追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

恋愛■■-悪■令■の断■(:菫)


View.ヴァイオレット


「ところでエクル達は何故シキに?」

 クロ殿に私とスカイの腹を触らせようとする一連の行動の後。私達は改めて座り直して気になった事を聞いてみた。
 クロ殿は結局軽く触れただけになったが、触って貰えて不思議な感覚はしたし、照れて可愛らしいクロ殿も見られたので満足だ。結局どちらが良いかはエクルに止められて聞けなかったのと、スカイも恥ずかしがってはいるが少し満足したような表情だったのは心残りであったが、それ以上に満足もあった。

「ああ、うんそれはだね……」

 エクルが先程から顔を赤くして上手く話せずにいるクロ殿と、同じくお腹を押さえて話せずにいるスカイをチラリと見てから私を改めて見る。なんだその「キミはよく平然としていられるね……」とでも言いたげな視線は。
 私とて恥ずかしい。が、それ以上の満足感に浸っているだけだと言うのに。

「ほら、今は何処かの生徒会メンバー、その内王族の一人が学園から離れているだろう?」
「はい」
「しかも中には学園をやめたとか噂が立つ程の者もいる。……ついでに言うと、皆が同じ場所……この地に来ているという噂もある」

 噂とは言え、その発生元はどこから情報を手に入れたのだろうか。私はメアリー達が来る前の状況を知らないので詳しくは分からないが、なにかしらの騒ぎを起こしたのかもしれないな。

「で。あくまでも“以前起きた騒動の発端であるこの地に、生徒会メンバーが先遣隊として今訪れている”と 改めて説明をした上で、私達も来た次第だよ」
「つまり名目はそれで、連れ戻しに来た、と?」
「そうだね。場合によってはこのまま調査の時までこの地に滞在する事にはなるだろうけど」
「その時は生徒会長も頭を痛めそうだね」

 噂は所詮噂だが、無視も出来ない。だから問題無いアピールとしてエクル達がシキに来た、という訳か。

「ふぅむ、しかし……」
「?」

 私が来た理由に納得していると、エクルがグレイに淹れられた紅茶を飲む私を見て来た。
 先程までとは違う観察するような、変わった相手を見るかのような表情で見ていた。

「あぁ、失礼した。女性をジロジロと見るのは失礼だね」

 私が見ている事に気付いた事を気付いたのか、エクルは私に対して謝って来る。

「それは構わないが、どうかしたのだろうか」
「いや、誘拐騒動の時はよく見られなかったが、キミも随分と変わったな、と思ってね」
「うむ、クロ殿が大好きで私自身も変わらざるを得なかったからな」
「そこもだけど違う所だよ」

 なんだその「胸焼けする」とでも言いたげな表情は。
 だが変わった……か。私が変わったのが間違いない。だが改めて言うほどの事なのだろうか――ああ、そういえばあまりエクルとは接していなかったな。

「ふふ、以前と比べるとさらに変わったようだ。クロくんの言っていたように、キミも変わったんだね」
「クロ殿が?」
「ああ、あの時は有り得ないと思っていたが、ただ私があまり見ようとしていなかっただけのようだね。さらに一歩進んだようだしね」
「エクル先輩、どういう意味?」
「夫婦だと色々あるという事さ」
「?」

 決闘の際に私の敵として回った相手の中で、前でも後でも一番接していないのはエクルである。……明確に敵意はあったのだが。
 学年が違ったと言うのもあるだろうが、エクルはあの決闘の相手の中ではいつも一歩引いた位置で見ていた。
 以前の私を考えれば“出来るだけ関わらない様にする”というのは自衛としては当然の行為である。だがエクルは観察された上で避けられていた気もする。私だけではなく、メアリー達も一歩引いた場所から観察して行動しているように見えた。
 それはまるで“そのように定められている”かのように動いているようで――

『ははは、決まっているだろう? 私には才能が無いからね。だからこうして縋るしかないんだよ』

 バチッ、と。一瞬頭に火花が散ったかのように妙な光景と声が聞こえた。
 ……なんだろう、今のは。
 今の着ている様なアゼリア学園の冬服を着たエクルに……妙な場所に……クリームヒルト? だがクリームヒルトの雰囲気が違うような気がする。
 そして私もなにか声を荒げていて……なんだろう、この光景は。疲れているのだろうか。

「まぁ、それはともかく」

 エクルの言葉に私はハッとし、妙な光景を振り払う。
 先程の光景の意味は分からないが、今はこの場での会話に集中しよう。

「今はティー殿下の男上げの話をしようか」
「私の話は後でも構わないのですが……」
「いえいえ、殿下の話を後にするなどできません。それに大切な後輩と将来の後輩の件ですからね。先輩としては上手く行って欲しいと願いたいのですよ。力になれるのならば力になりたいのです」

 バーガンティー殿下……ああ、クリームヒルトの件か。
 そういえばそのような相談をしに来たと言っていたな。男を知るためにクロ殿に会いに来たとか。うむ、男を知るのならばクロ殿が良いだろう。間違ってはいないな。

「まぁ男を上げるのなんて割と簡単ですよ、ティー殿下」
「え、ほ、本当ですかエクルさん! もしやヴァイオレットさんを変えたクロさんのようになれる術が!?」

 なんだろう、バーガンティー殿下の今の言葉には“あのヴァイオレット・バレンタインを変えた!”という意味が含まれている気がする。以前からバーガンティー殿下には色々と言っていたからな……いや、被害妄想だろうか。

「はい。基本は地道に行くしかないですが、ようは積み重ねてきたものを発揮させるようにすればいいのですよ」
「発揮、ですか?」
「ティー殿下は充分な研鑽のお陰で下地がありますからね」
「?」

 エクルはバーガンティー殿下に尋ねられかけている眼鏡をクイッとあげてキラーンと光らせた。
 ……光らせたのはどういう仕組みなのだろうか。

「ようは強気で行けば良いんですよ。周囲に男を発揮させるほど強気に」
「ですが私はクリームヒルトにアピールはしているのですが……」
「では強気に喜ぶ行動をする事ですかね? 例えば……クロくん、彼女が好きな事ってあるかな?」
「え? ええと……」

 唐突にフラれたクロ殿は戸惑いつつ、思い出す様な仕草を取ってなにを考える。先程まで赤くなったり指を動かしては首を横に振っていたのに、しなくなったという事はどうやら精神は回復したようだ。

「二次元のBLと二次元のイケメン……?」
「へ?」

 なんだそれは。日本語なのだろうか。

「すいません、なんでもありません。ともかく喜ぶ行動ですか……シキの外れに温泉があるのは知っていますよね?」
「はい、スカイに止められた場所ですね」
「そこにクリームヒルトを呼び出しますから、入っている所にバーガンティー殿下が乱入しますか?」
「変態じゃないですか。彼女も恥ずかしがるでしょう」
「アイツならイケメン男性の裸は喜ぶと思いますが……」

 ……そう言えばクリームヒルトと温泉に入った時、男湯を覗こうとしていたな。
 興味があるのは確かであるし、クリームヒルトは自身の身体に価値を感じていないのか裸を見せるのも平気な節がある。だから案外と……いや、ないな。
 だがクロ殿が言うのならば正しいかもしれないのだろうか。なにせ前世レベルで繋がっているクロ殿が言うのだから合っているのかもしれない。
 あのクリームヒルトとは違って――

『行こう男湯ヴァルハラ! スカイちゃん、幼馴染の成長を見に行こうよ!』
『行きませんし興味ありません!』

 あの、クリームヒルト?
 なんだろう、今の光景は。
 そうだ、学園の実地研修で私やクリームヒルト、シャトルーズやスカイが同じ研修先であり、宿泊先の温泉宿でクリームヒルトが――実地研修の温泉宿?
 私は学園で実地研修に行く前に退学になったから行った事は無いはずだ。だとしたら今のは――?

「……?」

 周囲がバーガンティー殿下の男上げの行動を話し合っている間、私は謎の光景について考え、会話に参加出来なかった。

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