追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
出来る事なら
何故ロボの外装の一部分のような物がこんな所にあるのか。
あるとしても何故落ちて来たのか。
疑問を持ちつつ、もしかしたらロボが上空を飛んでいる時になにかしらのトラブルが発生して落ちて来たのではないかと思い、空を見上げるが空にロボは見えない。
探すのを止め、再び拾った物を見る。
熱を帯びていない、恐らくあのよく分からない力を持つ機能が少ない、外装部分と似た形状の代物。硬く金属のような質感があるそれはロボの外装と似た――
「……いや、ロボの外装か」
似た、ではなく、これは間違いなくロボの外装の一部。
そんな外装が、まるでなにか鋭利なものと力で無理に壊されたかのような断面を持ってここにある。それは間違いなくロボの身になにかが起きた事を示していた。
飛行事故? モンスターの攻撃? 別の機能が暴走して外装の一部が壊れた?
様々な憶測はあるが、まずはロボを探して事実確認をしなければならない。それに、グレイを探しに行く件もある。一緒にロボも探して無事を確認しておこう。
……何故だろう。関係無いと思いたいのに、何故かグレイとロボの件は関係して――
「クロ領主」
「え? ……あ、ルーシュ殿下。どうかされましたか?」
俺が内心穏やかではない状態になっていると、ルーシュ殿下が俺に話しかけて来た。少し混乱していたためか、偽名の方ではなく本名で呼んでしまう。
「何度もすまないが、聞きたいことがあってな。……その手に持っている物は?」
「ああ、これは今拾った物ですよ。機械金属の一部でしょう」
「キカイ? ……ああ、古代技術か」
だがルーシュ殿下は恐らく周囲に居ない事も有ってか本名呼びに気にする事無く、会話を続ける。そして俺の手に持っている物に疑問を持つが、回答を聞くとチラリとだけ見て特に気にせず俺の顔の方を向く。
しかし聞きたい事か。
この外装とグレイの事もあるから本音を言えば後にして欲しいのだが、そういう訳にもいかない。俺は愛想笑いを浮かべながら、ルーシュ殿下の質問を持った。
「妹を見ていないか?」
……妹。
ルーシュ殿下の妹というと、スカーレット殿下かフューシャ殿下辺りか。……いや、この場合の妹とはスカーレット殿下の事だろう。
……何故俺はそんな当たり前の事を今確認したのだろう。この場合の妹なんてスカーレット殿下の他に居る訳ないのに。
「ロボさんと一緒にスカーレットも探しているのだが、見つからなくてな。連絡無しに居なくなるのはよくある事だが、ロボさんと一緒に居た、という話も聞いていてな。念のため聞いているのだ」
「……いつ頃から見ていないのでしょうか?」
「昼前位からだろうか」
……なんだ、この胸騒ぎは。
偶然で片付けて良いモノでは無いと、俺の中で危険信号が発している。いや、偶然だ。偶然に決まっている。
「ああ、そういえばその時だが――」
この胸騒ぎを鎮めるためにも、早くグレイかロボかスカーレット殿下の誰かを見つけよう。そうだ、そうしよう。そうと決まればルーシュ殿下には悪いが、この場は早めには違和を切り上げて去らせてもらおう。
「クロ領主の息子も一緒に居た、と聞いた」
…………
「申し訳ございません、ルーシュ殿下。残念ながら本日は見ていないのです。それと実は俺も探している者がおりまして、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「む、構わない。言うが良い」
「ありがとうございます。実は我が息子も昼前から見ていないのですよ。少しでも情報が欲しいのですが、その我が息子と妹君がおられた……というのは何処でしょうか?」
「ああ、教会近くの広場だ。毒好きの薬剤師……エメラルドも共に居たと聞いたが、その後何処に行ったかまでは分からん。その後一緒かも分からない」
「そうですか。ありがとうございます」
教会近く、エメラルド。
スカーレット殿下はともかくとして、グレイはエメラルドが偶に薬の材料(毒)を採りに行くのに着いて行ったという所か。可能性としてはスカーレット殿下も興味を持って一緒に――という事も有る。
ロボも一緒であったとなると……スカーレット殿下がルーシュ殿下の告白関連に関してなにか話し合おうとしていたのかもしれないな。
「クロ領主、なにか気になる事でも?」
「ええ、少々」
「力になれる事があるのならば、力になるが。あくまでもルシとしてになるが」
一貴族の俺なんかに迷わず言う辺り、根は真っ直ぐなんだろうな、この方。
社交辞令などではなく、力を貸して欲しいと言われれば素直に貸す、スノーホワイト神父様やクリームヒルトさんみたいなタイプの方だ。もしかしたら冒険者、というのも王族に縛られないために身を置いて楽しんでいるのかもしれない。
「そうですね、悪いですがご助力お願い――」
出来ますか、と続けようとした所で。
俺とルーシュ殿下の遠くの山の方でとある音が聞こえて来た。
ヒュー……という、この地に来てからはあまり聞かなくなって来た、打ち上げ花火が空に上がる時にパイプに火薬を詰めてなる昇り曲のような音。
そんな音に疑問を持ちつつ、俺達はその音がした方向へと視線をやると……一つ、ロボのよく分からない機能の一つである、【革命的七色花火】のような、花火が小さく光って弾けた。音はあまりなく、ただ綺麗な光が見えている。
だが、俺はそれを見て綺麗な光とは違う不安定な感情が沸き上がって来る。
「……? なんだ、アレは。クロ領主、アレは――」
「申し訳ありません、ルーシュ殿下。説明はアレに向かいながらしますので、付いてきていただきますか」
「……分かった」
俺はそれを見て、嫌な予感がさらに増して返事もあまり聞かずに音のする方向へと向かって走り出す。ルーシュ殿下はそんな俺に対して、疑問を持ちつつも走る俺に並走して俺に付いて来る。
「クロ領主、先程のはなんだ。物見櫓からの連絡的なモノか」
「近いです。アレはロボの使う機能の一つで、一種の危険信号です」
「……ロボさんの?」
「ええ、アレを打ち上げるという事はなにかしらの危機があるという事。そこには――」
「そこには?」
「……あくまで可能性ですが、妹君や、俺の息子が居るかもしれません」
「根拠は?」
「ありません」
根拠はない。
あれももしかしたら俺の勘違いや間違って打ち上げた可能性もある。だからこそ、
「出来れば、俺の行動が後から笑い話になる事を願うばかりです」
そう思わずにはいられなかった。
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