追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

理解出来る方がおかしい(:菫)


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 不安はあった。
 それが今、グレイ達の居るだろう遺跡の近くに来ての、私の思いであった。


 朝からグレイの様子はおかしく、紅茶に小麦粉を入れ、慌てて紅茶事巻きこんで転んで服を汚し、アプリコットが来てはよく分からない事を言って逃げ出した。
 どうしようかと悩みはしたが、ロボが神父様と共に居るのを見たと聞いたので大事には至らないだろうと思い、外での仕事をこなしていたのだが……妙な気がかりがあったので、昼過ぎに屋敷に戻った。
 すると扉に手紙が挟まっており、疑問に思いつつ開くと、

“指定の場所に、貴方の大切な息子と、シスターの大好きな神父様を隠しました
 早くしないと、食べられちゃいますよ”

 と書かれている文章が目に入った瞬間、私の中であらゆる危険信号が鳴り響いた。
 落ち着こうにも落ち着けない。なにをするべきかと考えようにも考えが纏まらない。
 悪戯と思いたいが、事実だとしたら取り返しがつかない。
 なにせ心当たりは多くある。公爵家だろうと、私やクロ殿を恨んでいる輩であろうと、ともかく多くの心当たりはあるのだ。
 さらには先日のルーシュ殿下達の襲撃未遂やモンスターの活性化。不安要素など幾つもある。

“この手紙が届いた方々以外には知らせないでください
 手紙が届いた方々は、教会の前に集まっています
 指定の場所など、情報はそこで知ってください
 そこでどのように行動するかはご自由にどうぞ
 ただ、相手は貴女方が来ることを知らないでしょうから、お静かに来た方が良いでしょう”

 手紙の続きにはそのような、嘲笑うかのような事が書かれており怒りで手紙を破き捨てたくなったが、冷静な判断をしなくてはならないと一旦落ち着き、一緒にあったものを持ち教会の前へと移動した。
 言われた通りに動くのは癪であったが、そうしなければならない歯痒さもあった。

「あれ、イオちゃんだ。おーい」
「ヴァイオレットさんも呼ばれたのだろうか?」
「コレデ全員デスカネ?」
「なんだかこの面子で集まってばかりだな、最近」

 教会前に行くとシアン、アプリコット、ロボ、エメラルドが居た。
 手紙を読んだメンバーだろうかと思ったが、それにしては慌てぶりが無い。あのような手紙を読んだならば、もっと慌てても良いものだと思ったのだが……

「? 私は神父様とかレイちゃんとか、リムちゃんとかの情報があるって聞いて来たんだけど」
「我はここに我を含め五名がとある情報を持って集まるから、来るようにと」
「私は新毒の群生地があると聞いて、一緒に来てくれる面子が集まる、と聞いたのだが。ほら、この場所だ」
「ワタシハ飛ンデ移動シテ欲シイ方ガイルノデ、来テ欲シイト」

 どうやらそれぞれに断片的な情報を持たせて、合わせると一つの答えが出て来るように内容を分けたようだ。そしてこの中で攫われた云々の情報を得ているのは私だけのようだ。
 ……完全に遊ばれている。腹立たしいが、今は我慢だ。

「……私の所にも手紙があってな。聞いて貰えるだろうか」

 私が手紙の内容を言うと、疑問顔であった皆が段々と真剣な表情になっていく。
 攫われた真偽を疑う言葉であったり、何故わざわざ伝える必要があるのかという問いがあったり、罠ではないかと言う言葉があったりもしたが、私が手紙と一緒にあったものを皆に見せた。

「これが今の状態だそうだ」
「なにこれ――神父様とレイちゃん!?」
「縛られているではないか!?」
「……これは一体なんだ? 絵、ではないようだが……」
「あまり見ないだろうが、ようはその時の範囲見たものをそのまま残す写真というものだ。……つまり、この状態を撮れるような状況に手紙の持ち主は居るという事だ」

 私が失われたロスト古代技術テクノロジーの一部である写真を見せると、場所などの真偽はともかく、グレイ達が危機的状況である事は皆信じたようであった。
 様々な憶測は飛び交うが、他に情報が無い以上、私達は従う以外に術が無いと言う結論に至った。

――クロ殿、申し訳ない。

 クロ殿が居ない間にグレイを危険な目に遭わせてしまった事と、危険な誘いに乗ってしまう事。両方を心の中でクロ殿に謝り、私は行動をしようと手紙の内容を精査した。

「この場所は少々距離があるな。今日中に着くかも怪しい」
「ワタシデアレバ、アル程度早ク行ク事ハ出来マスガ」
「大丈夫? まだ完全には治っていないんでしょ?」
「エエ、デスガソウモ言ッテラレマセンシ、ドウニカシマス。タダ戦闘ガアル場合ハ……」
「そこは心配するでない。我達に任せればよい」
「むしろ余力を残してくれ。私達になにかあった時に応援を呼べるようにな」
「……分カリマシタ。デスガ、スピードモ落チテイルノデ、遅クナリマス」
「構わない。徒歩などよりは早く着くだろうからな」

 私達は話し合うと、結論としてロボの機能? を使って目的の場所に移動する事になった。以前のようなスピードは出せないが、私達が乗って移動しても問題が無い程度ではあるらしい。……少し怖かったが、今はそうも言っていられないので、軽い準備をしてロボの協力を得て乗る事になった。
 そして手紙であったように、バレない程度の距離でおろしてもらい、今は日も落ちて、こうしてグレイ達が居るだろう遺跡の場所に来ている訳だが……

「監視のモンスターか?」
「そうかもしれない」
「それになんだか……騒がしい気もするね」

 私達が様子を伺っていて分かった事は、遺跡は入口部分が放置されているかのように古びている事。
 入口は山に隣接しており、元は洞窟の内部に入り込むようなモノであった事。
 そして周囲には訓練されているのか、モンスターが遺跡を監視するように徘徊しているが、遺跡内部が騒がしい気がする事。

「中でなにかやっているのか?」
「多分そうだろうけど……それとは違う騒がしさな気もするね」
「罠であろうか? そもそも手紙の送り主は何故我らをここに誘い込んだのだろうか」
「目的が分からないな。なにかに利用されているという可能性が高いが……」
「かと言って、服の切れ端」
「だが迷ってもいられまい。行動を――」
「待って。建物の中から誰か出て来る」

 私達が観察をして、エメラルドがまずは行動と言った所でシアンが警戒した声色で私達に注意をする。
 その言葉に私達は声を潜め、建物を注視するが――

「……スカーレット殿下?」

 建物の中から出て来たのは、クロ殿と共に居て、今は首都に居るはずのスカーレット殿下であった。
 見間違いや幻影の類かとも思ったが……スカーレット殿下にある特有の雰囲気があり、不思議と彼女が本物であると思えてしまった。
 ただ、おかしい所と言えばなにやら虚ろな感じがするのと、周囲のモンスターはスカーレット殿下に見向きもしない事。
 状況が状況だけに私達は警戒して観察するが……

「出てきなさいそこに居るコソコソとした者達。ロイヤルな私の前に出る事は恐れ多いかもしれないけど、隠れるのはさらに不敬よ」

 私達が隠れている場所を真っ直ぐ見て言う言葉に、私達は虚を突かれ身構えながらも、隠れているのは無駄だと思い警戒しながらスカーレット殿下の前に出た。

「……ごきげんよう、スカーレット殿下。身を隠していた不敬をお許しください」

 シアンが私達を庇って前に出ようとしたが、私がそれを制してスカーレット殿下の前に出る。
 状況は分からないが、スカーレット殿下の様子がおかしいとは皆が気付いているだろう。
 ならばこの中では一番のスカーレット殿下を知っている私が前に出た方が良いと思ったのだが……

「エ」
『え?』

 私は前に出たのだが、スカーレット殿下は私に目もくれず後ろの誰かを見て――

「会いたかったわエメラルド! さぁ、私と友達になって!」
「は?」

 スカーレット殿下は唐突にエメラルドに向かって叫んだのであった。

「王族とか平民とか年齢差とか関係無しに私と友達になって! むしろ親友になって! こう、抱き合ったり裸の付き合いをしたり一緒な寝具で向き合って眠ったりとかしましょう!」
「なにを言っているんだ、お前。そもそもそれは親友では無く別のなにかだろう」
「うるさい良いから親友になってよエメラルド! 分からないなら実力行使!」
「は!?」

 スカーレット殿下は訳の分からない事を言うと、私達に向かって走り出してきた!
 魔法は使ってこないが拳を握り締め私達、もといエメラルドに向かってくる。そしてエメラルドを抱きしめようとし、エメラルドは辛うじてそれを避けた。

「避けた! やっぱりエメラルドは私が王族だから親友にはなれないと言うの!?」
「それ以前の問題だ! 何故ここに居るのかと、こう、色々あるだろうが!」
「好きという気持ちに貴賤も状況もない! そして私は好きな貴女と友達になりたいのだから抱きしめられてよ親友でしょ!」
「文法が滅茶苦茶だお前はなにをトチ狂っている!?」

 そして再びスカーレット殿下はエメラルドを手中に収めようと互いを牽制し合い、抱きしめようと接近戦に持ち込む。その動きはいつものスカーレット殿下より素早い気がする。

「……なんだ、これ」
「……分からない」
「我に聞かれても困る」

 私達はそれを見て、なにが起きているのか分からずにいた。
 この様子を見ていると、あの手紙や写真もスカーレット殿下がエメラルドと親友? になるために仕組んだ事とすら思えてくる。
 ……というか、どういう状況だろうか、これ。
 そしてもう一つ思う事も有る。

「抱き合う、一緒の寝具で寝る……女同士の友情とは、そういうものなのか?」
「都会ではそういうものなのだろうか。……学園への入学のために学ぶべきなのだろうか?」
「イオちゃん、コットちゃん。違う」

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