追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

訛りは恥ずかしいお年頃


「メアリー。申し訳ありません、この幼馴染バカがご迷惑をお掛けました」
「い、いえ。私は構いませんが……」
「今すぐ連れて帰りますので」
「待てスカイ! 俺はこの場で為さねばならない事が――」
「喧しいんや。……コホン。騎士としてあるまじき行為をしないように。……殿下達も騒ぎますとローズ殿下にお伝えしなければならなくなりますので、ご留意くださいませ」
「あ、ああ。分かった」

 スカイさんは現れた後、シャトルーズを視線と言葉で黙らせて咳払いをし、殿下達を一回注意……というか脅しをかけて礼をした。多分食事処で大声を出していたのに対しても思う所があったのだろう。
 シャトルーズを待っていたのにこの場所に来た辺り、もしかしたら誰かが噂をしているのを聞いてここに来たのだろうから、迷惑を掛ける事はスカイさんの性格上許せないものなのだろう。

「ほら、行きますよシャル。あ、殿下。コイツが食べた分は置いておきますので、これで足りるでしょうか?」
「いや、ここは私と兄様の奢りだから気にしなくていいよー。というか貴女も食べれば良いんじゃない?」
「心遣いありがとうございます。ですがこれ以上ここに居ると、コイツはまた暴走をします。他の方々にも迷惑を――」

 スカイさんがシャトルーズの服を掴んで無理にでも連れて行こうとし、この場に居る皆を一瞥して皆に謝罪の礼をしようとして、俺とスカイさんと目が合った。
 そして一旦フリーズし、周囲の皆も不思議そうに見だした後、スカイさんは目をパチクリとさせ、ようやく口を動かした。

「ク、クロ卿? 何故貴方がここに……!?」

 今まで俺の存在に気付いていなかったのだろうか。多分シャトルーズとかに意識がいっていて気付かなかったんだろうな。俺は軽く礼をして挨拶をする。

「どうも。諸事情でここに来ていまして。そして偶々彼らと合流したのですが……」
「そう、なんですか……えっと、今のも聞かれていて……? 今の話し方と言いますか……」
「今の話し方……?」
「その、……訛っ、ていた、やつ、です……」
「ああ、はい。スカイさんも幼馴染のシャトルーズ卿の前ではあのように話すのですね」
「あ、う……」

 他にもイントネーションが少し半音上がっていたりしていたな。シャトルーズに対して怒って素が出ていたのだろう。いわゆる方言女子っぽくて可愛らしかったな。

「し――」
「し?」
「失礼致します! また後日!」
「ぐおっ!?」
「スカイさん!?」

 スカイさんはシャトルーズの服を掴んだ状態で引っ張っていき、そのまま店を出ていった。
 何故去って行ったかは分からなかいけど……というか凄い力だなスカイさん。シャトルーズは筋肉とかで割と体重があると思うんだけど、勢いよく出ていった。流石は騎士候補、鍛え方が違うというやつか。

「(え、スカイちゃんってもしかして……)」
「(え、そういう事? でも勘違いじゃない……?)」
「(でもシルバ君。スカイちゃんのあんな表情見た事ある?)」
「(……ない)」
「(だよね。ドロドロ? 痴情のもつれ?)」
「(……多分叶わない想いじゃないかな)」

 俺がポカンとしていると、近くでクリームヒルトさんとシルバがなにやらひそひそと話していた。
 あと他の皆も俺を見ている気がする。

「あの、皆さん、どうされたのですか? 何故俺を黙って見るんです」

 無言で全員が俺を見る事に耐えきれず、俺は誰か対象を決めて言うのではなく、誰かかが返事をしてくれると思いこの場に居る皆に質問をする。

「クロさん」
「はい、なんでしょうメアリーさん」

 そして答えてくれたのはメアリーさんであった。
 俺はメアリーさんの方を向き、答えを待っていると……

「ある時、関係が拗れて後ろから刺されないようにしてくださいね」
「よく分かりませんが、メアリーさんだけには言われたくないという事は分かります」
「……そうかもしれませんね」

 本当は言いたい事はなんとなく分かるけど。
 でもスカイさんの場合アレは殿下達に害をもたらそうとした奴らへの演技であって、本気では無いから、メアリーさんが言っているだろう事は違うとは思うのだけど。
 でもだとしたら、何故逃げるように去ったのだろうか。







「うわぁぁああああ聞かれた聞かれた聞かれた! クロお兄ちゃんに訛ってるの聞かれた! せっかく昔の憧れの兄という事で整理しようと思っていたのに……!」
「ス、スカイ? どうしたんだそんな路地裏で蹲って……というかお兄ちゃん?」
「せめて毅然に振舞って騎士らしい女として記憶してもらえるようにしていたのに、いきなり再会で騎士らしくない話し方を……全くなんも騎士らしくない……!」
「お前の訛りの事か? 特に気にする者は居ないと思うんだが……」
「そもそもシャルが私を忘れていたのが悪いんや。シャルが待ち合わせの場所に居なえんかったのが……」
「よ、よし! 私が悪かった。お詫びに好きなモノを奢ってやろう。なにが良い?」
「新しい箒。部屋を綺麗にして落ち着く」
「……構わんが、良いのか?」
「別に良いでしょ。……あぁ、でもクロお兄ちゃんと会えた……ふ、ふふ……首元、色っぽいかった……」
「おい、大丈夫か?」
「ねぇ、シャル。事故を装って足を滑らせて好きな相手に抱き着く、ってありだと思う?」
「無しだな。私がメ……メアリーアイツにやっている所を想像しろ」
「……無いね。…………ねぇ、シャル。今まで馬鹿にしていてごめん」
「突然どうした」
「なんというか、好きって理屈じゃどうにもならないんだって思って。今までメアリーに熱中するシャル達を恋熱に浮かされた馬鹿共としか思ってなかったんだけど……」
「お前、そんな風に思っていたのか。だが、恋という感情はどうしようもないだろう? お前も一歩、私達オトナの世界に来たのだな」
「決め顔で言うなや腹立つ」
「喧嘩売っているのか」

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