追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

連鎖していく


「アプリコットちゃーん、ちょっと良いかな、相談したい事があるんだけどー」
「む、構わないが?」

 なにやら俺との模擬戦の後はクリームヒルトとシャトルーズが戦う事になったようだ。今はシャトルーズが体力の回復に努め、クリームヒルトは回復するまで身体を温めながらなにやらアプリコットに話しかけていた。
 俺とシャトルーズは模擬戦とはいえ武器は本物だし、攻撃も当てに行っている。本来であれば怪我などで連戦は出来ないのだが……こういう時に護身符と言うのは便利なモノで、怪我などの傷は全て肩代わりしてくれる。そのため体力さえ戻れば連戦でも万全に戦うことができ、実戦に近い形で戦うことができる訳だ。
 もしもこれが戦う度に魔力を込めないと使えない、なんて事はなく、ストックを出来たらどれだけモンスター被害が減る事やら。

「クリームヒルト大丈夫かな……」
「クロ子爵はクリームヒルトと呼ぶのだな」

 俺が模擬戦とはいえクリームヒルトが戦う事を心配し、ヴァイオレットさんにタオルで拭かれるのを終え首にかけたタオルで口元を拭いて呟いていると、ヴァーミリオン殿下が俺に近付いて話しかけて来た。

「ええ。あくまでもビャクと言う呼び方は前世での私の妹の名前です。今世で生きているのはクリームヒルト、という名前かのじょですから」
「成程な。呼び捨てにしているのは……」
「……今世では違うとはいえ、妹と分かると今更“さん”付けが互いに妙な違和感がありまして」
「成程な」

 その辺りは一昨日のアプリコットの誕生日にちょっとした会話で決めた事である。ちなみにそのすぐ後に水のように見えるアルコールの塊を飲んで酔っ払って話が出来なくなった。

「時にヴァーミリオン殿下。カルヴィンをクリームヒルトと戦わせて大丈夫なのでしょうか」

 ヴァーミリオン殿下の逆側の、俺の隣居るヴァイオレットさんが俺を挟んで尋ねて来た。
 今の言い方は……なんとなくだが、シャトルーズの様子がいつもと違う心当たりがあるというように思える。

「……どうだろうな。言い訳がましいが、あの時はアイツ相手の多対一が故に攻め切れぬ所もあった。今回の一対一ならば見えるモノもあるかもしれない」

 ……もしかして前回の誘拐騒動でなにかあり、それが原因で今シャトルーズの様子がおかしくシキに来ているのだろうか?
 俺は途中からの参戦ではあったが……確かに状況を考えれば、寸前までクリームヒルトがあの場に居た者達と戦っていたのだろう。あの時はシルバの様に魔法で暴れて上手く取り押さえられていないものだと思ったが……あの時はビャクの状態であったし、俺と戦う時も錬金魔法などは使わなかった。であれば、ほぼ素の状態で皆の相手を……?

「……まぁアイツなら出来そうだけど」

 俺は聞こえないような小さな声で、自身の考えを呟く。
 短期戦ならば攻め入る精神性も大事であるし、躊躇が無いビャク状態のクリームヒルトであれば、数分程度なら圧倒できるだろう。あくまでも数分程度だが。その数分が全てを決めてしまうという事は置いておいて。

「……そういえばヴァイオレット。シキでの生活は楽しいか? ……こう言ってはなんだが、困っている事は無いだろうか」
「? はい、毎日が充実していますし、困っている事は有れども自身で解決できるモノばかりですね」
「そうか。ならば良いのだが……」
「どうされたのでしょう?」

 俺が来る前に戦闘をし、それが原因でシャトルーズが思い悩みシキに来た……有り得そうだな。魔法を使わない身体能力の戦闘では誇りを持っているシャトルーズである。その誇りが万が一傷を付けられたとなれば、学園をやめて武者修行に出そうだしな。

「いや、な……婚約破棄をした俺に言われる筋合いでは無いだろうが……文化の違いに困った事は無いか?」
「シキは個性的な領民は多いですが、同じ王国民です。文化の違うというほどでは……」
「違う、なにやら考え事をして俺達の会話を聞いていないクロ子爵との違いだ」
「クロ殿との? ……本当ですね、考えてこちらの会話を聞いていない……ふふ、考えるクロ殿も……」

 というかあの乙女ゲームカサスだとそれもあったりする。ノーマルエンドの一つが、主人公ヒロインがシャトルーズの未熟で傷付けられ、シャトルーズが己の無力を案じて学園をやめて旅に出ようとし、主人公ヒロインが同じく学園をやめて一緒に旅に出るルート。
 ……もしかしたらそんな感じになっているのだろうか。

「俺は前世を持つ者と接した事は無い。だがお前は知らぬ時は長かったとはいえ、彼と夫婦として過ごしてきたわけだ」
「はい」
「お前達が仲睦まじい事は知っている。だが……そうだな、この後俺とお前は話し合いの場を設ける予定だが、日本NIHONとの文化の違いに困った時事があるならば相談に乗ってやる」
「はい?」
「俺がメアリーの全てを好きなように、好きだからと受け入れてしまうかもしれないが……子供や兄妹を巻きこむのは、良くないとは思うんだ」
「あの、なんのことでしょうかヴァーミリオン殿下」

 しかしそうなると、ヴァーミリオン殿下はシャトルーズが心配で一緒に来ているのだろうか。
 ……余程大切なんだな。ヴァイオレットさんと決闘する前のヴァーミリオン殿下であればしなかった行動ではなかろうか。

「いいか。特に兄妹には気をつけろ。仲が良いからと言って家族愛と勘違いしては駄目だ。俺には分からんが、兄妹に特殊な感情を抱く奴は居るのだからな」
「特殊な感情……ですか?」
「そうだ。……一緒に兄妹を含め騎士団でモンスター討伐に向かい、偶々本隊と逸れ兄妹だけになり、洞窟で夜食を食べ終わった後身体が温まり……という逆算すればそういう事しか考えられないという事も……」
「あの、なにがあったのですヴァーミリオン殿下」
「話が逸れたな。ともかく困ったことがあれば相談しろ。俺が無理でも、シスター・シアンやアプリコットであればお前でも話しやすいだろうからな……」
「……? 兄妹……相談……文化……特殊……夜食……ああ、成程、大丈夫ですよヴァーミリオン殿下。心配はご無用です」
「なに?」

 だがその場合メアリーさんが居ないのは妙だな。
 この状態のシャトルーズが居れば、説得をするか一緒に来たりしそうなものだが……もしかしたら気付かれぬように学園を出て、今追いかけて来ているのかもしれないが……

「昨夜は殿下達と別れた後ですが、クロ殿が日本NIHON式で(味付けをされた)極上の料理モノを用意してくださったのですが、私やグレイ、クリームヒルトでおいしくいただきましたから」
「……おいしく、頂いた。昨日あの後か?」
「はい。文化の違い(の味)に最初は戸惑ったものの、慣れれば意外と(食が)進められるモノでしたね。少々(味が)濃かったので、クロ殿やクリームヒルトに教わりながら私やグレイも新たな文化を学んでいきました。ふふ、結構楽しかったですよ?」
「くそ、手遅れだったか!」
「えっ!?」
「ヴァーミリオン殿下、何故急に!?」

 俺が考え込んでいると、ヴァーミリオン殿下が急に大声を出した。な、なんだ。なにが起こったんだ!? クール寄りなヴァーミリオン殿下がこのように大声を出すなど……割とあるな。

「すまない、取り乱した」
「い、いえ、構いませんが……どうされたのです?」
「……ヴァイオレット、クロ子爵。なんというのかだな……互いに受けいれ合う事が出来る貴族の夫婦というのは意外と珍しい。元婚約者になぞ言われたく無いだろうが、これからも夫婦仲良くしていくんだな……」
「は、はぁ。勿論そうする予定ですが、何故今急に……? ヴァイオレットさん、分かります?」
「いや、分からないな……?」

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