追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

彼らが慣れようとするまで_Ver.2


「しかし、私はこうして外に出る事は少ないのですが、良いですね。子供は元気よく遊んでいますし、皆さまも元気よく動いている。領主の働きによるものなのでしょうね」
「お褒めにあずかり、ありがとうございます」

 帽子を被り、瞳の色を魔法で一時的に茶色に変えたバーガンティー殿下が子供達を見ながらとても爽やかに笑う。その屈託のない笑顔は、俺と同じ背丈で大人びた外見の中に見える、子供のような無邪気さであった。
 本来ならばルーシュ殿下やスカーレット殿下の居る心当たりである、宿屋やエメラルドの家などを探しに行っているはずなのだが、今はこうしてのんびりとシキで雪合戦をする子供達を見ている。
 その理由は……護衛であるスカイさんにバーガンティー殿下が気を使ったからだ。

「ホリゾンブルー先輩、騎士団を突然辞められただけでなく、えっと、そのぅ……その方と婚姻なされているとはどういう事ですか!?」
「スカイ。彼はね、私の窮地を救ってくれただけでなく、真っ直ぐな信念と心の美しさを持っているの」
「それは……その、なにを感じるかは先輩次第でしょうが、何故騎士団を辞められたのです! 私に国民を多く救うために、皆の笑顔になるためにと教えてくださったでしょう!?」
「私は一度死んだも当然。なら、二度目の生は己が愛を貫く事を決めたの。ね、アップルグリーン?」
「Gob!」
「ホリゾンブルー先輩―!?」

 スカイさんは今現在、なんでも自身が騎士団を目指すきっかけの一つであるホリゾンブルーさんに詰め寄っていた。そりゃ、そんな尊敬すべき方が突然騎士団を辞められた後、以前と全く違っていたらあんな風にもなるだろう。

「Gob、Gob……Gob!」
「アップルグリーン……貴方は優し過ぎるの。偶には怒っても良いのよ。でもありがとう、私も愛しているわ」
「え……ホリゾンブルー先輩。言葉分かるんですか?」
「夫婦だもの。分かるわよ」
「……ちなみに、なんと?」
「“私は貴女方にモンスターという脅威に分類されている以上、彼女の警戒は尤もだ。私が出来るのは、私がただの妻を愛するただの夫という事を行動で示すのみだ”……よ」
「くっ、負けた気がします……!」

 うん……これは納得するまで話させた方が良いだろう。話し合いを続けた所で納得するかどうかは微妙な所だが。

「ちなみにバーガンティー殿下はあのご夫婦についてどう思われます?」
「私の今までの常識を超えた愛が存在するのだと見て感動していますよ。見識を広めるには狭い世界に居るのは良くは無い、と改めて実感しました」

 ……嘘は言っているようには思えないな。
 詮索し過ぎも良くは無いが、兄君と姉君達を連れ戻す説得や、調査の下調べとは言っているが別の思惑があるはずだ。
 シキでなにをしようとしているのか。この案内を通して見させてもらうとしよう。……場合によっては、何処かのアレのように……







「甘いです、【絡繰忍法:丑呑うしのみ】!」
「なっ、馬鹿な腕が勝手に――くっ、更に中に拘束のロープが内蔵されて……!?」
「場合によっては爆弾を仕込んでいますが、今日は模擬訓練です。拘束だけにしました」
「……参った。冒険者として貴女を馬鹿にした事を謝る」
「いえ、分かれば良いのです」

 まずは殿下達が泊っている宿屋に来ると、レモンさんが冒険者相手に模擬訓練をしていた。
 冒険者二名相手にレモンさんが圧倒している。流石はレモンさんだ。

「……あれはなんです?」
「宿屋のご夫人であるレモンさんだ」
「私には両手両足が外れては繋がって、相手を圧倒しているように見えるのですが。魔法の痕跡なしに何故あのような……?」
「シニストラ。彼女は忍者というやつでな。全ては忍術だ」
「忍術……? それはなんです?」
「忍術は忍術だ。それ以上は彼女も語らん」
「…………そうですか」

 恐らくは問題が起きてそれを窘めるためにレモンさんが戦ったのだろう。しかも大分手加減している。そうでなければ腕が飛んだ後に拘束して、爆弾か毒でも喰らわせているはずだ。
 戦闘を眺めている間にご主人に殿下達について聞いたが、朝出かけて以降戻っていないらしい。となると別の所を探さないとな……

「凄いですね! あれが東の国に居るという伝説のNINJYA! 物語の話だけではなかったのですね! 私もお相手できないでしょうか!」
「ティー殿下、お止め下さい!」

 そしてバーガンティー殿下はレモンさんを見てキラキラと目を輝かせていた。
 …………。







「ヤァコンニチハ」
「ああ、ロボ。ルーシュ殿下かスカーレット殿下は今日見ていないか?」
「ルーシュ殿下ハ、朝早クニ、冒険者トシテモンスターヲ退治シテクルト言ッテイマシタヨ。遠クニハ行カナイトハ言ッテイマシタ」
「そうか。ありがとう」

 ロボを見つけたのだが、こちらも外れのようだ。
 だが少し手掛かりは見つけたな。スカーレット殿下を先に探した方が良いかもしれない。
 しかし……ロボの外装はまだ直りそうにないな。それと最近はヘッドギアのように顔の外装を覆って顔を見せる時があるのだが、シキ以外の誰かが居ると隠すんだな。綺麗なオッドアイで俺は好きなんだけどな。

「…………」
「……大丈夫、スカイ?」
「大丈夫ですローラン様……ですが、彼女……彼女? は一体……?」
古代ロスト技術テクノロジーによってあらゆる力を身に着けた少女……らしい」
「ふ、ふふ……古代ロスト技術テクノロジーなら仕方ないのですかね……」
「バーガンティー殿下。それとシニストラに……ローラン。彼女がルーシュ殿下の想いの女性です」
「え……ハートフィールド夫人。今なんと?」
「彼女がルーシュ殿下がずっと探し続けた女性。ロボだ。年齢は十三で、今は療養中だが、普段であればシキ内で最高戦力だ」
「…………」
「……大丈夫、スカイ?」
「すみません、少し落ち着かせる時間を下さい……確かに身に纏っているとは聞いていましたが……!」

 スカイさんはロボを見て頭に手を当てて考え込んでいた。
 あの乙女ゲームカサスだとスカイさんは真面目で、融通が利かない部分もあったからな……ロボのような、よく分からない上に身近にいた存在と全く違う存在だと受け入れるのに時間がかかるのだろう。

古代ロスト技術テクノロジーの存在は知っていましたが、まさか今目の前に見る事が出来るとは! その上貴女がルーシュ兄様の想いの女性だなんて!」
「ルーシュ兄様……?」
「はい! 私はルーシュ兄様の弟、第四王子のバーガンティーです! あ、あの。貴方は空を飛べると聞いていますが、一緒に飛ぶことは出来ま……ああ、でもルーシュ兄様の想いの女性に触れるなんてよくはないです……!」
「大丈夫、飛ベマスシ、彼ハ気ニシマセンヨ。最高速度ハ今出セマセンガ、今カラナラ――」
「ティー殿下、お止め下さい!」

 そしてバーガンティー殿下はロボを見てキラキラと目を輝かせ嬉しそうにしていた。
 ………………。







「あ、貴方はアイボリーさん!?」
「む? 貴方はもしやバーガンティー様!?」
「そうです、まさか貴方がここに居るなんて……! 妹の件ではご迷惑を……」
「それはよいのです。もう終わった事ですから」
「そうですか……あ、そうです! 貴方の怪我を治す技術をもう一度見たいです!」
「ティー殿下、彼はそんなに素晴らしい医者なのですか?」
「ええ。ですからちょっと今から怪我をしてきます!」
「なにを仰るのですかティー殿下、お止め下さい!?」
「そうです御身を大事になさってください。それに怪我は自然に不意に生まれるからこそ興奮出来るのです」
「そちらは本当に医者の発言ですか!?」

 ……………………。







「ハッハー! この澄み渡る空と同じのような色をした瞳が美しいお嬢さん。ここで会えたのも正に運命。俺と共に熱い一夜を過ごさないか!」
「……申し訳ないですが、お断りいたします。私には任務がありますので」
「む、そうか。それは仕方がない……無理矢理は良くないからな」
「あれ、もしかして……カーキーさん?」
「ん? ……バーガンティー殿下!?」
「ええ、そうです。祖母の件以来ですね」
「……その件に関しましては平にご容赦の程を……」
「ティー殿下。彼をご存じで?」
「ええ。私達王族では少し話題に……あ、そうです。以前仰ってた、女性や男性との夜のオトナなアソビ、というやつ教えて頂けませんか? 私も成人したので!」
「貴様、ティー殿下になにを吹き込もうとしましたか!?」
「スカイ、何故カーキーさんの胸倉を!?」

 …………………………。







「キノコハザード!」
「素晴らしい、キノコが生きているようだ! 彼女にお話を……!」
「危険ですティー殿下! キノコに巻き込まれます! ……くっ、自分で言っておいてどういう言葉なんですか……!?」

 ………………………………。






「見てはなりませんティー殿下!」
「え、何故です?」
「あのシスターはその……ティー殿下には目に毒です! とにかく早いのです!」
「己が肉体を誇る戦闘系シスターのなにが悪いのです? 確かに見ない格好ですが、素晴らしい存在ではないですか?」
「戦闘系シスターという言葉に疑問をお持ちください!」

 ………………………………・。







 一通りのシキを案内をして分かった事がある。
 初めはバーガンティー殿下が俺の発言を信じたりするのは演技であると思っていた。わざわざ第四王子自らが来るなど、なにか裏があるのではないか、と。
 当然なにかしらの思惑があり、俺に話していない事はあるだろう。俺に理解できるかも見破れるかも分からない。
 だけど一つだけ分かる事がある。

「シキの方々は変わった方ばかりと聞いていましたが、なんとも素晴らしい方々ばかりですね!」
「ティー殿下、落ち着いてくださいお気を確かになさってください!?」
「なにを言うのですかスカイ! 己が信念に従い、世間の目など気にせず私事に執心する。それでなお周囲の気配りを忘れず、シキという土地の形態を破滅させる事なく保っている! 素晴らしいという他無いでしょう!」
「いや、えと、その部分は認めますが、なにかが違うと思うのです!」
「兄様達が滞在したがる理由も分かりましたよ! 私も調査までの間滞在するのも良いかもしれませんね!」
「ティー殿下―!!」

 ……バーガンティー殿下は、グレイと同じタイプの純粋さなんだ。
 彼が首都に戻った時に“シキに行くと変態がうつる”的な変な噂が立たない事を祈るしかない。
 …………今更か。


「……マダーを連れて来た方が良かったかもしれませんね……でも忙しいですし、気付かれそうですからね……」

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