追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
よくある温泉混浴ハプニング_1(:偽)
View.メアリー
「ふぅ」
私は夜のシキを、一人で歩きながら疲れを感じながら小さく息を吐きました。
疲れている理由は先程の話についてです。
私達を連れ戻しに来たシルバ君やエクル先輩、そしてスカイ。彼らに私も転生者だという事を話したからです。
ヴァーミリオン君達には受け入れてもらえましたが、全員に受け入れて貰えるとは限りません。二回目という事で最初よりは緊張しながらも上手く話せたとは思いますが、実際はどうかは分かりません。
シルバ君は一番驚いたリアクションを取り、エクル先輩は……落ち着こうとしていましたが、何処か慌てているような様子で聞いていました。スカイはいつもの様な真面目な表情で聞いて……いえ、一度だけ何故か「クロお兄ちゃんと同じ……羨ましい……!?」と小声で呟いていましたが、なんだったのでしょう。
ともかく話して――なんとか、受け入れられる事は出来ました。……そう願います。
――ちょっと、疲れましたね。
なんとか受け入れられましたが、話す事に思ったよりも精神を使っていたのか、私は少し疲れていました。
同時に話す事に熱があったのか、身体を覚ますためにこうして外を歩いているのですが……ちょっと長い事歩き過ぎましたかね。肌寒くなってきました。
――そういえばこの辺りに温泉がありましたね。
そして私はふとこの近くに温泉がある事を思い出しました。
今なら温まるのも良いかもしれません。そして精神を一度リセットしましょう。
以前は皆さんでワイワイと楽しみながらの入浴でしたが、この時間なら私だけで独り占め出来るかもしれません。それはそれで楽しみです。
――タオルなどは錬金魔法で作りましょうか。
私は少し鼻歌交じりに温泉の建物へと歩を進めます。
前世も含め、学園に入るまでは基本身体を拭くだけで、湯船につかるという事はあまり有りませんでした。特にそのことに不満は無かったのですが、今世でお風呂に入るという事はこんなに気持ち良いものだと知ってから、お風呂は大好きです。
身体全体に温かいお湯がじんわりと広がっていくあの感じが好きです。正直温泉とかお風呂は、漫画やゲームなどでのハプニングが起きる場所、と言う程度に認識しか有りませんでした。そう、ハプニング。少年・青年系だとラッキーな……
――胸に飛び込まれたり、裸を見たり……
ふと、今日起きた事を思い出して顔に熱が溜まるのを感じます。
シャル君には胸に飛び込まれました。ヴァーミリオン君の服を触ると何故か上の服が弾け飛びました。
あれもある意味ハプニングと言えるでしょう。
そして……ああいったものは実際自分の立場になると羞恥などよりも申し訳なさが勝るという事が分かりました。胸の谷間に服越しに飛び込まれた程度で恥ずかしがるほど初心なつもりは有りませんが……ごめんなさい、恥ずかしいです。
――と、とにかく温泉です!
誰にする訳でも無い言い訳を思い浮かべつつ、とりあえず温泉の建物に付きました。
誰かが居る気配は……なさそうですが、中に入って見ないと分かりませんね。私は前に来た時と“特に変わらない女湯の扉”を開け、中に入ります。
――わぁ、貸し切りです!
脱衣所に入る、とはいえ、温泉の場所と脱衣所は特に仕切りは有りません。扉を開けた時に中に見えないようになっている程度です。
そして冬場なせいか湯気が濃いですが、人の気配は全くありません。こんな広い温泉を貸し切りです!
私は妙にテンションが上がり、服を脱いで畳んでから脱衣籠に入れます。そして髪を後ろで纏めると、錬金魔法でタオルを錬金し、手に持つと、備え付けの桶を使ってかけ湯をします。あったかいですね。この時点で気持ち良いです。何故寒い時に温まるという行為はこんなにも気持ち良いのでしょうか。
誰も居ないのならばと、一瞬飛び込みたい欲望に駆られますが、流石にやめておいたほうが良いと思いゆっくり温泉に浸かります。
――ふぅ、気持ち良いですね……って、あれ、こんな景色でしたっけ?
じんわりと温かさを感じながら、私はふと景色が前と違うようなことに気付きました。というか広いような気がします……湯気が濃いせいでいつもと違って見えるのでしょうか。
女湯と男湯を間違えた……って事は無いですよね。入る前に確認しましたし。
――ならば改装したのでしょうか……あー……駄目ですね……気持ち良くて考える余裕が……ない……です……
後から思えばこの時に違和感に気付いていれば良かったのですが、この時の私は温泉の気持ちよさと他に誰も居ないと言う解放感でだらしなくなっていました。
他に誰も居ないのならばと、身体の力を抜いていき、身体を仰向けにして寝る体勢から身体を日本語で言う『大』の字にしていき、温泉に浮かぶようになります。
……この状況を見られると、同性相手でも流石に恥ずかしいので扉の方は意識しておきましょう。
――ぷかぷか……ぷかぷか……私は揺れ動く……
浮かびながら、自分でもよく分からない事を考えます。
そして温泉が出ている波で徐々に動いていくのも妙に心地良く――なにかにあたりました。
――なんですこれ。仕切りが壊れてます……?
なにに当たったのかを確認すると、それは円状の温泉を真ん中で女湯と男湯に分ける仕切りでした。
それは良いのです。ですが……どう見ても壊れてます。砕け散っています。
……湯気で見えませんでしたが、この距離だと良く見えます。
――え、もしかして今のこの温泉って……!?
のんびりしていた頭が徐々に覚醒していき、この状況を把握していくと自身がよくない状況にあるのではないかと思い始めます。
げ、原因は分からないですが、仕切りが壊れているという事は男湯に誰かが入ってきたら……
――す、すぐに出ましょう! 見られるのも恥ずかしいですが、私なんかに見られたらあちらも恥ずかしいはずですから!
私はそう判断し、すぐに立ち上がって服を脱いだ籠の所へと行こうとします。
「おお、ここが温泉ですか……」
「おや、アッシュくんは来た事なかったのかい?」
「ええ、以前来た調査の時は建物は無く、湧いているだけでしたね、今はキチンとした建物になっているようです」
「へぇ、そうなんだね。冬場な上に夜だからかな、湯気が濃いな。……曇ってなにも見えない」
「エクル先輩は眼鏡ですからね……外されないので?」
「初めての場所に眼鏡無しは眼鏡をかける者にとっての自殺行為だよ」
ですが、時すでに遅しと言うべきでしょうか。
男湯に誰かが入ってきました。二人。しかもよく知っている声です。
――ど、どうしましょう!?
私が持っているのは短めのタオル一枚。
場所は脱衣所の対角線上。
あちらはまだ私に気付いていないようですが、このままでは気付かれてしまいます……!
気付かれれば、ここは男湯だと思っているアッシュ君のエクル先輩に痴女だと思われてしまいます……! 言い訳すればどうにでもなる気もしますが、裸を見るのも見られるのもよくはないです……!
――どうすれば……どうすればいいのです……!
私は軽くパニックになります。錬金魔法も服を作るような素材は有りません。精々この仕切りの破片を使って、簡単な身体を隠す紙製くらいなら作れるでしょうが……!
――は、そうです、こういう時は!!
私はどうすれば良いかと悩み、すぐに答えを出そうとしていると、私の中である男性の言葉が蘇りました。『ダンボールは戦士の必需品だ。潜入任務において欠かす事は出来ない』と、とあるゲームに出て来る潜入においてのエキスパート、伝説の蛇の言葉を思い出したのです。
――錬金フィールド展開――構成――変換――錬金……!
そして後で勝手に使った事を謝らなければならないと思いつつ、仕切りの破片を使って私は私が入れる程度の大きさのダンボール(もどき)を作成します。
そして私は温泉から静かに出て、壁の近くで作成したダンボールを被りました。
――これでバレないはずです!
……後でもう少し良い対応があったのではないかと思ったのですが、この時の私はこれが最善だと思ったのです。
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