追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

ひどい正当防衛を見た(:菫)


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「ありがとよ、お嬢ちゃん。情報は充分に使わせてもらう」

 一通りの聞かれた事に対する説明をすると、ここに居る中ではリーダー格らしき男がそう言って他の者達に色々な事を伝えていった。与えられた情報に関しては困惑しながらもどうにか飲み込み、信じすぎる事無くあくまでも一つの対応策として警告するだけに留めているように思える。
 私をまだ信じ切っていないので鵜呑みにしていないというのもあるだろうが……単純に宿屋の情報をそのまま伝えても混乱しか招かないからだけのようにも思える。

――さて、ここまでは予想通り。

 向こうの話し合いからおおよその内容と規模は分かり、事前の情報通りだとは分かった。
 しかし捕まえるには不十分な情報でしかない。なにせ計画は計画だ。国王に連なるものを害そうならば計画でも充分な犯罪ではある。しかし、まだ実行にも移していない。
 そして物言いからして後ろ盾はあるようであるから、証拠が不十分だと有耶無耶にされる可能性が高い。
 防ごうと私が動けば相手に伝わるし、殿下達には別の監視もあるだろうから、計画を伝えれば計画中止で取り逃す。かといってこのまま放っておくわけにもいくまいが、下手に動いて取り逃せば、シキに居る今回の件を行おうとしている奴らを逃がす事にもなる。動くにしても万全を期すべきである。

「こんばんはー」

 そう、例えば。
 私にとって傍に居てくれれば一番の力になる存在が来てくれるとか。

「……ハートフィールド領主?」

 突如現れたクロ殿に、リーダー格らしき男は訝し気に見ながら警戒の色を見せた。
 周囲に居る数名の者達も警戒し、武器を手に取るなどの仕草を取る。
 当然の反応にクロ殿は困ったような仕草を取った後、いつもの対客用の笑顔を浮かべる。

「警戒しなくても大丈夫ですよ。私は大切な妻を迎えに来ただけです。夜中に男性の元に行かせるのは私とて心配なのですから」

 …………ふふ、大切な妻、か。演技の中の言葉とは言え、やはり嬉しいものである。
 スカイがなにやら私の方を見て「にやけてんじゃ無いです」的な視線を向けている気がするが、気にはしない。

「ヴァイオレットさん。どうでしたか?」
「ああ、とても良い計画だったよ。これならば私達は目的を達成出来そうだ」
「そうですか、良かった」

 クロ殿が近付き、男達はまだ警戒をしているが、私達は気にせずに計画に関しての当たり障りのない会話をする。

「スカイさんもありがとうございます。心細いだろう妻の傍に居てくれて」
「いえ、私と彼女の仲ですから!」
「ああ、それと一つ報告が」
「なんでしょう?」

 クロ殿はいつの間にやら名前で呼ぶようになったスカイに対し笑顔を向けると、スカイは笑顔のままクロ殿に対応する。……失礼だろうが、違和感が凄いな。

「取れました」
「了解です」

 クロ殿は合図を取って、スカイは先程までの私と仲が良さをアピールするための表情を止め、学園でよく見ていた真面目な表情になる。この表情がスカイにとっての仕事をする時の表情である事を私は知っている。悪いがやはりこちらの表情のスカイの方がしっくり来る。

「……おい、ハートフィールド領主。お前は一体なんの話だ」
「ああ、失礼。なんでもありませんよ、少し思った事があっただけです」
「思った事?」
「ええ。皆様がシキで少しでも良い時を過ごせるように、とね。では皆様、シキではよりよい滞在になる事を願っていますよ。――狭くて硬い床の部屋で、ね」
「……? ――! おい、アレはどうなっている!」

 クロ殿の笑顔に、リーダー格らしき男は疑問顔であったがなにかに気が付くと焦った表情で近くに居る仲間に顔を向けてなにかを確認する。

「お前、なにをしやがった!」

 そして仲間がその言葉でなにかに気付き、否定らしき言葉を返すとリーダー格らしき男は「くそっ!」と悪態をついて私達を改めて見る。先程までの警戒の色を含む視線ではなく、明確な敵意をこちらに向けていた。

「なにを、ですか? なんだというんでしょうね、スカイさん」
「さぁ、なんでしょう。皆目見当つきませんが、もしかしたら襲撃に使う魔法陣が消されていたのでは?」
「ああ、もしかして開発段階で廃棄されたという、一晩で痕跡は消える、特定の印を付けたモノに攻撃魔法を食らわせるという馬鹿みたいにコストがかかるあれの事ですか!」
「そうかもしれませんね。発動用魔法陣を消すと印も消えますから、それに気付いたのでは?」
「いやいやクロ殿。もしかしたら襲撃用に控えていた彼らの仲間からの連絡が無いのかもしれん」
「かもしれませんねヴァイオレットさん! ああ、なんという事でしょう。せっかく彼らの護衛仲間でもあるバーガンティー殿下を護衛の者に大怪我をさせて、その罪の疑惑をルーシュ殿下とスカーレット殿下に向けようとしたのに!」
「いやはや。せっかく殿下達の魔力痕が残るように残滓を残そうとしていたのに、これでは意味を成さないですね。――ハッ、イオちゃん。ですが殿下達の魔力反応が出る道具を彼らが持っていては大変です。無理にルーシュ殿下達を容疑者にするかもしれません!」
「む、スカイ。お前の手甲の内側に潜ませているそれはなんだ?」
「おや、これはイオちゃんが話をしている間にそこの護衛の方から私がなんとなく手にした謎道具ですね。もしやこれは……」
「まるで殿下達が首都で訓練用に使っているような武器の一部だな。ふむ、専門の者が行なえばあっさりと気付かれるような粗末なものだが、とりあえずはルーシュ殿下達の魔力だと周囲に結果として示すだけならば可能だろうな」
「もしも示す輩も彼らの一派だったら大変ですねヴァイオレットさん!」
「そうだな、クロ殿! だがなんだか襲撃計画の者達も、道具も魔法もいつのまにかいない気がするな。そう思わないかスカイ?」
「ええ、イオちゃん。まるで誰かが事前の情報を教えて、その通りだと聞き出せたので解決したかのようです。ですが、まだ数名ここに居るようですが」
「おー、なんてこった!」

 説明口調に、ワザとらしいリアクション。煽っているようにしか聞こえない……というか、煽ってしかいない私達の行動。
 スカイに至っては感情がこもっていない棒読みだし、クロ殿はまるで劇をしているかのようなリアクションである。

「お前ら!!」

 当然と言うべきかこの場に居る襲撃を計画していた面子は怒りの表情になり、武器を構えて私達に襲い掛かろうとする。
 とりあえずは……

「俺達はただ話し合っている中、急に武器を取って襲い掛かって来た。つまりは……」
「はい、正当防衛ですね」
「うむ、正当防衛だな」
「よし、正当防衛だ」

 とりあえず計画通りである。
 ……私達、悪役のようだな。

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