追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
恋愛〇番勝負_2
ヴァイオレットさんの後を追いかけ玄関まで来ると、俺が来るまで扉を開くのを待ってくれていた。
俺が来たのと、軽く身なりを整えるのを確認するとヴァイオレットさんが扉に向かって誰が着たのかを問いかける。
「私ー。シアンー、開けてー」
すると返事はシアンのものであった。
確か先程神父様が採取をする予定があると言っていて、それはある意味デートなのでは、と俺達は思っていたので、今はその最中か教会に帰っている頃だと思ったのだが。
……まさかなにか失敗して、愚痴を言いに来たとかないよな? だが寄付催促でもあるまいに、この時間に来るとなるとそれが一番可能性が高いんだよな。けどそれならチャイムも鳴らさずに乗り込んできそうなものだが。
ともかく俺は返事をしつつ扉を開ける。
「はいはーい、どうしたシアン……と神父様? ……って、シアンは珍しい服装だな」
扉を開けるとそこに居たのは、神父様と、学園祭の時にも見たパンツスタイルのシアン。基本はシスター服しか着ないシアンとしては珍しい服装だ。
そしてなにやら神父様は気まずそうにかつ、顔を少し赤くしてなにやら大きめの袋を持っている。
するとシアンは袋を指さして――
「シスター服が全部破れたの。補修して」
「なにがあった」
そんな事を言い出した。
◆
「なにがあったらこんな風に破れるんだ」
「私だって知りたいよ」
神父様が持っていた袋の中身は、全てシアンのシスター服であった。
聞けばまず外で糸の解れを引っ張ったら縦に裂け駄目になり。帰って新しいシスター服を着ようとしたら上下に分かれ、次は胸の部分が裂け、新たなシスター服を奥から神父様が取りだしたら、神父様がこけて突起物に直撃し破れた。
そしてなんだかんだ不思議現象が起こり、全てのシスター服が駄目になったそうだ。
「何着かはちょっと縫えばどうにかなるが、あとは時間がかかるな」
「簡単に補修出来る奴だけでもお願い。後は支給願い出すから」
「了解」
ようはそれが届くまでに使えるようにして欲しいという事か。
だが俺だって型紙師の端くれだ。
俺が縫った服が破れると言う状況を黙って見過ごせるか。いや、出来ない。やってやろうじゃないか……!
「む? シアンのこのシスター服……少し他と違うのは気のせいか? あまり他を見た訳では無いが、この胸のあたりが……」
「お、イオちゃん気付いた? それクロ特製なんだよ?」
「特製?」
「ほら、私達って下着着用禁止じゃない? だけどそれだとなんか胸の……筋肉に良くないから、少しでもブラの様な抑えが利くようにって、特別に作ってあるんだ」
「ほう、そうなのか……」
「まぁそれで俺が縫おうにも補修が上手く行かなかったんだが……」
「神父様のせいじゃないですよ、クロの技術が本職なだけです」
「そういえば実際に本職だったわけだからな……」
この程度ならミシンよりも手縫いの方が綺麗に仕上がるな。む、ステッチが半目ズレた。何故……ああ、ちょっと薄くなっているな。そんな事に気付かないとは腕が鈍っているのだろうか。だがすぐにやり直せばどうにでもなる。直すからにはすぐに、だが丁寧に、そして着てもなにも問題無いようにしてやるからな服!
「~♪」
「機嫌が良いね、イオちゃん」
「ああ、クロ殿が懸命に縫っている姿は見ているだけでも楽しいからな。応援したくなるし、見ていたくなる。ずっと見ていたい」
ん、なんか嬉しい言葉が聞こえた気がするが、今は集中しよう。
「ところで、先程の胸の筋肉とはなんだ?」
「えーと、なんだっけ。ノーブラだとなんとか筋に良くないとか、形が悪くなるとか……?」
「そうなのか? あ、いや、男の俺が利くのは失礼か」
「構いませんよ。えーと、たしかウー……パー……ルーパー?」
「クーパー靭帯だよ」
「え、クロ?」
俺は縫いながらクーパー靭帯という筋肉が着れたら戻らないとか、ノーブラだとホルモンバランスの変化による身体の変化とかを縫いながら説明した。
この世界でのクーパー靭帯とかホルモンバランスだとかの概念は曖昧だが、その辺りの気遣いの重要性は一応語っておいた。
「クロ、なんか変態みたい」
「変態でなけりゃ良い女性服なんて作れないぞ。前世で仮面を被ったダブルソードの偉い人が、良いモノを作るためには変態になれ、と言っていたし」
「クロの前世って凄い人いるんだね」
シキも大概だとは思うがな。
と、それよりも縫っていかないと晩御飯が遅れるな。
中途半端に終えるのは嫌だし。俺が当番では無いが、ヴァイオレットさん達は俺が縫い終わるまで待ってくれるだろうし、待たせないようにしよう。
「……神父様は形の良いお胸が好きですか?」
「ぶふっ」
「はい、ハンカチです。紅茶を拭くのにお使いください」
「あ、ありがとうヴァイオレット……というか、それどう答えても俺が変態にならないか?」
「では大きいほうが良いですか? イオちゃんみたいな。あるいはコットちゃんみたいな小ぶりが……?」
「私を巻き込むな、シアン」
「どうなんでしょう、神父様。か、彼女としては近付けるように努力しますから!」
「ええと……」
新しい部分を縫うために針と糸を取り換えて……よし、素早く縫っていかないと開いてしまうな。素早く行こう。
「…………胸に貴賤などない、では駄目だろうか。優劣を決めるのは神父としても良くないのだが……」
「むぅ……神父様ではなく、男としてはどうなんですか? クロなら多分真っ直ぐに答えてくれますよ!」
「私の夫を巻き込むな」
ちくちく、ちくちく……しゅ、しゅ、シュシュ、まーるまーるかいて、ちょん、ちょん、ちょちょん。
「クロ! クロは女性の胸は好き!?」
「好き」
「クロ殿!? あ、集中して生返事に……いや、ある意味本音……!?」
「大きいのとか小ぶりとか、色々あるけど、サイズがなにか好き?」
「大きいと服を作り辛い。小ぶりだと可愛いのは作りやすいな。だけど両方ともに作りごたえがある」
「くっ、駄目だこの男、服でしか考えていない……!」
そういえば胸の大きさ的には白が作りやすかったな。
程々で女性らしいラインを作りやすいサイズで……いや、あれは単純に大切な相手だから作りやすかっただけか。……って、あれ、なんで俺今女性の胸のサイズについて考えているんだろう。
「シアン、あまりクロやヴァイオレットを困らせるな」
「う……すみません、熱くなりました」
「いや、構わないさシアン。元々俺が日和ったのが悪いからな……だがシアン、忘れないでくれ」
「なにをです?」
「……変態に思わないでくれよ」
「?」
「俺は特に優劣を決めはしない。昔はそうだったが……だが、今好きなのは……お前の――――だ」
「――! そ、そうです、か……! えと、なんか……ありがとうございます?」
「どういたしまして……?」
「……そういった事は教会でやってくれ」
胸のサイズか……別にそれで判断する事はないが、俺が服を縫う以外で好きなサイズと言うと……
「まぁヴァイオレットさんのだよな……綺麗だし……」
「へ?」
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