追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

02_14(:菫)


View.ヴァイオレット


「……クロ殿。状況を説明してもらえるだろうか」

 シアンに担ぎ込まれ、目隠しした状態でとある場所に運ばれていた。
 恐らく距離や聞きなれた扉の開閉音などから我が屋敷ではあるのだろうが、ともかくとある場所へやで私は目隠しをされた状態で座らされていた。

「いえ、俺もシアンが唐突に運んで来たんで驚いている状態です」
「その言い方だと目隠し自体は予定にはあったという事か」
「え。……えっと」

 周囲の反応からしてクロ殿やグレイ達は居るようだったので、クロ殿に尋ねると困惑した声色で回答が返って来た。一部は予想外の出来事であったようだが、元々予定に会った事ではあるようだ。

「気にする事ではない。クロ殿が望むのならば悪い事ではないのだろう」
「ありがとうございま――え、望む? 企むなどではなく……」
「この状態でなにかを食べさせて反応を楽しむ、と聞いたのだが。違うのだろうか?」
「違います。……おい、シアンが言ったのか?」
「……ふふふ、なんのことでしょうねー」
「くっ、神父様の前だから大人しくしやがって……」

 どうやら私が聞いていた内容とは違うようだ。
 とはいえ、互いに楽しむのならば良いかもしれないが、クロ殿がそういった反応を見て揶揄う、というのは少し違う気はしていたのだが。
 だが、そうなると……

「ともかく、目隠しを取りますね? シアン、頼む」
「了解。ちょっと触るよイオちゃん」

 クロ殿言葉でシアンが私の後ろに回り、目隠しを取る。
 目隠しが取れた事によって急な光に目を細めながらも、すぐに回復した視界が映し出したのは――

「誕生日おめでとうございます、ヴァイオレットさん」
「おめでとうございます、母上」

 視界が映し出したのは、花束を差し出してくるクロ殿とグレイ。
 クロ殿は微笑んで、グレイは満面の笑みで。私に受け取って欲しいと言うように花束を差し出していた。

「……そうか。今日は十四日で、私の十六の誕生日か」

 私の状況を、言われた言葉と花束から理解する。
 ローズ殿下関連で忙しなかったのもあるが、忘れて……は居なかったが、こうして改めて祝われるという発想があまり無かったので、面を喰らってしまっていた。

「ええ。ちょっとしたサプライズをと思いまして。俺の時も首都で唐突に祝われましたし……と、どうされました?」
「……いや、家族に祝われる、という経験があまり無くてな。つい驚いてしまった」

 誕生日パーティーを開いて貰った事は有るが、私は家族に祝われた記憶はあまり無い。
 小さな頃ならば兄にお祝いの言葉を貰ったり、母から貰った事も有るのだが……ここ数年は、バーントとアンバーのお祝いの言葉か、ヴァーミリオン殿下が使いの者に花とメッセージを一文添えたものを送って来る程度だった。父に至っては祝って貰った事すらない……というよりは、父が私の誕生日を覚えているかどうかすら怪しい。
 ともかく、クロ殿の時はグレイに言われて祝いたいという気持ちはあったのだが、こうして私がその祝われる対象となると……

「とても嬉しいものだな」

 思いの外、誕生日を祝われるというのは嬉しいものだと知った。
 クロ殿やグレイだけでなく、シアンやアプリコット、スノーホワイト神父様やロボやカナリアまでもが居る。彼らが私のために祝ってくれている。……その事実が、とても嬉しかった。

「ありがとう、クロ殿、グレイ。私は良き家族に恵まれた」

 私は花束を受け取ると、そのまま花束を差し出したクロ殿とグレイを一緒に抱きしめた。数日前に抱きしめた時は全員で抱きしめ合ったが、今回は私が抱きしめる形となる。クロ殿は初めは戸惑い、グレイは嬉しそうにしていた。
 大事にして、大事にされている夫と息子の温かさを傍で感じる。……去年の今頃、バレンタイン家に居た頃には、とても考えられなかった状況だ。
 何度も失敗してきた私でも、こうして生まれて来た日を祝ってくれる存在が傍に居る。この温かさが、心地良い。

「という訳で、はい、ケーキ、シャンパン! イオちゃん音頭をお願い!」
「わ、私か?」
「うん、主役だし!」

 抱きしめも終わり、私がクロ殿とグレイを離すとシアンがシャンパンの入ったグラスを差し出してくる。
 そして乾杯の音頭……始まりの言葉を言って欲しいと、他の皆にもグラスを配りながら要求してくる。
 私は花束を左腕に抱え、右手でシャンパンを受け取る。どうするべきかと悩むが、皆が私を期待した目で見ているので、咳払いを一つしながら言葉を考える。

「この度、十六回目の誕生日を向かえました私に、このような場を作って頂き皆に感謝を――」
「固いよー」
「固いなー」
「固いよねー」
「固イデスー」
「くっ……!」

 私が言葉を言っていると、シアン、アプリコット、カナリア、ロボの順で女性陣に固いと言われた。
 分かってはいるが、私は友に誕生日を祝われた経験などない。パーティーで挨拶をした覚えしかないので、こんな時にどう言えば良いか分からない。

「簡潔に感謝の言葉で良いんだよ。その後に乾杯、って言えば良いの」
「感謝の言葉……」

 シアンに言われ、私は少し考える。
 感謝の言葉か……それならば言えるな。私は改めて咳払いをすると、集まって皆を見て言葉を紡いでいった。

「シアン。来たばかりの私にも気軽に話しかけてくれてありがとう。お陰で初めての同性の友を得たよ」
「いえいえー」
「アプリコット。いつも自分らしさを貫きながら気を配る姿に勇気づけられたし、助けられた」
「ふふふ、気にする事ではない」
「ロボ。初めは取り乱したが、一緒に空を飛んだ時は助かった。お陰で吹っ切ることが出来たからな」
「ドウイタシマシテ」
「カナリア。私に明るく接してくれた上に、クロ殿との話でクロ殿を知ることが出来た。それに貴女が居なければクロ殿とも会えなかったかもしれない」
「なにせエルフだからね、当然のこと!」
「スノーホワイト神父様。貴方の心の在り方は素晴らしく、私が知る中では最も尊敬できる神父だ。貴方と会えた事を嬉しく思う」
「そう言って貰えると俺も嬉しいよ」
「グレイ。私に対して目を逸らさずに真っ直ぐ見て、唐突な私の存在に反発する事無く、母として接してくれた。愛しい息子が出来た事を誇らしく思う」
「いえ、私めも貴女が母上で嬉しい限りです」
「そして――」

 そして。

「クロ殿。貴方と出会えた事が、私にとっての至上の喜びだ。これ以上に無い贈り物と言えよう」
「ありがとうございます、ヴァイオレットさん」
「ああ、本当にありがとう、私の夫よ。……愛しているぞ」
「……っ。はい、俺も、愛しています」

 私の言葉に、顔を赤くして戸惑いながら返答するクロ殿を皆で小さく笑いながら、私はグラスを高く掲げる。

「皆、ありがとう――乾杯」

 私の言葉に、皆がグラスを掲げて私と同じ言葉を繰り返した。

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