追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

錬金魔法は万能です(:灰)


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「試験内容は四つ。知識を見る筆記。魔法を見る実技。戦闘能力の判定。教師と生徒会による面接です。全ては今日一日で行われ、我々生徒会のメンバーと教員が試験をします」

 アッシュ様は歩きながら自身の前に出した指を一つずつ立てていき、四本の指を立てて説明をする。

「聞いてはいたが、生徒が試験官をするのだな」
「ええ。とは言えあくまでも全体的な進行を管理するだけで、判定自体は職員がされますがね」

 判定、といってもこの場合の判定は学園の合否ではなく、実力を見てクラス分けするための判定だ。私達のような推薦を貰った者は、推薦を貰った時点で入学は決まっている。
 しかし試験の内容次第では、貴族でも上位のクラスに入ることは出来ないので、手を抜くことは出来ないだろう。

「そういえばクリームヒルトちゃんとメアリー様が生徒会に入られたと聞いたのですが、彼女らも試験官をなされるので?」
「む、そうなのかアッシュさん?」
「ええ。新年に入って彼女らが入りましたよ。元々勧誘はしていたのですが、新年の試験がキッカケで入られました」
「聞いた話では総合三位だったとか……」
「……ええ。私より上にいかれてリベンジを誓いましたよ」
「ほう? それは凄いな。それとよく知っていたな弟子よ?」

 聞いた話ではクリームヒルトちゃんは新年あけの試験でメアリー様、ヴァーミリオン様に次いでの総合三位を取ったと聞く。戦闘面においては最も活躍したとも言われている。錬金魔法を駆使して、モンスターを爆発させたり爆発させたり爆発させたとか。
 そして平民が総合三位の中に二名入るという事に学園は騒然としたらしい。と聞いた。

「はい。クロ様とメアリー様が手紙のやりとりをしているので、その手紙に書かれていました」
「その話を詳しく」
「おい、我の弟子に詰め寄るな」

 私がメアリー様からの手紙に書かれていた事を告げると、アッシュ様に何故か詰め寄られた。なんだろう、メアリー様の手紙が来た時のヴァイオレット様と同じ感情を今のアッシュ様から感じる。

「メアリーと手紙をされている? なんだそれは聞いた事ないぞ、いつの間にそんな仲になったのだ!?」
「アッシュさん、素の口調はあまり出ないと聞いたが、あっさりと出たな」
「くっ、やはりメアリーの魅力には彼も抗いきれなかったという事なのか……! ヴァイオレットより選んでしまったのか……?」
「お待ちください、クロ様はヴァイオレット様にゾッコンラブでズッキューンなのです! メアリー様は魅力的でしょうが、ヴァイオレット様を選ばないはずが有りません!」
「確かにその通りだが言葉のセンスが古いぞ弟子よ」

 スカーレット様から教わった事なのだが、古いのだろうか。いや、今はどうでも良い

「どちらにせよメアリーの直筆で書かれた手紙を受け取るなど……なんて羨ましい!」
「……そこなのか、アッシュさん」
「ああ、はい。そう仰られるかもしれないという事で、その際にはこちらをお渡しになるようにと、クロ様から」
「これは?」
「メアリー様の直筆の名前が書かれた手紙が入っていた封筒です」
「……それを受け取って喜んだら、私はなにか戻れない所に行く気がするのだが」
「今更なにを……」

 よく分からないが、とりあえず渡すだけ渡しておくとしよう。
 クロ様曰く「アイツらはメアリーさん関連のものなら何でも喜びそうだからな……」と呟いていたので、多分喜ぶのだろう。アイツら、というのはよく分からないが。

「コホン。それは受け取らないでおきます。今受け取ったら賄賂と思われそうですから」
「成程、つまりそう言う事で他の者にも渡らない様に牽制しているのだな」
「……なんの事やら。さぁ、試験会場にそろそろ着きますよ。準備をなさってください」
「そうか、では行くぞ弟子よ」
「はい」

 渡そうとしたが再度断られたので渡さない事にした。確かに今試験官でもあるアッシュ様になにか渡したら良くないのだろう。これは大人しく持ち帰るとしよう。
 ……おや、アッシュ様が懐に仕舞った封筒を一瞬寂しそうに見てのは気のせいだろうか。

「試験会場はこちらです。御武運を祈っていますよ」
「感謝する。相応しい結果を残すとしよう!」
「ええ。同じクラスの後輩となる事を楽しみにしています。……ああ、それと」
「む?」

 アッシュ様は私達と別れようとする前に、アプリコット様が被られている帽子のある一点を見て、少し微笑む。それは今までの小さな対外的な微笑みとは違う笑みのように見えた。

「その花、綺麗ですね。全体が黒い中、良いアクセントになっていると思いますよ」
「ふ、であろう。なにせこの花があるお陰で最近の我は絶好調を維持しているのだからな!」

 アプリコット様の帽子につけられている花――山茶水仙花を見てアッシュ様は褒め、アプリコット様は誇らしげにした。
 ……なんだろう。嬉しいから飛び跳ねたいのに、胸の圧迫感がある。
 だけどそれは今までの嫌な苦しさではなく、不思議と心地良い締め付けであった。

――ハッ、これはまさか……不整脈!?







「――そこまで。筆記用具を置いてください」

 生徒会長を名乗る御方の言葉と共に私は最初の試験である筆記試験を終えた。
 試験内容自体はアプリコット様やヴァイオレット様のご教授のお陰でなんとか分かる範囲ではあったが……試験を受けられるアプリコット様の凛々しき後ろ姿を見る度に不整脈が起きたので、大変であった。
 空欄は全て埋めたので、どうにか良い点を取れていれば良いのだが……しかしこの感覚はなんなのだろう。

「弟子よ。大丈夫か?」

 私がどうにか不整脈を抑えようとしていると、アプリコット様がいつの間にか私の前に立ち不思議そうな表情で私を覗き込んでいた。どうやら諸々の説明が終わり、次の試験会場に移動するまでの待機時間のようだ。……それにしても杏色の瞳がいつもより綺麗に見える。

「試験前から少し様子がおかしかったが……?」
「はい大丈夫です。ちょっとした不整脈です」
不整脈それは大丈夫ではないものだ」
「ご安心を。この不整脈のお陰で私めはこの後の魔法と実技はいつもより良い結果を残せそうなほど昂っています!」
「そ、そうか? ……無理はするでないぞ?」

 くっ、心配そうな表情で見られると更に不整脈が……!
 まさかアプリコット様はなにかしらの精神関与の魔法を使われているのだろうか?

「……あれって、やっぱりハートフィールド家の?」
「……そうみたいだな」

 私がどうにか精神を抑えようとしていると、ふと遠くで誰かが会話している事に気付いた。
 あれは……同じく試験を受けに来た、爵位は分からないが貴族の方であっただろうか。男女でこちらを見ているが……注目を浴びてしまっただろうか。

「あの王国に貢献なされているシッコク様や、二つ上のクリ先輩と違って、あの悪名高きクロ・ハートフィールド男爵の関係者という……」
「関係者というか、息子と娘っぽいよ。奴隷を養子にしたとか……」
「……貴族に平民どころか奴隷になるような血を入れたと言うのか?」
「みたいだね。メアリー先輩みたいな優秀さなら分かるけど……」

 あまり詳細は聞こえないが、良い噂でないことは確かである。
 奴隷という言葉が聞こえたので、私か場合によってはアプリコット様の話だろう。……私が元奴隷というのは事実なので妙な目で見られるのは構わないのだが……

「しかもあの問題起こしたバレンタイン家の令嬢も母親やっているらしい」
「え、あのヴァーミリオン殿下の元婚約者で問題を起こした?」
「そう、それ。……アイツらと同級生かぁ」
「別のクラスになるよう祈りましょう。……まぁ試験に自信満々にヴェール様のような服を着るような勘違い女が優秀とは思えないけれど」

 ……クロ様やヴァイオレット様、アプリコット様について言われるのは少々腹が立つ。
 だけどここで反撃をしようものなら、話を認めるような物である。今は気にせずに次の試験会場に行くとしよう。

「……弟子よ、移動時間前に少し外の空気を吸うか?」

 アプリコット様も途中から少し聞こえていたのか、私に気を使って男女と私の間に身体を割り込ませて聞こえないように身体で壁を作り外に行く事を提案する。
 私は「はい」と返事をして、立ち上がり付いて行こうとして――

「ふふふ、残念ながらもう移動の時間だったりするのだよ!」
『っ!?』

 行こうとして、唐突にクリームヒルトちゃんが現れた。
 なにも無い空間から唐突に現れた気がするのは気のせいだろうか。唐突な出来事に他の受験生の方々は動揺している。
 そして現れたクリームヒルトちゃんの周囲には謎の花が咲き宙に舞っていた。

「わー、綺麗なお花ですね、これもクリームヒルトちゃんの錬金魔法でしょうか?」
「ふふ、その通り。我が錬金魔法による“なんか周囲に花が出来ては消えていくオーラを発生させる道具”で作られた花だよ!」
「それはもう錬金魔法で片付けて良いのだろうか。幻覚魔法とか言うレベルではないだろうか」

 詳細は分からないが、この綺麗な花を生み出せるのならば私もやり方を教えて頂きたい。そして山茶水仙花で囲んでアプリコット様を喜ばせたい。

「ともかく、私が次の試験会場に連れて行く試験官である、クリームヒルト! そしてこちらが……!」
「……ヴァーミリオン・ランドルフだ」
「そう、我らが王国の第三王子! 将来の国王候補最有力が試験官だよ!」

 おお、ヴァーミリオン様が直々に試験官をなさるとは!
 正直ヴァイオレット様を見捨てられた方なのであまり好きではないのだが、それはそれとしてあまり無い経験だ。経験を積むためにも頑張ろう!

「ああ、グレイ。お前の父と……母は元気にやっているか?」
「あ、はい。クロ様……父上と母上は元気にやっております」
「……そうか。それは良かった」

 ヴァーミリオン様は何故このタイミングでクロ様の事を聞いたのだろう? あまり良くないのではなかろうか……? あ、そうだ。

「最近はルーシュ様とスカーレット様が滞在されて色々と頭を痛めています」
「……そうか。それはすまない。きちんと対処する」
「あ、それとロボ様が貴方様の姉様になるかもしれないです」
「待て、どういう意味だ」

 どういう意味と言われても、そういう意味としか答えられない。
 話もそこそこに、試験が始まるので移動したのであった。



「……あの子、ヴァーミリオン殿下と仲良いの……?」
「それにあの子の母って……仲が悪いんじゃ……?」

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