追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

協力よりは単独で(:淡黄)


View.クリームヒルト


 剣と魔法の乙女ゲー“火輪かりんが差す頃に、朱に染まる”という作品で、悪役令嬢のヴァイオレット・バレンタインの結末は様々だ。

 例えば、主人公を傷つけてしまい、我を忘れた攻略対象が殺めてしまい、罪に問われてしまってそのまま暗転するバッドエンド。
 例えば、結果的に主人公達が危機に陥る行動をする、封印されていたモンスターが蘇る最初の犠牲者。
 例えば、主人公と攻略対象に決闘を挑み敗れ、学園での居場所がなくなり退学後、遠い修道院で過ごす。終盤にナレーションで死が語られる。
 例えば、同じく決闘、退学後辺境の醜男に嫁がされる。間接的ではあるが、変態系扱いを受けていることが示唆される。……これは黒兄の事では無いと思う。多分。

 ようは大抵の結末が語られるストーリーでは碌な目にあわない。
 とはいえ、これはあくまでも悪役令嬢ヴァイオレット・バレンタインというキャラの結末であり、ヴァイオレット・ハートフィールドちゃんとは違う。しかし無視も出来ない訳である。
 メアリーちゃんがカサス通りに進めているよう仕向けているとはいえ、実際に似た事は起こっているのだから、進めることが出来ているのだから。

――単独。大きさは全体で三メートル。この巨体を隠せていたという事はやっぱり……

 そして今ここで重要なのが悪役令嬢ヴァイオレット・バレンタインが修道院……というよりは教会で修道女シスターとして過ごすルートだ。
 遠い教会がある場所は明確な地名などは、カサスにおいてはストーリー中に表記はされていない。ナレーションではその地方でキメラという存在が確認され、調査隊を派遣する事になるという話が上がった後――派遣される前に封印されたドラゴンがその修道院を襲うのだ。なんでもキメラがその封印されたドラゴンを呼び寄せる性質を持っていたとか。

――可変で、融け込むことが出来る厄介なヤツ。

 その際に教会の壊滅と被害者としてシスター・ヴァイオレットと神父の死が語られる。
 そして主人公達が駆け付けた時には町は壊れており、無残な残骸だけが残っている。その後帰ろうとする際にキメラが襲い掛かって来て――というようなストーリーだ。
 その時の神父の名は語られないのだけど、特典小説……だったか、設定資料の小説で神父の名前が一度だけ出るのである。“ナイト神父”と。

――確か黒神犬ヘルハウンドの牙と尾蛇竜神ウロボロスの頭と白神馬ペガサス羽と蛇亀神アスピドケロンの身体。機動力アシ種族喰鬼オーガで鈍いけど、固い。そして……

 ナイト神父。ようはスノーホワイト・ナイト神父様。つい先日シアンちゃんと結ばれた、心優しき神父様。
 確定はしていない。けれど可能性としては十分あるのである。
 黒兄はその情報は知らなかったらしいしけど、最近可能性として挙がって来たので警戒態勢を布いていた。私も言われて思い出したのだけれど。
 シュバルツさんから情報を得て。いつもより警戒態勢を布き。封印されたドラゴンがこの近くに居る可能性もあるので、妙な地質が無いかの調査も行った。

――そして生霊レイスの特徴をもって、気配を消して姿も消せる。長時間の連続使用は無理だけど厄介なモンスターだね。

 そして今、前兆であるキメラが現れた。嫌な事に不安は的中してしまったのだ。
 コイツは災厄の前兆であり、災厄ドラゴンを呼び寄せる存在。
 つまりは――

――こいつを殺せば、黒兄もヴァイオレットちゃんも無事に過ごせる。

 呼び寄せるのならば排除すれば問題はない。復活する可能性はまだあるので安心は出来ないが、生きていて良い存在ではない。
 ならば容赦は必要ない。
 弱点を突き、抉って潰して引き千切って殺せば良い。単純だ。

「――よし」

 弱点は唯一神的要素を持ちえない足。
 まずは錬金魔法で毒を生成する必要がある。
 シャル君の一閃でも良い。
 アッシュ君のカーバンクルによる攻撃でも良い。
 リオン君の、過去に傷を付けてしまったが故に封印している魔法でも良い。
 シュバルツさんの話が通じるならそれでも良いが、シュバルツさんを見るにあまり期待できそうにない。
 起きたブラウン君の攻撃ならば怯ませることが出来るかもしれない。
 その間に毒を生成すれば良い。私かメアリーちゃんが――いや、

「メアリーちゃん、毒をお願い。弱点は足」

 私よりは錬金魔法に優れているメアリーちゃんに任せたほうが良いだろう。
 私はこの止めるのだけでも厄介なキメラを足止めする方が良い。場合によっては私も毒を作ったほうが良いけど、今は弱点も特性も理解している私が先行すべきだ。
 メアリーちゃんに危険は強要出来ない。出来ないというよりは私が先にやった方が早い。面倒だ。それにもったいない。

――もったいない。

 ああ、もったいない、もったいない。
 なにせあのキメラだ。
 前世でもやったRPGのゲームにもあった、あの強き存在キメラ。
 人によっては神々しいとでも言いそうだが、私にとっては歪な姿に見える。
 私の知っている限りでも、今見た限りでもあらゆる生命を無理矢理合体させた、生命の冒涜かの様な歪な姿だ。

――なら、殺しても駄目という事は無いだろう。

 今は単独じゃなく、一緒に戦う仲間もいる。
 私の戦い方が否定される可能性もある。けれど……

『なんで駄目なのですか! 私は悪いモンスターが居るから討伐したんですよ! 被害を出したのならば討伐対象なのでしょう!』
『違う、違うんだクリームヒルト。お前が討伐する必要はないんだ! そういうのは長が依頼を出したから冒険者が討伐してくれるんだ!』
『分かりませんお父さん! 悪い相手を倒したのは良い事なのでは! 何故怒られるのです!』

 あの時は駄目だったけど、今は大丈夫。
 冒険者だし、危険なモンスターだし、倒そうとし見られても問題ない。
 なによりも黒兄を危険に追い込み悲しませるかもしれない相手。

――よし、強い相手と戦えるのに、否定される要素はなにも無い。

 ならば私は強い相手と――

「クリームヒルト!」

 誰かが私の名を呼んだ。
 目の前には私が飛び掛かった事によって近くに居る、大きく口を開き知らない魔法攻撃をしようとしているキメラが居た。

――あれ、なんだろうコレ。

 ああ、そうだ。
 これは前に感じた死の気配。直撃を喰らえば死にかねない攻撃。
 それが今、目の前にある。

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