追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

仕事をこなすにあたって_3


自警団【ナナイロ】


「ワシは自警団リーダー、アカ!」
「フッ、自警団参謀、アオ……!」
「わたしは自警団参謀、キなり……」
「我は自警団切り込み隊長件紅一点、モモ!」
「くくく、自警団参謀ミドリなり……!」
『我ら五名揃って、シキ自警団ナナイロ!』
「あ、はい。以前の調査の時少しお会いしましたね。というか参謀多くないですか?」

 自警団【ナナイロ】。基本は戦闘能力がある面子が持ち回りで警護にあたったりするが、この面子が自警団として警備を主に行っている。
 戦闘能力は一番弱いが言葉で言いくるめるリーダーアカさん(88歳)。クールを気取って氷魔法を好むが氷魔法は苦手なアオ。自称霞を食べて生きているキさん。筋肉こそ正義な唯一の女性モモさん。狂気を気取っているが根は善良なミドリさん。
 一応シキでは頼れる自警団である。

「皆さん、来年度の予算案について調整するために、活動記録を――」
『渡してほしければ我らを倒してからにしろ!』
「ええー、彼ら自警団なんですよね……?」

 ……一応、シキでは頼れる自警団である。こうやって戦闘を仕掛けて平和を乱そうとしているが。

「今度こそキサマに我が――グホッ!?」
「くくく――ぐはっ!?」
「氷ま――がっはぁっ!?」
「霞よ、私に――ぐっ!?」
「え、ええ!? クロ子爵、躊躇いなく行きましたね!?」
「やらなきゃやられますし」

 よし、アカさん以外全員倒したぞ。一撃必殺、無力化に成功した。

「アカさん、渡して貰えますか?」
「ほっほっほっ……若い者にはまだまだ……!」
「妻と子との大切な時間を潰すのなら容赦しませんよ。痛みだけを与える方法には長けてるんです」
「ほっほっほっ……はい、こちらになります領主さん。暴力はイケませんよね」
「まったくですね」
「どの口が言うんですか……」







 黒魔術道具屋【ウツブシ】


「猫の名前を付けるなんて、愛猫家なんですね」
「愛猫家というか、愛妻家というか……」
「はい? ともかく、道具屋をやってたんですね、彼」
「一応収入はそれで得てますからね。趣味な店らしいですが」
「その通りだよ、アッシュの坊や。そしてクロも領主の仕事ご苦労さん」
「え、初めまして……ですよね?」
「あ、どうもウツブシさん。今日はパンダの姿なんですね。オーキッド居ます?」
「え、ウツブシ? パンダ?」
「夫は奥で休んでいるよ。ちょっと疲労困憊なものでね」

 奥? 休憩中?
 今はウツブシさんは人間パンダ状態で、なんだか前見た時よりは血行が……よし、触れないでおこう。

「はい、これが今日提出の資料だよ」
「確認します。…………はい、問題ありません」
「あ、それとこれをあげるよクロ」
「はい? ……え、手のひらサイズのウツブシさんの人形?」
「クリームヒルトに上げたまえ。彼女、パンダ好きだって言っていたからね」
「ありがとうございます。……ですが、何故ウツブシさんの姿そのままなんです?」
「…………夫が、パンダでと言えば私と譲らなくてな」

 あ、ウツブシさんが可愛らしく照れてるな。
 多分別の姿にしようと言っても聞いて貰えなかった、といった感じっぽいな。夫婦仲はよさそうだもんな、彼ら。
 だが本当に可愛らしい人形だな。今にも動きだしそうで――

「あ、ちなみに黒魔術の力で動くそうだ」
『ワタシハ、ウツブシダヨ!』
「うおっ、跳ねた!?」
「夫の黒魔術の力らしい。魔力を込めると今みたいになるそうだ。……外してくれと言っても、聞いてくれなかった」
「可愛らしさを損なうなんてとんでもない、とか言いそうですね」
「……その通りだよ」
「あの、夫とかどういう意味です? というかその人形なんか歩いているんですが? 猫に変化しているんですが? どうなってるんです?」







 医療施設【怪我&治療】


「怪我をしていないのなら帰れ愚患者共」
「いきなりですね」
「いつも通りです」
「会話をするなら怪我をしろ」
「滅茶苦茶ですね」
「いつも通りです。アイボリー今日提出の資料あっただろ。それを渡せ」
「ああ、あれか。――ほら、これだ」
「はいはい、拝見しますよーっと。…………………………よし、大丈夫だ」
「大丈夫ならさっさと――ああ、いや待て。これをやる」
「? 薬か、珍しい。だがなんの薬だ?」
「胃腸を整える薬と甘いものを食べ過ぎた時用の薬だ。薬と言っても食品に近いがな」
「? 何故急に俺にそんなものを?」
「いいから持っておけ」
「分かった。……飲めば怪我をする薬を開発した訳では無いんだな」
「……はっ!?」
「待て、その手があったなみたいな表情をするな。冗談に決まっているだろうが」
「そんな薬があったら幽閉ものですからね」







 キノコ屋【キノコは友達!】


「誤字八か所、計算違いは計算箇所全部だ」
「エルフ文字だよ!」
「…………」
「あ、はいごめんなさい、書き直します。……キノコに囲まれて過ごしたいのに、なんでこんな資料を……」
「好きな事をするためには嫌な事もしないと駄目なんだよ。楽だけでどうにか出来るなら、自分の世界に閉じこもって自分だけを納得させて自己完結すれば世界がそれで完了する訳だが……」
「……嫌だね、そんな世界。あ、ごめんクロ。この計算って……」
「ああ、この最初の方でミスっているんだよ」
「あ、本当だ。ごめんね、迷惑をかけて……」
「別にカナリアにも助けられてるから問題無い。それに、昔と比べたら成長しているじゃないか」
「クロの教えが上手いからね」
「そりゃどうも」
「あ、後でキノコあげるよ。私が持っていくとコケて大抵が痛むし、持って帰ってくれると嬉しいかな」
「おう、いつもありがとな」

「…………仲が良いんですね、彼ら。……元は主人と奴隷の関係、ですか。……姉弟にしか見えませんね」







 肉体を誇る変態&肉体好きの変態


!」
ヴぃ!」
Biぃい!」
Viぃぃぃぃいいいい!」

「……あの、クロ子爵?」
「触れてはなりません」
「肉体を見て喜んで――シャルの母君が――」
「見てはなりません」
「裸でポージングを……子供に悪影響と猥褻物陳列罪……」
「一応大事な所は隠していますし……周囲に誰も居ない所を選んでいるっぽいですから。触れぬが吉です」
「……若くして大魔導士アークウィザードで、憧れがあったんですがね……」
「……忘れましょう」







「――よしっ、今日の外での仕事はこの程度ですね」

 資料の回収ついでの各店の様子の確認。公共の場合は来年度の予算案の確認。
 領民と話して不満点や不具合が無いかの確認。
 ともかく目や口で直接確認した方が良いと思う外での今日の仕事は一通りこなした。
 後は屋敷に戻っての仕事だが……

「アッシュ卿。屋敷に戻りますが、よろしいでしょうか?」

 俺はアッシュに確認をとる。
 後は屋敷での書類仕事程度であるし、夕食時も近い。今日の仕事でアッシュのいう俺の仕事から学びたい事があるという件は叶ったかは分からないが、別れるタイミングとして切り出せるようにそれとなく聞いてみた。

「分かりました。戻りましょうか」

 どうやらまだ仕事を見たいようだ。
 それ自体は構わないのだが、ヴァーミリオン殿下を連れ戻しに無理に学園を休んできているのに、こんな事をしていて良いのだろうか。……今更な気もするが。

「しかし、貴方は慕われているのですね」
「そうでしょうか。そう思われるのは嬉しいですが、領主って陰で嫌われている事が多いですから、分かりませんがね」
「慕われていなければ、あのように色々貰えませんよ」
「……まぁそうかもしれませんが」

 よく思われているのならば素直に嬉しいモノだ。別に表ではにこやかにして陰口を叩く相手しか居ないとは思ってはいないが、素直に認めるのはなんか恥ずかしい。

「皆さん楽しく生きているように思えます。それも皆、領主あなたのお陰なのでしょうね。前世でも纏めていたようですし、やはり経験が必要なんですね」
「そこまで言われると照れますね……ええと、先程愚痴は零しましたがアイツら……前世のアイツらもただの変態ではないんです」
「と言うと?」

 親友兼友人は、デザイナーとしての腕は素晴らしいし、服をこれ以上に無い仕上げをしたと思っていたら、帰って来てひと手間加えて完成度をあげたり。
 若い男の香り好きは、社の主力となるような女性から人気の下着をデザインし続けたり。
 夫を裸にする同僚は、あらゆる方面に対応したデザインを作る。
 女装後輩型紙師パタンナーは、仕上げのスピードに関しては俺の何倍も優れていた。

「――とまぁ、そんな感じに、それぞれに一般的に認められにくい性癖があっても、それを補うほどには優れていましたから」
「ほう……つまりは、貴方がしているのは優秀な点を発揮させるための補助、という事でしょうか」
「そうなりますね。私は場を整えるだけです。他者を傷つけるような内容なら許せませんがね」

 自分を貫くには心の強さは居るし、その自分を貫く強さを有しているなら文句はない。
 ただ強いだけで周囲に迷惑をかけ、なにも生み出さないのならば俺はその強さに文句は言うが。

「ですから、なにか目標があったり、楽しそうなアイツらを見ていると、俺も嬉しいんです。そういった楽しさを見つけたり、目標を見つけると。自分に出来る事をしよう、となると思いますから」

 ……まぁ偉そうには言うが、俺も最初の方はてんやわんやで楽しむとかなんて出来なかった訳だが。――って、しまった。アッシュの前で一人称の素が出てしまった。……今更かもしれないから、別に良いか。

「……成程、貴方はそういった事に向いているのですね。貴族としてはこのような形もある、という事でしょうか」
「そう思って頂ければ幸いです。……今は妻や子もいて、この日常を守りたいと思い、楽しめるようにはなっています。アッシュ卿もメアリーさんと――」

 と、屋敷に戻りながら色々と話していると、

「クロ殿ー!」
「アッシュ君ー!」

 会話に出てきたヴァイオレットさんとメアリーさんの声が後方から聞こえて来た。
 その声に俺達はそれぞれの好きな相手の声に自然と嬉しさから笑顔が出ながら、振り返る。
 そこに居たのは――

「クロ殿、実は渡したいものがあるんだ」

 なにか甘い香りを漂わせる箱を持った、紫色の長い髪に蒼い目の彼女が、なにか照れながら、そして何処かワクワクしているような期待を込めた表情でそこには居た。





備考:シキ自警団メンバー紹介
アカ
自警団リーダー。88歳。
言葉だけでまとめ上げている。言霊魔法を覚え乱用したら多分手に負えない。

アオ
自称クール。寝ぐせは取れていた事は無い。
ボタンのかけ間違いなど、基本なにかドジをしている。
炎魔法が得意だが、氷魔法を無理して使う。


食事をほぼせず、霞を食べて生きている。
霞を食べ過ぎて最近太り気味らしい。

モモ
190cm120kg。座右の銘は「一撃必殺」。自警団の剛一点(誤字に非ず)
魔法無しの戦闘ではクロやシアン、クリームヒルトには劣る。

ミドリ
マッドを気取っている善良な小市民。
アプリコットとは仲が良いが、周囲の目を気にするので恥ずかしがってすぐ逃げる。

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