追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

以前からの感が確信に(:灰)


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「フフフ……再びこの機関に足を踏み入る日が来ようとは……! だがこれこそ我らが導かれに逆らい運命を得た証明。全ては我が意志で切り開いた結果である!」

 昨日シキを出て隣町にて一泊した後、朝に空間歪曲石にて移動し、再びやって来た我が王国の首都アゼリア学園にて。
 アプリコット様が少し高い場所で腕を組み、魔女服のマントを風に靡かせ、杖を天に高く掲げ、意味はよく分からないが素晴らしいだろう言葉を宣言していた。

「なんとなく彼女の言う事が今回は分かる気がしますね……ともかく、ようこそアゼリア学園へ。試験会場までご案内しますよ」

 眼を輝かせる私とは対照的に、今回の試験にあたって色々と手配をして下さったアッシュ様は何故か少々困惑した様子でアプリコット様を見ていた。……が、すぐになにかに気付くと視線を逸らして私の方を見た。
 何故目を逸らしたのだろう――ああ、もしかして。

「アプリコット様、そろそろ降りられてはどうでしょうか」
「ふ、弟子よ。これから試練しけんを挑むのに我は意識を高めているのだ。こうして遠くを見渡す事によって――」
「服が風で捲くり上がりそうです。あまり女性は肌を露出するべきでないと聞きましたので……」
「っ!?」

 私が指摘すると、アプリコット様はハッとした表情になり着られている魔女服の下の部分を押さえた。
 シキでならば気にしないのだが……ここではアッシュ様という男性いせいも居られる。何故かは分からないが、あまり見られて欲しくはない。

「……見たか、弟子よ?」
「はい、なにをでしょうか?」
「だから……我の……服の下の……」
「なんのことでしょうか……?」

 アプリコット様の表情がいつもと違うように思えるのは気のせいだろうか。普段であれば私の言葉に対して、余裕の表情で素晴らしい言葉を返すのだが……クロ様を前にしたヴァイオレット様と似た表情に思えるのは気のせいか。
 それと見たとはなんなのだろうか?

「いや、見ていないのならば良いのだ。うむ、気にする事ではないぞ?」
「分かりました……?」

 よく分からないが、アプリコット様が気にしないで良いと言うのならば気にしないでおこう。
 服の下と言うと、いつも勝負の際に気合を入れる時に着られているクロ様が作られた黒色のブラと黒色の紐のショーツの事くらいしか思い浮かばないが……今も着られているようであるし。
 珍しく顔を赤められているようであるし、別のなにかを服の下に隠し持たれているためそれを見られたくなかったのだろう。

「ともかく、改めまして今回は我々のために手配をして頂きありがとうございます、アッシュ・オースティン卿。此度の試験に関しましては、推薦された貴方様に相応しき結果を残せるよう我が能力を存分に発揮させて頂きたいと思いますので、よろしくお願いいたします」

 アプリコット様は高い所から降り、改めてアッシュ様の前に立つと帽子を外し深々と挨拶をする。私もそれに倣い後ろで頭を下げた。私自身は学園長推薦であるが、アッシュ様は私の移動手段や宿泊先の手配もなさって下さったので礼は尽くさなければならない。

「いえ、推薦した者としての役目を果たしただけですので構いませんが……改めて貴女に礼儀正しくされると違和感がありますね」
「流石にそれは失礼だと思うぞ」

 確かに失礼である。
 アプリコット様は私よりも遥かにお淑やかで礼儀正しい美しきお方だ。普段の言葉は私達以外だと慣れるのに時間がかかるらしいが。

「冗談ですよ。……しかし、貴女も変わりましたね」
「なにがだ?」
「いえ、なんでもありませんよ。ただ言えることがあるとすれば……先達として教えられますよ」
「……なにを言いたいかはなんとなく分かるのだが……」

 ? どうしたのだろう。アッシュ様がアプリコット様を見て感慨深そうに見ているが……仲間を見ているような表情だ。何故かは分からないが、心が通じ合っているようで羨ましい。

「貴殿達は未だに彼女に近付けていないのだ。そんな弱者に教えて貰う事など無い」
「ぐっ……そこを突かれると痛いですが……ですが、貴女も弱者と言って差し支えないですよ。シャルのようになっていますからね、今の貴女は」
「なっ……!? 馬鹿を言うな、流石にあそこまでではない!」
「そうは言いますが……」

 アプリコット様がアッシュ様の言葉に声を荒げる。私は理由は分からずただ両者を眺める。するとアッシュ様がこちらをチラッと見るとアプリコット様に耳打ちをする。

「(ですが、貴女は彼の名前を呼べないのでしょう? 弟子、としか呼びませんから。シャルがメアリーをアイツとしか呼べないのと同等です)」
「(うぐっ……!? それは、そうではあるが……! くっ、馬鹿にしていたアヤツと同レベルだと言うのか、我は……!?)」
「(そこまで嫌ですか)」
「(アヤツと恋愛レベルが同等と言われて嫌でない者が居ると思うか?)」
「(…………否定できませんね)」

 ……むぅ。

「アプリコット様、アッシュ様。早く試験会場に行きましょう。早めに行くに越した事は有りませんから」

 なにを話しているかは分からないが、あのようにコソコソと話せれていると、羨ましい……もとい、不思議と心がざわつく。とりあえずはこの気持ちを落ち着かせるためにも、早く試験会場に向かわねば。

「む、そうであるな。早めに行き宿命の星となる宿業ラウンド聖杯への旅カリスせねばな!」
「……同期となり、ライバルとなる者達を見極めるために行こう、で良いでしょうか」
「ふ、アッシュさんも我の言葉を理解できるようになったか」
「ええ、何故かね。……しかし」
「? 私めがどうかなされましたか?」
「いえ、時間の問題だな、と思っただけですよ」
「どういう意味でしょうか?」
「さぁ? 後輩に可愛らしい子が居ると、メアリーも喜びそうと思っただけですよ」
「……?」

 私が再び仲良さそうにしていた両者をジトッ見ていると、アッシュ様が私の方を見た。すると少しだけ羨ましそうな表情になるが、すぐにいつもの柔和な笑顔に戻りよく分からない事を言いだした。どういう意味なのだろう……?

「そうですね。時間はまだありますが、早めに越した事は有りませんね。空気に慣れるのも必要でしょう」

 しかしアッシュ様は私の疑問を余所に、試験会場――もとい、受験者が集まる部屋への案内を開始し始める。

「この後説明があるとは思いますが、推薦をした者として改めて説明しましょう。今回の試験は――」

 そして会場に行く途中で、今回の試験についての説明を始めた。

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