追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

恋愛相談-第四の場合_1


「付き合うためにはどうすれば良いのでしょう」

 我が屋敷にて。
 俺はなんだかデジャヴを感じる相談を受けていた。
 いや、正しくは少し違う相談内容だ。
 午前のあの相談は付き合う定義を問う内容であったが、今回は付き合うための方法を尋ねられている。
 それ自体は良いんだ。俺だって付き合う経験は無くても、アドバイスくらい出来ていた。
 だけど今回は……

「……あの、何故私に聞くのでしょう、バーガンティー殿下」
「理由は貴方が大人な男性だからです」
「え、ありがとうございます……?」

 今回は相手が問題である。
 相談して来たのは第四王子ことバーガンティー・ランドルフ殿下。今では変装用の金髪碧眼もやめ、元の赤髪紫目の状態である。
 そんなバーガンティー殿下が相談があると言って……なんだか疲れた様子で傍らには殿下と共に来た顔が見えない護衛の女性と共に相談に来たのだ。
 ちなみに女性の名前は“エフ”だそうだ。言う時に「ええと……」と悩んでから言っていたので完全な偽名である。それ以降は殆ど口を開かないのでどういう女性かは分からない。
 ただなんとなく……

――この女性を攻撃してはこちらがやられる。

 というような防衛本能が働いている。攻撃すれば俺がただでは済まないような、というような本能的なモノだ。何故かは俺でも分からない。

――と、それよりも……

 それはともかく、今はバーガンティー殿下の件だ。
 バーガンティー殿下はつい先日クリームヒルトに一目惚れした。そしてその一目惚れの衝撃のまま告白したが、丁寧口調で即断られた。
 だが諦める事無くアピール続けている。そして断られ、逃げられているわけであるが……

「私の記憶ではクリームヒルトの“強い男性が好み”という言葉に対し、強さを証明するとの事でしたが……」

 クリームヒルトの好きな異性は“強い人”だ。これはビャクの頃から変わらない。どちらかと言うと“弱い相手は好きじゃない”というだけだろうが。
 そしてそれを聞いたバーガンティー殿下は強さを証明する、と言っていたのは知っているが……あの後どうなったのだろう。ヴァーミリオン殿下にでも挑んで強さを証明したり、モンスターの討伐でも行ったのだろうか。

「ええと、それは……」
「…………ティー、第四王子は……クリームヒルトちゃんに……勝負を挑んで……全敗した……」
「あ、エフ。わざわざ言わなくても良いじゃないですか!」
「……どうせ……バレる事……です……事実は……変わりません……」
「そうですが……!」

 俺の問いに対し、言うのを躊躇っていたバーガンティー殿下の代わりにエフさんが答えた。静かに話す方だな。あまり強そうには感じないが……ってそれよりも。

「あぁ……アイツがどうせ“私に勝てば良いんだよ!”的な事を言って勝負を仕掛けたんでしょう。申し訳ありません、アイツに代わって謝ります……」
「い、いえ! 貴方が悪い訳じゃないですから!」

 実際は見ていないがアイツの性格を考えれば想像が付く。そしてどうやら当たっていたようだ。

「十戦……十敗……しかも完封……クリームヒルトちゃん……怪我……治ってないのに……」
「エフ!」
「…………申し訳ありません。アイツ、戦闘に関しては驚異的なセンスを持っているんで」

 しかも独りで戦えるとなれば基本は負けないからな、アイツ。例え王族相手だろうと手加減とかしないだろうし。学園祭の闘技場では本気を出しきれていなかったようだが。

「……それで、私がなにをすればよいのでしょうか。生憎と稽古はつけられませんよ?」
「いえ、そういう訳では無いのです」

 それは良かった。本人よりも周囲を取り巻く環境がドロドロしている王族相手に稽古とか難しいし、雷魔法を得意とするこの真っ直ぐな少年相手だと、いくら相手してもしきれない気するし。
 でもだとすると、俺に聞く事など無いと思うのだが。

「戦闘面に関しては私は何度でも強さを求めます。挑み続けます。ですがそれではなく精神面の話なのです」
「精神面?」
「はい。戦って勝つ事のみが強さの証明では無いと思われます。クリームヒルトさんの言う“強い男性”というのは、もっと別の所にもあると思うのです」

 ……確かにそうだろうが、それに気付くとは……意外と鋭かったりするのだろうか。

「精神面の強さなど他者に聞くものではなく、己が信念を貫き通す事が精神面での強さかもしれません。こうして相談している事こそ弱さの証明かもしれません」
「いえ、そのような事は……」
「ですが私は未熟です。であるにも関わらず、自身の力を過信して周囲に頼らず貫くのは愚の骨頂だと考えます。多くの生き方を学ぶ事……それが、私の強さに繋がると思うのです」
「…………」

 真っ直ぐな方だな、バーガンティー殿下。
 未熟を恥じてはいるが否定もせず。以前見た時は子供の様な印象を受けたが、意外と生きる強さは持っているようだ。
 ……これならクリームヒルトも……いや、だからこそ拒否される可能性もあるか……

「そこで女性は頼れる男性に惹かれると聞きます。そこでクリームヒルトさんやスカイに兄と慕われる貴方に是非その極意を教えて頂きたいと思いまして!」
「いえ、極意もなにもないのですが……」

 強いて言うなら兄と慕われているのは実際に兄だからだと思うのだが。スカイさんはともかく。頼れる男性と思われて相談を受けるのは悪い気はしないが、どうしたものか。

「やはり経験しかないと思います。私も色々と経験を積んだので頼れると思われるかもしれませんが、経験を積む事こそが極意では無いでしょうか」
「はい。ですから教えて頂きたい事があるのです」
「私にですか――って、バーガンティー殿下?」

 教えて欲しい事があると言ったバーガンティー殿下は、何故か俺の手をとる。
 え、なんで貴方の両手で俺の手を包み込む様にするんですか。何故情熱的俺を見つめるんですか。

「このような事は貴方にしか頼めないのです……身近な兄様達やアッシュさん達には気恥ずかしくて聞けませんが、貴方になら言えるのです!」
「は、はぁ、そうですか?」

 いわゆるちょっとした知り合い程度だから話せるという事だろうか。
 だとしても何故そんな顔を近付けるんです。何故身を乗り出すんです。

「私に――」

 ふと、相談を受けている部屋の扉が何故か開いた。

「私に、男を教えてください!」

 そして開いたのに気付かないバーガンティー殿下が、なんだか誤解を受けそうな言葉を俺に告げ。

「クロ様、御来客の様なのでお連れしたのですが……失礼致しました、別の方が来られていたのですね」

 グレイが申し訳なさそうに俺に告げ。

『…………』
「…………」

 グレイと外で出会って、そのままこの応接室に通されただろう来客……シルバとエクルとスカイさんが俺達を黙って見ていた。

「……失礼、どうやらお取込み中のようだね。良いかいシルバくん、スカイくん。私達はこのまま去ろう。なにも聞かなかった。良いね?」
「……はい。ティー殿下にそういった趣味があろうと、クロお……クロがナニを教えようと私は大丈夫ですから……」
「え、ナニってなに? え、なんなの?」

 ……なんだか酷い誤解を受けている気がする。

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