追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間


-とある誰かの誕生日深夜、とある屋敷の一室にて-


「グレイだけでなく、アプリコットも寝てしまったな」
「ええ、疲れていたのでしょう。元々体力も無い方ですから」
「仲良く眠っていたな。微笑ましい」
「目が覚めたらアプリコットは慌てふためきそうですね」
「ふふ、目に浮かぶようだな」
「シアンも目が覚めて状況を理解したら慌てそうです」
「確かに。酔って眠って神父様に背負われて運ばれたからな」
「神父様にはともかく、インディゴさんに言われそうですからね」
「ああ、確か首都から遊びに……というより、殿下達と同じように調査の件について教会からの使者として来ているのであったな」
「そうです。彼女はからかうでしょうね」
「しかし、改めて感謝する、クロ殿。こんなにも嬉しくて楽しい誕生日は初めてだ」
「それは良かったです。準備した甲斐がありました」
「うむ。……だが、ロボと神父様の合体演芸はどうにかならなかったのだろうか?」
「……あれは俺としても想定外の出し物だったと言いますか……」
「機能が回復していないのに、ロボはあそこまで出来るのだな……」
「戦闘面以外では大丈夫だそうですから……」
「それとクロ殿が途中に、アプリコットと戻って来た時にやけに暗かったのは何故だ?」
「……あれは俺としても想定外の思い出したくない事と言いますか……」
「よく分からないが……ともかく、楽しかった。誕生日を祝ってもらう、という事はあまり無かったからな」
「これからは毎年祝いますよ。楽しみにしていて下さい」
「初めがここまで楽しいものだと、これからも毎年期待してしまうぞ?」
「今日のようなヴァイオレットさんの楽しそうな笑顔が見られるのならば、何度でも俺は貴女の期待に応えてみせます」
「その言い方は……ズルい」
「ズルくても良いでしょう?」
「……そうだな。だが、クロ殿も顔が赤いぞ? 照れているのか?」
「……照れて無いです」
「照れている」
「無いです」
「いる」
「……いつもと逆な気がしますね」
「ふふ、そうだな。だが、そうなると私もクロ殿の誕生日の時は期待に応えねばならないな」
「むしろ俺の場合はあの時の嬉しさのお返しに、今日を企画したんですがね」
「あの時は……即興な面もあったから、偶々上手くいったのだがな」
「だとしてもですよ。俺にとっては誕生日では一番の思い出です」
「そう言って貰えると嬉しい。…………」
「どうされました?」
「クロ殿。誕生日の最後に……お願いがあるのだが、聞いて貰えるだろうか」
「? 良いですよ」
「浅ましいと思わないで欲しいのだが……」
「思いませんよ」
「……ひとつ、欲しいモノがあるのだが」
「なんでしょう? 俺に用意できる物ならば用意しますが……今からだと誕生日きょう中にお渡しする事は難しいかと」
「いや、すぐに用意が出来るものだ。その……既に持っているモノというべきか……クロ殿の行動次第と言うべきか……」
「既に持っている?」
「ああ。……クロ殿。私達は夫婦だな?」
「ええ、そうですね?」
「私の事は……大事に思ってくれている、だろうか」
「はい、とても」
「そうか。私も思っている。ならば……その……。…………」
「……?」
「――、――――が、欲しい」
「え? その、今、なんと……?」
「……クロ殿は意地悪だな。もう一度言わせる気か?」
「えと、ヴァイオレットさん。その、密着されると緊張すると言いますか」
「……一緒な時間が欲しいと、言ったんだ。だから寄り添わせてくれ」
「先程とは違う言葉ではありませんか?」
「……やはり意地悪だ」
「こんな可愛らしい妻が居れば、意地悪もしたくなります」
「…………」
「いつつ、無言でつねらないでください。ごめんなさい」
「……それで、どうなのだ。妻をからかって遊ぶ夫よ」
「どう、とは?」
「最初の言葉が聞こえていたのだろう? ……私にくれるのか?」
「……ええ、構いませんよ。貴女が望むのならば。それに……」
「それに?」
「俺にとっても欲しいものですから、喜んで」
「そうか。えっと、ありがとう……?」
「感謝の言葉は少し違う気がしますね」
「……そうだな。今言うべきは違う言葉か。聞いてくれるか?」
「はい」

「大好きです、クロ」
「ええ、俺も大好きだ。ヴァイオレット」

「追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く