追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

精神年齢≠肉体年齢≠経過年数


「……ねぇ、聞きたい事があるんだけど」
「あれ、シルバ君。起きてたんだ?」
「さっきね。前世云々も聞いてたよ」
「シアンちゃんの告白は?」
「…………」
「聞いてたね?」
「……うん」
『…………ぐっ』

 俺が唇と舌に残る甘い味を堪能していると、先程まで寝ていたはずのシルバが起きていて、俺達に尋ねて来た。ついでにシアン達がダメージを受けていた。
 俺はそれに対し、流石にこの体勢のままという訳にもいかないので名残惜しいが離れ、俺達は座った。

「前世とやらの話は分かったけど、クリームヒルトがクロさんの前世の妹の……ビャク・イッシキ? に気付いた理由ってなに?」

 それは……彼女と会話して行く中で好みの服装とか行動とかが、どこかビャクを連想させたのもある。ちなみにクリームヒルトさん自身も俺が縫った服とか好みの服装とかで違和感は有ったらしい。
 後は年始のロボに関して「壊れたりショートしないのかな」という言葉。この世界では機械はなく、機械の故障に対する意味合いでのショートという言葉は無い。そこにも違和感は有った。
 だが気付いた理由の一番は笑い方だ。前世での幼少期の笑い方とあの時の操られていた頃の笑い方が似ていたのだ。あの笑顔になれていない頃の、眼が見開いている特徴的な笑い方が。

「ふーん、成程ね……」

 俺がその事を説明すると、シルバは顎に手をやりながら
 他にも以前から“クリームヒルト”という存在に違和感があった。
 彼女の周囲の評価とか、行動とか。それ自体はメアリーさんという存在が居るからこそのモノであると思っていたのだが。
 その事は話さなくても良いだろう。

「あともう一つ。僕さ、暗示として多分“魔力を暴走させろ”や“感情を暴走させろ”“この場に居る者達以外を襲え”的なものを掛けられたんだけど、クリームヒルト……ビャク……ええと……」
「あはは、呼びやすい方で良いよ」
「クリームヒルトがかけられた言霊魔法ってなんだったの?」
「え? んー……記憶は曖昧だけど、シルバ君の似たようなやつに……なんか“抑えているモノを解放させろ、自分の欲望らしさを曝け出せ”的なのがあったような……」

 なんでも一時的に牢から脱出し、脱出用の道具を探していたのは良いのだが、ある部屋に入った所で記憶が曖昧になったようだ。そして薄れゆく意識の中で言霊魔法の言葉を聞いたようである。

「だから私は抑えていた……忘れようとしていた昔を思い出したんだと思う」
「忘れようとしていた?」
「うん。私は前世では……前世でもあまり周囲と合わなくてね。黒兄の教えで前世はなんとか過ごせてたから、今世では私なりに合わせられるよう頑張ろう! と意気込んでいたんだけど、やっぱり上手くいかない事があって。錬金魔法の師匠の教えで少しはマシになったんだけど……」

 けれども上手くいかない事が重なり、文字通り前世のようにはならないように、前世での合わない部分を封印し、色々と周囲から学んで生活していた事を思い出して溶け込もうとしていたようだ。
 それが言霊魔法の影響で抑えていた記憶が甦り、馴染まないモノだけが残った一色イッシキビャクとしての性格を形成していたようだ。だから“クリームヒルト”という部分は曖昧なようだったらしい。
 今はハッキリと“クリームヒルト”も“ビャク”も両方の自覚がある状態らしいが。……それを思うと、結構違和感なく“クリームヒルト”になっていたんだな、ビャクは。

「……そう、ありがとう。そしてごめん、嫌な事を聞いちゃった」
「あはは、別に構わないよ。けどそれがどうしたの、シルバ君?」

 一通り説明すると、シルバはあまり気軽に話して良いものでないと思ったのか謝って来た。
 それに対してクリームヒルトさんは俺が今まで見て来たように笑い、特に気にしてないとフォローをする。そして今聞いた事がなんだったのかを聞く。恐らくそれを言わせる事で一方的に嫌な事を聞いてしまったという感触を薄れさせるためだろう。
 でも俺としても今の質問は気になる。ただ聞いてみたかっただけ、と言われればそれまでであるが、別の意味があるような……

「ちょっと気になっちゃってさ。ほら、特徴が似ていて気付いたのは良いけど、今まで気づかなかった訳でしょ? なんで言霊魔法にかかっている状態のクリームヒルトに気付いたのかな、ってさ」
「あはは、確かに気になるよねー」

 シルバはそう答えたが、どこか答えをはぐらかしているようにも思えた。
 ……ちょっと気になるな。後でシアン辺りに聞いてどう思うか聞いてみよう。

「……ちなみにさ、僕達がクリームヒルト達の転生云々に半信半疑なのか分かる?」
「え?」

 俺が少し訝し気に見ていると、シルバはそんな事を言いだす。
 今こちらをチラッと見た気がしたが……もしかして俺の視線に気づいたのだろうか。

「あはは、純粋に突拍子もない事だからじゃないの? 私が皆の立場だったら同じようになると思うし」
「それもあるけどさ。純粋に……その」
「どうしたの、ハッキリと言えば良いよ?」
「……うん、じゃあ言うけどさ。まず言う前に断っておくけど、僕は……僕とかヴァーミリオンとかは、話を聞いて信じてもこれからの接する態度は変えないと思うんだ」
「?」

 うん? どういう意味だろうか。
 俺だけでなく、皆がどういう意味かとシルバを見る。

「どういう事なの? ――はっ、まさか今までの私の行動が徳を積んで、その程度なら気にしないという――」
「いや、純粋にお前、年上って感じしないから」
「え」
「前世で長く生きて来たかもしれないけどさ。もっと落ち着いて欲しいからむしろ年下に見えると言うか……あ、クロさんは僕達より上に思えるけどね?」

 ……つまり前世を隠してきた事は置いておいても、転生それさえ受け入れれば普段の様子からして年齢が上のようには思えないから今更年上の様に扱う事は無く、態度を変えないという事か。はは、ビャクのやつ同じ年齢の中では一番少年じみているシルバに言われてフリーズしている。

「あー、それ分かる。正直クロより神父様の方が見た目関係無しに大人って感じするし、普段接していても年齢が遥かに上とは思えないと言うか……」

 え、俺も?

「そうか。我も聞いた時に違和感があったのだが、それが正体か! 正直クロさんは我と同じ志を持つ似た精神の同士と思っていたからな!」
「仕事ブリハ尊敬シテイマスガ、確カニワタシノ三倍近ク生キテイルヨウニハ……ムシロ年齢ノ近イオ兄サン、トイウ感ジデス」
「確かにな。普段の馬鹿をやっている所を見ると、あの馬鹿医者よりも若くは見えるな。子供の様に見える時もある」
「グレイ君を見る目は親っぽさは有るけど……うーん、ロイヤルな私そんなに違うようには……ルーシュ兄様の方がむしろ……うーん……」
「ま、まぁまぁ皆。クロも色々冷静な面もあるから……うん、でも子供と遊ぶ姿は……うん、シアンとそう変わらない弟のような……」
「え、そんなに悩むほど? み、見た目が二十歳だからそう思うだけだよな、そうだよな?」
『…………』
「何故皆目を逸らす!?」

 俺が嫌な汗をかきながらシキに居る皆に聞くと、皆が目を逸らした。何故皆が「敢えて言わない」的な気まずそうな表情をしているんだよ!

「あはは、ねえスカイちゃん。そんな事ないよね。私オトナな女だよね?」
「……真実と言うのは時に残酷なんですよ」
「そこまで言ったらもうハッキリ言ってよ!」

 そして俺だけではなく、クリー……ビャクもスカイさんに話を聞いて目を逸らされていた。
 くっ、馬鹿な……確かに今世の父と母にはもっと落ち着いて欲しいと言われたし、シッコク兄には子供のままでいるなと言われたし、ロイロ姉には駄々をこねる子供みたいと言われたし、ゲン兄には……あれ、俺結構言われているな。
 だけど、そ、そう。以前も考えたが、その時は精神は肉体に引っ張られるというやつだ。今は大人な身体になったからそう思われるはずが無いんだ。皆の勘違いのはずだ。

「どう思います、ヴァイオレットさん!」
「どう思うの、ヴァイオレットちゃん!」
「私にふるのか」

 なので俺達はヴァイオレットさんに問い質した。
 色々と身近で見て来たヴァイオレットさんだ。彼女なら俺達を子供っぽいとは思われないはずだ!

「……クロ殿はクロ殿らしさが。クリームヒルトにはクリームヒルトらしさがある。そこを大人や子供などという言葉に当てはめて区別するのは良くないぞ?」
『ぐふっ』
「え、何故ダメージを……?」

 そして俺達は余裕のある笑みで大人な対応をするヴァイオレットさんを前に、自身の子供っぽさに俺達は精神的ダメージを受けた。
 ……これが余裕のある対応なんだろうな……

「……見てみろ、アプリコット」
「どうしたのだ?」
「クロ殿とクリームヒルトが同じリアクションをしているぞ。これが前世と今世繋がる絆を持つ兄妹らしさというやつなのだろうか。可愛らしいな」
「貴女は本当にクロさんの事になると子供っぽくなるな」


「…………」

「……神父様、申し訳ありません。この後ですが少し離れるかもしれません」
「? よく分からないが、分かったよ。それと……」
「どうなされました?」
「……シアンは俺の事を皆の様に名前で呼んでくれないのか? 好きな相手には名前で呼んで貰いたいんだ」
「っ!? え、ええと……ス……スノ……」
「……ふふ」
「……面白いですか、神父様」
「照れて顔を赤くするシアンはとても可愛いと思っただけだよ」
「うぅ……そんな微笑みで見られるとなにも言えなくなるじゃ無いですか……」
「……お前、さっきは神父を名前で呼んでいたくせに、今は呼べんのか」
「エメちゃん、うっさい」

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