追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
とある少女達の〇談_1(:紺)
View.シアン
私達は温泉の壊れた仕切りの材料を採りに来たという名目で、シキの外れで簡易的な宿泊場所を作って泊まり込みの依頼を受けていた。
メンバーは私、クリームヒルトちゃん、ヴァーミリオン殿下ことリオン君、バーガンティー殿下ことティー君、そしてその護衛という扱いになっているエフちゃんの五名だ。
本来は距離的に泊まるほどの距離では無いのだが、経験を積ませるために泊まり込みだ。
経験、ようはティー君の冒険者としての経験である。材料を採りに来たのとは別に、討伐依頼も受けているのである。
そして護衛としてエフちゃんも共に来ており、神父様の代わりに私も一緒に来ている。
リオン君は監視役。ティー君達がきちんと出来ているかを監視し、成長したかを見守るらしい。わざわざついて来る辺り意外と過保護なのかもしれない。……あるいは、恋愛とは違う意味で気になっている誰かを観察するのを誤魔化すためかもしれないけれど。
リムちゃんはリハビリという名目だが、ようはクロが忙しいので構って貰えず付いて来ている。クロも最初は今のリムちゃんが依頼を受けようとする事に否定的であったが、私が居るならとクロの許可を(若干無理矢理に)得たのである。
――それにしても、凄い面子。
王族がこんなにも多い冒険なんて滅多には無いのじゃなかろうか。一応は身分は誤魔化してはいるが、シキに行けば「王族が来ている」という情報くらいは得られるだろうし、私が暗殺者であればこの機は絶対に逃がさないというほどの状況である。
その分私もリムちゃんも気を使ってはいる。……とはいえ、護衛対象自身が並の相手では問題無いほどの強さがあると言えばあるのだけど。
しかし油断も出来ない。
今はリムちゃんとエフちゃんと私の女性陣で夕食後の談笑をしながら、仮眠をとる男性陣を守る形で見張っているが、周囲は黒く、場合によっては反応が遅れるから気をつけなければならない。
「うー、まだまだ夜は寒いねー。エフちゃん、寒くない?」
「私は……大丈夫……貴女は……?」
「あはは、大丈夫! 私は寒さには割と強いよ! ……うーん、でもこういう時は人肌で温め合う、というシチュをよく見るし、実践したほうが良いのかな……? ……リオン君行けるかな」
「やめなさいリムちゃん。本当にする気はないだろうけど」
――……けど、気を張りすぎても心配されるし、談笑も必要だけどね。
警戒はする。けれど話してコミュニケーションをとる事も大切だ。
夜、そして外。泊まり込む前のささやかな高揚。
緊張し過ぎで動けないよりは、少しリラックスした状態も重要なので、軽く談笑するくらいは良いだろう。
それに、こういう機会じゃないと話せない事も有るからね
「あ。そうだ。……男性陣が眠っている内に聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
「良いよ?」
「同性じゃないと……話せいない事……?」
「うん、そうなるね」
男性陣が起きていると話せない事……恋愛関係とか、服装とか身体の悩みだろうか。
まぁどんな事だろうと、私に答えられる事なら答えよう。
「ねぇ、聞きたいんだけど、夜の行為の時って女性ってどんな声をあげるモノなの?」
「ごふっ」
そしてリムちゃんからとんでもない事を聞かれた。私は突然すぎて飲んでいた温かめた東にある国の紅茶を噴き出し掛けた。
「けほっ……!」
「大丈夫、エフちゃん?」
「だい……じょうぶ……!」
同じようにエフちゃんも飲みかけの紅茶を噴き出し掛け、咳き込んでいる。
エフちゃんはそのての教育は避けられていたのか、されていても耐性が無いのか顔が少し赤かった。私も多分一瞬同じように顔を赤くしていたと思う。
「コホン、急にどうしたの、リムちゃん」
しかし私は年長者。この程度で慌てて顔を隠している場合じゃない。私は気を取り直して何故そんな事を聞いたかを聞く……あれ、この場合私が年長者で良いんだよね……?
リムちゃんの方が上に……い、いえ、私の方が年上だ。この世界では最年長なのだから私がしっかりしないと。
それにもしかしたら夜の行為とは私達が想像しているモノとは違うかもしれない。レイちゃんのように、別のなにかをそう表現している可能性も……
「あはは、私の好きなチョコが媚薬っていう話を聞いて思いだしたんだけどさ。夜の男女の営みの時ってどうするものなのかな、って思って」
うん、勘違いでもなんでもないね、これ。
そもそもレイちゃんのように勘違いした表現をする方が珍しいんだ。
「でも……声って……どういう意味……?」
「うーん、なんて言うべきなのかな。私が前にいた世界と今居る世界って、そういった文化も違うのかなーって思ってね」
「……? クリームヒルトちゃん、別の国出身だったの……?」
「ちょっと違うけど……首都とは違う文化のある地方の田舎出身ってことだよ」
流石にエフちゃんに対して前世云々の話は今はしないようだ。急に話されても困るだけであろうから、間違ってはいないのだろうけど。
「でね。私としても経験は無くとも多少の知識はあるんだけどさ」
「う、うん……」
「それとは別に知識として知っている別の国の夜の行為があるんだけど、実は私が知らないだけで、この王国とかでも同じような感じなのかなーって思ってね」
「ええと……」
「ごめんね、エフちゃん。分かり辛くて」
ええと、つまり前に居た世界で、リムちゃんが住んでいた国と外国では違う……夜の文化があり、リムちゃんからみた外国の文化が私達の今居る王国と似通っている、という事だろうか。
だけどそんなに違うモノなのだろか? 私は生憎とこの王国を出た事がない上に、そういった行為は上層部に集団でされそうになって避けてきた身である。正直よくは分からない。
「私達の国ではそういった事をする時は、演技をするのは失礼で、“あーん”みたいな声を感情を押し殺している感じでするのが相手を喜ばせるらしいんだけどさ」
「う……うん……」
わぁエフちゃんが物凄く顔を赤らめてるー
……お陰で私は落ち着けているけど。ごめん、エフちゃん。
「私の知っている国だと、“オーマイガッ”とか“ヘイヘイカマーン!”みたいにノリノリで楽しむものらしいんだけど、実は王国でもそういうモノだったりする?」
『…………』
え、そんな国あるの?
だけど実はそういう風にするのが一般常識であったりするのだろうか。それともリムちゃんの知っている国だけ……?
「正直私がしている所なんて想像できないけど、知識としては知っておきたいんだよね」
「ええと……」
答えられるのならば答えたいが、正直私はそういった話題とは離されて育てられてきたし、シキに来た後も避けて来たから答える知識がない。
……実は神父様もそういう風にした方が喜んだりするのだろうか。楽しんだ方が喜ばれたりするのだろうか。私達にはまだ早いとは思うけど、いずれ……………………はっ、イケない。私は修道女。神父様は神父様。そういった不埒な事を考えて悶々とするのは良くない。教え的にも良くない。別に禁止されてはいないけど。
「……すぐ使うかもしれないし」
あれ、今リムちゃんがなにか言ったような……?
私とした事が修道女としてあまり良くない事を考えていたせいでなにか大切な事を聞き逃してしまった気がする。
それよりも今はリムちゃんの疑問に答えないと。……答えようにも私の想像になるけれど。
「そ……そうだよ……!」
「え、エフちゃん?」
そどう答えるか悩んでいると、顔を赤くした状態のままエフちゃんが何故か認めた。
……もしやエフちゃんは経験が!?
「どんな時でも……楽しむのが……いいと……一番上のお兄様も……仰っていたから……楽しむのが正解だよ……!」
「つまり……?」
「私達女性陣は……男性を喜ばせるために……“カマーン!”する演技を……磨かなければ……ならないという事……!」
「なん……!」
「だと……!」
私達はエフちゃんの言う事実に衝撃を受けていた。
確かに何事も楽しいことが良いというのは共感できる。ならばエフちゃんの言う事は正しいのだと思う。
……私達はそのような事をしなければならないと言うのか。なんという事だというのだろう……!
「……ちなみにエフちゃん、経験は?」
「……ない……!!」
今までにないほど力強く否定した。
……まぁエフちゃんの本来の立場的に、そういった事は避けられてきただろうからね……
こういう時に母親とかいれば良いのかもしれないけど、私は捨て子だし、拾ってくれたシアーズ家はもう私だけだし聞く相手が居ない。リムちゃんやエフちゃんも似たような者だろうから……少なくとも今は妄想でしか語れない。
「……こういうのは同世代じゃないと聞き辛いから……帰ったらイオちゃんにでも聞く?」
「あはは。……私に兄の性事情に関する事を聞けと?」
いつも明るいリムちゃんが今までに無いくらいの真剣な声色で拒絶を示していた。
「そもそも私の言う経験があるのか微妙だし……エフちゃんも分からない? さっき兄って言っていたし、お兄さん居るんでしょ?」
「………………うん、聞きたくない」
……私には兄弟が居ないので分からないが、そういうモノなのだろうか。
「まぁ聞いても良いけど。揶揄う種になるし」
「良いんかい」
「ディープじゃなきゃ良いよ。兄妹ってそんなものだよ」
「……そうなの、エフちゃん?」
「……そうだよ……?」
「疑問形なんだね」
「――――フフ」
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