追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

嫌な予感ほど当たってしまう_2


「……ロボ、十三歳だったんですね」
「……クロ殿も知らなかったのか」
「ええ。なんというか、ブロンドとして色々聞くのは躊躇いましたし」
「そうか……ん?」
「どうしました?」
「いや、確かロボって……お酒、飲んでいたよな。学園生が調査に来た時」
「そういえば帝国って、十二歳から飲めましたよね。だから一昨年より前は誘っても飲まなかったのか……」
「……考えるのはよした方が良いかもしれないな」
「……ですね。あ、そうだヴァイオレットさん、申し訳ないですがこの場は任せても良いでしょうか。ちょっと周囲の調査確認をしてきます」
「む、分かった。私は怪我をした者が居ないか今一度確認してくる。大丈夫だとは思うが気をつけてくれ」
「はい」

 ブロンドの実年齢への戸惑いから回復した後、俺はヴァイオレットさんにそう告げて分かれた。
 あまりヴァイオレットさんと離れたくはないが、この後の事を考えると誰かと一緒に居るというのはあまり良くない。

「さて、と」
「…………」

 俺は周囲が誰も俺を注視していないことを確認してから、先程ブロンド……ロボが音がしたという方向へと向かい歩いて行く。あの時音がしたという方向には誰も見えはしなかった。見えは、しなかったのだ。
 別に確証があってこうしているのではなく、単純な不安とその払拭の為にこうしている。勿論杞憂で済めばそれに越したことは無いし、今でもそう願ってやまない。なにせこの不安が的中すればあの状況がこのシキで巻き起こる事になり、それを利用している者が居る可能性があるのだから。

「おや、気付かれるとは。適当に歩んで辿り着いた……という訳ではなさそうだ。まぁ元々会う目的はあったから良いか」

 けど嫌な予感というものは当たるもので、想定はしていたが想像していた存在とは違う奴がそこには居た。

「変態か?」
「随分なご挨拶だ」

 少し開けた場所に居たのは、変態であった。
 なにせ体型が分からないような服に、フードを被って顔には仮面を被っている。さらには元の声が分からないように、魔法かなにかで声を加工して変えて話しているのだ。不審者という名の変態に違いない。

「それとも恥ずかしがり屋か? 俺の知っているやつだと己が肉体を誇って全裸を晒していたんだ。お前も恥ずかしがらずにそうすると良い」
「生憎とそんな変態になるつもりはない」
「知らない相手を変態呼ばわりするとは失礼だな」
「お前が言うな」

 俺は変態がどう動いても良いように体勢を変えつつ、変態を分かる限りで観察する。
 身長は俺よりも少し高い程度。加工はしてある声は男性に近いが、加工が何処までなされているのか分からないので当てにはならない。もしかしたら身長も誤魔化している可能性はあるが……

「ん? ああ、私を観察しているのか。……そうだな、お前の身体能力を発揮されると私も危険だ。一瞬で距離を詰めてくるからね」

 しかし俺の観察などあっさりと気付かれ、仮面の下の表情が不敵に笑った気がした。
 そして、俺の詳細を知っているかのような言葉も、まるで見て来たかのように言う。

「まぁ私の事を観察するのも、捕まえようとするのも不思議では無い。なにせ状況が状況だ。王族殺害の容疑者と思われても仕方ない。だが、生憎と王族殺害を企ててはいないとだけ言っておく。偶々彼らが居ただけだ」
「……信じられないし、なにかしらの計画を立てていたのは確かなのだろう」
「うん、まぁその通りだ。そうだね……まずは私がどういう存在なのか言えばいいだろうか。そうすれば変な組織とは思わないだろうし」

 仮面の男は頭を掻き、どう説明すれば良いかと悩む仕草を取る。その様子だけを見ると、今すぐ取り押さえることが出来そうだ。

――なんだ。コイツは。なにが目的なんだ?

 初めは第四王子や第三王女、第二王子アレ辺りの派閥の刺客や、王族殺害を企てた過激派の一員かとも思ったが、どうも違うように思える。
 もしくはグレイの怪我を心配した時に、この騒動についての原因について予測を語っていた。

――殿下狂いのローシェンナ変質者・リバーズか?

 かつてヴァーミリオン殿下への愛を拗らせ、ヴァイオレットさんを激しく恨んで、結果的に捕まった、音……というよりは言葉を操る言霊魔法という特殊な魔法を使うローシェンナ・リバーズ。
 飛翔小竜種ワイバーンというモンスターを操る。モンスターが強化されている。シキに恨みがあってもおかしくはなく。なによりもロボが聞いたという“謎の音”。
 状況として考えられるのは、今目の前にいる仮面の男がローシェンナ・リバーズという可能性が高い。逮捕が解かれたという話は聞いていないが……俺を知っていて、モンスターを操ったかのような行動をとらせる可能性として高いのはあの男だ。
 ならば気を付けなければならない。あの男であれば、言葉一つでなにかしらの作用を俺にもたらす可能性が――

『「じゃあではこの言語この言葉を使えばを使うと分かるか分かるでしょうか?」』
「――――」

 だけど俺の予想は、仮面の男が発したによってあっさりと覆された。
 理解が追い付かない。
 それは俺がこの世界に生を受けてから、一度も他者からその言語を発せられたのを聞いた事が無い。同じソレを使う事が出来るだろうメアリーさんも、その言語を使うことは無かった。

『「私の目的に彼女……ロボが少し邪魔だったんです。かと言って排除しようにも、水を濡らしてショートする訳でも無く、機械として充電が必要でバッテリー切れがある訳でも無い。ま、エネルギー切れはあるようですが」』

 しかし仮面の男はその言語を使って、自身の目的を語りだす。
 本来の俺であれば、仮面の男が語る内容……友であるロボを陥れようとする内容に怒りを露わにしただろうが、内容を語る言語のせいで俺の精神は酷く揺さぶられていた。
 何故ならこの言語を俺は良く知っているが、この世界に存在しない。忍者とか存在する世界があり、似た言語を使う国はあるが、言語の使い方が仮面の男とは違うのだ。

『「大変だったんですよ? 彼女の機能を狂う音を探すのは。機械とはいえ、私の知っている機械とは違いますからね。ですが、本質は同じと言うべきか狂わせる音は似ていたと言いますか」』
「なにを……言っている?」
『「おや? 貴方は久しぶりで聞き取り辛いのでしょうか? ……いえ、聞き取れは出来ているようですね。これでも誰かの顔色を窺うのは得意なんですよ」』
「なにを言っていると聞いているんだ!」

 仮面の男が使う言語は俺が前世で生きていた国と時代の、日本語であった。
 その言葉を使えるという事は、この男は……

『「なにを言っているかと問われれば、私の目的をきちんと答えているのですよ。貴方なら分かるでしょう?」』

 仮面の男は俺が日本語を使える事をまったく疑わずに、右手をこちらに差し出すかのように向け、

『「ねぇ、乙女ゲームの元悪役令嬢と結婚した、クロ・ハートフィールドさん?」』

 俺を仲間であるかのように、そう言った。

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