追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

知れば知るほど……(:菫)


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 ルーシュ殿下とスカーレット殿下がシキに訪れてから五日が経過した。
 クロ殿曰く今までであればクロ殿と戦闘? をすればすぐに旅立っていたらしいので、今までで一番長い滞在という事だ。
 身分は一応隠してはいる殿下達であるが、ルーシュ殿下のロボへの身分を明かした大声の告白を聞いていた者も居たらしく、何名かは殿下達の身分を知った上で接している。
 殿下達もその事に気付いてはいるようであるが、冒険者としての殿下達はあまり敬われる扱いでいられるのは望まないらしく、むしろ噂が広まらず素の状態で接してくれることが好ましいとすら言ってくれた。

『いや、アイツらは身分を知った所で己を曲げてへりくだる様な奴らじゃないと思いますよ』

 というのはルーシュ殿下に相談を受け、スカーレット殿下に絡まれることが多くなったクロ殿の言。最近はその事が心配なのか少し食べる量が減った気がする。
 ……確かに彼らは、殿下達だろうと帝国貴族だろうと今までの私達に対する対応のように接するだろう。それこそクリームヒルトやメアリーが学園で身分差関係無しに明るく接していたように、己を曲げることは無いだろう。彼女らは今だと好ましく思えるが。

「ヴァイオレット、錬金魔法の使い手の子と普通に仲が良いって本当?」

 そして現在、場所は教会。
 スノーホワイト神父様に用があり訪れると、シアンとスカーレット殿下がおり、思い切り絡まれていた。
 どうも両者は相性が良いのか話が弾むようであり、温かい東の国で採れた紅茶を飲みながら喋っていたようである。そして巻き込まれて私も一緒に話し合いの場についている。

「錬金魔法の使い手……クリームヒルトとメアリーでしょうか」
「えっと、そのメアリーの方。……仲良いの?」

 どうも私が来る前まで、メアリーの話をしていたようだ。スカーレット殿下としても弟君であるヴァーミリオン殿下について気になって情報を仕入れていたが、その過程で私との現在について話題があがった。そしてメアリーと私は憎み合っている訳でも無い、と知ったが、扱いが難しいので恐る恐る聞いている……という感じだろうか。

「友達です! ……ってメアリーちゃんに慕われているよね、イオちゃんは」
「アレは慕われていると言って良いのか……ともかく、以前ほどのわだかまりは無いですよ。決闘をするほど憎んだ時もありましたが、今は話してボードゲームをする程度にはなっています」
「本当に?」
「本当です」

 スカーレット殿下は私とシアンの言葉と表情に嘘はない事を確認すると、小さく息を吐き紅茶を一口だけ啜る。

「随分と変わったと思ったけど、本当に変わったんだね、ヴァイオレット。……そんなヴァイオレットに聞きたい事があるんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「メアリー・スーって、どういう女なの?」

 スカーレット殿下は、世間話をするような始まりで、だが確実にその話題を目的とした声色で私に問うてきた。

「ヴァーミリオンのやつも恋愛の熱病に浮かれている、という事も有るだろうけど、仮にも公爵家の相手の婚姻を諫めずに公式の場で破棄してでも手に入れたいと願った女性。……私は会った事ないから、知っておきたくてね」

 聞くと、ヴァーミリオン殿下がご執心のメアリーについて知りたく思い、年始のパーティーで軽くヴァーミリオン殿下達にメアリーの事は聞いたそうなのだが、熱意が凄すぎて公平性に欠けると判断したらしい。
 そこでメアリーに会った事のある者達に話を聞いて回って居る内にシアンが会った事のあるという話になり、そして私にも話を聞けるのならば聞いておきたいと思ったとの事。
 ……そういう事ならば、素直に話そう。元々王族の彼女の質問に答えない、という選択肢はないのだが。

「そうですね、彼女は――」

 メアリー・スー。
 金髪赤眼の私と同じ年齢の女性。
 美しい女性を問われればすぐに思い浮かぶほどには見目麗しい、物語に出て来るヒロインのような女性。少女らしい愛らしさの中に、気高き強さと何処か守ってあげたくなる様な感覚を持つことが清楚さを兼ね備える不思議な存在。
 同性だとしてもその清純さと強さは、嫉妬よりも羨望を抱くような空気を持つ。
 文武両道。品行方正。聡明叡智。身分関係なく接し、既存の常識に捕らわれず、困っている相手がいるならば見返りが無かったとしても助けに行くような、優しさと正義感を兼ね備えている。
 そんな彼女に学園に居た頃、私は行動が怪しく見えてしまったため攻撃的になり決闘までの騒ぎになったが……間違いなく、私以外の学園の生徒は彼女を味方する程のカリスマ性が有った。

「――が、学園でのメアリー・スーという女です」
「うわー……ますます会ってみたくなったわ。弟も随分と競争率が高い相手に惚れてしまったものね」
「そして現在のメアリー・スーは」
「え、現在……?」

 メアリー・スー。私とシアンの現在の所感。
 決闘後は絶望すら味わった、学園の生徒を味方に惹きこんだカリスマ性。学園祭に学園に居った頃もそれは変わらず、彼女の魅力は処世術じみた計算されたものだと思っていた。事実ヴァーミリオン殿下、アッシュ、シャトルーズ、エクル、シルバへの対応や、私への対応の数割は計算されていたものあっただろう。
 しかしその殆どは――

「天然です」
「天然だね」
「天然……?」

 そう、天然だったのである。無意識に笑顔を振りまき、話す言葉は相手を勘違いさせ、己が才覚を無尽蔵に活かして、あらゆる面で注目を集めていた。シキに来た時も例にもれず、慕う者が多く出たほどのなのだから。
 クロ殿曰く「無意識無双」あるいは「なにかやっちゃいましたか系」との事だが、良くは分からない。
 ともかく、彼女は色々やっておきながら、貴族の中でも要注意のリストに挙げられているという思想すらなかったのだから、完全に素でアレなのである。さらには最近は殿下達に好意を寄せられる事について分からずに、クロ殿に愛とはなんぞやと問いにシキに来たくらいだ。自身の置かれている状況は完全に意識の外であり、意識してしまった事により慌てるような性格だったのである。

「……そんなメアリーに、私は負けたのです」
「……ヴァイオレット、その、元気出しなさい!」

 自分で言っておいてなんだが、改めて口にすると無意識の内にやられてしまっていたのだな。まるでメアリーの物語に置いての、学園に入ってすぐにやられる敵役のようではないか、私。

「でも負けたお陰でクロと会えたんじゃん。そこは良かったって思わないの?」
「至上の喜びに決まっているだろう、シアン」
「だよねー」
「それにお陰でこうしてシアンとも会って友になれたわけだからな。複雑だが、今では良かったとも思えるよ」
「ひゅー、ありがとうイオちゃん! イエーイ、ハイ」
「ターッチ」

 私とシアンはハイタッチを躱した。
 無意識に説明かのように負けた私ではあるが、お陰でクロ殿と出会い、こうしてシアン達とも出会えたのだから良しとしよう。
 む、何故かスカーレット殿下が頭に手をおいた。まるで「メアリーについては複雑な心情を持ち、この目の前に居る公爵家の娘は本物か?」とでも言いたげだが、気のせいだろうか。

「そういえば、錬金魔法の使い手って、まだ居るんだったっけ。今言ったクリームヒルトとかいう」
「ええ、いますね」

 スカーレット殿下は何故かメアリーの話から話題を変えて来た。本当に何故だろう。

「その子ってどんな子なの? 冒険者で同じ名前の透明な瞳の子なら見た事があるんだけど、錬金魔法の使い手の子は知らなくて。知っていたら教えて欲しいなーって思うんだけど」
「レットちゃん、もしかして錬金魔法に興味あったりする?
「……シアンの慧眼は凄いね、色々と読まれ過ぎないかと不安になる」

 シアンの慧眼は私も知ってはいるが、何故今の話題で今の質問が出て来るのだろうか……?

「錬金魔法は便利だから、覚えられるなら覚えたいけど、使える魔法使いは極端に少ないし、もしかして性格に起因しているのかな、って思っているんだよ」

 疑問に思っていると、シアンが私に気付いて説明をしてくれた。
 成程……シアンは本当に裏を読むというか、機微からの予測が上手いというか。……この鋭さを神父様相手に使えればと思う事も有るが。

「イオちゃん。変な事思ってない?」
「気のせいだ。ともかく、クリームヒルトですね――」

 やはり私の心の内を当てて来たシアンを軽く流し、クリームヒルトの説明をするために、スカーレット殿下へと向き直った。

「彼女は――」

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