追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

恋愛策略-男性陣の場合_1


「付き合うって、なにをすれば良いんだ」

 我が屋敷にて。
 俺とオーキッド、カーキーは神父様から相談を受けていた。
 正しくは相談を受けるのは俺だけの予定だったのだが、偶々居合わせたオーキッド(と愛猫ウツブシ)と途中で出会ったらしいカーキーに「いろんな意見を聞きたい」という事でに相談相手をしている。そして一番最初に切り出した言葉が先程の言葉である。

「晴れて俺はシアンと付き合う事になった。だが何故か緊張する。今まで手に触れようと事故で肌を見ようと戸惑いはしたが大丈夫だったのに……」

 そりゃ意識したからでしょうよ。妹だと思っていた存在を異性と意識すれば戸惑うよ。

「俺はアドバイスは出来ていたが、いざ自身の事となるとどうすれば良いか分からなくなる。付き合うってなにをすれば良いんだ。どうしようかと考えると自然とシアンを思い浮かべてしまうし、目で追ってしまう……太腿と臀部が……!」

 あの清廉潔白な神父様にもちゃんと性欲があるのだな、と改めて思った。
 元々シアンに対してはスリットから覗く太腿とかには少しは反応していたが、己を律する事に長けてる上に感情に疎いお方だ。
 こういう姿を見るとある意味安心すると言えば安心するが……

「……一つ屋根の下という状況も、緊張で眠れなくなって来て、このまま悶々としていては体調を崩してしまう……それではシアンにも迷惑がかかってしまう……」

 なんだろう、思春期の男の子かなんかだろうか。成長して性を意識し始めたみたいな反応をしているぞ。俺も昔はこんなんだったのだろうか。
 まぁそれはともかく……

「それで、俺はどうすれば良い……!?」
「出会う前から婚姻した俺に聞くのですか」
「ハッハー! 欲望に従って襲えば良いのさ!」
「ククク……分からん」

 だが、相談相手が間違っていると思う。
 俺は生憎と前世も含め女性と付き合った事は無いし、付き合う前にヴァイオレットさんと結婚した。付き合う知識なんてせいぜいゲームである。
 カーキーは付き合う事はせずに、色情に溢れている生活を送っている。
 オーキッドは私生活が謎に溢れているのでよく分からないが、多分この方面には疎いと思う。
 ともかく聞く相手が間違っていると思う。

「頼む……相談に乗って貰えるような相手がお前らしか居ないんだ……」
「頼って貰えるのは嬉しいけど……まぁ力にはなりますよ」

 しかし最大限協力はしよう。
 元々応援もしていたし、さらに仲睦まじくなってくれるのならば両者の友人として嬉しい限りだ。付き合う事が分からずにギクシャクする……なんて嫌だしな。

「良いか神父様、シアン嬢は貴方を好いている! そして両想いになったのだろう!?」
「あ、ああそうだな、カーキー」
「だったらする事は一つ! ゴートゥーベッド&インだぜハッハー!」
「ベッド……!?」
「テメェは黙ってろ色情魔」
「痛いぜクロ!」

 とりあえずこの男に任せていると碌な方向に進まなさそうだ。アイアンクローで黙らせておこう。

「だが付き合うという事はそういう事だろうクロ、神父様! 最終的に婚姻を目指しているならそういった方面の相性も大切だぜ!」
「いや、まぁ……そうだけど。どうしても切っても切り離せはしないが、流石に早すぎるだろう」
「でもキチンと考えないとクロ達みたいにキスに半年近くかかる変わった夫婦になると思うんだぜ!」
「やかましいわ」

 別に否定はしないが、付き合いたての神父様カップルには早い話題だろう。……そうだよね? いやまあ前世の周囲には出会ったその日にとかか普通にあったし、カーキーだってそうだが……

「駄目だ、俺はシアンをいきなり手を出す訳には……! 俺はこう、一緒の時間をだな……うぅ……」

 しかしキスもあれがファーストキスで、そういう行為を想像して顔を赤くする意外と初心なこの年上の神父様には早い話だろう。
 それにしても……相性、ね。俺とヴァイオレットさんはよか――やめておこう。カーキーのせいで変な方向に思考が行ってしまう。

「神父様、無理はしなくて良いと思いますよ。付き合う進み方は人それぞれですし、神父様には神父様の進め方があると思います」
「そ、そうだな。だが付き合うとはどういう事をすれば……?」
「一番は思い出を共有……とかですかね?」
「思い出?」
「ええ、一緒に食事をしたーとか、山を登ったーとか。小さな事でも良いんで二人でなにかをした思い出を作っていくことが大切だと思いますよ」
「つまりセッ――ああ痛い、痛いぜクロ。悪かった」

 カーキーはともかく、付き合うなんてそういうものだと思う。
 そもそも神父様とシアンは元々家族のようなモノだったのだし、付き合うと意識した後にいつもの事にちょっとしたプラスをすれば良いのだろう。
 ようはお互いに普段の生活を経て惹かれあったのだから、このカップルには意識してお互いの事を思いながら一緒に過ごす、という事が大切なのだと思う。

「ククク……だがそれだけじゃ駄目なんじゃないかな、クロクン」
「ん、どういう意味だオーキッド」
「それはクロクンも分かっているんじゃないかな?」
「……まぁそうだけど」

 オーキッドの言いたい事はなんとなく分かる。
 俺も日常は大切だと思うけど、せっかくなら……

「クロもオーキッドもさっきからどういう意味なんだ?」
「ククク……僕達も男児という事さ。日常も大切だけど、せっかくなら好きな相手に格好良く思われたいだろうスノーホワイトクン?」
「……そうだな」
「僕とて愛しの子には格好良く見られたい。格好良く見られるためには行動を起こす事だ。例えば喜んで貰うために、内緒で誕生日のサプライズをしたり、ね」
「う……もしかしたらあの時の俺は格好つけたかったのだろうか……」
「ククク……もしかしたら付き合うという事は見栄を張る事が大切かもしれない。だからちょっとした挑戦も必要だと僕は思うよ」

 そう言うとオーキッドは黒猫を撫でた。黒猫は撫でられると嬉しそうな声をあげる。
 ようは喜んで貰いたい、というのも格好つけたいの一種かもしれない。だからその延長線上で良く思われるために、計画を立てて自分をよく見せるために行動を起こす、というのも重要だとオーキッドは言いたいのだろう。

「ククク……でもクロクンが言ったように、あくまでも日常を守った上での挑戦が大切さ。格好つけるために挑戦して、日常を守れないでは意味がないだろう?」
「……そうだな」
「ようは付き合うという事はそういう事じゃないかな? 変わらぬモノなどない。水も流れなければ腐る。そうならないように、今のスノーホワイトクンのように相手を想い悩んでいる事こそ付き合うの一種なのだと思うよ? だから付き合う意味を悩むよりも、相手になにをしてやれるか、を考えるべきじゃないかな」
「……ようは付き合う定義よりも、シアンに喜んで貰える事を考えるべきだと?」
「そういう事さ」
「……そうかもしれないな」

 ……オーキッド、さすが良い事言うなー。これならオーキッドだけでも良かったかもしれない。
 だけど相手に喜んで貰う事……か。俺もヴァイオレットさんになにかしようかな。

「というかオーキッドも付き合う事に関して理解あるんだな。昔誰かと付き合っていた事があるのか?」
「ん? 僕は付き合うというか、大分昔に結婚しているよ?」
『…………』

 …………

「……え、マジで?」
「……そうだったのか?」
「ほう、それは知らなかったぜ!」

 え、オーキッドで結婚していたの!?
 ここで明かされる衝撃の事実である。
 いや言動は怪しいけど善良なヤツだし、素顔は格好良いしで、外も中も素晴らしい方ではあるのだが……でも、あれ?

「合コンの時未婚の男性として紹介したが……」
「ククク……あれは空気を呼んだと言うべきだね。王族のためならば不貞を疑われようとも致し方あるまい」
「ええと……なんかごめん」
「気にする事ではないよ。僕は潔癖であったと証明するだけの事だからね。それに愛しの子も許してくれたよ。な、ウツブシ?」

 それはオーキッドに悪い事をしたな。
 特定の相手がいる男性に女性を紹介したのだ。修羅場になってもおかしくない所を、紹介した俺や王族のために黙っていてくれたのだ。感謝しかあるまい。
 ああ、それと……

「ところで、同棲とは言うが誰と同棲しているんだ? シキの領民か?」
「そうだな。俺も興味はある」
「オーキッドが誰とねんごろになったか教えてくれないか。俺とオーキッドが兄弟かもしれないからなハッハー!」

 俺は一応シキの領民は全員覚えている。詳しい交友関係となると分からなくなるが、誰と同棲しているのだろうか? あとついでにカーキーにはボディーブローを食らわせておこう。ていっ。

「? キミ達もよく会っているだろう。知っている子だよ」
「へ?」

 え、会った事があるしよく知っている相手……?
 誰だろう。それに昔から結婚していたという事は、シキに来た頃には一緒に居たのだろうか。それで俺達も知っている相手となると……

「ククク……じゃあ改めて紹介しようか。ほら、この子だよ」

 オーキッドはそう言うと、自身の足元に居る子を見る。
 そう――

「僕の妻である、ウツブシさ」
「ニャー!」

 足元に居る黒猫を、妻として俺達に紹介した。

――………………なるほど、そういった趣味かー

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