追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

意味が違う乙女的なゲーム(:菫)


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「クロ男爵、読めるのですね」

 私は心の中でねがっていると、意識していた外側から抑揚の少ない、綺麗な声で話しかけられた。
 その声は先程までルーシュ殿下達に説教していた、私が尊敬している御方であるローズ殿下。そんなローズ殿下が、感心するような言葉を言いながら現れた。
 何故急に……と思うと同時に、ルーシュ殿下達はどうなったかと思い、バレない程度に身体を移動し視線を先程の場所に移動すると……僅かだが、ぐったりとしているルーシュ殿下達と慰めているバーガンティー殿下が見えた。どうやら説教は終えていたようだある。

「ああ、いえ……偶々ですよ。偶然似たような文章を知っていたというだけで……」

 突然現れたローズ殿下に対し、クロ殿は警戒心を抱きながら返答する。

「いいえ、偶然だとしてもこうして謎の文章を解く手がかりとなったのです。オッテンドルフ……というのは聞いた事ありませんがね」
「俺も聞きかじった程度ですし、そういった名前だったのかハッキリしませんし、オリジナルな数列だったのかは分かりませんがね」

 一人称がいつもと違う様子で、クロ殿は警戒心を緩める事無く、表面上はにこやかに会話を続ける。
 その警戒心は、偶にメアリーや……最近偶に見る事がある、クリームヒルトに対して見せる警戒心と似たモノであった。

「念のため聞きますが、彼らとの関わりは無いですよね?」
「無いですよ。あったとしたら暗号解読の手掛かりを教えないでしょう。……誤情報で誤った見方をさせる、という可能性もあるでしょうが」
「失礼、一応問わなくてはならないのですよ。貴方が政変を力を持って行おうとしているものと疑っている訳では無いので、ご安心を」
「……いえ、こちらこそ。そのような気遣いの言葉を使わせるなど……失礼致しました」

 クロ殿は謝罪の言葉を口にして軽く頭を下げる。
 ローズ殿下は特に気にしないといった様子で会話を続ける。
 昨日と今日の感謝の言葉。ルーシュ殿下達に関し迷惑を掛けていた事に対する謝罪。調査に関して弟達が迷惑を掛けるだろうという気遣いの言葉。今後の対応。一通りの領主と宰相の妻としての会話を続けていた。

――邪推では無いかもしれないな。

 先程まで感じていたスカイの一連の行動に対する疑いが邪推では無いのかもしれないと、ふとクロ殿とローズ殿下の会話を聞いて思った。
 なにを疑っているのかは分からないが、ローズ殿下がクロ殿に在らぬ嫌疑をかけているのは確かなようだ。

「そういえば話は変わりますが、よろしいですか?」
「なんでしょう」
「夫婦仲がよろしいと思っていたのですが……実は特殊お預けプレイをするような間柄と聞いたのですが、事実なのでしょうか」
「……はい?」

 と、思っていたら、会話が妙な方向にシフトした。

「あの、どういう事なのでしょうか……?」
「私はヴァイオレットの事は幼少の頃から知っています。学園にての暴走は同情はしませんが、ヴァーミリオンに対しての恋慕の情も知っているのです」
「はぁ、そうですね?」
「そしてこの度、ヴァイオレットが弟の件で深く病んでいないか心配であったのですが、見た限りでは幸福なようで安心しました」
「その通りです!」
「イオちゃんがローズ殿下に……!?」

 会話は妙な方向にシフトしたが、ローズ殿下にも認めてもらうほどには仲が良く、幸福なようには見えていたようだ。私は嬉しさのあまり、会話に入ってローズ殿下の言葉に同意した。スカイが妙に驚いていたが、気にしないでおこう。あとイオちゃんは固定なのか。

「ですが、先程聞いたのですが“クロ男爵は乙女崇拝をしており眺める事が趣味で、手を出さずに焦らさせる特殊な行為”と」
「違います誤解です!」
「乙女をゲームの様に弄んでいる……つまり乙女ゲーム状態なのだと聞きました」
「なんだか久々に馴染み深い言葉を聞いた気がしますが、違います! ていうか誰に聞いたんですか?」
「宿屋に居る皆様がクロ男爵夫婦について聞くとそう言います」
「くそ、アイツら税金でもあげてやろうか!?」
「不当な納税は処罰の対象ですよ」
「実際にはしないんでご安心ください! ともかく違いますから!」

 馴染み深い言葉……乙女ゲーム、の所だろうか? そのような言葉をクロ殿は馴染み深いのだろうか。何故だか私もその言葉に妙な感じを覚えるのと……以前見た夢でそのような言葉があったような気がするが、ともかく今はフォローを入れなければ。

「そうです、私が触れ合うだけで幸福の許容範囲を超えてそれ以上できないだけで、クロ殿は特殊な性癖は有していません!」
「ヴァイオレットさんありがとうございます、ですがフォローかどうかは微妙です!」

 何故だ。

「ではクロ殿、ここはアピールだ! 疑いを晴らすために仲の良さを示そう。一昨日はぬくもりを感じたまま気が付くと互いに眠ってしまったが、座って後ろから抱きしめ――」
「やめてください、恥ずかしいです!」

 だから何故だ。
 最近の私達の仲の良い話ではないだろうか。

「いえ、失礼致しました。他の夫婦の夜に関して問い質すなど、無粋の極みですね。王族第一王女として深く謝罪をさせて頂きます」
「ここで急に引かないでくださいよ!」
「はは、なにを言うのです。昨日今日会話したばかりの相手に性癖を聞こうなど無礼にも程があります。先程妹に説教したばかりだというのに、お恥ずかしい。こうして謝罪をするのは当然です」
「そうかもしれませんけれども!」
「仲の良さは充分に伝わりましたから、大丈夫ですよ」
「それって特殊云々に関しては疑いが晴れていないって事では……」
「ははは」
「その笑い怖いです」

 よく分からないが、滅多に笑う事の無いローズ殿下が笑ったのだから、仲の良さは伝わったのだろう。分かって貰えたのならば良かった。
 ついでにスカイがなにやら舌打ちでもしそうな苦々しげな表情であったが、気のせいだと思っておこう。
 ……それに、ローズ殿下がこのような話をする事は珍しい事だ。恐らくなにかを誤魔化すためなのだろうから、今は良かったとだけ思っておくとしよう。

「ああ、そういえばクロ男爵。昨日の件……私が生姜湯などを差し出そうとした時の会話を覚えていますか?」
「生姜湯? ……ああ、あの時の。ええ、覚えていますが……成程、だからあの時皆と迎えたいの意味を理解していたんですか」
「はい。記憶力は良い方なので。それではクロ男爵、私の分もよろしくお願いしますね?」
「……はい」

 ……? なんだろう、滅多に笑わないローズ殿下が先程の乾いた愛想笑いとは違う表情で笑ったような気がする。
 なにかあるのだろうか? ……ローズ殿下もクロ殿に惹かれている、という事だけは無いと願おう。

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