追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
よよよ(:紺)
View.シアン
「おーい、エメラルドを困らせるんじゃない、戦闘系シスター」
「イタッ!」
私が神父様の魅力について語っていると、背後から誰かに頭を叩かれた。
本当は別に痛くはないのだが、不意打ちであったためつい痛いという言葉が出てしまう。
というより誰? 神父様の魅力はまだまだ語り足りなくて一割も話していないというのに……!
「あ、色ボケ領主のクロ」
「喧嘩売ってんのか。売ってんのなら買うぞ」
そこに居たのは最近なんだか忙しそうにしていたり、コットちゃんと妙な距離感になっているように思える、話題に上がっていたクロが居た。そして、
「エーメ、ラールドー!」
「っ!? おい、急に抱き着くなと言っているだろうがレット!」
「同性の友なら普通普通ー」
「んな訳あるか!」
先程少し話題に上がったレットちゃんもいた。唐突にエメちゃんの背後に現れて、抱き着いている。当然と言うべきか、エメちゃん的には9歳も上な距離感の近い同性の不意のハグなので嫌がっている。
それにしても相変わらず背が高くて魅力的な格好良い女性である。……神父様はこういうタイプが好きな可能性もあるのかな。
「大体同性の友ならシアンでも良いだろうが。何故毎回私に抱き着く」
「えー、でもエメラルドの方が体格的に抱き着くとすっぽり入るし、抱き着きやすい」
「悪かったな背が低い上に細くて」
エメちゃんはレットちゃんの顔に手をあてて無理矢理距離をとらせようとしている。だけど現役冒険者に腕力で叶うはずもなく、結局は抱き着かれていた。
……好きという行動を示しているのかもしれないけれど、エメちゃんは相手には逆効果だろうなー。
「よよよ、私もそろそろ首都に一旦帰らないと駄目なのに、エメラルドが冷たい事を言う……」
「なにが、よよよだ。ていうかそもそも第二王女がいつまで滞在しているつもりだ」
「ふふ、私は今冒険者のレットだからね! 第二王女とか関係無いの!」
「そうか。冒険者なら旅立つのは普通だな。じゃあなレット」
「エメちゃんが冷たい!」
「ええいさらに抱き着くな、そしてシアンの真似はやめろ!」
レットちゃんが泣き真似をし、エメちゃんを抱きしめる強さを強くする。あのままだと頬ずりとかしそうだ。
多分好きに対する距離感が分からないのだろうけど……まぁ、いっか。本気で嫌がっているのなら止めるけど……邪魔はしないでおこう。
「で、どうしたのクロ子爵候補。なにか用事?」
「その呼び方やめろ……」
私はぎゃいぎゃいと騒いでいる二名を放っておいて、最近忙しそうだったり、コットちゃんと話してはなんだか掘り起こされてほしくない過去を掘り起こされたような表情をしたりしているクロに話しかける。
あと子爵候補というのは止めておこう。本来なら誇らしい事なのだろうけど、クロにとっては本当に頭痛の種なようだ。……シキの領主とか殿下とか昇格とかで、ストレスで倒れないように今度気を使おうかな。
「神父様は留守か?」
「うん、今足痛めたイエローさんの所へ行って面倒見てる。その後色々寄るって言っていたから、帰るのは夕方前くらいかな」
「そうか……」
気を取り直したクロが私に神父様の所在を聞く。
反応を見る限りでは、内容はそれだけのようであるようだ。……という事はレットちゃんは偶々着いて来たのかな。
「まぁシアンに伝えても大丈夫か。俺がちょっとシキを数日離れるからさ。神父様にその事を伝えておいてくれ。あとこの資料も」
「んー、りょうかーい。……なにかあったの?」
シキをこの時期に数日離れるとは珍しい。領主会議という訳でも無いので、なにかあったのではないかと私は尋ねる。もしも私に力になれることがあるのならば協力はしよう。
「なにかあったと言えばあったんだけど……さっきの子爵になるかもしれないという事や、それ関連でシッコク兄様に会わないといけないかもしれなかったり、そこの殿下の送迎……馬車で逃げないように空間歪曲石がある隣町まで一緒に行くって言う……」
「お、おお……頑張って」
「……おう」
協力しようとは思ったのだが、私にはどうにもならない事であった。
いくら戦う力を有していると言っても、第一王子と第二王女の送迎は心身ともに疲れるだろうし、シッコクとやらは私は会った事は無いけど、クロが苦手としている兄であったはずだ。こればかりは私でもどうしようもない。
「……ま、イオちゃんに協力出来る事は協力するから、シキは任せな」
「……頼む」
なのでせめて不在の間のシキでの領主代行っぽい事はしておこう。イオちゃんも大分慣れてきているし、大丈夫だとは思うけど困った時は協力するために、いつもより気にかけよう。
……面倒であれば説教すれば大抵解決はするから大丈夫だよね。
「ま、それは俺の問題であるんだから良いんだが……なんか色恋だとか言う話が聞こえたんだが、なんの話だったんだ?」
再び気を取り直したクロが、明日の事など知らねぇとばかりに話題を変えて来た。
この切り替えはクロらしいと言えばクロらしい。
「なんか最近私だけ周囲の色恋沙汰に取り残されているなーっていう話。クロですら大分進んでいるのにさ」
「ですらって言うなや。……まぁその所は個人によるものだし、焦る必要はないんじゃないか? 焦ればことを仕損じる、っていうし」
「そうだけどさー。私だって神父様に抱き着いたり抱き着かれたり、キスしたりされたりしたい訳ですよ。クロだってイオちゃん相手にはそうでしょ?」
「そうだけど。……うーん、じゃあさ」
クロは私の言葉に賛同すると、考える仕草を取ってから未だにじゃれ合っている(?)エメちゃん達の方を見る。
私もそれにつられて見ていると、クロが一つ提案をした。
「……協力するから、アレの真似をしてみるか?」
「……え」
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