追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
迷惑かつ面倒_3(:偽)
View.メアリー
「クロ殿は喜んで貰えるだろうか……」
「大丈夫ですよ、絶対に喜んで貰えますっ。同じように作ったグレイ君も、アプリコットは喜んでいたじゃないですか」
「そ、そうだなっ!」
チョコレートケーキを作り、箱に詰めて可愛らしくラッピングした後。私はヴァイオレットと共にクロさん達のお屋敷へと歩いていました。
期待半分、不安半分。少しだけ期待が上回っているヴァイオレットを私は励ましています。
ちなみに一緒に作ったグレイ君は今頃、酒場にてイチャイチャラブラブにケーキを食べさせ合っています。アプリコットは周囲の目を気にしていますが、グレイ君が無邪気に食べさせたり食べたりで照れながらも一緒に食事をしています。
シルバ君達に関しては、エクル先輩が、
『渡す時に他の男が居ればクロくんも嫉妬するかもしれないからね。だけど他に渡すものもあるようだし、メアリーくんは付いていってもらえるかな?』
という言葉を受けて、現在は別行動です。
渡すものもあるのは確かですが、どちらかというと初めて作る食べ物に対して上手く出来ているか不安なヴァイオレットに付いて行ってあげてほしいという心遣いでしょう。エクル先輩はこういった気遣いに関しては人一倍敏感ですから。
「ところでこちらはなんなのでしょうね?」
「レインボーの主人に貰ったモノか。形状と質量からして……」
「本、ですよね」
私は歩きながら先程チョコレートケーキを持っていく前(グレイ君達が厨房でイチャついていた頃)に渡された謎の届け物を眺めます。
中身は分からない様に包装されており、クロさんにだけではなくアッシュ君にも渡すものとして渡されました。なおヴァイオレットはチョコレートケーキが入っている箱で手一杯なので、クロさんに渡す分も私が持っています。
「“別に中を見ても良い。これは色々と参考になるものだ”でしたっけ」
「参考か……あの主人は偶に妙な方向に盛り上がるからな」
「妙な方向、ですか?」
「……カーキー方面だ」
「……よく分かりました」
その一言でなんとなく察しはつきました。カーキーさんは大抵夜のお誘いを欠かさないプレイボーイですからね。
……しかし、アダルトな方面を直接言えない辺り、可愛らしいですね、ヴァイオレット。
「クロ殿の好きなチョコレート……さらにはケーキも好きだからな喜んで貰えると良いのだが。ふふ」
まぁこうして旦那さんへの贈り物を喜んで貰えるかどうかとモジモジしている時点で可愛らしいですがね。完全に恋する乙女です。……本当に私は彼女を何故登場キャラとしてしか見ていなかったのかと思うほどに、可愛らしいです。……と、おや?
「あれ? あそこに居るのってクロさんじゃないですか?」
「!? な、え、えと、まだ心の準備が出来ていないのに……!」
可愛らしい様子に微笑み、罪悪感に苛まれれていると私は遠くにクロさんらしき男性を見かけたのでヴァイオレットに告げます。傍には……アッシュ君もいるようです。
するとヴァイオレットは慌て、顔を赤らめたり、髪を整えようとして手が塞がっているのでどうしようかと慌てたり、クロさんの姿を確認しようとしたり……この可愛らしい様子は揶揄いたくなりますね。あまりやると怒られそうですが、普段の凛々しき姿とは正反対で、何度も見たくなる可愛らしさです。
「……? あれは……」
そしてクロさんらしき男性をヴァイオレットも視界にいれると、何故か疑問顔になりました。
それと同時にクロさんはこちらに気付き、手を振ってからアッシュ君と共に私達の方へと――あれ? なんだか違和感が……
「ヴァイオレットさん、奇遇ですね。メアリーさんもこんばんは」
「はい、こんばんは……?」
駆け寄って来た彼らの姿が近くなって行く内に、私の中の違和感が大きくなっていきます。というか彼らは……一体誰なのでしょうか。似てはいますが、アッシュ君やクロさんではないですよね……?
「初めまして。シッコク義兄様……あるいは、カラスバ義兄様だろうか? そちらは……アッシュの弟君……だろうか?」
『え?』
「話には聞いていたのだが、顔を存じていなくてな。このような形での挨拶になり申し訳ない」
そしてヴァイオレットは先程の照れは無くなり、申し訳なさそうな表情で謝罪をしていました。先程の様子から察するに、私の様に姿がキチンと見えるようになってから違和感を持ったのではなく、近付くよりも前から違うと分かっていたように思えます。
「だがこうしてこの場で会えたのもなにかの縁。よろしければ我が屋敷に招待をしようか。いや、あるいはクロ殿は知っているのだろうか? ともかくこの場ではなんであるし、時間があれば場所を変えて話でもしようか。ああ、メアリーとも知り合いのようであるから、彼女も一緒に――」
それどころか、クロさんと似ているとは思ってもクロさんとは思ってすらいない様に思います。似た特徴を持っているからご兄弟と思っているだけで、最初からクロさんとすら思っていない様に思えます。
――というより、彼らの目的は……?
私は先程違和感を持ってから念のために警戒態勢を抱いては居ますが、敵意は感じ取れません。なんというべきか分かりかねますが、単純にこちらを試そうとしているような気もします。それにしてもこの視線は見た事があるような……?
「……これは駄目だね、弟」
「……これは駄目です、妹」
そして声は本物に似ている彼らが、眼を合わせて互いに弟と妹と呼び合います。どちらも兄や姉という事ないですから、どちらも年上を気取っているだけで……あ、もしかして。
「もしかして貴方達――」
「じゃあ次はクリームヒルトちゃんだね。行くよ弟!」
「じゃあ次はクリームヒルトちゃんです。行くよ妹!」
「え、あ、ちょっと! やっぱり貴方達なんですね!」
「じゃあねメアリーちゃん! 【トラベルウィング】!」
「待ってください、シュイ、イン! 貴方達が何故――」
私の静止は空しく、一定の場所へ一瞬で羽ばたいて移動する錬金魔法特製の道具を使用し、翼を生やして何処かへと飛んでいきました。
……ああ、もう。ややこしいですね。
「メアリー、今彼らはシュイとインと呼んでいたが知り合いなのか? ハートフィールド一族やオースティン一族関係……ではなさそうだが」
「……ええ、違います。ほんの一週間程度ですが、昔会った子達です」
「そうなのか。……なんだか妙に疲れているようだが」
「ええ、ちょっと。あの子達の生みの親とは短くも色々と浅からぬ縁なのですが……少々変わっておりまして」
「ふむ?」
その男性は、尊敬もしていますしあのようになりたいと思いはします。
ですが人格面に関しては少々変わっておられて、ちょっとばかり相対すると疲れるのです。
「どういう奴らなんだ、あのシュイとインという者達は」
「いえ、彼・彼女らは良い子なんです。ただ主が……倫理面が少々危うかったり、興味だけで生きている方なんです……」
「そうなのか……手配などは大丈夫か?」
「手配すると捕まえようとした人たちが心配なので、止めたほうが良いかと」
「……そうか。それで……誰なのだ?」
ヴァイオレットの慣れはしているのだけれど、疲れはするという表情を伴った問いに、私は気まずくもその方の名前を言います。
「私やクリームヒルトの師匠――ゴルドさんです」
そう、私達が使う錬金魔法を教えてくださった師匠、ゴルドさん。
私なんかより遥かに優れた錬金魔法を使う男性。カサスだと設定として出てきている方です。
「……あの、錬金魔法を使う、各地を飛び回っているという?」
「はい」
「性格面に問題があり、問題を多く起こし、身柄拘束をすると王国から報奨金が出される、あの?」
「……はい」
「……そうか」
私の言葉にヴァイオレットは少々疲れた表情になっていました。
ごめんなさい、ヴァイオレット。折角楽しみにしていたのに、余計なケチが付いてしまいましたね……
「……ところで、今の彼・彼女らをクロさんとは思わなかったのですか?」
「なにを言う。クロ殿と彼らは違うだろう?」
「……そうですね。なんというか……」
「?」
私の疑問に、そもそも一瞬も本物と思っていなかったであろうヴァイオレットを見て、私は思うのです。
「……愛の力ってやつなんですね」
「急にどうした」
「貴方達の夫婦仲は良いという事ですよ」
「嬉しいが、急にどうした」
「照れないでください吹っ飛ばしますよ」
「えっ」
備考1
ヴァイオレットはカラスバを学園などで見かけた事は有りますが、クロの弟としては認識していないので顔を知っていない、と言っています。
備考2
時系列が前後していますが、この話はシアン達の前の話です。
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