追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:とある人物の活動日記。(:?)


 とある人物の活動日記。


View.?


 メアリー様には幸福になる権利がある。
 彼女は素晴らしく、美しく、清純なお方だ。だから幸福になるべきなんだ。

 故に私は行動をする。
 例え私は罰せられようとも良い。
 お傍にいられなくなっても良い。
 メアリー様に嫌われようとも良い。
 メアリー様の幸福のために不安要素は取り除く。利用できる者は利用する。
 そしてこの世界の元となった、あるいは似た世界であるカサスのハッピーエンドのような幸せで楽しい人生を送って貰わなけれならない。
 それが私の今世での使命である。



 シキという地の情報を得た。
 この地は正しく私が探し求めていた地だ。
 住んでいる方々は少し変わってはいて事前情報とは違うが、私の求めていた神父が居た。
 ここに違いない。これで事前準備も出来るというものだ。
 ただ、あのロボと呼ばれる存在が少し邪魔だ。彼女……彼女? がいると筋書きが変わりかねない。
 排除はしたいが私は殺しは好まない、というよりはしたくない。だから少しでも力を削ぐ方向にシフトしよう。
 というかロボってなんだ。あのオーバーテクノロジーはなんなのだ。前世であったヒーローがロボットに乗るあの乙女ゲームとも世界が混ざっているのだろうか。だとしても過剰戦力じゃないだろうか。



 クロ・ハートフィールドという存在は転生者だろう。
 学園の調査の際に得た知見と、シュバルツという美しき女性などから得た情報でそれを予想した。
 なにしろ悪役令嬢のヴァイオレットと婚姻し、立派に夫婦をやっていて、言動が少々おかしいのだ。確信ではないが、予想するには充分だろう。
 ……個人的には気に喰わない。メアリー様を排斥しようとした女と仲が良いのだ。本当に気に喰わない。



 メアリー様は今日も美しいですぜやっほう!



 ローシェンナ・リバーズが使う言霊魔法を研究していた奴らが、誰にでも少し使えるように開発をした。正直当てにしていなかったので驚きである。
 だが現状ではモンスターに使うのがやっとのようだ。人間相手には無理らしい。さらには外で使おうにも上手くいかないので、条件として特殊な“場”が必要なようだ。偶然研究していた遺跡がそうであったらしいが。
 しかし私は少し無理をすれば“場”以外でも一時的に使うことが出来た。多分この身体のお陰だろう。
 ……これを使って、ロボ……ロボさんの外装を少し削ぐとしよう。この言霊魔法の魔力に指向性を持たせ、一時的に感覚を鈍らせ奇襲させる。
 怪我をさせないように、だけど戦力を削ぐように――全てが終わったら、彼女には謝罪をしよう。



 うわああああああ、私はなんて事をしたのだろう。
 姿を隠して正体を不明にするためとはいえ、なんであんな服装をして仮面なんて被ったんだろうか。
 くっ、これも深夜テンションが悪い。
 姿を隠せる存在=怪盗!
 ペル〇ナ5の怪盗団!
 イケる! けどコスプレは恥ずかしい!
 でも仮面は怪盗団のモノではない仮面で覆えばコスプレじゃない!
 ……という想いのまま行ってしまった。
 まぁシキを調べていたら「あの目立つ皆さんの中だと、この程度なら目立たないんじゃない?」的なノリになったのも事実だが。だけどスカーレット第二王女の「なんだその服装と仮面」的な視線が今も思い出して胸に刺さる。
 しばらく尾を引きずるかもしれない。うわぁああ……



 メアリー様が可愛かったので落ち着いた。



 少し面倒になった。
 どうやら現状の王国に不満を持ち、革命をしようとしている輩の動きがローズ第一王女とその夫のマダー宰相に勘付かれ始めているようだ。
 問題はあの連中が捕まる事ではなく、あの連中がそれに気付いて自棄に陥り強硬策に取らないかという事だ。私がどうにか気付かせないように取り持つしかない。これではメアリー様を見る機会が減るではないか。恨むぞ。
 正直アイツらは捕まっても問題はないので、私に出来る事は先延ばしだが。むしろ捕まれ。




 クロさんはオッテンドルフの数列を知っているようだ。結構マイナーな数列だと思っていたのだが。
 知っているという事は、もしかしてクロさんもこの数列が出たあの映画を好きなのだろうか? だとしたら語りたいな。
 私は映画は吹き替え版派だけれど、クロさんは字幕版と吹き替え版のどちらが好きなのだろう。ああ、語りたい。
 彼は見ている限り善性よりで明るいから、話すと楽しそうだ。……けど、私に話す権利はないんだろうけど。



 グレイが可愛い。格好良い。
 以前も見かけたが、学園の試験を受けに来ているのを見て改めて見ると彼は格好良いと再認識した。
 生徒会に入らないだろうか。ヒーロー達と並んでも遜色無いレベルのイケメンだ。将来が有望にも程がある。
 ああ、この身体で無ければ今すぐにでも交際を申し込むのに。あの純粋無垢なグレイと付き合えればどんなに良い事か。この身体はこの身体で良いものだが、やはり以前の身体も懐かしく思ったりする。



 メアリー様、早くヒーローの誰かと結ばれないかな。
 今の所シルバへの好感度が一番高そうだけど、弟扱いのように見える。姉の様に振舞うメアリー様も可愛い。
 こんなに可愛いメアリー様を見られているだけでも幸福だ。



 あの馬鹿共がやらかした。
 なんと首都で行動をしているのを見られそうになり危うかったのと、好機という事でスカーレット第二王女を攫ったのだ。しかも早文でまるで手柄かのように報告してきた。
 ……元々今の国家に不満がある輩の集まりだ。いつかはやらかすとは思っていたが、もうなってしまったか。
 私自身はこういった革命自体に興味はない上に、アイツらは略奪を好む犯罪者だ。そろそろ縁の切れ目だという事か。
 ここはクロさんやヴァイオレット……シキに居る動きやすい方々に連絡をし、壊滅を手伝って貰うか。
 ……そういえばクリームヒルトという少女は転生者の嫌疑があった。
 良い機会なので一度転生者かどうかを確認してみようと思う。
 違った時のために後遺症が残らないように配慮し、私は隠れて見ているか。



 クリームヒルト、アレは何者だ。
 身体能力の強化などかけていないのに、何故あのように動ける。恐怖心の減衰などもしていないのに、何故あのように出来る。
 そもそも言霊魔法で技術の向上は出来ない。つまり彼女は持ち前の才能と性格でアレをやっていたのか?
 どうやらクロさんの知り合いのようだが、彼女は一体……?



 結論だけ言うと、無事に解体は終わった。
 私の把握している連中は全員捕まえた。逃げようとした者達には魔法障壁の誤作動などと称して救出組に全員捕縛させた。
 ここでやっていた研究の記録は既に他に持ち運んでいたし、見られても確信には至らないモノだけを残したし、元々捕まえる予定だった連中も捕まえた。
 ……ヴァーミリオン殿下のせいでクロさんの話は聞けなかったが、一先ずこの件は落着である。
 ……後は、シルバとグレイ両名にかけた深層の暗示で、クロさんが話そうとしていた件に関して私に報告が来るのを待とう。

 ちなみにローシェンナ・リバーズは捕縛はされたが、活躍もしたので扱いに決めあぐねているらしい。



 言霊魔法の影響を受けた者達には、一週間の療養を命じられた。
 クリームヒルトやシルバは学校を休み、しばらく様子を見るようだ。
 とは言え、監視は無いので恐らく長い休みだ、と思う程度だろう。



 次の日。あまり吹聴しないという約束事の元、クロさんは前世の事を話していた。といっても深い所までは話していない。あくまでも前世の記憶があって、クロさんとクリームヒルトは前世で兄妹であったという事。名前は一色・黒。一色・ビャクという名前で合った事などだ。
 話したメンバーはヴァーミリオン殿下達とグレイ。他のヴァイオレットなどには街に行くための馬車内で話したようだ。……どちらにも乙女ゲームについては話していないようだが。
 ちなみにあの時のクリームヒルトの様子は、今世の彼女が記憶を失い、言霊魔法で暴走した状態という事に落ち着いた。
 だが私は知っている。
 確かに言霊魔法の影響もあっただろうが、性格や能力に関しては言霊魔法はかけていないという事を。……こう言ってはなんだが、彼女は人の感情が分からないタイプのシリアルキラーなのだろう。それがクロさんによって抑えられていた、という所か。ともかく他に話した事は無いかやおかしな様子は無かったか報告を待つとしよう。
 ついでに言うと、前日クリームヒルトの裸を見慣れている云々で一騒動あったが、それは置いておこう。

 それにしても一色・ビャク、か。……偶然ですね。



 シルバとグレイの報告はシスターによって防がれた。
 ……くそっ、まさか深層の暗示を見抜かれるとは。危うく私の正体もバレる所であった。
 ここまで来て失敗は出来ない。彼女の前では細心の注意を払わないといけない。

 例え彼女が神父と共に死する運命だったとしても、その時が来るまでは注意を払おう。



 あと申し訳ないシルバ。
 深層の魔法が解かれた事によってシルバがメアリー様にした行動を思い出し、羞恥で悶えているようだ。本当に申し訳ない。
 私は上手く接せないので、遠くから見守っているよ。







『「……さて、今日も良い天気です。洗濯日和ですね。今日も彼女のために頑張りましょう」』

 他に誰も居ない、私も初めて泊まる部屋で窓の外を見て。
 暖かくなり始めている冬場の太陽の光を浴びながら、私は“私”を忘れぬように呟いたのであった。

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