって見えた目は、赤になったかと思ったら緑になったりという、七色に変化する特殊な瞳をしています。……その特徴を持つ瞳を、私はよく知っています。

「私の名前はゴルド! 錬金魔法の使い手にして、最近ちょっと性転換に興味を持ったので試してみたら上手く行っちゃった上になんか若返っちゃった元・イケオジだ!」

 ………………。
 なにをやっているんでしょう、このヒトは。

「そうか、初めましてだな。よろしく頼むゴルドよ。一応男女分ける場所においては周囲に気を使ってくれると助かる。身体は女性でも精神は分からないからな」
「うむ、安心しろ、そこは弁えよう。温泉などでは男湯に入ろう。男にすぐに戻ろうと思えば戻れるからな!」
「では何故女性の姿を?」
「折角なったのだから、色々楽しもうと思ってな!」
「そうか。ところで先程エメラルド……そこの背負われている彼女になにかしたのか?」
「毒を欲しいと言うから、作ってあげただけだ。まぁ本当に自分で食べるとは思わなかったが」
「大丈夫なのか?」
「死にはしないし、後遺症も無いように作ったよ。だが彼女は凄いね、私を男と見抜いていたからね」

 私が頭を痛めていると、ヴァイオレットは気にせずにお師匠様と話していました。
 まるで問題無いかと言うように、領主として諸注意を言っているように思えます。……何故彼女は平然としているのでしょうか。
 以前のお師匠様を知らないので現実味がない……という訳ではなさそうですが。

「あの、ヴァイオレットは何故平然としているのです。おかしいとは思わないのでしょうか……?」
「なに、男性が女性になろうと、少し考える時間があればシキでは当たり前と感じるようになるって事ですわよ」
「ヴァイオレット、そう言いながら語尾は変ですし大分声が震えていますよ」

 若干納得しかけましたが、おかしいモノはおかしいのです。





備考1:エメラルド
身長:150cm越え 体重:40キロより上程度
足腰はそれなりに丈夫だが、痩せているのは毒の影響が大きい。

備考2:ヒロイン体重(重い順 ※若干曖昧です)
ロボ(色々装着)>スカイ>スカーレット>シアン>カナリア>メアリー>ロボ(ブロンド)>シュバルツ>ヴェール>ヴァイオレット(最近)>クリームヒルト>アプリコット>ヴァイオレット(初登場時)≧エメラルド

備考3:『男性が女性になった? まぁそういう事も有るよねシキだもの』
そう思うのは普通では無いのです。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品