追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

謎演技(:菫)


View.ヴァイオレット


「はははー、スカイちゃん、葉っぱが綺麗な髪に付いているぞー」
「ふふふー、あらありがとうございます。クロさんと同じ綺麗な黒髪が汚れる所でしたー」
「あははー、気にするな。私とお前の仲じゃないかー」
「ふっふー、ですねー。私と貴女の仲ですものねー」
「ねー?」
「ねー?」
「……最近の若い子って不思議なもんだな」

 私とスカイは仲睦まじく笑顔で接していた。手を繋いでクリームヒルトやメアリーをイメージした距離感でスカイと仲良くする。
 スカイは先程までの表情だけの感情のこもっていない演技とは違い、感情のこもった仲の良い演技を醸し出している。はは、スカイの笑顔なんて初めて見たな。学園の頃を考えると感慨深いものである。出来れば違う形で見たかったがな。

「――さん、本当に彼女達は――して――でしょうか」
「バカ――な。いきなり――なんて――ないだろう。――か分からねぇ」

 私達を見て、今回のシキで起こる策略……もとい、バーガンティー殿下を傀儡とするために他の殿下達の失脚を望む一派の一員がなにやらこちらを見て訝し気に見て相談していた。
 ……今回は策略を行うメンバーを捕縛するために怪しまれないように、元々以前から没落の話をちらつかせる事で協力を持ちかけられていた、スカイと仲が良いふりをしているが……流石に怪しいだろうか。……今更だが仲良くする必要があるのか微妙だしな。

「それで、元バレンタイン公爵家のお嬢ちゃん。お嬢ちゃんは俺達に協力する……という事で良いのだろうな?」
「ああ、構わない。私の望みは何処かの私を捨てた三番目の王子を王の継承権から引きずりおろすことだ。そしてそちらに協力すれば叶うと聞いた。……違うのか?」
「今回は違うが、結果的にはそうなるな」
「だから協力したんだ。私は父の影響であまり動けないが、今回そちらが来てくれて助かったよ」

 しかし、私には今回の彼らに協力するもっともらしい理由は有る。
 王族であるヴァーミリオン殿下に捨てられ、実家には勘当同然に見捨てられた令嬢。そして世間的には田舎の問題領主にあてがわれた。世間的には恨むには充分だ。
 実際は今の私は幸せだがな! ……何故かスカイが妙な目で見てくるのは気のせいか。

「……とはいえ、あくまでも見逃すのと情報を与えるだけだ。実働はしない。あまり派手にされたらこちらで対応せねば怪しまれる。それに不必要に領民に傷を付けられると私とて面倒だからな」
「分かってる、それで充分だ。…………」
「どうした?」

 しかし、あまりに全面的に協力しても怪しまれるだけなので、こちらの線引きだけは明確にしておくと、私達に接してくる構成員の中では上の者らしき男が私を訝しげに見てくる。……なにか怪しかっただろうか?

「元バレンタイン家お嬢ちゃんは……今回の件を何処まで知っている?」
「む? 目的は知っているが、方法はあまり知らん。現地で協力したばかりの小娘に話す様な者達なのだろうか、そちらの……バーガンティー殿下の一派は」
「聞きたいと思ったりはしないのか?」
「話して貰えるのならば、私も今後の対応をしやすいので話しては欲しいが。無理は言わんさ。話さないのならば、話さないで構わん」
「……ほう」

 私はあくまでも必要以上に話を聞かないスタンスを取る。
 あまり必要以上に聞いても怪しまれるだけであるし、私達はシキに来ている面子で何処までが今回の一件に関わっているかが知れればそれでいい。
 ……そうすれば、後はそれぞれが私達の役割を果たすだけだ。

「元バレンタイン家お嬢ちゃん」
「なんだ。あと長いからハートフィールド夫人とでも呼んでくれ」
「長さほぼ変わらねぇじゃねぇか。……じゃない。お嬢ちゃんは今はあの領主と幸せそうに見えた。……俺達に協力してまで、第三王子を不幸にしたいのか?」

 私の動機を怪しんでいる……か。
 確かに私は幸福だから、それを崩そうとしてまで協力する義理はあるのか、という事か。私達が幸せそうに見えるのは仕様がないからな。実際幸福なのだからな。
 ……む、何故かスカイがまた妙な視線を向けているような……気のせいだろか。
 ええと、こういう時は確かクロ殿がこう言うと良い、と言っていたな。確か……

「不思議な事言うのだな?」
「あん?」
「まるでそれでは幸福があれば不幸が消される言い草だ。少なくとも私はあの不幸くつじょく幸福いまで埋め合わせられると思った事は無い。――だったら、それはあの男も同じだろう? 消えない不幸を与えればどんな幸福を受けようと忘れない。……ああ、ゾクゾクする。ふ、ふふふふふふ……」

 私は出来うる限りの楽しみを噛み殺すかのように見えるように、口角を歪ませる。ついでに私が想像できる悪役的な含み笑いもする。
 ……何故だろう。私自身あまりこういった表情は得意でないはずなのだが、妙にしっくりくるのは気のせいか。……私って悪役が似合っているのだろうか。……そんなはずは無いと思っておこう。

「……良いだろう。協力してもらおうじゃねぇか」

 その理由を言うと、僅かではあるが「やはり利用できるな」的な卑下た視線を私に向けていた。……そう思われても仕方ない、というのも複雑な気分だな。
 私の悪役ぶりが嵌っていたとかそういう事ではないよな? ……違うよな?

「情報をくれ。お嬢ちゃんが知っている今殿下達が泊っている宿屋の情報だ。襲撃……ではなく、潜入したい。俺達以外の護衛に気付かれないようにな」
「話して良いのか?」
「構わねぇ。聞いて対応できるような時間をそっちに与える気は無いし、話した方がこっちに有益だからな」
「そうか」

 潜入……この一派の息がかかっていない護衛一派もいて、宿屋に入るとなると……考えられるのは……その息のかかっていない一派に対して怪我をさせるかなにかをして、疑惑の目を向けさせる、といった類。あるいは麻薬所持などの状況でも仕組む。……バーガンティー殿下を含めた事故の火種を作る。の類か。ルーシュ殿下達は冒険者であるから、ちょっとした疑惑の目も作りやすいと言えば作りやすい。
 詳細はともかく、そのためにまずは現在のルーシュ殿下達が泊っている宿屋の状況を知りたい訳か。
 下手に嘘を吐くよりは、正直に答えよう。

「構造や、宿屋の主人たちの戦闘能力を……というか、あの宿屋の奥さん何者だ。なんで両手両足が外れたり爆発したり、戻ったりするんだ」
「忍術らしいぞ。油断すると宿屋ごと竜巻を起こして浮かすことが出来るから気をつけろ。彼女に気付かれたら五名は常に戦わないと足止めできないと思え」
「……そうか。あと、今日泊まりこんでいる……遊んでいるあの褐色の長い剣を持っている坊主は?」
「ブラウンか。シキでも最高戦力の内の一名。油断するとビームを撃つ」
「ビーム? 魔法か?」
「ブラウン自身も仕組みを理解していないビームだ。威力はC級モンスターを屠るから気をつけろ。ちなみに数十発連射可能だ。ノータイムでな」
「化物か」
「七歳の子供だよ。眠る事が多いから気付かれないようにな」
「七歳!? ……そうか。じゃああの、第二王女と仲が良く見える右腕に包帯を巻いた嬢ちゃんは?」
「毒のエキスパートだ。針一本の毒で相手の意識を混濁させる神経毒の使い手だから、厚手にな。範囲攻撃毒も出来るぞ」
「毒って範囲攻撃だったのか……じゃなく、お嬢ちゃん、俺達を惑わせようとしているんじゃ……」

 私が正直に答えると、ここに居る中ではリーダー格らしき男が私を訝しげに見て来た。
 失礼な、今の私は全く嘘を吐いていないぞ。だが疑われるのならば……よし、スカイの協力を得よう。

「スカイちゃん。貴女から見て私は嘘を吐いているように見える?」
「イオちゃん、こっちを見て。私の瞳を見て……」
「ああ。……お前の瞳は綺麗だな」
「貴女の瞳も綺麗ですよ……澄んでいますね。とても嘘を吐いているとは思えません」
「ありがとう、スカイちゃん!」
「大好きですよ、イオちゃん!」

 私達は互いに見つめ合った後、仲の良さをアピールするために抱き合う。うむ、騎士団見習い用の装備が痛い!
 ……自分達でやっておいてなんだが、これは意味があるのだろうか。

「なにこのお嬢ちゃん達、やっぱり怖い」
「……あの、もしかして噂であるシキの影響というやつじゃ無いですか?」
「それは最近学園や他でも偶に見かけると言う、シキの影響を受けた者達の事か?」
「ええ、少年愛を叫んだり、黒魔術の妖し気なオーラを纏ったり、オリジナルな魔法名を唱えたりするという……」
「……まさか俺達にもうつる可能性が?」
「……早く今回の件を終わらせませんか?」
「……だな」

 そして違った方向に心配されていた。
 ……ある意味演技成功なのだろうか。

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