追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

紺と雪白と黒の出会い_2(:紺)


View.シアン


 シキ来た次の日にシキをうろついて分かった事は、思ったよりも楽しそうな領民と、色々なの兆しが見えるという事だ。
 今まで修道女が居なかったらしく、珍しそうな表情で色々と挨拶をされるのだが、思ったよりも明るいのだ。流刑地に近い土地なので、荒れていたり元の領民は敵対心に溢れていたり、排他的な風習があるモノだと思っていたのだが、思ったよりも明るく接してくれる。裏はあるようには思えない。
 公共の施設らしきものは所々放置されたような雰囲気はあるものの、何処となく直そうとしていたり人々が過ごしやすいように改良する動きがあるように思える。

――……想像していたのと違う。

 背信者と評される私の事情を知らないので接してくれているのか。表では友好的に接してくれているだけなのか。
 どちらにせよ思ったよりも“良い”雰囲気だ。
 先輩から聞いた「辺境・田舎は独自の文化を持って余所者に厳しい」というのも合わせて警戒はしていたのだけど、どちらかというと「辺境・田舎だからこそ柵が少なく朗らか」という類の場所という事なのだろうか。

「新しい領主さんが頑張ってくれていてねぇ」

 とある初老の女性に聞くと、そう答えられた。なんでも今年の初めの方に来た新しい領主が頑張っているという。確か神父もそんな事を言っていた気がする。

――良い領主……貴族、ねぇ。

 別に全ての貴族があの場所に居た貴族だとは思っていない。偶に見た祈りを捧げる貴族などは私達に良くしてくれる貴族も居た。

――クロ・ハートフィールド。私の一つ上の男の男爵……

 シキの領主に就任する前の話だと、暴力事件を起こしたとか、女に手を出しまくったとか、禁止されている奴隷の売買を行っていたなどの噂があったらしく、当初は前領主の事も有り警戒態勢だったらしいが今ではこのシキで頑張ってくれているとの事。
 ……少しだけではあるが、興味は出てきた。
 もしかしたら私と同じで冤罪……とは違うが、なにかしらの勘違いから不名誉なレッテルを貼られているのかもしれない。
 そう思うと私は領主邸の場所を聞いて、クロ・ハートフィールドが居るだろう領主邸に足を運んだ。

「うわ、立派な屋敷……」

 そして領主邸に着くと、思った事がそのまま口に出てしまうほどには立派な屋敷であった。シキの教会と同レベルでは無いだろうか。
 ……つまりは、権力の象徴として建物を立派にしているのだろう。前領主とやらがシキから巻き上げて無理に建てたのかもしれない。

――そうなると、従者とか多く居るんだろうね。

 立派な屋敷に、貴族。ならば従者も多く居るだろう。
 そんな所に行ったとして、一介の修道女に過ぎない私に会ってもらえるのだろうか。もしくはこういった土地だからこそ挨拶をせねばならないのだろうか。
 ……迷っていても仕方ない。一先ず挨拶だけをはしておこう。門前払いを喰らったらその時はその時だ。とにかく呼び鈴でも鳴らして――

「クロさーん! すまぬが――ある――がー!」

 呼び鈴を鳴らそうと扉に近付くと、ふと屋敷の裏手の方から声が聞こえて来た。
 途切れて上手く聞き取り辛かったが、少女の声と“クロ”と名前が含まれる内容の呼び声は聞き取れた。もしかして屋敷内ではなく屋敷の裏に居るのだろうか。

――裏手に行けば、クロ・ハートフィールドがどんな男か見る事が出来る……?

 あまり良くない事ではあるが、こっそり見にいけば対来客用ではないクロ・ハートフィールドを見る事が出来るかもしれない。
 男相手だと警戒心を抱いて行動してもおかしくはないと私は学んでいる。それに気配を消しての行動は得意である。【認識阻害】や【空間保持】などの魔法は得意では無い上に、発動の魔力を感じ取られたら面倒だ。このまま侵入とさせてもらおう。
 そう思った私は、声のした方へと足を運んだ。

――確かこの辺に……あ、居た。

建物の壁に沿って歩いて行くと、丁度私が建物の影で隠れられる場所で誰かを見つけた。
そこに居たのは、三名の男女。
一名は執事服を着た灰髪の少年。幼さが残った、身体の線が細い子供。年齢は確実に一桁だろう。
一名は先程の声の主であろう、黒髪の給仕メイド服を着た少女。少年よりは年上だろうが、十歳になっているかどうかも怪しい少女である。
 そして……

――あれが、クロ・ハートフィールド……

 そして、黒い髪に碧い目の男。身嗜みは派手では無いモノの何処か気品を感じさせる身嗜みに、155cmより高い170前半から中頃の身長。
顔は……神父と比べると魅力にはかけるが、それなりに整っている。優れているのではなく、整っている。身嗜みに気をつけているから落ち着いているという――あれ、なんで今ナイト神父と比べたのだろうか。……まぁ良いか。
 それよりも分かる事は……

「どうしたんだ、アプリコット? ミミズでも出たか?」
「そんなもので怖がるぼ……我ではない。除草作業をしていたら服が……」
「ん? ……ああ、破れたのか。結構いっているな」
「すまぬ。せっかくクロさんが我のために着やすいように……む」
「気にするな。女の子の成長期的には今頃だからなぁ、すぐ駄目になってしまうもんだよ。……時間的に丁度良いし、今日はこの位にしておこうか。新しく調整するから、今の服は脱いで別のを着ていてくれ」
「分かった。……着替えるついでに、汚れを落とすために風呂でも入るか」
「で、では……私めはお風呂をわかしてまいりますので……」
「助かる。我は着替えを用意する。……あ、そうだ。皆が汚れているのだがら皆で入ろうか?」
「良いのですか!? 是非入りたいです!」
「……アプリコットも十歳なんだから、成人した男と入るのは……」
「駄目……なのか。皆で入る方が楽しいのだが……」
「う、そんな目で見られると困るが……だが――」
「それに……」
「ん?」
「私めはお風呂場の掃除をして、タオルや髪を整える道具を準備しますね! では失礼します、クロ様、アプリコット様! より綺麗に髪をセットしますからね!」
「……ようやく我達にも心を開くようになって明るくなり、誰かのお世話をするのが楽しい彼のためにも、皆で入るくらいよかろう?」
「……そうだな。というか、その一人称気に入ったんだな」
「ぼくより我のほうが格好良いからな!」
「だよなっ!」

 私が居る方とは逆方向に行く少年と、それを見送る青年と少女。
 上手く会話の内容は聞き取れなかったが、やはりと言うべきかあの男は……

――やはり女児愛好家ロリコンかつ男児愛好家ショタコン……!

 話している内容は聞き取れないが、不安そうな表情をした少女の頭を撫でてニヤリと笑って(※笑顔)、服を脱がそうとしてお風呂に一緒に入るときた。
 少年はともかく、あの年齢の少女は独りで入っても問題ない程度の年齢だろう。それなのに一緒にお風呂に入るなど。
 血の繋がった家族などならば不思議では無かろうが、あの男と少年少女が血が繋がっているとは思えない。
 そもそもあのような年齢の少年少女を従者として従えるなど――いや、もしかしたら行き場の無い少年少女を引き取って、心を解している最中なのかもしれない。
 だから心を開くためにああやって触れ合いを大切にしている、という事も有るかもしれない。
 普段であれば貴族相手にそのように思わないけれど……

――あの男、一緒に除草作業をしていた……?

 あのクロ・ハートフィールドという男は少年少女と同じように土で若干汚れている。恐らく一緒に庭の手入れを行っていたのだろう。従者に任せず、一緒に行っているという事はもしや庶民派な貴族なのかと思ってしまう。
 そう思うと、単純に子供の従者相手に仲良くしようとしているだけかも――

「それでは、我達も戻るとしようか。――よっ、と」
「待たんか。ここで脱ごうとするな。中に入りなさい」
「いや、実は服が結構破れて、抑えて無いとめくれて妙な感じになるのだ。ならここで脱いで除草道具と共に持った方が気持ち悪くないと思ってな」
「女の子なんだから恥じらいを持て」
「ここには我達しか居ないし、我の身体を見た事は何度もあるだろう?」
「前にお風呂に皆で入った時とか、測る時に見ただけだろうが。グレイに任せるか自分で測ってもらおうとしたのに……」
「仕方あるまい、測る時彼は数字を読めなかったのだからな。それに我の裸を見ても別になんとも思っていなかっただろう? ふ、我も知らぬ身体の特徴を余す所なく見られたからな」
「その言い方やめい。服を作るためだけにしか使ってない」
「成長した事であるし、もう一度測る必要があるが……測るか? BP間やBP下がりを測ったりミドルヒップを測り、望むのなら裸になるが――イタッ」
「大人を揶揄うんじゃない」

――いや、やっぱり変態だ!

 外で少女で上半身裸(※シャツを着ています)にして辱めようとしたばかりか、身体の特徴まで知っているという言葉が聞こえた。これはいわゆるイン先輩が好きな本に出てきた“調教済み”というやつなのだろう。
 やはり変態。平民とは一味違う趣味を持っているという事なのだろう……!
 危険だ。領主としての働きはよくても、少年少女に毒牙をかけるならばどうにかせねば。
 だけど情報不足のままツッコむわけにもいかないし、殴って解決するような簡単な事でもない。
 それに助けたりする事が救いになるとは限らない。
 善悪の境界線なんて曖昧なのだから、私にとっての善が、少年少女にとっての善とは限らない。
 それになにより……

――アイツ、強い……!

 見ただけで分かる。あの男は強い男だ。
 重心や足運び、正中線のブレなどを見て、今まで私が見て来た誰よりも強いという事が分かる。
 私とて格闘に覚えはあるが、あの男に策も無しに真正面から挑んでも勝つのは難しい。魔法は分からないので、その差で勝てるかどうかだろうか。
 仮に力でねじ伏せれば解決する問題だとしても、今この場では動く事は――

「……ところで、なんの用でしょうか、そちらに居るお方」

 動く事は出来ないのに、クロ・ハートフィールドはカマかけでもなんでもなく、明確にこちらの存在に気付いて声をかけて来た。

――気付かれていた、か。

 気配を消していたつもりだったけど、それ以上に相手の察知能力が優れていた。
 ここで逃げても追いつかれるだろうし、悪手である。
 領民にはよく振舞っているようであるし、流石に初対面の相手にどうこうする気は無いだろう。
 ならば素直に出ていき、挨拶をしたほうが良い。そう判断した私は、建物の影から姿をだした。

「……はじめまして。挨拶に伺っただけど、声がこちらから聞こえてきて。隠れるつもりは無かったのだけど……この度昨日シキの教会に赴任した、シスター・シアン・シアーズよろしく」
「ああ、そういえば来ると聞いていましたね。……あれ、でも明日じゃ……」
「予定より早まっただけ」
「そうですか。ああ、すみません、汚れた格好で」

 私が敬語を使わない上に、訪問予定も無い相手にもにこやかに接してきた。
 ついでに上半身が裸の少女の身体を隠すようにさり気無く移動している。
 というかこの男は一介のシスターの赴任日時まで把握していたのか。単純に連絡が言っていただけかもしれないが、律儀に覚えているとは。

「……あの、シスター服が破けています。差支えが無ければ縫いましょうか?」
「やかましいこれはファッションだ」
『えー』

 クロ・ハートフィールドと少女は、昨日の神父のような反応と同時に妙な目で私を見て来た。なんだその反応は。そんなに変だろうか。
 それに貴族に裁縫の技術があるとは思えないし、縫うとか言って脱がせるかもしれないし。
 あと……別に良いじゃないか。この格好スリットは動きやすいし、可愛いじゃない。何故分からないの。





備考
この頃のクロは中二病が再燃しています。そのため「我」も良い感じに思ってます。

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