追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
Who_・・_・?(:菫)
View.ヴァイオレット
「鍛えられた女性騎士、優れた肉体のシスター、魔法に優れた魔法使い、全てが平均より上な令嬢、神父は……駄目か。でも楽しそう、あはは!」
綺麗な透明な瞳で私達を見ながら、彼女はモンスターの血に塗れた状態で私達に近付いて来た。その物言いは私達を肩書でしか見ていないような物言いで、彼女に評された私の感想が嫌なほど心に刺さる。
小柄な体が大きく見え、笑顔は狂気しか感じない。
「クリームヒルトさん、どのような暗示をかけられたのだ……!?」
「コットちゃん、全員で掛からないと駄目かもしれないから今は後回しにして」
「クリームヒルト……何故、貴女が、い、いい、いえわた、私はイオ、ヴァイオレットを……でも、クリームヒルトを止めないと……!」
その様子に、以前の彼女を知っているシアン達も全員構え、スカイも暗示をかけられている中彼女を止めようと見据えている。
「ああ、だけど君は――」
そして彼女は私達を一通り見た後、シャトルーズを見てなにを言おうか悩んだ所で。
「まぁいいや。君以外は倒しちゃって良いですよね、あはは!」
あっけらかんと言うと、変わない笑顔のまま私達に飛び掛かるために身構えた。
それに呼応し私達は全員がクリームヒルトに対して戦闘態勢を取った。
全員が全員、本気でやらねばやられるという事を理解していた。それほどまでに今の彼女は脅威であった。
――……自分がそう思ってしまうのが腹立たしい。
考えるな。反省も自身への葛藤も後からすれば良い。
今は目の前の彼女を――
「あはは! ――不意打ち?」
目の前の彼女をどうにか鎮めようと策略を練ろうとした瞬間、彼女の背後から地属性と風属性、水属性の上位魔法が彼女を狙って静かに放たれ、瞬間まで彼女が居た所に襲い掛かった。
今のは……
「ヴァーミリオン殿下にアッシュにエクル先輩! 不意打ちなんてらしくないですね! でも無言で襲い掛かった事は不意打ちとして満点です、あはは!」
「……訳もなく避けてよく言う」
彼女の背後に現れたのは、ヴァーミリオン殿下達。
三名共服装が乱れて、何処かしらを痛めているかのような辛そうな表情をしていた。
「皆、無事かい!? 今の彼女は危険だ、操られてタガが外れている!」
「えー、女の子に向かってその言い方は失礼じゃないですか、エクル先輩。私はこの通り正常です、むしろ楽しいくらいです、あはは!」
エクルは魔法陣を展開させ、いつでも魔法を発動できるようにしながら私達に注意をする。
状況から見て、今のヴァーミリオン殿下達は彼女と一度戦闘をして……負けたか逃げられたと言った所だろう。
彼女は先程人間相手云々と言っていたので、もしかしたら……つまらなくて、彼女が去ったのかもしれない。
「でも挟まれちゃいましたね。これじゃ分が悪い……いえ、それも楽しいから良いのですが、君達とは戦ってもつまらないんですよね」
「……言ってくれますね。先程も言っていましたが、私達相手では力不足だと?」
アッシュが恐らく契約している風の精霊の力を展開準備をしながら、彼女を明確に敵と見ながら構えている。
やはり先程戦闘をして……そうしなければ敵わない相手だと、あるいは油断が出来ない相手だと認識をしているという事だ。……少なくとも全員が不意打ちで戦闘をしかける位には。
それに対して彼女はヴァーミリオン殿下達をつまらない相手と認識している。私やシアン、アプリコット、スカイに対しては興味深そうにしていたのに、何故彼らをそういった認識で見ているのだろうか。戦闘能力で言えば、私達と変わらないか上のはずなのに。
「だって、今の君達、必要なモノが揃っていないじゃ無いですか」
「必要なモノ?」
彼女はアッシュの問いに対し、変わらず笑いながら返答をする。
しかし隙は無く、今すぐ飛び込んだら苦も無く制圧されるという直感だけは感じていた。
そして皆が彼女の答えに疑問を持つと、彼女は順番にヴァーミリオン殿下達を見ながら、“答え”を言っていく。
「ヴァーミリオン殿下は過去にシャルに怪我をさせて使わなくなった、王族秘伝の魔法を。あるいは隠されし伝説の宝剣を使ってください」
「……なに?」
「アッシュは契約した精霊と直接宿してくだされば良いのですが、そこまで行っていません」
「宿す……?」
「エクル先輩は奥に隠しているモノでも出してください」
「奥……?」
「シャルは血の盟約とか面倒でしょうけど、親御さんから伝説の武器を引き継いでください。今の刀も名刀ですが、合っていません」
「……カルヴィン家の秘匿を何故知っている」
それぞれに言われた本人の根幹に関わるような、気軽に知れる事ではない事をまるで当然の事のように彼女は言う。
「知っているのだから、知っているんです。皆様とはそれで対等です。楽しい戦いが出来ます」
それらが満たさなければ潜在能力を完全に引き出さないかと言うように、そうでなければつまらないと、彼女は微笑みながら言った。
戦いそのものを楽しもうとしているとしか考えられない無邪気な笑み。
「ああ、ですが――」
そして無邪気な笑みのまま、
「ヴァイオレットとスカイは今が最大ですね。――ならば、倒しましょうか」
私達の方を見て、今この場で倒してしまおうと宣言された。
かつて私が決闘の折にヴァーミリオン殿下達に見られていた時と同じような、明確に排除すべき敵としての目。
そんな目で今、彼女に見られている。邪気の無いまま、敵として私を見ている。
私とスカイが見られ、シアンとアプリコットが私に、シャトルーズはスカイを庇うように彼女との間に素早く割り込む。
「クリームヒルト! お前は俺達がヴァイオレットを敵としてしか見ていなかった時も、味方で居たのだろう! 王族に対しても身分に物怖じせず正しいと信じて敵対していたお前はどうした! そんな意志の弱い女であったのかお前は!」
ヴァーミリオン殿下は彼女に対して元の想いを思い出せと叫ぶ。かつての彼女に戻って欲しいと、言葉……ヴァーミリオン殿下なりの言霊で告げる。
実際に言葉だけで元に戻るかなんてどちらでも良い。だが抵抗していた神父様の様に、元に戻るキッカケが生まれるかもしれない。
万が一でも良い。
ヴァーミリオン殿下のその言葉に、スカイのような揺さぶりの感情が見られる事を期待して――
「クリームヒルト? ……誰ですか、それ」
期待して、その言葉に訳も分からず呆然とした。
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