追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

虚を突かれると動揺はする(:菫)


View.ヴァイオレット


「悪いな。仕事を手伝って貰ったばかりか、荷物まで持ってもらって」
「困った時はお互い様であるから気にしなくて良い、神父様。普段はこちらもお世話になっているからな」
「そう言って貰えると嬉しいよ」

 教会での用事を済まそうと教会に行くと、丁度スノーホワイト神父様が困っていたので手伝いをした。そして教会での手伝いと仕事を終えた後に、我が屋敷に持っていく必要がある荷物があるという事で、シアンと神父様と協力して荷物を持っていた。
 大変なものではなかったのだが、時間が思ったよりもかかるものであり、予定よりも大分時間が過ぎてしまった。しかし元々教会での仕事はシアンに言われて最後であったので、後の仕事に影響しなかったのが幸いである。
 しかし、予定より大分過ぎたのはシアンの、

『イオちゃーん。今の下着ちょうだーい』
『は? ……私の今身に着けているのをか?』
『うん』
『一応聞こう、何故だ』
『なんか男性は下着に興奮する事があるって聞いたから、はいたほうが神父様を気を引けるかと……けど私、下着持ってないから。一番サイズが近いの多分イオちゃんだし。胸はともかく』
『……うむ、屋敷にあるモノなら渡しても構わないが、何故今身に着けているのを?』
『脱ぎたてが良いものだとも聞いたから。脱ぎたてを付ければ相乗効果があるかと』
『その方面はよく分からないが、意味が違うと思うぞ』

 などと、仕事を最後にして欲しいと言っていた当のシアンによる、よく分からない話をされて時間を食ってはいたが。ちなみに下着着用禁止なのは構わないのかと問うと、その時だけシスターでなければ良いのでシスター服を脱ぐだけだとの事だ。それで良いのだろうかという言葉はどうにか飲み込んだ。相変わらずと言えば相変わらずである。

二月フェブルウスだとまだ寒いですね、神父様」
「そうだな。だけど雪も解け始めて来たから少しずつ暖かくはなって来るだろう」
「ええ、私達教会関係者は冬は厳しいですから。早く暖かくなると良いのですが」
「そうだな。けれど暖かくなったらなったで、お互いに服は暑いんだけどな」
「そうですよね。……でも夏は汗でふわっとするのが……ふふ」
「どうした、シアン?」
「いえ、なんでもありませんよ?」
「?」

 神父様を前にすると、口調が変わってグイグイといけないのも相変わらずだな。
 こうして見ると優しいお兄さんと妹、という感じではある。ある意味私とクロ殿や、アプリコットとグレイなどと比べると、一番家族のような絆があるのはシアンと神父様である。
 ……代わりに神父様に恋愛の情が一切ないのは確かだが。神父様は鈍いと言うか、他者からの感情に好意悪意問わず疎い所があるからな……その分シアンが鋭いので互いに補い合っては居るといえば居るのだが。

「しかし、大変だったな。まさか殿下達が一気に来るなんて……しかも第一王女殿下も来たって聞いたが」
「クロ殿が頭を痛めていたよ。ローズ殿下は真面目な方であるから、ローズ殿下が来てくださったお陰で助かった部分もあるが」
「ああ、ローズ殿下は真面目だからな。……けど、聞けば隠れて来ていたと聞くが」
「ええ、そこは意外だったな――と、もしかして神父様。ローズ殿下と以前から?」
「彼女が学生時代に少し。半年ほど学園内の教会にも務めていたからな」
「そういえば以前仰っていましたね」

 位置的にシアンを挟んで神父様が居るので、私が荷物を持つのによろけたふりをしてシアンにぶつかってと神父様をくっつけようかと思っていると、私に話しを振って来たので返答をする。シアンは知っていたようだが、私にとっては初耳の情報であった。

「毎朝同じ時間に礼拝に来て、身嗜みの乱れは一切なくって……ああ、これが王族なんだな、って思ったのを覚えているよ」
日常処理ルーティンワークならば、神父様も同等だと思いますよ。素晴らしい心構えで職務を全うなさっていると思います」
「ありがとうシアン。でもなんて言うか、彼女は“在り方”が違う、って感じだったな。そういう意味では……ヴァイオレットと同じような雰囲気はあったな」
「そう言って貰えると嬉しいな。ローズ殿下は私の見本であるから」

 神父様の言いたい事は分かる。
 ローズ殿下は隙が無くて所作も私の身本だ。ルーシュ殿下やスカーレット殿下のような派手な功績は無くとも、最も頼れる御方である。

「……神父様は、あのような女性が好きなのですか?」
「ん? そうだな、ああやって規則正しい生活をする女性は好ましいな」
「そうですか。………………よし」
「よし?」
「なんでもありませんよ、神父様」

 何故だか分からないが、明日からシアンがローズ殿下の真似をし始める気がした。
 多分一週間くらいで演技も疲れて神父様が居ない時に我が屋敷へとたかりに来るだろうが。

――そういえば。今日のクロ殿達の様子がおかしかったような。

 演技でふと今日気になっている事を思い出した。
 ローズ殿下との会話や、今日の仕事の内容。アプリコットの先程の会話や、そしてシアンの会話と……神父様の手伝い。思い返せば神父様の手伝う事は、私が来るのを見計らっていたような……偶然と言われればそれまでであるのだが。

「なにか今日、クロ殿やアプリコットの様子がおかしい気がするのだが……なにか心当たりは無いだろうか?」

 一応シアン達は特におかしくない事を伝えつつ、軽い感じに私はシアン達に聞いてみた。
 別に答えを求めている訳では無いが、屋敷に着くまでの時間潰しと思っていたのだが……

『っ!?』

 む、なんだその反応。
 どう表現すべきか分からないが「もう少しなのに……!」的な反応はなんだ。

「いや、分からないな。分かるか、シアン」
「いいえ、分かりませんね。コットちゃんは分かりませんが、いつも通りのクロだったと思いますよ」
「だそうだ。すまないな」
「……いや、構わないのだが」

 今更取り繕っても、シアンほどではないが私とて相手の機微には分かる方なのだが。特になにか隠そうとしている時は。
 ……シアン達に限って悪い事をしている訳では無いだろうし、黙っていたいのならば黙っていても構わないのだが。

「そういえば二月フェブルウスも半分が過ぎようとしているな。調査の者も今度来るから、神父様には迷惑を――む、二月フェブルウス……半分……」

 話題を変えようと、先程神父様にも伝えた調査の件について振ろうとして、私が言った言葉になにかが引っかかった。
 二月フェブルウス……半分……今日は十……ああ、そういえば――

「神父様、イオちゃんを確保しました!」
「え、なっ、シアン!?」

 私がある事を思い出し掛けようとすると、唐突にシアンが荷物を脇に抱え、逆の腕で私の胴回りをガシッ、と掴んだ。
 な、なんだ。突然なんだというんだ!

「了解した! 【創造魔法:布クリエーション】!」
「神父様まで!? こ、これでは前が見えないぞ!」

 訳も分からないまま、神父様が得意な魔法である創造魔法で作られた細長い布で目を覆われ、視界を防がれる。
 なにが起きている。シアンだけではなく、神父様までこのような奇行に走るとは……!

「イオちゃん、少し担いで走るから気をつけてね! 間違って魔法とか唱えないでよ!」
「シアン!? なにが起こっているのか説明をしろ!」
「うるさい、イオちゃんはもっと食べなさい! 私より身長高くて胸もあって体重が私より軽いとかどうなっているの!」
「いや、筋肉量の差だと思うのだが。シアンは実に健康的で羨ましく思っている」
「冷静なツッコミをありがとう!」

 訳も分からないまま、私はシアンに担がれて何処かに運ばれていった。





備考:創造魔法
魔力で物質を一時的に作る魔法。しばらく経つと霧散するため、物質をかけ合わせて物を作る錬金魔法とは似て非なる魔法である。適性が無ければまず使われない魔法でもある。
第37話「彼らが慣れようとするまで_1/2」でもちょっと使用している。

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